【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第13話 伽藍堂叶の憂鬱

「はぁ……」

 

都心に幾つも存在する高層マンションの摩天楼。その内の一室。一人暮らしするには広過ぎる部屋の窓から見える夜景を物憂げに眺める少女がいた。

伽藍堂叶(がらんどうかなえ)。弱冠17にして、DAGが定めるランク、五つ星の更に2つ上、銀星という国への貢献度でのみ与えられるランクを持つ。自他共に認める、日本トップランカーの一人である。

湯船から上がったばかりなのか、濡れた美しい銀色の髪をそのままに、上下が合わないスウェットというあまりにズボラな姿で彼女は代わり映えのしない夜景を眺める。

暫く見つめているうち、彼女はその端正な顔を歪める。

 

「……暇だ…」

 

いつもと変わらぬ位置から見える夜景に、思わず呟きが洩れてしまった。

別に本当に暇ではない。唯、彼女の興味が引かれるモノが一切無いのだ。仕事も、人付き合いも、勉強も、数があってもつまらなければ興味が無い。興味が無ければ、やはりそれは『暇』と言えてしまう程、彼女は自身の日常に辟易していた。

それは、必要最低限な家具しか置かれていない、生活感が希薄な部屋によく表れていた。

 

「ん……パパから…?」

 

スマホが振動し、慣れ親しんだ相手の名前が表示される。

 

「もしもし……うん…分かってる。でも無意味なやり方を教えたって仕方ないだろう?」

 

またか、と彼女はウンザリする。

彼女と彼女の父親は持っている役柄上、逃れられない関係というものが存在する。その一つが『これ』である。今回は「お願い」という形であるだけ、まだマシだが。

 

「私は、私が教えたいと思った人間しか教えない。私のやり方はどうしたって、万人受けするものでは無いからね」

 

それだけ言って電話を切る。

 

「銀星だからと言って、何故私が他のダンジョンアタッカーの指導などしなければいけないんだ。寧ろ、私がそのやり方を教えて欲しいね」

 

無論、それも意味を為さないのだけれど。彼女は自嘲する。

傲慢、しかし厳然たる事実。ダンジョンアタッカーとは、死と隣り合わせの職業である。故に必要なのは武器やスキルの有無では無く、不断の努力と生き残るという固い意志、そして……絶対的な才能である。

彼女はそれを理解している。だからこそ、余計に面倒臭い。

 

「ダンジョンアタッカーとは、総じてプライドが高い連中。見た目、年齢、性別……貶され、謗られ、話半分で聞く輩しか現れないのが想像出来ないのかな?こんな可憐な乙女に命のやり取りを教わりたい酔狂な大人がいるものかね」

 

髪が乾くのを待たず、彼女はPCを立ち上げる。

父親に啖呵を切った手前、自分が教えたいと思える様な人間を自分で見繕わねばならない。でなければ、強制的に場を整えられる事は目に見えているからだ。

 

「ムーブで配信しているダンジョンアタッカーが多いな……なるほど、ダンジョンの様子をこの様に映すのはありかもしれない」

 

DAGから与えられた銀星としての特権を使い、新人から中堅のダンジョンアタッカーのリストと活動記録を確認する。すると、中堅層の者達は半数以上でムーブという動画サイトで自身がダンジョンアタックしている事に気付いた。

 

だが、少し考えてみればそこまで不思議なものではない。国家資格と言われているが、ダンジョンアタッカーの仕事はハッキリ言ってしまうと歩合制。それにパーティメンバーとの折半、治療費、武器の整備、生活費etc……ダンジョンをどれだけ潜ろうと、素材ガチャで換金率の低い素材しか出なかった場合などは、其れ等にかかる金が払えないなんて事もザラにある世界だ。

 

「そう考えると、ムーブでの配信はダンジョンアタッカーにとっては安全に稼ぐ手段且つ、副業として取り付きやすい部類と言えるか。元より人は自己承認欲求の強い生き物……己の強さを周りに誇示したい欲求の発散の場としては最適と言えるだろう。DAGとしても、ムーブでダンジョンアタッカーが目立つ様な活動をしてくれれば、新たな人材募集に拍車がかかるだろうしね」

 

勿論、ムーブ配信者として成功すれば、だが。

実際にムーブを見れば、殆どのダンジョンアタッカーの再生数は500〜600程度。ネットという、全世界と繋がる事の出来る広大な海の中で、この数字は低いと言って良いだろう。

そしてそのどれもが、パーティでダンジョンに挑み、敵一体を複数で囲んで叩くという代わり映えのしない動画ばかりだった。違うのは、コスプレしていたり、珍しい武器を使っていたりとその程度。

 

「はぁ……」

 

ムーブで再生数を伸ばしているのは、主にソロでダンジョンアタッカーに挑んでいる者達。あまにゃんなどその筆頭だろう。DAGで広告塔に使われているだけあって実力もあり、顔も悪くない(無論、叶の頭では自分には敵わないが、という枕詞が付く)。

その人の本来の実力で勝負する様を観れる分、視聴者も緊迫感に包まれながら観れるのだろう。人はスリルが好きな生き物だ。他人の生死の境界線が曖昧になる程、誘蛾灯の様に飛び付いて鑑賞し、目を離せなくなる。人の生死には、それだけの魅力があるという事だ。

 

「教える人数は少ない方が良い。パーティでダンジョンアタックしている連中は除外。ソロで潜っているダンジョンアタッカーは、安全マージンをしっかり見極めて、己のスタイルを確立している。不用意な助言で成長を阻害する訳にはいかない。ならば……」

 

新人。それも、身の程を弁えず危険なダンジョンにソロで突貫していく様な大馬鹿者が良い。それならば、良心も痛む事なく『色々』叩き込む事が出来る。

 

「そうすれば、DAGや御上も私にダンジョンアタッカー育成教育の話を持ってこなくなるだろう」

 

そうと決まれば話は早い。早速、新人でダンジョンアタックの配信をしている者がいないかチェックを……。

 

「いる訳ないか。あまにゃんという者も、最初はパーティを組んで潜っていたようだし」

 

では、パーティを抜けた誰かがソロ配信を始めるまで待つか?いや、そんな不確定な要素に縋りたくはない。何より、そういった者は大抵『やらかして』ソロになった場合が多い。教育には不向きだ。

 

「はぁ……やはり面倒臭いな…………ん?」

 

そんな事を考えながら、ムーブをチェックしていた中、新しい配信をしている者が現れた。

 

【DAG】スレ民と行くダンジョンアタック【ソロ】

 

「………」

 

いたわ。大馬鹿者。

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