異世界捜査部シャーレ   作:幽塊和尚

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09.ディーマン

「や、ヤバイ! すいません、大丈夫ですか皆さん!」

 

 アルのEXスキル、ハードボイルドショットは着弾ダメージと、着弾した場所を中心に爆発を起こすスキルだ。

その爆発効果を忘れて、その場のノリもあって普通にEXスキルを発動させてしまった。

さっきの一つ目巨人と戦っていた人たちが巻き込まれていないか心配だ。

キヴォトスの生徒だったらあれぐらいの爆発では死にはしないが、俺と同じぐらいの耐久度だったら死にも直結する威力のはずだ。

無事だといいのだが……。

 

「ゲホッ、ゴホッ。いや大丈夫だ。煙を吸った程度で幸いこちらにケガはない。一応は助けて? くれたのだよな。感謝する」

 

 爆風が収まったあたりから、一つ目巨人と戦っていた兵士らしき人たちが出てきながら礼を述べる。

だが、俺はそこに兵士の人が何人か倒れているのを見逃さなかった。

 

「あの、そこに倒れられてる人たちは……」

 

「……この者たちはあの爆発の前に既に事切れていた者たちだ、貴殿らのせいではない」

 

 よかった。と言ってしまってはマズいので口にはださないが、取りあえずアルのせいではないことが分かって一安心だ。

 

「よかった。私のせいじゃなかった……」

 

 後方でアルがこっそりと呟いていたが、小さな声だったので兵士の人には聞こえてないだろう。ていうかアル。そういうのは思ってても口に出しちゃいけません。

 

「取りあえず、礼をしたいのだが……ディーマンか。いや、失礼。人助けに人種も何もないな。取りあえず金でいいだろうか」

 

 礼をしたいと言いつつも、目の前の兵士から隠しようもないような差別的な視線を感じる。

今、ディーマンって言ったよなこの兵士。おそらくそれはアルのことを指しているのだろうと分かる。

まぁ、アルは隠しようもないレベルで悪魔の角があるからな。

 しまったな、ここが一般的なファンタジー世界だと考慮したらいわゆる魔族的な種族が被差別種族であるかも知れないということを考慮に入れておくべきだった。

今後ゲヘナの生徒を呼ぶのは色々問題がありそうだ。まぁ、トリニティはトリニティで天使の羽が生えてるせいで別の誤解を生みかねないが。

 

「なーんかイヤな視線ね。助けない方がよかったかしら?」

 

 兵士の差別的な視線に気付いたのか、アルが途端に不機嫌になる。お金をもらえると聞いているのに不快さを隠そうともしない。

だが、俺もそれに関しては同意だ。最初はここで下手に出て、報酬だけでも受け取ろうとしたが、生徒であるアルが不快な思いをしているのにそういった行動をとるのは”先生”ではないだろう。

 

「失礼。うちの生徒が何か? 実際にあなた方を助けたのはウチのアルだ。あなた方にとっては不快な存在かも知れないが、アルは大事な私の生徒だ。

私の生徒を差別しているような者から報酬を受け取ろうとは思わない。非常に不愉快だ」

 

「いや、私は気にしないから報酬を受け取った方が……」

 

 後ろでアルがなんか言ってるが無視だ。このままアルが馬鹿にされたままで放っておくわけにはいかない。おそらくこの問題は今後も付いて回るはずだ。

ならばそれはここで解決しておくべき案件だ。

 

「いや、それは……」

 

「ロイ、せっかくの命の恩人にその態度は関心いたしませんよ」

 

「殿下!」

 

 俺が兵士と問答していると、豪華な馬車の中から透き通るような女性の声が聞こえる。

ていうか、殿下て。お姫様じゃないか、これは厄ネタを引いたか?

 女性の声が響くと、兵士たちがぞろぞろと馬車の前に並びだし左右に分かれた列を作る。列を作り終えると、馬車の扉が開き中から豪奢なドレスを着た女性が現れる。

容姿はかなり整ってるほうだろう。でも、ブルアカの生徒連中を見慣れてる俺にとっては特に特筆するべき容姿ではないな。

 

「申し訳ございません。うちのロイが失礼を働きました。お許しください」

 

 そういってカーテシーをしながら頭を下げる姫殿下。これっていわゆる上位者に頭を下げさせたってことだよな。

とすると、ここでこの謝罪をお気になさらずと言ってかわすのは非礼に当たる行為となってこじれる可能性がある。

 

「いえ、こちらも熱くなりすぎました。あなた方の謝罪を受け入れましょう。頭をお上げください」

 

「感謝いたします」

 

 周りの反応を見るだに、俺のこの態度が正解だったようだ。日本人的な謙遜の美学って海外じゃ通用しなかったりするらしいからな。

 

「では、さきほどのことは一旦置いておきまして、報酬の方は是非受け取っていただきたいのですが。わたくしを忘恩の徒にしないでいただきたいものです」

 

「アルのことが解決したのでしたら、是非受け取りましょう。その方が双方にとって一番後腐れがなくなる選択肢なのですから」

 

 実際、ここで報酬を受け取らないと双方ともに困ったことになるので、ここでも日本人的謙虚さを出す場面ではない。

さて、いくらぐらいくれるのか。

 

「エヴァ、馬車の中に幾つか財貨があったはずです、それをこちらへ」

 

 姫殿下が馬車に向かってそう発言すると、しばらくして馬車の扉が開き使用人っぽい人が革袋のようなものを抱えて出てきた。

 

「こちらです姫様」

 

 使用人の人が革袋を姫殿下に渡すと、姫殿下はその場で革袋の中身を検めはじめる。

 

「ひ、姫様!?」

 

「エヴァ、あなたのことを信用していないわけではありませんが、ここで相場より低い報酬を渡してしまっては私の品位が疑われます。ゆえにこれは必要なことなのです」

 

 姫殿下は、ひとしきり革袋の中身を見つめると、袋の口を閉じ俺の方に渡してくる。

 

「中には金貨30枚ほど入っております。正直わたくしの命の値段と考えるとこれでも少ないぐらいなのですが、今はこれ以上持ち合わせがなく……。ご容赦願います」

 

 金貨30枚ってどれくらいの価値か分からん。が、ここでゴネたり値段交渉してはいけないというのは分かる。ここはこの姫殿下のセリフを信じて受け取るしかない。

 

「いえ、ありがたく受け取らせていただきます。姫殿下に置かれましてはこれからもご健勝であらせられますように」

 

「えっと、それに関してなのですが、先生様はこの先どちらに向かわれるご予定なのでしょうか? 目的地が同じなのでしたら、町までの護衛をお願いしたいのですが……」

 

 とりあえず別れの言葉を発して、穏便にこの集団から離脱しようとしたがそうは問屋がおろさないようだ。

まぁ、この手の話にはよくあるパターンだけどさ!

 

「で、殿下!?」

 

 姫様の突然の発言に狼狽しだす兵士さん。確かロイとか呼ばれてた人だな。

まぁ、狼狽するのもさもありなん。姫殿下の発言は「お前ら護衛として不足だから新しく護衛雇うね」と言っているようなものだからだ。

 

「ロイ、あなた方が必死で戦ってくれていたのは知っています。ゆえに、その武を侮辱しているわけではありません。

ですが、死者が出てしまった以上、以前と同じ質の護衛能力を求めるのは無理というものでしょう?

ですから、その補填をしようというわたくしの提案なのですけど、何か間違っております?」

 

「い、いえ。間違っておりません……」

 

 姫様に理論武装されて、おずおずと引き下がる兵士さん。この姫さん割としたたかだな。被差別種族であろうと気にせず報酬を渡したり、護衛として雇おうとしたり、割と柔軟な人のようだ。

 

「で、どうでしょうか、先生様。わたくしとしてはこの提案を受けていただきたいのですが……」

 

 このやりとりの間にしばらく考えていたが、これは受けるべきだと思う。

なにより町までの道案内になるし、追加で報酬が得れる可能性もある。

問題はアルがどう考えているかだが……。チラとアルの方に視線をやる。

 

「私は問題ないわよ先生。先生のしたいようにして」

 

 オッケー。アルからも了解がとれた、と。

 

「うちの生徒もよいと言っているようですし、是非とも受けさせていただきます。実は我々この森で迷っておりましてね。どこでもいいから人里にたどり着きたいというのが本音なのですよ」

 

「そ、そうだったのですか。ですが、そのおかげで先生様の助力を受けられたようですし、これも神の思し召しでしょう」

 

 そういって手を合わせて祈るしぐさを見せる姫殿下。そういやブルアカ世界ってキリスト教がモチーフなんだよな。この世界の宗教はどんなものなのか。

それにしても、最初にアロナが言ってたような展開になるとはね、よくある展開と言ってしまえばそれまでなのかも知れないが。

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