コナン君に怪しまれれば死なずに済むと思ったけどワンチャン捕まる可能性出てきた 作:Splite
「はぁん、こりゃまた…」
「すごいお屋敷ね」
秋も終わりかけ、枯葉が地面を覆う中、コナン、蘭、小五郎は、とある人物に呼び出され、山の中にポツンとある屋敷へと来ていた。屋敷は、まるで貴族の館のように立派であったが、どこか異様な静けさがまとわりついている。まるで時間の流れから切り離され、ひとり誇りを保ち続けているような、そんな孤高の威厳を放っていた。
呼ばれたのは小五郎だけではなかったようで、屋敷の前に人影がふたつ見えた。
「あれ、あの人、写真家の片桐正紀だ」
「世界中を旅して美しい写真を撮り続けてる、あの?」
「あぁ!あれはホームラン王の松平守選手!!」
蘭と小五郎が話していると、聞こえたのか、二人が駆け寄ってきた。
「あれ?そういうあなたは名探偵の」
「毛利小五郎さんですね」
今となっては、二人に負けず劣らずの有名人になっている小五郎の事をどうやら二人も知っていたらしい。
「はい。あなた方も来週のチャリティーショーのゲストに?」
「ええ」
小五郎は、今日、蘇芳紅子という人物が開くチャリティーショーにゲストとして出る事になり、その打ち合わせの為に蘇芳が所有する屋敷へと来たのだった。どうやら小五郎だけではなく、各界の著名人も呼んでいたらしい。ちなみに蘭とコナンは付き添いである。
そんな中、背後で、ブレーキの音が静かに響いた。振り返ると、一台のタクシーが停まっていて、中から黒髪の女性が降りてきた。
「わぁお!美人」
整った容姿に思わず小五郎の鼻の下が伸びる。そんな父親を蘭は冷たい目で見た。
「あの人長良ハルカさんだ!」
「ええ!テレビや雑誌で超人気のタロット占い師の!?」
片桐と松平が声を荒げたのをお構い無しに、長良は屋敷を見て神妙な顔で呟いた。
「これは…」
長良の表情が気になって蘭が思わず声をかける。
「どうかしたんですか?」
「この屋敷には不吉な影を感じる。大きな災いの予感が…」
「そんな…縁起でもない」
小五郎が呟くと、後ろから来た声が聞こえた。
「あれ、皆さんお揃いですか?早めに来たつもりだったんですが…」
「千代子さん!?」
見覚えのある姿に蘭が驚いて叫んだ。そんな蘭に千代子も気付いたようで声をかける。
「あれ、毛利さんに、蘭ちゃん、コナンくんも。偶然だね」
そこに居たのは岩舩千代子だった。とある事件でコナンの正体を見破った得体のしれない女性。未だその正体を突き止められていないコナンは探りを入れるべく千代子に話しかけた。
「千代子さんもチャリティーイベントのゲストなの?」
「違うよ、私は手伝い。私の勤め先は色んなお手伝いをしてる会社でね。イベントの企画を一緒にしたり、経営戦略を一緒に練ったり。困ってる会社や個人が居たら何でも助ける!みたいな感じなの。蘇芳さんのチャリティーイベントも何年か前からお手伝いしてるんだ」
それから屋敷の右と左、別々の扉から出てきた双子のメイドに、東と西で館が分かれていること、それにまつわるしきたりがあること、ここが呪いの仮面の館であることを聞いた。
メイドに連れられ一同は屋敷の中に入る。案内された大広間には大量の仮面が飾られていた。
(おいおい、オカルトじみてきたじゃねぇか…)
コナンが呆れたように片眉を上げると、背中越しに声がした。
「これはショブルの仮面ですわ」
「貴方は…蘇芳紅子さん!」
振り向いた先にいた年配の落ち着いた物腰の女性。彼女はこの屋敷の主で、チャリティーイベントの主催者、蘇芳紅子だった。その後ろには彼女の秘書の稲葉和代もいた。
「皆さんよくお越しくださいました。如何かしら?私の自慢のコレクションは」
そこから彼女はこの仮面に纏わる言い伝えを話し出す。曰く、この仮面はショブルという人物が作った仮面で、彼が亡くなった際に返り血を浴びて散らばっていたらしい。それから仮面が渡った持ち主は悲惨な最後を迎えるとのこと。
(呪いの人形みてぇだな)
コナンがそんなことを思っていると小五郎が口を開いた。
「普通の人間の悪意の方が恐ろしいかもしれませんよ」
「あら、どういうことですの?」
スっと小五郎が胸元から一枚の紙を取り出す。
「実は、ここに来る途中の道が木で塞がれていてコレが貼り付けてあったんです」
小五郎がその紙を見せると、紙には、新聞や雑誌の文字を切り抜いた形で、とある文章が書いてあった。
「すおうべにこのチャリティーに協力するな 後悔するゾ 呪いの仮面の使者?何なんですか、これ。気味が悪い」
蘇芳がその文章を読み上げると、片桐があっ!と声を上げ、胸元から同じ手紙を取りだした。
「毛利さん、私も同じような手紙を三日前に受け取りました」
「お、俺のところにも来ましたよ」
「私もです」
「な、なんですってぇ!」
松平と長良も同調するように、手紙を取り出した。
(ただのイタズラじゃ無さそうだな…)
小五郎を合わせて四人に同じ手紙が届いているのであれば、その手紙は何かしら意味を持っているはずだ。
「千代子さんは?来てないの?」
招かれた客の中でただ一人、手紙を取り出さない千代子にコナンが尋ねる。
「…私も来てたけどイタズラだと思って捨てちゃったな…」
「それって…」
本当?と聞こうとするが、その声は背後からした男の声に遮られた。
「事務所にも妙な手紙が来てたぜ」
そこには人気ロックシンガー藍川冬矢が立っていた。そんな藍川を待ちくたびれたように蘇芳が駆け寄る。
「冬矢…!遅かったわね」
「全国ツアーの真っ最中なんだ。ちょっとの遅刻は勘弁してくれよ?」
その後、藍川が持ってきた手紙に書かれた「今宵、呪いの仮面が生き血をすする 呪いの仮面の死者」という文面の通り殺人事件が起きることとなる。蘇芳が密室でナイフを刺されて亡くなったのだ。その周りには言い伝えのように仮面がバラバラに落ちていた。
各々の事情聴取を終えた後、他殺であることは確実であるのに密室で起こったその事件のトリックを未だコナンは解けずにいた。
● ● ●
まーたコナンくんに遭遇してしまうとは。遭遇した時から絶対に事件が起こると思っていたがまさかお世話になっていた蘇芳さんが殺されてしまうとは。つくづくコナンくんは死神だなぁと思う。…ていうか流れに同調して怪しい手紙が届いたって言ったけど私のところに手紙届いてないし。届いてたらこんなところ来てなかったんだけどな。おい犯人、私を忘れるんじゃない。
それはそうとこの事件、凄く覚えがある。トリックが現実では不可能だと突っ込まれた回だ。だとしたらトリックは分かった。コナンくんもトリックについてすぐ分かったはずだ。
――なのに。
「何でさっさと謎を解かないの?」
壁にもたれて、小さな体を少し前に傾け、眉を寄せて真剣な表情で考えるコナンくんにそう問いた。
「千代子さん…」
「君はもう分かっているはず」
「千代子さんは僕を買いかぶりすぎだよ」
何で?何で話の展開が違うの?私がもしかして何らかのヒントを潰した?思い出せ、私。原作で何があったのか。蘇芳さんが殺されて、警察が来て、なんか色々情報明かされて、その後皆事情聴取されて…
――ネックレスだ。
原作では事情聴取の最中、秘書の稲葉さんがタロット占い師の長良さんに掴みかかってネックレスがちぎれるシーンがある。そして、そのちぎれてバラバラになったネックレスのビーズ達がヒントになり、コナンくんが謎を解くんだ。でも今回はそれが起こる前に私が二人を仲裁してしまった。その出来事を起こさなかったから、コナンくんは未だ真実にたどり着けてない。
しくった。どうする?殺人犯と長く一緒にいたくないので、コナンくんにはさっさと事件を解決してもらいたい。それとなーくコナンくんにヒントを与えて、閃いて貰ってそのまま原作の流れで犯人逮捕、が理想だ。よし、じゃあ、それとなーくヒント与えるか。
「ねぇ、コナンくん」
「何?千代子さん」
「あの時した大きな音。何かが弾ける音に似てなかった?」
…直球的になってしまったが、まぁいい。これでコナンくんが閃いてくれれば。
せっかくヒントを与えたのに、まだ足りなかったようで、コナンくんはうーんと考え込んでしまっている。…まぁ、とんでもトリックだからすぐに思いつかないのは仕方ない、のか?とりあえずもっとヒントを与えるか。
「あの時小さく何かを切る音がしてその後弾けるようなそんな音がしたと思うんだけど」
私の言葉にコナンくんがハッと顔を上げる。そしてなにかを決断したかのように私を見て口を開いた。
「千代子さん」
「何?」
「僕、麻酔銃忘れて来ちゃったみたいでさ。僕の代わりに事件を解決してくれない?」
「…え」
なんで突然こんなこと言い出すんだ。嘘か本当かは知らないが、忘れてくるか、普通。私を試そうとしてる?何故?私に推理ショーさせて何がしたい?
「…でも、別に私が矢面に立たなくても君なら皆を上手く誘導して事件を解決することぐらい出来るんじゃない?」
「出来ないよ、そんな事」
嘘つけ。原作で沢山やってただろう。
でもこれ以上事件を長引かせていい事はない。第二の被害者が出るような事件ではないが、コナンくんという死亡フラグとあまり近くに居たくは無い。…仕方ないか。
「何を考えてるか知らないが――いいよ、君の企みに乗ってあげよう」
● ● ●
「――ねえ」
無事に事件が解決し、帰ろうと屋敷を出る千代子さんを追いかける。屋敷の外に出たところで引き止めるかのようにコナンは千代子に話しかけた。
「千代子さんって、僕たちと同じ、探偵、だよね」
「…っ」
千代子さんが息を飲む音が聞こえた。
ずっと考えてた。千代子さんが何者なのか。敵なのか味方なのか。服部に聞いた情報と、爆弾の事件、そして今日の事件で確信した。千代子さんは、探偵だ。そして――
「そして、ものすごく耳がいい、よね」
「…よくわかったね」
嬉しそうに千代子さんが微笑む。どうやら正解らしい。
「最初にあれ?と思ったのはデパートの爆弾事件の時。いくら爆弾の画面が点滅していたとしてもあんな小さな光に気が付くわけがない。目がいいのかなと思ったけど、それだったらゲームセンターの植木鉢の土の中の爆弾に気が付くわけが無い。完全に埋まっていて光が見える筈がないから」
もしくは、全部自作自演で、最初は千代子さんが犯人だと思った。けど、それなら何故自分で仕掛けて自分で見つけるのか、狙いが分からなかった。
「松田刑事が爆弾を解体してる途中に気がついたんだけど、あの爆弾から小さな、本当に小さな電子音がしてた。千代子さんにはその音が埋まっている状況でも聞こえてたんだよね?だから爆弾を二つとも見つけることが出来た」
松田刑事が解体している最中、気付いた音を俺自身聞いてみたが、近くにいたら聞こえる程度で埋まっている状況では絶対に聞こえなかった。でも、自作自演でないのに爆弾に気付いたことに理由があるとするのならばそれしかないと思った。
「耳がいいと思った理由は、それだけ?」
千代子さんは相手の反応を見計らうように、わずかに目を細めて口角を上げた。その声音には、探るような響きが混じっている。
「そう思ってたところに今回の事件。最初は僕より先に事件のトリックを見破って凄いと思った。けど、それは僕には無い情報を千代子さんが持ってたから。それは、――音だ。千代子さんは犯人がハサミで糸を切ったときの音が聞こえたんだよね。だからトリックが分かった」
最初は、俺にヒントを与える為だけに何かを切る音がしたと言ったのだと思った。でも、今までの情報から彼女の耳が良いとすれば全ての納得がいく。俺の正体をなぜ知っているのかさえも、だ。
「ふむ、それで私を探偵と思った理由は?」
千代子さんは興味深そうに目を細めて微笑みながら続きを促す。
「越水七槻」
「…っ」
千代子さんがその名に反応する。
「彼女はとある事件の犯人で探偵甲子園と称して探偵を集めたことがある。その時にあなたも呼ぼうと思っていたらしい」
「――」
千代子さんの息を飲む音が聞こえた。
「それは貴方が探偵だから、そうでしょう?」
あの事件で越水七槻は親友を死に追いやった探偵を探す為に様々な探偵を呼んでいた。千代子さんを呼ぼうとしたということはそういうことなんだろう。何故除外したのか、そこまでは分からなかったが、あの反応を見る分には越水七槻と千代子さんは知り合いなのだろう。だから、その探偵が千代子さんであるはずが無いと除外した。
「それに今日の千代子さんは初めて謎を解いて犯行を暴いたと思えないぐらい、ちゃんとした探偵だった」
「…」
千代子さんは何も答えない。
薄々気が付いていた正体を確実にするため、あえて千代子さんに謎を解かせた。結果は今彼女を探偵と断定するのに十分だった。刑事にトリックに必要なものを用意させ、実践し、そしてそのトリックを実際に行い被害者を殺した犯人をカマをかけて、道筋立てて暴く。
一度やったことがなければ、出来ないであろうその役を彼女は全うして見せた。
「貴方が探偵で、尚且つ耳が良いとすれば、全部納得が行く。貴方は以前船のパーティに来ていた。多分探偵として何かを調査してたんじゃないかな。そこで俺と服部の会話を聞いてしまった。貴方の耳ならどんなに小声で喋っていても聞き取れる」
そう、彼女は耳がいい。部屋から遠く離れたハサミが動く音を聞けるほど。それであればどれだけ遠く離れた音を聞けても何ら不思議なことでは無い。
――だから、
「服部が俺の事を工藤って呼んでるのを聞いちまったんだろ?そして確信した。俺が工藤新一だって」
俺が工藤新一だと漏れるとしたらそこしかない。
「俺に知ってるって明かしたのもただのからかいか、もしくは警告のつもりだったんでしょう?どこで誰が聞いてるか分からないからもう少し控えろって。思えば貴方は俺を害そうとしたことは無かった」
そうだ。彼女は敵じゃない。彼女はただ俺に忠告していただけだった。俺の身を案じるだけのただの同業者だったんだ。
「…」
「もう言い逃れは出来ないぜ、岩舩千代子」
● ● ●
コナンくんがとんでもない誤解をしている件について。
私探偵じゃないけどな!!!!!!
いや、確かに今世、人より聴力がいい自覚はある。それを生かした仕事についたこともある。でも爆弾から小さな音がしてた?そんなの聞こえなかったわ!!!
一つ目の爆弾はコナンくんに伝えた通り、視界の端で光がチラついたような気がして見たら見つけただけだし、二つ目の爆弾に至ってはヒントなしで本当に勘で見つけた。いや、コナンの爆弾って何かの中にある事多いよな〜って考えた結果だから、コナンの知識がヒントになるのかな。
越水七槻さんの件も誤解〜!!彼女、私が探偵だから呼び出そうとした訳じゃない。彼女の犯行動機は、友人のメイドがお嬢様を殺したととある探偵に冤罪を吹っかけられたから。そして実は自殺だったお嬢様と私が知り合いだったから呼び出そうとしたんだと思う。
多分私がお嬢様の死の真相を知ってるのに、彼女の友達が殺したんじゃないって分かってるのに黙ってると思ったんだろうな…。私がお嬢様が自殺だって言えば彼女の親友は死なずに済んだから。だから殺すために呼ぼうとした。
実際は、本当にお嬢様は他殺だと思ってたし、殺された探偵が解いたの人づてに聞いてそうなんだ〜としか思ってなかった。そもそも私がお嬢様と知り合いなのって彼女のお父さんが私のクライアントなだけだし、そこまで深い関係じゃない。お嬢様が自殺未遂繰り返してるなんて知らなかったよ。
てか、パーティーの件って何。色んなパーティーで事件に巻き込まれてるから本当に分からない。色んな人にアリバイとか違和感聞かれたりしてるし…。前世を思い出す前に、コナンくんや服部くんに出会った記憶が無い。知らないうちに会ってたのかな。前世を思い出す前にコナンくんや服部くんいても分からないや…。
ていうか、コナンくんって安室さんと情報交換したりしてないのかな。私が安室さんの正体も知ってて釘刺した件聞いてたら多分その推理には至らないと思うんだけど…。
めちゃくちゃ誤解だけど、その通りに振舞った方がいい気がした。だって、これ以上疑われて、私が三郎や陣さんと繋がってるのバレたら困るし、それで匿っていたと思われて捕まる可能性もある。もうそろそろ怪しい人物をやめてもいいのかもしれない。十分準レギュラーキャラになったと思うし、ここいらで怪しい人物ムーブをやめても死ぬことはないだろうし。
「…バレちゃったか、うん。その通りだよ、名探偵」
「!」
コナンくんが安心したかのように胸を撫で下ろす。
「君があまりにも不用心だから驚かせてやろうと思ったんだ」
「それならそうと…」
コナンくんが口を開いた時だった。
背後から声が聞こえた。
「テメェが…テメェのせいで!!」
警察に捕まったはずの犯人が隠し持っていたナイフを取り出しこちらへと走ってきた。
避けようと左にずれた。咄嗟の事だったので右足の動きが少し遅れる。そこにそのままの勢いで突っ込んできた犯人が遅れた右足に躓き、転んだ。犯人の手から離れたナイフが右足にぶつかる。その衝撃でナイフの刃が床のタイルの隙間に挟まり、倒れてきた犯人の喉元に、ナイフの持ち手がグッと刺さった。刃の方ではないから出血はしていないが、衝撃で気絶した。その光景に一瞬ぼうっと立ち尽くしていた警察官達だが、すぐさま気を取り直し、犯人を確保した。
目の前で気絶したまま手錠をかけられている犯人を見ながら、私の心臓はバクバクと音を立てていた。私は、今、殺されかけたのだ。明確に、殺意を持って。
この事件で、この犯人が今回殺された蘇芳さん以外を襲ったり、ましてや警察を振り切って誰かを殺そうとした出来事なんて無いはずだ。なのに、私は今、狙われた。
以前、コナンくんと出会った事件で犯人だった会社の同僚に面会しに行ったことがある。その時に言われたのだ。――本当は貴方も殺そうと思っていた、と。コナン君や蘭ちゃんがいつも傍にいたせいで狙えなかったらしい。動機を聞いたら、私の些細な言動で私が彼女を陥れようとしていると勘違いしたらしい。捕まった後、彼女は冷静に考えたら誤解だったと気付いたと、殺そうとしていたことを謝罪してくれたのだが、正直その謝罪は耳に入ってこなかった。
だって、私があの時、コナンくんを工藤新一だと言い当てられなければ、コナンくんは付きっきりで私の傍にいなかっただろう。蘭ちゃんは傍にいてくれていたかもしれないが、それでも絶対に離れる一瞬があったはずだ。そして、その一瞬で私は殺されていただろう。想像してゾッとした。
そして、今。私はまた殺されかけた。コナンくんの私への疑いが晴れた、その瞬間に。振り返れば、コナンくんに疑われる前より疑われた後の方が事件や事故に遭う確率が減った気がする。疑われる前は一週間に一回は小さいものから大きいものまで様々な事件や事故に遭遇した。でもコナンくんに疑われてからは、コナンくんといる時しか事件に遭遇しない。
そして確信する。
――世界は私を殺しにきてる。
普通の人間に戻っては駄目なのだ。あくまで怪しい人物を演じ続けなければ。そうでなければ私はこの世界では直ぐに死ぬだろう。モブが死にやすいだけなのか、私が原作にいない異分子だからかは分からない。分からないけど、生きるためには、演じなければならない。
「――そうとでも言って欲しかったのかい?」
犯人を気にもとめず、態度の変わった私に、コナンくんの目が開かれる。それで、良い。私を見ろ。目を逸らすな。そして、私をこの物語の中に存在させ続けろ。
ひやりとこめかみから汗が伝う。心臓は未だバクバクと音を立てて五月蝿い。ナイフがぶつかった時に切れたのか、足がジンジンと熱かった。――それでも、平常を装って見せる。そうして、得体の知れない奴だと思わせてみせる。そうしないと私は世界に殺されるから。
「残念ながら君の推理で当たっているのなんて、私の耳がいいこと。それだけ。何故私が君の正体を暴くのか。私が一体何者なのか。君はまだ解き明かしちゃいない。――私を暴き続けろ、工藤新一。その先に、きっと真実がある」
私を疑い続けろ。疑い続けて、そしていつか、この物語を終わらせて欲しい。私が陣さんと三郎を差し出せば終わるだろうけど、それはできない。三郎とは約束があるし、差し出したところで繋がりから何か邪推させるだろう。それに――。それに、二人を差し出したせいで私の役目が終わって世界が私を殺しに来ても困る。
だから私は何も言わない。何も明かさない。私の知る原作知識を用いて貴方を翻弄し続ける。そして私の預かり知らないところで物語が終わったその時に私の全てを明かすんだ。
「ああ、必ず暴いてやる。――岩舩千代子、てめえの全てを」
――ああ、その言葉が欲しかった。
コナンの、工藤新一の言葉に私は静かに微笑んだ。
● ● ●
住宅街の外れ、街灯の明かりもまばらになり始めるあたりに、ぽつんと建つ一軒家がある。周囲の家々から少し離れ、まるで取り残されたように静まり返ったその家に、一人の女が帰ってきた。
肩までの髪は風に揺れるたびに少し乱れ、疲れの残る顔にかかる。特別美しいわけでも、醜いわけでもない――どこにでもいる、ごく普通の容姿。
彼女がインターフォンのボタンを押すと、中から足音が近づく気配がして、やがて扉がギィと音を立てて開いた。
現れたのは、大柄な男。
「おけぇり」
「ただいま――三郎」
彼女はふっと微笑み、肩の力を抜いた。
大柄な男――三郎がわずかに口角を上げ、扉の取っ手を引く。二人が中へ入ると、外の静寂を断ち切るように、バタン、と扉が閉められた。
これで怪しいブーム続けなきゃ行けなくなったね^^
今回の話は、第5シーズン 184話「呪いの仮面は冷たく笑う」から。
スレ間に合えば今週中間に合わなければちょっと開きます。スレ回が終わった後はオリジナル劇場版回(関西万博編)です。ずっと書きたかったので書くの楽しみ。スレ回は年内ですが、劇場版回は来年以降になりますので気長にお待ちください。