コナン君に怪しまれれば死なずに済むと思ったけどワンチャン捕まる可能性出てきた 作:Splite
⠀ 山荘での事件から一週間が経った頃、コナンは阿笠博士、灰原哀、そして歩美、元太、光彦と共にキャンプに来ていた。
博士が歩美たちと共にテントを立てている間、灰原と共にキャンプ地周辺で火をつける為の枝を探すこととなったコナンは、粛々と枝を集める灰原に話しかける。
「なぁ、灰原」
「何?」
怪訝な顔でコナンを見る灰原。そんな灰原を気にもせずコナンは言葉を続ける。
「二〜三十代ぐらいの長い黒髪の女の人って組織にいたか?」
その言葉に灰原は思わず息を飲み込む。その言葉で灰原の脳裏に浮かんだのは組織時代に自分を気にかけてくれた初老の艶やかな長い黒髪の女性だった。ただ、彼女は間違えても二三十代には見えない。他にコナンの言う条件に当てはまる女性は居なかったか思い浮かべる。
「よく居る容姿だから何人かはいた気はするけど…」
「じゃあ岩舩千代子って名前に聞き覚えはねぇか?」
「無いわ。…って何?貴方また危険なことしてるんじゃないでしょうね?」
灰原は眉を顰める。この男は目を離すとすぐ何かに巻き込まれるのだ。いや、巻き込まれに行ってる、が正しいか。
そんな灰原の言葉にコナンは少し間を置いた後確信した様子で答える。
「多分、大丈夫だと思う」
あの山荘の事件から一週間は経ったが未だコナンの情報が漏れた様子は無い。どうやら敵では無いというあの女の言葉は本当だったようだ。
あれから、組織の一員である可能性も考慮し、安室透にその名と容姿を伝えたところ、その容姿の構成員は何人かいるものの、その名前に聞き覚えは無いという。念の為ベルモットの変装の可能性は無いのか尋ねたが、その日、ベルモットはバーボンと共に任務をしていたらしく、その線は無いらしい。赤井秀一にも同じ質問をしたが全く同じ答えが返ってきた。そして今質問した灰原も。
黒髪長髪の女性なんてここは日本なのだから沢山いるのだが、岩舩千代子にはあまりにも特徴が無さすぎてそう尋ねるしか無かった。写真の一枚でも取っていたなら別だったのだろうが、あの日コナンは事件を解くのに必死でそこまで頭が回らなかった。
また、コナン自身、岩舩千代子について自力で調べたが特に新しい発見は無かった。会社の社員旅行で来ていたという彼女の唯一の手がかりとしてその会社に直接行ってみたりもしたのだが、会うことは出来なかった。
今の所、岩舩千代子についての手がかりはゼロである。組織に何人か居るという黒髪の女性も岩舩千代子という名前に誰も聞き覚えがない時点でおそらく人違いだろう。
はぁー、と思わずため息が出るコナンに灰原が不機嫌な様子で話しかける。
「なんでもいいけど、枝集め終えたから戻るわよ」
「へいへい」
コナンは適当な相槌を打つと、灰原と共に博士達が待つキャンプ地へと戻って行った。
ちなみにその夜、キャンプに来ていた他の客が殺される事件が起こり、コナンが阿笠博士を通じて事件を解決したのは言うまでもない。
● ● ●
⠀一方その頃、安室透は喫茶ポアロでのバイトに励んでいた。同じバイト仲間の榎本梓は友人と出かける用事があるようで安室は一人でお店を回していた。ランチの忙しい時間も過ぎ、少し一息が付けると思ったその時、カラランと店の扉に取り付けておいた鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ〜」
言いながら店の扉の方に顔を向けると、そこに居たのは二名の女性客だった。そして、その内の一名には見覚えがあった。
――岩舩千代子。
コナンくんにその名前を尋ねられ、何かあるのかと思い調べたが結果は白。至って普通の会社員で、特に何か怪しいところがある訳では無かった。唯一何かあるとするならば、彼女は幼少期にネグレクトを受けていたという事だろうか。それも小学校の高学年に上がる頃には近所の住人の通報により明らかになり、保護され、親戚の家に引き取られている。その時に彼女の母親は逮捕され、今は出所しているとの事。その彼女の母親の近頃の動向も調べたが、特に怪しいところはない。そもそも彼女は母親が逮捕されてから一度も会ったことは無いらしい。
部下が調べた彼女の調査結果を振り返りながら、席に案内する。
「私Aセットで」
「じゃあ私も同じので」
注文を受け、キッチンで調理をしていると彼女達の会話が聞こえてきた。
「千代子さんって今は幼馴染と住んでるんでしたっけ?」
「別に同居してる訳じゃないよ。高頻度で押しかけてくるから合鍵渡してるだけ」
「きゃー。半同棲ですね!」
「あいつとはそう言うんじゃないって」
ーー半同居している幼馴染?調査報告にはそんな記載はなかったが…。
疑問を感じていたその時、プルルルと電話の音が鳴った。どうやら彼女の後輩の電話の音らしかった。彼女に断りを入れ、電話に出た後輩は表情を変えながら、やがて気を落として電話を切った。そして、顔の前で手のひらを合わせ謝る。
「すみません、千代子さん。会社からの呼び出しで急に行かなきゃ行けなくなっちゃって…」
「お金払っとくから行っといで」
「ほんとごめんなさい、千代子さん。今度奢ります」
そう言って彼女の後輩は店から出ていく。
これは彼女の事を探るチャンスだ、とキッチンを出て彼女に近づく。
「Aセット、おひとつ注文キャンセルした方が良いですか?千代子さん」
「そうして下さると有難いですけど、えーっと何で名前…」
「さっき貴方の後輩が名前を呼んでるのを聞いてましたから」
彼女は「後輩?」とキョトンとすると閃いたように「ああ」と言葉を紡ぐ。
「彼女は後輩じゃなくて年下の友人なんです」
「そうだったんですね。失礼しました」
「ところでなんですけど」
「なんですか?」
「2+6-8+0って答え何ですかね?」
突拍子の無い彼女の質問に安室は思わず固まる。小学生でも解ける簡単な問題だと言うのにまさか彼女は解けないのだろうか。
「何の計算ですか?答えはゼロだと思いますが…」
「そうですね。そして、私はそれを知っています」
「…ほぉー」
彼女、いやこの女はわざわざ答えがゼロの問題を出し、そしてそれを知っていると言った。即ち、僕がゼロだと、公安所属だと知っている、と。
「何処で知ったのかお聞きしても?」
「秘密、です」
この女の調査では何一つ怪しいところは無かった筈だ。なのに何故僕が公安だと知っているのだろうか。ーーこの女は一体何なのだ。
「じゃあ、何故それを僕に?」
「…取引のようなものですかね」
取引という言葉に思わず身体が固まる。そんな僕を一瞥もせず女は口を開く。
「黙っている代わりに、私に関わらないで欲しいんです」
安室透、否降谷零は思わず息を飲んだ。関わらない、とは恐らく自分について調べるな、ということだろう。どこから知ったかは分からないが、恐らく彼女は自分が調べられていることに気づいているのだ。
動揺を見せないように降谷零は岩舩千代子に尋ねる。
「貴方が黙っている保証は?」
「私が今までブルボンを叩き割らなかったことですかね」
――ブルボン。バーボンのフランス語だ。そして叩き割らなかった。叩く。つまりはノック。スパイの意味だ。そしてそれを割らなかった。口を割らなかった。つまりは、今までにバーボンがスパイだと喋らなかった、ということか。
この女は僕が公安所属であること、黒の組織でバーボンとして潜入している事を知っている。僕がバーボンである事は組織の一員であれば知っているかもしれないが、この女は僕が公安所属であることまで知っている。それを知るのは警察内部の一部の人間のみだと言うのに。
「貴方一体何者なんですか?」
「一般人ですよ、ただの」
ただの一般人がこれほどの秘密を知っているわけがない。確実にこの女には何かある。降谷は確信した。
「それで返答は?」
「良いでしょう。僕は貴方に関わりません」
自分の弱みを全て握られている以上今はこう答えるしかない。下手に此処で断って、組織にバーボンがノックであると知れ渡れば最悪だ。
岩舩千代子はその言葉に満足したかのように口角をすっとあげると次の瞬間には何事も無かったかのように普通に食事を再開し、その後普通に会計をして店を去っていった。岩舩千代子が完全に姿を消したのを見届けて、降谷零は電話をかける。
「僕だ。至急岩舩千代子について追加の調査をして欲しい。無論、細心の注意をはらってな」
● ● ●
――安室透に遭遇した。いや、遭遇したと言うより自ら進んで会いに行ったというか会わざるを得なかったというか…。
まさか、とある事件で出会った年下の友人にお茶に誘われた先が安室透の働くポアロだとは夢にも思うまい。いや、お茶の場所を聞かなかった私も悪いのだが、まさか、よりにも寄って原作キャラのいるところだとは思わなかった。
ぶっちゃけ何も無ければ一客と店員としてしか安室透に関わるつもりは無かったのだが、友人が会社に呼び出されて去ったすぐその後に声をかけてくるものだから、「あ、なにか探られているな」と気づいてしまった。
コナンくんから何か聞いて動いている可能性があったし、もしそれで私と三郎の繋がりに気づいて私を捕まえようとしていたら敵わないので、先手は打たせてもらった。お前の正体を知っている、そして正体を公言しない代わりに、私に関わらない。つまり私を捕まえずに放っておく、と。
安室さん相手にやりすぎた気もするが、これでともかく捕まえられずにはすむ。
――出来ればもう原作キャラには会いたくないなぁ
そう思うことがフラグだという事にその時の私は気づいていなかった。