異世界捜査部シャーレ   作:幽塊和尚

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モモトークにおける会話は台本形式で展開します。
その方が、モモトークで会話してそう感が出せるからです。


06.名前

「行ったか……」

 

「ねぇ、先生。今更根本的な疑問なんだけど……」

 

「ん、どうしたのアル?」

 

 ユウカの送還を確認すると、アルが神妙な顔をしながら、ぽつりとつぶやいた。

 

「その送還って、本当にキヴォトスに帰れるの? その保証はあるの?」

 

「え……」

 

「いや、私がこうして先生に召喚された以上、逆も出来るのかも知れないけど。そのアプリにその力があるかどうかは分からないんじゃないかって」

 

 アルのその言葉に俺は顔面が蒼白になっていくのを感じた。

そうだよ、生徒送還なんて書いてるが、実際は生徒消去なんてコマンドの可能性だってあるんだ。だとすると俺はユウカを消してしまったことに……、

 

ピロリン

 

「え? うん? スマホの通知? おかしいな、電波は届いてないはず……」

 

 アルの言葉によってもたらされた衝撃から逃避したいのか、俺は現実逃避気味にスマホの通知を確認する。

 

「モモトーク? なんでこれに反応が……?」

 

 俺は恐る恐る通知が出ているモモトークのアプリをタッチする。

 

ユウカ『先生、届いてますか?』

 

 そこに映し出されたのは、ユウカからのトークだった。

 

先生『ユウカ! 無事なの!?』

 

ユウカ『いや、さっき別れたばかりじゃないですか、無事も何もないでしょう。ちゃんとキヴォトスに帰還しましたよ』

 

 そのユウカの反応からして、今モモトークで会話している相手はさっきまでのユウカであることは明白だ。

俺は急に体から力が抜けその場に膝をついた。よかった。ちゃんとキヴォトスに帰れてよかった……。

 

「せ、先生、どうしたの!? 急に座り込んじゃって」

 

「いや、安心したら急に力が抜けちゃってね……。とりあえず私は大丈夫。ユウカからモモトークが来てただけだから」

 

 俺の様子を見たアルが心配そうに声をかけてくれる。それに返事をすると、アルが俺のスマホを覗き込んできた。

 

「確かに見た感じ、さっきのユウカっぽいけど……」

 

「とりあえず、ユウカと色々トークするから黙るね」

 

「分かったわ、私は周囲の警戒をしておくから」

 

 そういうと、アルはスナイパーライフルを構えると、周囲を油断なく見渡す。

 

先生『ていうか、なんでモモトークが通じるんだろう。こっちだと電波圏外なんだけど。今もそう』

 

ユウカ『先生のスマホを覗き見したときにモモトークのアプリが変わらずあったので、ひょっとしたら通じるのではないかと思ってトークしたのですが、ドンピシャのようですね』

 

先生『ユウカが言ってた、試したいことってそれなんだ。でも、なんでキヴォトスとここで通じるんだろう?』

 

ユウカ『それは分かりませんが、まぁ、便利だからいいじゃないですか。でも、そうですね。ちょっと待ってください……』

 

 ユウカはちょっと待ってくれと言うとしばらくトークが途絶える。2分ほどだろうか、それぐらい待つと再びトークを再開した。

 

ユウカ『今ノアからも先生にトークを送ったんですが、届きましたか?』

 

先生『え? ノアから? いや届いてないけど……』

 

ユウカ『なるほど、これはダメ、と。では、先生。試しにアルさんからもトークを送ってもらってみてください』

 

 ここまで来るとユウカが何を試したくてこんなことをしているのか俺にも見えてきた。

ようするに、ガチャで引いた生徒ならば圏外だろうと次元や時空の壁を越えてトークを飛ばせるのではないかということの実験なのだろう。

 

先生『分かった。アルに言ってみるね』

 

「アル。自分のスマホは持ってる?」

 

「? 持ってるけど、それがどうかしたの?」

 

「ちょっとモモトークで私にトークを送ってみてくれない?」

 

「別にいいけど……。って圏外じゃないの! これじゃ送っても無意味じゃ……」

 

「いいから、なんでもいいから送って。これは実験なんだ」

 

「わ、分かったわよ……」

 

 俺の真剣な表情に折れたのか、アルは手元でスマホをポチポチするとトークを送信する。

 

ピロリン

 

 軽快な電子音とともに、俺のスマホにアルからの着信が届く。

 

アル『これでいいの?』

 

先生『うん、ばっちりだよ。ありがとうアル』

 

アル『目の前にいるのにモモトークで会話するって変な気分ね……』

 

 よし、こっちからの送信も問題なく出来てるようだ。さっそくユウカに報告をしよう。

 

先生『ユウカ。ユウカが睨んだ通りだよ。アルのスマホも圏外だったけど私とのモモトークはばっちり機能した』

 

ユウカ『やはりそうでしたか。となると今後先生にモモトークを送れるのは私と生徒募集で引いた生徒だけということになりますね』

 

先生『となると、今後誰を引けるかの合戦になりそうだなぁ……。いや、そちらから干渉できることはなさそうなんだけど』

 

ユウカ『取りあえず、やりたかったことの検証は済みましたので、まずは連邦生徒会経由で先生の今の状態をキヴォトスに発信するとします。では一旦失礼しますね、先生』

 

先生『うん。もう一度言うけど頑張ってねユウカ』

 

ユウカ『はい、先生も』

 

 そのトークを最後にユウカからのトークは途絶える。しかし、連邦生徒会経由で発信かぁ。

いや、一校一校伝えるわけにもいかないから、それが一番確実なんだろうけど、連邦生徒会の面々、とくにリンとか絶対に信用しそうにないなぁ。

虚妄のサンクトゥムの時みたいに”先生”である俺が言えば信じるかも知れないが、伝えるのがユウカだからなぁ。

ユウカ自身は虚言癖があったりということはないのだが、あまりにも内容が突拍子もなさすぎるからな。

上手くいくか天に祈るばかりである。

 

「ユウカとの実験も終わったし、移動しようかアル」

 

「え? ここにいなくていいの?」

 

「一応キャンプ道具はあるけど、出来れば日が落ちる前に人里を見つけたいからね。それに召喚は私を基点にして行われるから、移動してもユウカはちゃんと私の傍に召喚できるよ」

 

「なるほど、分かったわ! じゃあ先生ははぐれないように付いてきてね。私が先陣を切るわ!」

 

 そういってキラキラした笑顔を浮かべるアル。

 

(私が先陣を切る、って言ってみたかったんだろうな……)

 

 心の中でそう思ったが、口には出さない優しさが俺にはあった。

 

 

 

   ------------------------------------------------

 

 

 しばらく森を歩いただろうか。途中で獣やモンスターに出くわすこともなく、俺たちは順調に進んでいた。

いや、行けども行けども森の状態を順調と言っていいのかは疑問が残るが。

 

「代り映えのしない景色ねー」

 

「そうだね。流石に少しは変化が欲しいところだけど」

 

 ピロリン

 

 アルと雑談をしていると、スマホの通知音が鳴る。この音はモモトークの通知音。ということはユウカからの着信だ。

もう2時間もたったのかな? と思いながらユウカからの着信を見る。

 

ユウカ『先生すみません、今よろしいでしょうか?』

 

先生『大丈夫だよ。なにかあった?』

 

ユウカ『とりあえず、先生が異世界転移したとおぼしき状況を代行に話したところ、代行はすぐさま連邦生徒会として先生のことを発表したのですが……』

 

先生『あれ? リンちゃんすぐに信じてくれたんだ』

 

ユウカ『あ、それに関しては先生の部屋の監視カメラ映像を確認したらしく代行も調査を行っていたようです。私も見せてもらいましたが、深夜0時丁度に先生がいきなり消える映像を確認しましたので』

 

先生『そんなの見たら、そりゃ信じるか』

 

 そこまで会話して、俺はおやと思った。俺がキヴォトスにいたことになってる? どういうことだ? 俺は先生の能力をもってこの世界に転移したんじゃなかったのか?

俺はブルアカの先生本人ではないはずだが。俺の名前は……、あれ? 名前は? 名前が思い出せない!?

どういうことだ、俺はちゃんと昨日までの現代地球での記憶がある! 名前だってあるはずなのに……。

 

ユウカ『って、そのことは今はいいんです。それより先生のことを発表した途端シャーレに生徒が大挙して押し寄せてきまして……』

 

 俺の内心の動揺を他所に、ユウカは話の続きをする。待ってくれ、俺は今判明した事実を消化できてないんだが。

 

ユウカ『連邦生徒会の発表を信じるもの、信じないものに分かれて喧々諤々の大騒ぎです。今は代行が代表して応対してくれてはいますが』

 

先生『ねぇ、ユウカ。いきなり変なこと聞くようだけど答えてくれる?』

 

ユウカ『え? なんですか?』

 

先生『私の名前、答えられる?』

 

 文章では落ち着いてる風だが、今の俺は心臓ばっくばくである。聞いたところでどうするんだ、という一部冷静な俺が答えるが、今の俺はさっき判明した事実をなんとか消化しようと必死だった。

 

ユウカ『え? ■■■■ですよね? 本当に変なこと聞きますね』

 

 だが、帰ってきたトークは非情だった。肝心の名前部分が黒塗りになっていて判別が出来ない。

こ、これは一体どういうことなんだ? そうだ、アルなら!

 

「アル。ちょっと変なこと聞くけど、私の名前答えられる?」

 

「え? 先生の名前? ■■■■でしょ? なに、ユウカに変なこと言われたの?」

 

 現実は非情である。アルの口から出た言葉はノイズが乗ってもはや正常に聞き取れる発音になってなかった。

 

(俺の名前が消えている……!? いや、ブルアカの先生であってもプレイヤーネームはあったはずだ。俺のプレイヤーネームももはや思い出せないがちゃんと設定はした!)

 

 アロナにも聞いてみたいが、おそらく結果は同じだろう。ことここに至って初めて俺は途轍もない異常事態に巻き込まれたということを実感するのだった。

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