ただ笑顔を撮りたいだけの少年が救世主として世界を救うまでのお話 作:ヒナニウム欠乏症
お気に入りもしおりも、一話時点から、倍以上だ……!!
ありがとうございます、ありがとうございます、頑張ります。
本作のモチーフは「フォトカノ」と「仮面ライダーディケイド」と、他に色々です。嘘じゃないです。
夕焼けの光が、車窓から差し込んでいた。
電車に、一人の少女がいた。空色の長髪に、桃色の差し色。白い制服を血液の紅朱に染めた、透き通るような少女だった。
「――全て、上手くいくはずでした」
掠れた声で少女は言う。明らかに、動揺を隠せていない調子だった。
「私は幾度もやり直しました。連邦生徒会長として使える全てを利用して、全てを手中に収めた。絶対に変わらない。絶対に成功する。そこまで出来たからこそ、私は先生をお呼びしたのです。どんなときも変わらない、どんなときも絶対に同じ道を歩む、私の先生を」
なのに、失敗した。そう、透き通るような瞳は訴える。
「あなたは
少女が見るのは、リヒトだった物体だ。それは、最早人では無い。写野リヒトという人格を完全に破壊され、然して怪物にも成り果てず、器の姿を象ったままの、写野リヒトの姿をした空っぽの器だった。背中の歯車を幾つも組み合わせたようなヘイローは、歯を持たないまま虚しく回り続けている。
「あなたが先生と出会わなかった。その結果、世界は終わりました。――今まで、一度もそんなことは無かったのに!」
もっと注視しておくべきだったと、連邦生徒会長は思う。彼が先生と出会う時期には、場所には、毎回大きな差があったのだ。
例えば、シャーレに先生がやって来たときに共闘する世界があった。
例えば、アビドス砂漠で遭難した先生を救出する世界があった。
例えば、ミレニアムにあった廃墟でまだ見ぬ景色を求めてロボットに襲われていた先生の指揮下に入る世界があった。
例えば、トリニティで盗撮をしたとされて補習授業部に投げ込まれて先生と出会う世界があった。
例えば、アリウススクワッドでロイヤルブラッドの自由を求めて反逆していたところで出会う世界があった。
例えば、ゲヘナ万魔殿から先生を籠絡するために送り込まれてきた世界があった。
例えば、一人で世界を旅しながら写真を撮り、その行く先々で先生を手伝う世界があった。
例えば、先生のパートナーとして、彼女を公私共に支える良夫になる世界があった。
例えば、例えば、例えば――。挙げてしまえばきりがない。それでも彼女がそれを許容したのは、彼を信じることにしたのは、彼がどんなときでも先生の味方であったからだった。
誰が敵対していようとも、彼は変わらず先生の味方だった。先生の思想に共感し、しかしそれを鵜呑みにせず、自ら確かめ、時に正し時に諌められ、そして生徒のために、世界のために戦える少年だった。
だから、連邦生徒会長は、安心した。してしまった。彼を、先生と同列の定数だと考えてしまったのだ。そういった定数は幾つもある。彼女が集めた連邦生徒会の面々などはその最たるものだろう。
彼が動きを変える存在だということを、彼女が言うところの乱数で動く存在だということを、脇に追いやってしまったのだ。
最後には同じことをしてくれる存在だと、
その結果が、今回だった。彼はブラックマーケットから一度も拠点を変えなかったのだろう。一度も、彼が先生の味方として目覚めるような出会いが無かったのだろう。そのまま、彼はただのカメラマンとして生き、そして致命的な破滅に至って漸く、救世主として世界を救うために開花した。そういう話だったのだ。
「あなたは――"救世主"でしょう!? 何故先生と出会わなかったのですか……!」
裏切りだった。先生を救い、生徒を救い、世界を救うために足掻く。その宿命を背負ったはずの少年は、最後の一つだけをこなしたのだ。思わず、少女は声を荒らげてしまう。
連邦生徒会長の焦りだった。既にその神にも等しい、世界をやり直す能力を振るえる機会は殆ど無い。世界を救うために身を削りきり、彼女は、子供は縋ったのだ。
先生という「正しい大人」と、リヒトという「頼れる救世主」に。
しかし、救世主は救わなかった。救えなかった。先生は死に、生徒は死に、世界は死んだ。そして、救世主は孤軍奮闘の果てに壊れた。あの滅びに身を晒し、世界が消えるまで耐え続けたのだ。この器は既に、救世主では無い。
「……私の、ミスでした」
分かっている。思考放棄をした自分が悪いことを、彼女は分かっている。人間には不可能なレベルの無数の計算をする上で、省力化のために定める定数を見誤ったことを分かっている。だが、進めた針は戻らない。壊れた器は戻らない。
救世主は、もういない。
「ごめん、なさい。先生、皆さん――」
そのまま、少女は崩れようとする。絶望が少女を破壊しようとしていた。己の過失が全てを終わらせたことに、絶望しようとしていた。
――そんなことが、許されて良いのだろうか?
――どんな力や権力や能力があろうとも、
――解答としては。
この世界では。
この話では。
そんなことはあってはならないことである。
かしゃ、と。高い音が響いた。
この場には場違いな音だった。
全てを諦めようとしていた連邦生徒会長が、一瞬目を開く。
正面に座るのは、写野リヒトの姿をした空っぽの器だった。
空っぽの器が、カメラを構えていた。その指が、シャッターを押し込んでいた。
動かないはずの骸が、動き、語りかけていた。からからから、と。歯の無い歯車が回転する。ヘイローが回転する。死んでいては動かないはずのヘイローが、情けない音をたてながら回っている。
「……う、そ」
かしゃ、かしゃ、かしゃ。壊れた機械のように繰り返す。撮りたいという本能を繰り返す。
それが何を撮りたいというのか。決まっていた。少女は知っていた。繰り返す中で知っていた。彼の本能を知っていた。
誰かの笑顔に、決まっていた。
「器の形を、象ったものには。……器と同じ、力が宿る……ッ」
偶像崇拝というものがある。神などの信仰対象を模したものには、その力が微かに宿るという考えだ。キヴォトスという世界は、そういったものがより強く反映される。
だとしたら。ひょっとしたら。――否、これしかない。それしか、もうない。
「……折れている場合じゃ、ありませんね」涙を拭う。「お願いします、リヒトさん」
口の端から赤い筋を垂らしながら、少女は決意するように叫んだ。
「――これは、最後の
電車が線路の継ぎ目の上を駆け抜ける音がした。
「私が世界を戻せるのは、恐らく次が最後でしょう」
ぽたぽたと。血が垂れる。
「もう前提条件は役立ちません。救世主は破壊され、定数は破壊されました」
少年の手を、少女が握った。
「それでも、リヒトさん。あなたという器なら、きっと。……撮りたいんでしょう? 笑顔を。見たいんでしょう? 笑顔を。……だから、ほら」
少女は言う。動くかどうかも定かでは無い器に。傍から見れば、狂っていると言われるだろう。壊れたと思われるだろう。
それでもいい、と少女は思った。
「世界を、お願いします」
それで彼が目覚めてくれるなら。世界を救ってくれるなら。それで良い。
狂人でも、罪人でも、何でも良い。
世界が、移り変わる。彼の器が、消える。世界に彼が配置されたのだ。彼は、もう一度生まれた。それだけが、彼女には分かった。
もう一度だけ、信じよう。もう二度と信じることを諦めない。彼女には信じることしか、出来ないのだから。
それでも、先生と彼が出会うのが遅かったら。……否、彼が
「――その時は、私が全力で探してあげましょうか」
くすくす笑いながら、彼女は待つ。彼女が愛する先生を。彼女が信じる先生を。
全てが救われた世界で、彼女と彼と自分とで。三人で笑い合いたいと考えながら。
かたんかたん、と。電車が揺れた。
チョーゼツ簡単な三話分の登場人物説明!
リヒト:オリ主。先生の味方だった筈が誰とも出会わないという屑運を発揮した結果ブラックマーケットに引きこもり、ハッピーエンドを見逃した。序でに「救世主」の器と、人格を壊された。神の視点で見ると大戦犯。
連邦生徒会長:調査時に分からなかった乱数要素のガバ運で全部台無しになったRTA走者。もう限界が近いため焦ってしまっていた。かわいそう。
滅び:ラスボス。最終章に出てきたアレ。「器」を破壊する程度の能力を持つ。
助けられた生徒:理解できないものから逃げるタイプ。依存しようとしたリヒトがガンギマリ過ぎた。おっぱいが大きいギャル系美少女。
ロボット頭:人間性を捨てきれないカーセールスマン。こいつが死んだ時点でバッドエンド確定。
先生:メス。原作通り完璧に走ったのにリヒトが引きこもっていたせいで死んじゃった。かわいそう。
次回から新章というか、本編です。
ライブ感で作っているのでガバってたり矛盾してたりしたら優しく教えてください……。