【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第161話 無間

今話は、『スレ主がダンジョンアタックする話』1巻の外伝「終わりから始まるプロローグ」をお読みいただいた後に読むと、より理解が深まります。

 

=====

 

走る。走る。走る。

 

『耐えろ!まだリーダーが戦ってくれてんだ!踏ん張ぎ、ぐぐビァ……ッ!!』

 

『ああああああああ来るなああぁぁあ、ゴビ……ッッ!?』

 

(…………)

 

『まだよ!三鶴城さんはきっと助けてくれる!皆、ここが踏ん張り所よ!!』

 

『聞いてない!聞いてない!!も、モンスターがゔぁッ──』

 

『何でこうなんだよ!?これ、ぁあ……嫌だ嫌だ!!死にたくねえ゛え゛ア゛……!』

 

(……もう)

 

『こっちには勇者様がいんだ!負けるかあああああああああああ!!』

 

『頼む!誰でも良い!こっちに来てくれ!!頼む頼むた──』

 

(もう、やめてくれ……)

 

仲間達の声が届く度、心が釘を打ち込まれた様に痛む。無線からの声が聞こえなくなる程、身体から力が抜けていく。

どれだけ脚を動かしても間に合わない絶望が、三鶴城の心を蝕んでいく。

走る。走る。走る。

 

「ポーションが足りない!もっと無いのか!?」

 

「もうやだ……」

 

「いだい゛……ぐるじ、誰か……」

 

マトモに走れる人はもういない。出来る限りの人数を背負い、悲鳴や嗚咽しか聞こえない仮設救護所に届ける。それを何十往復と繰り返す。

どれ程身体を動かしても、彼らをこれ以上救う事は出来ないと自分の中の誰かが囁いている。

走る。走る。走る。

 

(早く……)

 

信じれば信じる程に強くなる、三鶴城のエクストラスキル。

だが仲間や街の人々、皆の期待を悉く裏切ってしまっている今、三鶴城はもう自分を信じられなくなっていた。

そして、弱くなった力では大きな被害を防ぐ事が叶わず、更に被害が広がってしまう。完全な悪循環だった。

はしる。はしる。はしる。

 

(早く、終わってくれ……!)

 

彼は伽藍堂達の様な、生まれながらの超人ではない。その感覚はどこまでも一般的で、だからこそ人の痛みに敏感過ぎた。

かつて、あれほど嬉しく頼もしかった『仲間からの信頼』は、そのまま刃となって三鶴城の魂をズタズタに切り裂いていた。

既に三鶴城の心は折れている。自分の力で悲劇を食い止めるのを諦め、この地獄が終わってくれる事を誰かに縋ってしまいながら、それでも。

はしる。はしる。はしる。

 

『こちら伽藍堂結城です。最後のダンジョンのスタンピードを終えました。福平に溢れたモンスターはどうですか?』

 

()()()は、唐突に訪れた。

 

「…………?」

 

地面が()()()、地平線が見える荒野。

文明の跡が根刮ぎ消され、かつてに街並みすら見出せない。

そんな場所に独り立ち、三鶴城は鳴り止まなかった咆哮や悲鳴が聞こえなくなった事に、ようやく気付いた。

 

『しゅ、終結しました……スタンピードは、終わっています……』

 

「……お、わっ……た?」

 

『こ、こちらも確認しました……!本当に……本当に、モンスターはいなくなっています……』

 

「……そう、か。皆、ありがとう。スタンピードは終了したんだ。お疲れ様」

 

無線は何も発さない。喜びの音も、啜り泣く声も、何一つ届いてこない。

 

「……終わったんだ」

 

『り、リーダー……』

 

三鶴城の呼びかけに唯一人弱々しく応えてくれたのは、犀党だけだった。

 

「陸虎……百々馬…………秋鹿」

 

『お疲れ様でした、三鶴城さん。対外的な対応として、政府とDAGは今回のスタンピードに勝利したと、報道させていただきます。その際、「至強」だけでなく、伽藍堂さん等の多くのダンジョンアタッカーの活躍を特集して……』

 

突然無線が切り替わり、事務的で無機質な男の声が聞こえる。

 

(何だコイツは……何を言っている)

 

まるでこの災害を遠くから眺める第三者の様な話し方に、感情が逆撫でされる。

 

「……何が」

 

目の前に広がる、荒野と化した街だった場所。

どの様な形だったか想像すら出来ない、瓦礫とすら呼べない建物の残骸。

腐乱臭が漂い、死体とそうじゃない者の区別すら難しい、復興などとても望めない仮設救護所の人々。

そして、耐え難い傷を無数に受けたダンジョンアタッカー達。

 

(これが、勝者が見る景色だとでも言うのか?)

 

「何が、勝利なものか……!」

 

その言葉は、空虚な空に響くだけだった。

 

     ◇

 

暗い室内に、幾つも空き瓶が転がる。

度数の高い酒を何本も空け、しかしダンジョンアタッカーとして得た強さ故に酔う事が出来ない。

思考は明瞭なまま、眠れない苦悶の時を過ごす。

 

「……」

 

机に突っ伏したまま動けない。

目を閉じれば、目の前で死んでいった人達の悲痛な顔が鮮明に浮かび上がる。耳を塞げば、皆の絶叫や断末魔がずっと響いている。

友も、信頼も、矜持も失い、僅かに残ったのは、自分の五体と雀の涙程もない下らない名誉のみ。

三鶴城礼司を三鶴城礼司たらしめる全てが、この三日で全て奪われてしまった。

そんな彼を、DAGは()()()()()()()()()()英雄と称え、五つ星から更にランクの高い銅星へ昇格させるらしい。

 

(笑わせてくれる。何が救っただ。本当の意味で救えた者などいないというのに)

 

自嘲しながら、酒瓶に口を付ける。しかし中身は既に無く、その辺に投げ捨てられた空き瓶と合流する。

 

(……いっそ、このまま逃げてしまえたら、どれだけ楽だろうか)

 

酩酊も出来ない思考の中、そんな考えが頭の中でもたげてしまう。

それでも、世界はそんな彼の()()を許してはくれない。

彼のスマホに、幾つもメールが届く。死んだ様な瞳で見れば、DAGからの嘆願に近い指示だった。

 

『今回のスタンピード災害における被災者の慰霊碑を建てるので、三鶴城さんにも参列とスピーチを……』

 

『ダンジョンアタッカーがダンジョンアタックに怯え切ってしまい、三鶴城さんの協力で……』

 

『新規ダンジョンアタッカーのパーティ受け入れについて相談が』

 

「…………わたしが」

 

疲れと絶望が支配する身体を無理矢理動かす。

 

「まだ、『至強』は終わっていない……」

 

ゆっくりとした足取りで、三鶴城は再び動き始める。

誰もが彼に救いを求めている。如何に本人の心が折れていようと、彼らにとっては関係無いのだ。それが、かつて自分が憧れた道を行く者達なら尚更に。

こんな時だからこそ彼は、希望の象徴として立っていなければならない。逃げる事は許されない。

 

(……ければ)

 

何故なら。

 

「文明を……後輩を……皆を」

 

(私が、護らなければ)

 

彼は生贄(ゆうしゃ)なのだから。

 

 

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書籍版1巻発売中です。手に取っていただけると嬉しいです。




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