「た、倒した……のか……。はは、助かった……」
俺は全身にびっしり汗をかき、思わずその場に座り込んでしまった。
「先生! 大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」
「正直寿命が10年ぐらい縮んだよ……」
ブラックドラゴンを倒した途端、皆が駆け寄ってきて俺の心配をしてくれる。
さっきはマジで死ぬかと思った。こればっかりはマジで寿命が縮んだわ。
「アリスありがとう。おかげで死なずに済んだよ」
「正直間一髪でした。先生が死なずに済んで私こそホッとしてます」
「それにしてもアレだよね。あの受付の親父さん一発殴っても許されるよね? こんな危険なボスが出るところを紹介したりして、あまつさえ先生が死にかけたんだもん。一発ぐらい殴ってもいいよね?」
ミカが顔はにこやかなまま怒りのオーラを発しながら受付のおっちゃんに対して怒る。
ていうかミカに殴られたなら一般人なら肉片も残りそうにないんだが。
「ミカの怒りは分かるけど、その役目は私に任せてよ。というか、あの受付のおっちゃんがそんなミスするとは思えないから、何かイレギュラーでも起こったんだと思うよ」
「んー。先生がそう言うなら我慢するけどさー。でも、一発はお願いね。正直先生が死にかけてはらわた煮えくりかえってるから」
いやー、一発殴るのは厳しいんじゃないかな。あのおっちゃん隠してるんだろうけど、あの人多分ペルージャの協会のギルド長ならぬ協会長だぞ?
流石に一冒険者が協会長ぶん殴るのは外聞が悪い。でも、あのおっちゃんのことだから一発ぐらいは許容してくれるかも知れんな。
「まぁ、先生が無事でなによりだ。それより、ボスを倒したということは問題のアーティファクトが出てくるはずだが」
「そ、そうだね。確認しようか。アリス。ライトを動かしてくれる?」
「分かりました。おっ、宝箱発見です!」
アリスにライトを動かしてもらい、フィールドの奥の方に小さな宝箱が鎮座してるのが目に入る。それが目的のアーティファクト入り宝箱なのだろう。
「これかぁ。いきなり目的の物が入ってるとは思わないけど、何が入ってるかな?」
「あの、先生。こっちにもでっかい宝箱があるんだけど? ひょっとしてあのドラゴンが守ってたのかな?」
「え?」
俺が目的の宝箱に近づこうとしたら、ハレが横からそんな言葉をかけてきた。
ハレの声に従って、ドラゴンの死体の裏手に周ると確かに宝箱があった。何が入ってるのか開けようとすると――、
「先生、開けちゃダメだ。そっちにはトラップがあるかも知れない」
俺が不用意に宝箱を開けようとするとアズサから制止がかかる。
「え? おっちゃんが言うには、最深部の宝箱には鍵も罠もかかってないって話――、ってああそういうことか」
「先生も察したか。おそらく、このダンジョンにおける本来のボスの宝箱はそっちの小さな宝箱のほうなんだろう。だが、こちらの大きな宝箱はおそらくこのブラックドラゴンのドロップアイテムだ。
ダンジョンの本来の宝箱なら罠・鍵がないだろうけど、それ以外はある可能性があると聞いている」
「じゃあ、こっちは開けてもいいんだよね。うん、鍵も掛かってない、罠も多分ない。開けるよ。――中身はアンクレットかなこれは。鑑定しないと分からないけど、私たちにとっては外れだね」
俺とアズサが話をしていると、カヨコが小さな宝箱に近づいて開けた。あ、宝箱開けるの俺がやりたかったのに。
「じゃあ、この大きな宝箱の方はマジックバッグにいれて持って帰ろうか。何かいいアイテムが入ってるかもだし」
「先生。ブラックドラゴンの角も持って帰りましょう! 高値で売れるかも知れません」
ブラックドラゴンは頭部をアリスの光の剣によって吹き飛ばしたのだが、その頭部の頭頂部についていた角はまだ残っている状態だったのだ。角だけでも結構でかいのだが、まぁそれぐらいなら持って帰るのに支障はないだろう。
「そうだね。角も持って帰ろうか。出来れば死体丸まま持って帰りたいところだけど、流石にそれだけの大きさの物体が入る容量はないからね」
「まぁ、記念と証明に鱗をいくつか持って帰る、ぐらいですかね。手持ちのナイフでドラゴンを解体出来るとは思えませんし」
アコが記念にとか言い出したぞ。アコもドランスレイヤーの称号でも欲しいのだろうか? まぁ、ドラゴンってファンタジーの極みだしな。
ゲームだけの話じゃなく昔話とかにも出てくるようなものだからな竜退治って。アコであっても憧れぐらいはあってもおかしくないか。
「じゃ、みんなで鱗採取したら、地上に帰ろうか。確か、聞いてる話だと……」
俺は辺りをきょろきょろと見渡すと、小さな宝箱があった辺りにこのダンジョンではおなじみのワープゲートが出現していた。
ダンジョンはこういうところ親切設計なのか、ボスを倒してアーティファクトを回収したら、入口へのワープゲートが出現するのだ。
勿論一方通行で再び潜る時は一階からやりなおしなのだが。
「あったあった。これが地上へのワープゲートだね。鱗は回収した? じゃ、隊列組んで出るよー。帰るまでが冒険だからねー」
俺は最後まで油断することなく、ちゃんと先頭と殿を決めてワープゲートをくぐる。ないとは思うが、待ち伏せでも受けてたら俺が最初に出たらエラいことになるからな。
まぁ、ゲートを出ても何もなく、そのままペルージャの街へと帰還出来たのだが。
ちなみに、ブラックドラゴンの死体にクレジット変換をしたのだが、1億クレジットにもなり今までの最高額の利益をたたき出した。
マジで今後補給とかいらんなこれは。
「ただいまー……」
俺たちは疲れた風体のまま、ペルージャの協会へと帰還した。そして、すぐさまおっちゃんの受付へと並ぶ。
「おっ、帰って来たか先生。どうだった、初のダンジョンは?」
「取りあえず一発殴らせてもらってよろしいですか?」
俺は表情はにこやかなまま、拳を握りしめ顔の前に差し出す。これでいつでも殴れる体勢が出来た。
「ちょっ、いきなりなんだ。なんでそんな話になる? ていうか、なんか全体的に疲れた表情してるな、何があったんだ?」
「説明させてもらうとですね……」
そういって俺は装飾品のダンジョンであったことを説明しだす。
「ドラゴン? フカシ……じゃねぇよな。先生がそんな嘘つくとは思えん。だが、あそこのボスはエルダートレントのはずだ。
魔法が厄介だが、ボスという関係上一番厄介な擬態能力があって無きがごとしだし、10階層まで潜れる実力があるなら余裕で討伐できるボスだ。
それがドラゴン? しかもブラックドラゴンと来たか。先生たちに死人が出てないのが不思議なぐらいだが……。一応なんか証拠とかないか?
俺が納得しても、協会としては全員を納得させられる証拠が欲しい」
「はい、証拠の鱗と、ドラゴンの角です。あと、ドロップした宝箱もあります。こっちは開錠役がいないのでそのまま持ち帰ったのですが、お金払えばこっちで開錠してくれるんですよね?」
「お、おう。そりゃしてやるが……。っていうか、マジにブラックドラゴンの角と鱗だなこれ。
本当によく生きて帰ってこれたな先生たち……。ブラックドラゴンなんて風の刃でももてあますモンスターだぞ。
それこそ熟練のAランクパーティーでもない限り全滅は必至だ」
「というわけで、一発殴らせてもらってよろしいですね?」
「……先生の気持ちは分かったが、俺に当たるのは八つ当たりじゃねーかな。取りあえず推測でいいなら俺の考えを聞かせてやるからまず聞け」
「聞きましょう」
「多分だがな、先生たちが踏み込んだ時はすでにブラックドラゴンによって本来のボスであるエルダートレントは倒されてたと推測できる。だから、おそらく先生たちがフィールドに踏み込んだ時点で宝箱は出てたと思うぜ?」
そうだったのか? ていうか、他のフィールドと違って薄暗かったから宝箱が最初からあったかどうかとか分からんな。
「で、なぜブラックドラゴンがいたかだが、多分装飾品のダンジョンがあまりに潜られなさ過ぎたせいだろうな」
「というと?」
「ダンジョンってのは瘴気が溜まりやすい構造になっててな。その溜まった瘴気で色んなモンスターを生み出してるわけだが、今回の場合装飾品のダンジョンが放置されすぎてて、瘴気が溜まりに溜まったせいでブラックドラゴンなんて大物が生み出された。
ってのが俺の見解だな」
「なるほど……。でも、そういう見解が出るということはそういう事態を想定することはできたってことですよね? というわけで一発殴らせてもらいます。返事は聞きません」
「ちょ、まっ……」
ベチン
俺的には割と全力で殴ったのだが、情けない音しか出なかった。っていうか、頬殴ったのにかてぇ! 一体どんな鍛え方してんだ!
こういう冒険者物でよくある引退した元冒険者とかだったりするのか?
「いってーな。だが、確かにこっちの不手際でもあるしな。一発は甘んじて受けるぜ」
「全然痛そうに見えない上に、こっちの方が痛かったんですが。でも、感謝してくださいよ。うちの生徒に殴られた日には治癒院行きの怪我を負ってましたからね」
「ははっ、ナイスジョーク」
ジョークじゃねぇんだよなぁ。特にミカに殴られた日には生きてるかどうかも怪しいぞ。マジでおっちゃんは俺に感謝すべきだ。
「あ、そうだ。メインの宝箱からアンクレットも手に入れたのでこっちの鑑定もお願いしていいですかね? あと、この角は売却しますのでそちらの方もお願いします。あ、鱗は記念にとっておきます」
「おう、了解だ。宝箱の開錠とアンクレットの鑑定、角の売却だな。明日また来い。明日になれば全部完了してるはずだ」
「分かりました。それじゃみんな帰るよ」
俺はおっちゃんにアンクレットの鑑定を頼むと、みんなで宿に引き上げる。ここで自宅に泊まれればよかったんだがなぁ。
早いとこあの屋敷で休みたい。