異世界捜査部シャーレ   作:幽塊和尚

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60.ガルム

 ピコン

 

 シッテムの箱から、そんな通知音が響いたのは王都まであと1時間といった辺りの場所であった。

 

「スマホからじゃなくてシッテムの箱から? なんだろう」

 

 シッテムの箱からの通知ってことはアロナ、もしくはプラナから呼び出しということだが、何かあったのだろうか?

普段はあんまり自己主張するタイプではないのだが。

 俺が疑問に思いつつ、シッテムの箱のスリープモードを解除すると、いきなり広域マップが表示され、馬車の行先の左右に多数の赤点が――、

 

「敵襲! みんな戦闘準備!!」

 

 俺が即座にそう叫ぶと、みんな一瞬の逡巡の後に銃を構え馬車から飛び出す。

 

「え? ちょっとお客さん?」

 

 疑問符を浮かべている御者さんを尻目に、馬車の前に出て戦闘陣形をとる俺たち。

 

「ヒナ。2時の方向、森に向かって斉射! 先制攻撃だ」

 

「分かったわ」

 

 まずはヒナのマシンガンによって広域殲滅を行う。赤点ということは表示的にはモンスターになる。

これが人間の敵意ある存在なら黒点になるので、赤点ということはモンスター確定なのだ。安心してぶっぱなせる。

ちなみに、自陣営は青点、中立存在は黄点となる。

 

 キャイン キャウン キャオン

 

 ヒナが斉射した場所から、犬系統の獣の鳴き声が響き渡る。ウルフ系のモンスターか?

そう推察すると同時に、左右から多数のウルフが街道に出てきてこちらの行く手をふさぐ。

 そのウルフはモンスターの証の角が生えており、体毛はどれもこれも真っ黒だ。

俺がこの世界に来て初めて出会ったグレイウルフではないことは確定だ。あれは灰色の体毛してたからな。

そして、そのウルフの中でもひと際大きな個体がこちらをにらめつける。

 

「群れのボスって感じかな。数は多いけど、私たちの敵じゃないね」

 

「あわわわわわ」

 

 泡を食った御者を尻目に、ミカがサブマシンガンを斉射する。次々と倒れ伏す狼たち。

 

「……うん、出てきてる狼はこれで全部だね。みんな群れのボスらしきあの狼に集中攻撃」

 

 指揮とも言えないような命令を一つだして、これで戦闘終了。だと思ったのだが――、

 

 キンキンキンキン

 

 群れのボスと思しき巨大な個体はなんと、障壁を張って生徒たちの銃弾を防ぎだしたのだ。

 

「うっそ、銃弾を弾くの!? どういう生態してんのよ!」

 

「ならばアリスにお任せください! 光よ!」

 

 困ったときのアリス頼り。というわけで我らのリーサルウェポン光の剣による砲撃。これで決まった。かと思えば

 

 guooooo!

 

 ボスがひと際高く吠え声をあげたかと思うと、ボスの前に展開されていた障壁がひと際明るく輝く。そしてなんとその障壁は光の剣のレーザー攻撃を受けきったのだ。

 

「えぇぇぇぇぇ!? ドラゴンすら葬った光の剣を防いだの!? これ絶対こんなところで出てきていいボスじゃないでしょ!?」

 

 ミカが悲鳴を上げるが俺も同じ気分だ。今のアリスの一撃はドラゴンを倒したMAXチャージ状態ではないとはいえこれはマズイ。今まで敵を葬ってきたアリスの光の剣が通用しないとか。

 

「……ひょっとして、《ファイヤーボール》」

 

 俺たちが攻めあぐねていると、何かに気付いたシロコが後方よりファイヤーボールを唱え、ボスに向かって投げ放つ。

 

 キャウン!

 

 そうすると、さきほどまで威厳ある吠え声をしていたボスが可愛らしい鳴き声を上げて火に包まれる。まだ初級でしかないシロコのファイヤーボールが通じた!? ということは!

 

「みんな、あれは魔法でしか打撃を与えられないみたいだ! シロコとアリスの魔法を中心に攻めるよ! シロコは続けて火魔法で。アリスは光魔法で攻め続けて!

その間みんなはボスに向かって弾を撃ち続けるんだ! あれを展開している間は奴の動きが止まる! その隙に魔法で仕留める!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 俺が指揮を出し他のメンツで銃弾でボスを足止めし、後方からシロコとアリスの魔法を飛ばす。

 流石にその波状攻撃ではボスも耐えきれなかったらしく、アリスが止めの光魔法を放ったところでついに力尽きた。

 

「はぁ、かなりの強敵だったね……。まさか、物理攻撃が全く通じないモンスターがいるなんて」

 

「そうね。まさか光の剣すら通じないとは思わなかったわ。やっぱり私たちも魔法を習得した方がいいのかしら?」

 

「そうだね。とは言っても、魔法の書はガチャしないと確実には手に入らないものだけど。ドロップアイテムを期待したりするのは博打が過ぎるよ」

 

 ヒナの言葉に俺も真剣に魔法の書を手に入れることを考え出す。俺も俺で魔法覚えてるけど回復と補助だけだしな。

 

「私も魔法覚えてたけど、アンデッド専用だしねー。普通のモンスターにも通じる魔法覚えてた方がいいのかも」

 

「王都に付いたら取りあえずガチャしておこうか。アリスの交代要員もそろそろ引かないとだしね」

 

「交代……。いえ、そろそろ光の剣のメンテナンスもしないといけないので、異論はないのですが……」

 

 異論はないと言いつつ不満そうな顔のアリスである。まぁ、アリスの交代要員はあまりやる気のない人員が来るのを祈るがいい。そんな生徒いるのかって話ではあるが。

ちなみに、ミッション内容に「10連ガチャを引こう!」というのもあるので、ミッション達成も出来て一石二鳥ではあるのだ。

 

「とりあえず、このボスはクレジット変換じゃなくて協会に提出しようか。ひょっとしたらいい素材なのかもだ」

 

 クレジットに関してはドラゴンでアホみたいに獲得したのでもう早々尽きることはないので、こっちのリアルマネーを稼ぐ方に注力した方がいい。

丁度大容量のマジックバッグも手に入れてるのでこれくらいの容量は楽々入る。

 

「あ、あんたたちマジックキャスターだったのか。正直ガルムに襲われて死を覚悟したんだが、あんたら強いんだな……」

 

 俺たちが狼たちを処理していると馬車に乗っていた他の乗客からそんな声を掛けられる。

 

「ガルムというのですか、この狼は」

 

「知らないで戦ってたのか? 下位個体でも物理に高い耐性を持ってて上位個体ともなると、完全に物理攻撃を防ぐかなり強力なモンスターだ。マジックキャスターのいないパーティーだと普通に全滅する。

俺もちょっとは腕に自信があるんだが、ガルムは流石に相手するのは無理だ。あんたらが居てくれて本当に助かったぜ」

 

 そういう乗客は腕に自信があるといった言葉通りに筋骨隆々の強そうなおっちゃんだった。かつては冒険者だったけど膝に矢でも受けたんだろうか?

 

「その……。とても助かりました。ありがとうございました。駅に着いた時に別途褒章をお支払いいたしますので、お受け取りください」

 

 俺たちがガルムの処理を終えて、馬車に戻ると御者の人からそんな言葉を掛けられる。

 

「アレを倒さなければ私たちも死んでいたのですから、気に病む必要はありませんよ。まぁ、信賞必罰は大事ですので、そちらから頂けるというのなら遠慮なくいただきますが」

 

 俺がかつてこの世界に来た時に姫殿下から褒章を受け取ったのと同じ理屈だ。褒章を受け取ることでこの件に決着をつけ、後腐れを無くすということだ。

日本人的謙虚さはこういう場合害悪でしかないのだ。

 

「それにしても、乗合馬車がモンスターに襲撃されるというのはよくあることなのですか?」

 

「いや、そんなに頻繁にあったら乗合馬車自体機能しないだろ。こんなのはレアケースだよ。レアケースに遭遇して助かったのは運がいいのか悪いのかって感じだな」

 

「普段は騎士団が街道の巡回等をしているので、街道沿いのモンスターや野盗は基本的に一掃されているのが普通です。今回のようなレアケースもないわけではないのですが……」

 

 筋骨隆々のおっちゃんと御者が交代で俺の疑問に答えてくれる。まぁ、そりゃそうか。街道の安全が確保されてるからこそ乗合馬車なんてのが運営されてるわけだし。

大体、商人の馬車を野盗が襲うなら分かるが、乗合馬車なんか野盗が襲っても金目のものがあるとは限らないからな。

あとはモンスターに気を付けるだけだが、そのモンスターも騎士団が一掃してるとなると、安全な旅は本来なら約束されてるわけだ。

 

「まぁ、取りあえず王都には無事に付けそうで一安心ですね」

 

「そのセリフを言うのは俺らの方だと思うんだがな……」

 

 そんなおっちゃんの呟きを聞き流し、俺は視線を馬車の進行方向へと向ける。

さて、もうすぐ王都だ。

 

 

 

 

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