【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
パソコンのディスプレイに、複数の顔が映し出されている。
全員、半世紀以上を生きた証を顔に刻み、質の良い衣服で周囲を威圧している。だがその表情には苛立ち、無関心、動揺など、楽観的な雰囲気をしている者は一人もいなかった。
「……リモートで招集に応じてくれた面々に、まずは感謝を」
口火を切ったのは、以前亜継の操る蟲によって肉体を支配された鏑矢だった。
彼の言葉に、画面の向こうの何人かが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「今回集まってもらったのは、最近の我々の……」
『御託は良い。まず話すべきは金城の件だろ』
『そうだ。奴の
『料亭の人間やお抱えの
『信じられるか!何故急に自殺などする必要がある!護衛の牙が数日前に死んだ事も、何か裏があるんじゃないのか』
『周囲の監視カメラや、料亭の本来の人員すら金城が買い占めてたんだぞ?自分の心中を邪魔されたくなかったんじゃ?』
鏑矢の言葉を皮切りに、金城の死の話題が繰り広げられる。
彼等にとってその死には既に意味は無く、だが『ある疑念』を払拭する為に、無意味な内容を議論していた。
そんな中鏑矢は、机を強く叩き、モニターの向こうの全員を黙らせる。
「……金城の不審な自殺に続き、先日『牙』候補の犯罪者が全員死んだ。ご丁寧に、我々が目を付けていた連中だけが、だ」
ザワ……と、空気が揺れる。
鏑矢は怒りを顔に浮かべ、告げる。
「我々の情報が、何処からか漏れている……!」
鏑矢である。
しかし今、彼を疑える者はいない。この場を設けたのも、『牙』に関する権限を担って管理していたのも鏑矢なのだ。
自分の管理していた部分が、誰かの手によって崩壊させられる。鏑矢には怒り疑う権利があり、それによって自身に疑惑を向けられる事が無い。完全なマッチポンプだった。
「『牙』の補充が出来ない件で私が追及されれば、私のポストが空席となり、自分の息のかかった奴を置ける。金城もそう考えて狙われたのかもしれん」
『まさか!本気で私達を疑っている訳じゃないだろうな!?』
『牙は
「現に捨てられたではないか!ここにいる面々以外に誰が出来る!」
鏑矢(亜継の下僕)である。
無実の罪で追い込まれている者達は、安住の地で衰えていた頭を必死に回す。
『いや、我々以外にも一人だけいたではないか』
『何だと?』
『前に他の牙を皆殺しにした1号がいただろう。奴に渡していたスマホは回収してない筈だ』
『……ああ、狂人か。アレは惜しかったな。
『ハッ、ムカつくな。急に掌を返しおって。あんな厄病神を誰が養ってやったと思ってる』
(……九)
「なら元1号がやったというのか?奴に仕掛けた爆弾はしっかり作動している。奴は間違いなく死んでいる」
『スマホを誰かが拾ったのかもしれん。それにスマホには三重のロックが掛けられている。馬鹿では手も足も出せんわ』
『バラされたパーツが何処かに流れてないか確認させる。それより今後について話さなければ。牙の補充が出来んなら、我らの活動を大幅に縮小せねばならんのだぞ』
『上役の護衛ならば公的な依頼として通せるが、他は……無理だ。どう足掻いても数が足りない』
『……退役軍人はどうだ?羽場とか』
誰かがポツリと呟く。画面が静まり、一拍置いて再び騒がしくなる。
『元軍人か!なるほど、その手があったな』
『牙の制度も、
『ああ、羽場と云えばその娘は頭が悪かったな。戸張の見張りを何の疑いもせず引き受けてもらえたし、いっそ家族ごと抱き込むのもアリではないか?』
(……三十)
「おい、待て!まだ元1号の仕業と決まった訳では無いんだぞ!」
決まっている。誰も証拠を持ってない故に疑えないだけである。
「チッ。私の仕事を邪魔された件はもう良い。紛失したスマホの件と並行して捜査しろ」
犯人は蟲(鏑矢の姿)である。
「それよりも、本当に可能なのか?退役軍人を牙の代わりに使うなど」
『なに、羽場が頷けば従う者は多いだろう。奴は英雄だからな』
『ああ。奴を
『まったく、娘と良い親子揃って頭の……おっと、忠義の塊の様な人だな』
画面の向こうの者達は嗤う。甘ったるい現状に慣れ過ぎた彼らに、今の状況を正確に測る術は最早無い。
彼らは、『牙』という翼をもがれ、緩やかに落ちゆくだけの泥船。権力というしがらみに囚われた世界で生きてきた、力を持たぬ強者達。
だからこそ、気付けないのだ。自分達より強大な力を見た事が無い故に、背後から迫る圧倒的な力の気配に。
◇
「……これは、
その会話を盗聴……傍聴していた亜継は、正の字が書かれたノートを見下ろして呟く。苛立ち紛れにへし折ってしまったペンを掃除しながら、物憂げにため息を零す。
「ああ、ご主人様……なんとご無体な。この様な会話を聴かせておいて、私に手を出すなと仰るのですか」
掲示板に集まる、DAG上層部の所業を知る仲間達。悪を以て悪を裁く為に集められた彼らは、上層部に利用されぬようにという意味合いも兼ねており、四つ星以上のダンジョンアタッカーの殆どが集結している。
だからこそ問題であった。殺しても殺しても殺し足りない相手の数が
そんな事に頭を悩ませられるとは思わず、再び嘆息する。
「……今ここで全員殺した方が、私の腹の
録音された会話を、掲示板に投下する。
すぐさまコメントが付き、あっという間に彼女の発言は見えなくなった。
「後は他の皆様にお任せしましょう。
それを見て、彼女は一人優越感に浸るのだった。
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『スレ主がダンジョンアタックする話』10/17発売予定です。手に取っていただけると嬉しいです。