【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第110話 アイを捨て、アイを誇る

(どこで間違えたんだろうなー……)

 

男は、ずっとそんな事ばかり考えていた。心が折れてしまったその日から、彼の視界はモヤがかかっているかの様に色褪せていた。

だからだろう。とあるダンジョンアタッカー達のパーティが、わざわざ彼に聞こえるように伽藍堂の悪口で盛り上がっていたその時。彼は殆ど八つ当たりのつもりで、全員を半殺し以上に痛め付けてしまった。

 

『ごめん』

 

そして、それがDAGによって仕組まれた策だったと気付いた時、自分は()()()()()()()()()()()()と、友人の前で崩れそうになる身体を必死で支えていた。

 

(何でオメーが謝る必要があんだよ、ユウ。ワリーのは間違えてた俺の方だろ)

 

『はぁ……分かったよ。君がそう言うなら、仕方ないね』

 

『……ほーん、オメーもそんな顔すんのかー』

 

振り返り、伽藍堂を見る。彼は何故か、自分でも分かる程歪な笑みを浮かべていた。

 

まるで、自分の様に。

 

 

 

 

ダンジョンで、モンスターに紛れて誰かに襲撃された。下卑た笑みを浮かべ、明らかに自分を殺そうとしていた二人組だった。

 

『うはー。マジで武術の昇華ばっかしてんじゃん、ウケる』

 

『ハハハハ!!やっば!』

 

『……殺そーとしてきたり、人のスキルカード奪っておいてよー。何だオメーら』

 

『あー?ハイハイ、()()()()()()()()()()ってことだよ』

 

『………あ”?』

 

『上は伽藍堂結城のご機嫌取りに必死なのに、全然尻尾見せねえしよ、折角オトモダチをけしかけたのに何もしねえでやんの。だからさ、お前もう要らないわけ』

 

『…………』

 

『ま、武術みてえな()()()()()をいくら昇華したって無駄なレベルアップってこったな。じゃ、クソみてえな努力お疲れチャンっ』

 

 

 

 

 

『う、ウソだろ……一号と三号がやられた……!?バケモンかよ』

 

気付けば、彼等の首から上は吹き飛び、その場にへたり込んでいた。もう起き上がる気力も無いままに、新たな刺客に殺気をぶつける。

 

『……了解。おいバケモン。今さっきお前の死亡が報告された。牙を二人同時に殺せるその力を()()()で活かせ、ってのが上の指示だ。()()()に勧誘されるっつうことは、お前も社会の嫌われモンだろ?どうせお前にはもう居場所は無い。生きたいなら、上の指示に従いな』

 

(………力、力、力。ここでも結局それか。自分で選んだ道が間違いなら、ソッチのが正解なのかもな)

 

『……グヒ』

 

最早笑い方すら忘れ、男は自分を嘲る様に口角を上げた。

 

『良いよー』

 

(どうでも)

 

 

 

 

初めて、自分の意志で人を殺してしまった。

 

『ォエエ”ッッ……!!』

 

胃の中に入っていた物を全てぶち撒け、尚止まらない吐き気に(うずくま)る。

 

(分かってる。相手は国の重要機密を持って国外に亡命しようとしていた悪人だろ。資料で確認した。けど、それは……)

 

己が相手を殺して良い理由にはならない。

国からすれば悪人だったとしても、彼にだって親がいた。兄妹がいた。恋人がいた。

それを、自分が、全て、踏み躙った。

堪えきれず、胃液を吐き出した。

 

(ごめんなさい。悪かった。俺が間違ってた。許してくれ。もうやめてくれ。こんなの間違ってる。分かってる筈なのに……)

 

何でこんな道にいる?答えの出ない自問に、彼は更に深く堕ちていく。

 

食べ物の味がしなくなった。極偶に、酸っぱい味が混入するようになった。

眠るのが怖くなった。人を殺した日の悪夢を何度も見そうだから。

鏡を見れなくなった。そこには誰かの顔があって、その顔はいつも生気のない土気色だった。

 

(お願いだ。頼む。誰でも良い。俺を……俺を殺してくれ)

 

いつしかそんな事を思う様になった。相手の前に姿を晒し、正体を伝え、なけなしのアドバイスを送る。

しかし、彼は殺されるにはあまりにも()()()()()()()()()

 

そして今日も、彼はいつもの如く殺してくれる相手を求めて仕事をする--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで武術を愛せる人が、悪人わけないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--筈だった。

 

「……………………………………………は?」

 

顔を上げる。そこには……。

 

「何でアンタがこんな事をしてるのかは聞かない。アンタの命もいらない。代わりに、俺が勝ったらその武術を教えてくれよ」

 

綺麗な宝を見つけた子供の様な表情を浮かべた青年がいた。

そして、彼は男に向かってくる。怒りでも殺意でもなく、男の武に対する信頼を持って攻撃をしてくる。

 

(やめろ……)

 

その姿は、無邪気に成長を喜んでいたかつての己を見ているようで、酷く男の心をざわつかせた。

 

(やめてくれ……それは、その道は……!)

 

「隙ありぃ!!」

 

心が揺らいだ瞬間、腹部を中心に凄まじい衝撃が走る。咄嗟に受け流すが、それを以ってして尚有り余る一撃に意識が弾き飛ばされる。

 

朦朧とする意識の中に見たのは……。

 

「…()()()()()()……そこは、間違った道だ……」

 

「……は?」

 

「もう散々『否定』されただろーが……!何でまた同じ轍を踏もうとしてやがんだ!」

 

過去の自分(青年)が眉をひそめる。苦しみを吐き出す様に、男は続ける。

 

「武術なんて、社会に出ちまえば何の価値も無い!ずっと、ずっと言われてきたろーが!」

 

吐き出せば吐き出す程に、胸の内が重くなる。死に行く心が腐っていく。()()()()()()()()()()()()己を、自分で『否定』してしまう。

それでも、吐き出すのを止められなかった。

 

「オメーは知らねーだけだ!世界を知る度に、自分の選んできた道が無意味だったと知る恐怖!自分の選択が間違っていたと突き付けられる苦しみ!価値を剥ぎ取られる絶望を!!例え愛があったところで、その道が間違ってりゃ何の意味もねーんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、やっぱり好きなんじゃねえか。武術が」

 

「は……?」

 

頭を殴られるような衝撃。景色が明瞭になっていき、モヤがかかっていた視界が広がる。

そこには黄昏の夕陽よりも眩い、オレンジの後光を纏った青年がいた。彼は穏やかに、しかし力強い眼差しで男を射抜く。

 

「アンタ、やっぱり凄えよ。『武術』っていう自分の道を定めて、ずっと歩き続けてきたんだな……けど、道にあるのは正解とか間違いだけじゃないだろ」

 

「何を……!」

 

「俺は!父さんと母さんと一緒にいたいと思える未来が愛しくて、()()()()()()()()()進んできたんだ。その道に後悔はしていない!!」

 

好きだから。その言葉が、ズグンと心臓に突き刺さる。

 

「俺が好きで走ってきたこの道を!俺が後悔してない道を、他の誰かが価値とか間違いだとか口を挟んでくんじゃねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は命が尽きるその時まで、『俺』でいる!!!」

 

彼のオーラが更に激しく、さながら太陽の如く男を照らす。

その輝きは、その心は、遠い幼き日に少年が求めた『強さ』の証だった。

 

「オオオオオオオッッ!!」

 

何の変哲も無い右ストレート。

それを取り、反対へ投げる。

 

--アンタもそうだろ?

 

(……分かんねー)

 

「はっ!!」

 

「シッ……!」

 

足から着地し、日本刀による刺突が飛んでくる。

その峰を刀で打ち下ろすと同時に切り上げ。

 

--じゃあ、後悔してる?

 

(する訳ねーだろ)

 

「くっ……!」

 

--何で?

 

(何でって……)

 

「よっ、とぉ!!」

 

「チッ…!」

 

--理由やメリットなんて考えなくて良いんだよ

 

(……そんなんで良いのかよ)

 

「オラァ!!」

 

「ッ……!!」

 

鍔迫り合いに持っていかれ、力のゴリ押しを避ける為に後ろに飛ぶ。足元に転がっていた十字槍を蹴り上げ、手中に収める。

 

--だって、そんなの初めから必要無いだろ?

 

 

 

 

 

 

かつて見つけた宝箱。

しかし社会の価値ばかりに目が行く大人達にとって、それはガラクタ同然で……彼も又、それを隅に追いやった。

 

(………道の選択は、正誤しか無いと思ってた)

 

けれども、そんなガラクタを熱心に見つめる子供がいた。

彼がガラクタの中から見つけたのは、メッキがボロボロに剥がれ落ちた石ころの様なモノ。

自分に差し出されたソレは、本当に、どうしようもないほどちっぽけで。

 

(………何て陳腐な)

 

どうしようもなく愛しい。

 

「………ヒハ」

 

黄金に輝く『愛』の一欠片だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

槍と刀を手にした男の雰囲気が一変する。

それに気付いた青年が、追撃を止めた。

 

「……わーった。認める、認めてやるよー。俺は………唯、武術が好きだったんだ」

 

「!はっ、やっと素直になったな」

 

「そーだなー…そんな、ガキみてーな理由で十分だったんだ。俺には」

 

(間違いは犯した。償いは必ずする。だから……)

 

今だけは、過去の自分(こうはい)恥じない(ほこれる)自分でいたい。好きな道で、後悔しない事をやりたい。

その思いが、彼の身体を突き動かす。

 

「……『気炎臨界』」

 

世界が、重くなった。

青年の魔眼が捉えたのは、マナが気へと変化していく瞬間。青と黄のグラデーションが男を包み、やがて黄色に統一される。

 

「……凄え」

 

その光景に圧倒されるも、オーロラの様な美しい光から目が離せない。

男の身体に収まり切らず、辺りの草木まで呑み込む程の膨大な気力。やがてその濃密な気は、実体を伴っているかの様に金色の光と共に男の周囲に渦を巻く。

 

「ありがとよー。オメーに教えてもらってなかったら、俺は今も死んでた」

 

深呼吸と共に、男が()()()()()。ここからが本番だという様に、武器を構え直す。

 

「……嬉しかったよ。俺じゃなくて、()()()()を褒めてくれた事が」

 

「は?いやホントの事を言っただけなんですけど……」

 

「ヒハ、素直だねー。だからこそ、これ以上オメーにガッカリされたくねーと思うんだろーなー」

 

男は顔を上げる。開けた眼は光を宿し、青年を……戸張を映す。

その口は薄く笑み、下手くそな……しかし楽しそうな笑い声を上げる。

 

「俺の武術を知りたいなら全部教えてやる。が、武術っつーのは『見て覚える』のが基本だぜー?」

 

力強く足を踏み込む。それだけの動作で、地面が揺れる。

 

「……はっ!要は勝てば良いんだろ?いつもと変わらねえな」

 

男の変化に、戸張もつられて笑う。

『極光星鎧』のオーラが一段と強く輝き、金色のオーラとの間に火花が弾ける。

 

「俺の名前は、数多洸。なークソガキ、喧嘩しよーぜー」

 

「……戸張照真だ。その喧嘩、百倍の値段で買ってやるよ」

 

己の愛を貫く為、全身全霊で応えようと生きてきた男。

存在を捨てた先で、生まれて初めての愛を認めた男。

理外の肉体を備えた怪物と、理合の技術を携えた傑物。

 

本来なら交わる事の無い、全く違う道を歩んできた両者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「俺が勝つ」」

 

放つ言葉は、同じだった。

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