ジョナサンとの会話の後、俺たちは冒険者協会の建物を訪れていた。
一応ダメ元で風の刃に依頼を出せないか確認するためだ。
「おう、先生。まだ生きてたか。どうだ、あの貴族屋敷の住み心地は?」
「快適、と言いたいところですが問題が発生しましてね、我々が依頼を出すことは可能ですか?」
「ふむ。一応冒険者が冒険者に依頼を出すこと自体は可能だが……。自分自身で問題を解決できないってことになるから、協会からの査定はあまりいいものじゃないな。
もちろんその依頼の内容にもよるが。とは言っても、あの貴族屋敷のことと、シャーレのパーティー構成を考えればどんな依頼かは想像がつくが」
「やっぱりあの屋敷、幽霊が出るって噂あったんですか」
除霊しようとした冒険者たちも霊はいないと報告していただろうに、やはり協会側としてはそこらへんはちゃんと把握してたのね。
「そりゃ、あきらかに霊障があるのに除霊に行った全員がいないなんて言っても信用なんか出来るかよ。
ま、調査に行ってゴーストがいたけど、何もできなかったなんて報告はできないという気持ちは分かるがな。
そういう虚偽の報告する奴は査定を下げているさ。で、先生はちゃんと報告してくれると信じてるぞ。というわけでキリキリ話してもらおうか」
「分かりました。では……」
なんか楽しそうなおっちゃんに対して俺は貴族屋敷であったことを報告する。ついでにジョナサンから聞いた教会側の事情を交えて話すことも忘れない。
「ふーむ。そういうことだったのか……。マクミラン家一家惨殺事件からこっち、ロクな情報が上がってなかったからな。先生のおかげで疑問だったことが色々解決したぜ」
「ところで一つ疑問なのですが、記憶が戻る前のサラさんはどうも他のゴーストを認識できていなかったようなのですが、何か理由とか分かりますか?」
これ、かなり疑問だったのだ。屋敷に人間が来ているのを認識しているのに、その人間を排除するために現れたゴーストは認識できていなかったのだ。
かなり都合よすぎな頭してない? と思うのだが、そう思うが故になんとなく本人に聞けずにいたのだ。
「あぁ理由は簡単だ。自我が希薄なゴーストってのは生前の記憶を再生しているだけの存在になっちまうんだ。
生前のマクミラン家にはゴーストなんて当然いない。その当時の記憶の再生機にしかなってないそのゴーストは今の屋敷がどれだけ変になっちまってても、生前のゴーストのいない屋敷の記憶を再生しているだけなのさ」
「あぁ、なるほど。だから記憶が戻る、というか自我がはっきりするようになったサラさんは現在の屋敷の状態を正しく認識できるようになったということですか」
「そういうことだ。納得したか?」
「ええ。私にはない知見でした。ありがとうございます」
「これぐらいどうってことねぇよ。で、依頼だったな。依頼内容は屋敷のゴーストを苦痛なく除霊できる者求むって感じでいいのか?」
「はい、お願いできるでしょうか?」
「ま、お願いされたら仕方ないが……。依頼を出す前にちょっと自力で頑張ってみる気はないか?」
俺が依頼を提案すると、そこでおっちゃんは悪そうな顔をしてこちらに提案をしだす。
「まぁ、確かにアリスの光魔法を鍛えれば、いつかはレストを覚えれるかも知れないのですが、それがいつまでかかるか分からないとなると……。せっかく借りたのにまだ住めずじまいですし。
あと他の選択肢としては教会の侍祭様が言ってたような、他の街の教会を頼るという点ですが、それもコネとかないので難しく……」
「そうだろうな。そこでもう一つ選択肢を追加してやろう。先生、ダンジョンに潜ってみる気はないか?」
「ダンジョン! この世界にはダンジョンがあるのですね!!」
俺が反応するより早く、アリスが大きな声で反応をする。そういや、俺たち異世界に来たけどダンジョンはまだ潜ってなかったもんな。アリスが興奮するのも分かる。
「おう、ダンジョンだぞ。中には強力なモンスターもいるが、同時に様々な効果を持ったアーティファクトも手に入れることが出来る。その発掘されたアーティファクトの中に、レストと同じ効果を持ったタリスマンがあるというのを聞いたことがある。
狙って見るには悪くない選択肢なんじゃないか?」
「アリスさんが期待してるようなので悪いですが、別に私たちが潜らなくても目的のアーティファクトを獲得した冒険者と交渉して買い上げる方が楽なのではないでしょうか?」
おっちゃんの話を聞いたアコがすぐさま夢のない提案をする。明らかにアリスががっかりしたような表情をするが、アコの提案の方が楽かつ確実な辺りがねー。
どうも、おっちゃんは俺たちをダンジョンに潜らせたい感じがするので、この提案には難色を示すかと思ったのだが、おっちゃんは気にした風もなく言葉を続ける。
「まぁ、その方法もアリっちゃアリだな。手間を惜しむか、金を惜しむか、その違いぐらいでしかないからな。だが、アーティファクトは高いぞ?
この際だからぶっちゃけるが、レストなんて攻撃に使えない秘蹟が封じ込められてるアイテムなんて価値は限りなく低い。
だが、その限りなく低い価値であっても値段は天井知らずだ。俺が知ってるのはそのタリスマンで落札価格大金貨50枚だったな」
「だっ、大金貨50!?」
おっちゃんが出した落札価格に驚愕の表情を浮かべるアコ。たけーなアーティファクト。今の俺たちの所持金では手が出ない値段だ。
あれ? でも、アーティファクトが最低でもそれぐらいで売れるってことは――、
「……先生が何考えてるか分かるがそれはやめてくれよな。あんな超ド級の危険物、売ろうなんて考えてくれるなよ? あんなのは闇オークションで出るようなぶっちぎりの禁制品だ。
流石にあれを表のオークションで流そうもんなら、俺も先生を擁護することは出来んぞ」
魔封じの腕輪を売ろうかと考えていたのがバレていたらしく、おっちゃんにがっつり釘を刺されてしまった。うーん、いい方法かと思ったんだが。
「あと、アレだ。アイツを売ろうとするなら、まずオークションに出すために鑑定書が必要になってくる。先生がそれをまだ無事に持ってるってことは鑑定書なんてないんだろ?
鑑定に掛けた時点で禁制品所持の疑いで普通に没収されるぞ」
そこまでの危険物だったのか、アレ。ハズレアイテムだし、まだ持ってるんだが。ともかく、手持ちのアイテムを売るという線は完全に消えたようだ。
「その割りには、貴方先生の腕輪没収しなかったよね。ちゃんと返してくれたし」
「ま、俺も恩恵に預かってしまったクチだからな。だから、アレに関してはあんまりおおっぴらには言わんようにな。風の刃もそこらへんは心得てるやつらばっかりだ。その点は安心していい」
カヨコの指摘におっちゃんは悪びれずにそう答える。まぁ、俺もハズレアイテムで指名手配とかされると困ったことになるので、黙ってくれるのはとてもありがたいのだが。
「で、話がそれたが。ダンジョン……行って見るか?」
この人はどうあっても俺たちをダンジョンに行かせたいらしい。ダンジョンを潜らせることがそんなに協会の利益になることなのだろうか?
まぁ、そこらへんは考えてもよく分からんことなので、追及はすまい。
「その前に、ダンジョンに関する情報です。私たちはダンジョンについてあまりにも知らなさすぎる。一体どういう場所なのですか?」
「おう、いいぜ。たっぷり解説してやるよ」
そういって、おっちゃんはあらかじめ準備でもしてあったのか、いくばくかの資料を取り出して解説を始める。
ていうか、おっちゃん受付の仕事はいいのか? と思うが、あいも変わらずおっちゃんの列には誰も冒険者が並ばないのでこれで良いのかもしれない。