【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
時は遡り、戸張が配信を始めた頃。
首都高をリムジンが走っている。東城にある翼空港からすぐ高速道路に乗ってから、リムジンは何処かへ下りる様子も無くひたすら走り続けていた。
リムジンの車内は小さな部屋の様になっており、固定された家具も上品に設えられている。
東城に着いて早々にリムジンに案内された羽場童剛は、窮屈そうにソファに座りながら、痺れを切らした様に口を開いた。
「それで? わざわざオレを呼んだ理由は何だ?」
苛立ちを隠そうともしない不機嫌な声。しかし相手は、羽場の圧を柳に風と言わんばかりに受け流す。
「こんな場所に押し込めて申し訳ありません。ここなら、盗聴の心配が無いものですから」
伽藍堂結城。国内……否、世界でも最強の一人に数えられるダンジョンアタッカー。
両者の関係は、お世辞にも良好とは言えない。面識はあるが、会う場所は決まって政治的な意味の強いパーティ会場。そんな所でしか会わない大人と子供が、友好的な関係を築ける筈もなかった。
へばり付く様な重い空気の中、会話は続けられる。
「盗聴……? 随分警戒しているな」
「ええ。この話は、外でするのには向いてませんので」
「公衆の面前で照真を亡き者にしようとした奴が言うな」
「……ああ、戸張君ですね。何故貴方がそれを?」
「アイツは、自分の事をネットの掲示板で一々書き込んでいるからな」
羽場から放たれるプレッシャーが強くなる。
まるで戸張が害された事に腹を立てている様な態度。伽藍堂はその態度が『真』である事を見抜き、苦笑する。
「その節は失礼しました。少々彼を誤解していたもので。……それにしても、まさか貴方がそこまで怒るとは」
「
「羽場童剛は、誰かの為に怒るタイプではなかったでしょう?」
伽藍堂の言葉に何も言い返す事が出来ず、羽場の顔が苦々しそうに歪む。
「大を生かして小を殺す。国の利益となるなら進んで泥を被り、自らの遺伝子すら実験に差し出す奉国の勇。それが羽場童剛という男の生き方だったでしょう?」
「……詳しいな」
「全て友人の受け売りですよ。あれだけ頑なに人心を殺していた貴方が、何故今になって心変わりを?」
「……
『見当はつきますが』という言外の意味を含ませた言葉。
質問の体で、羽場の口から語らせようとする伽藍堂に気付いた羽場は目を閉じ、考える様に上を向きながらゆっくり語り出す。
「言い訳をするつもりはない。俺はDAGを発展させ、それが国の為になると信じて尽力してきた。だが照真に会って、気付かされた。そんな糞みたいな考えのオレに……妻は、ずっと傍にいてくれたのだと」
「……」
「真に尽くすべき相手から目を逸らし、盲目的に国に仕える。そんな
「!」
「だから誓っただけだ。照真と奴の両親に敬意を払い、今度こそ親としての責務を果たすと。そして焔那にも謝り……そうだな。もう遅いかもしれんが、少しでもマトモな親子になりたい。その為にここまで来たのだ。これで満足か?」
「……ええ。ありがとうございます。これで貴方が
「チッ。わざわざ言わせるな。お前なら
「今回のお話がそれ程重要という事ですよ。それに、そんな貴方だからこそ出来る相談もあるんです」
羽場の眉根が寄せられる。
伽藍堂結城という男は、端的に言えば完全無欠。二つ名『唯我無双』という言葉を持つ通り、この男は
そんな男が、『相談』と言ってきた。只事ではない気配を感じ、神経を張りつめる。
「羽場さん。貴方は覚悟のある方だ。今の貴方は、家族の為なら平然と国を裏切るでしょう。いや、既に裏切っていましたか」
「……何が言いたい」
「僕にも護りたい……いえ、護らなければいけないものがあります。なので協力しましょう。彼らがこの先、
ストレートに言い放った伽藍堂の目を見る。
普段は笑みを浮かべ、何人にも本心を見せない男が、真剣な表情で自分の弱みとも言える内容を曝け出す。
(オレがお前の弱みを利用しないとでも……)
「戸張君はこの前、ある組織に命を狙われましたよ」
「……あ゛あ゛?」
羽場の考えは、伽藍堂の言葉により一瞬で霧散する。
最早彼が何を企もうとどうでも良い。この男は物事をぼかしたりはするが、決して笑えない嘘は言わない主義だ。マイナスな感情を多く持つ羽場だが、その点は信頼していた。
戸張が、羽場の手の届かない場所で襲われた。想起するのは、吸魔の墓での配信後のDAGの研究員との会話。
あの胸糞悪い会話を思い出し、羽場の思考は氷の如き冷徹さを生む。
羽場と伽藍堂。タイプの違う二人に、利害の一致が生まれた瞬間だった。
「金城聡。ご存知ですね? 彼に先日
「……ああ。それがどうした」
「彼はDAGで地位を築き上げた頃、秘密裏にある組織を立ち上げました。それを使って非合法な取引や工作を行っていたようです。組織の名前は『牙』」
伽藍堂が資料を渡す。内容は元1号……数多のスマホにあった『牙』に関するもの。
羽場が読み進めるのを待ち、その顔が段々険しくなっていくのを確認して、伽藍堂が再び口を開いた。
「その『牙』の一人が彼を襲撃しました。しかし、計画は失敗。『牙』は全ての人員を失い、新しく補充しようとされていました。その候補者のリストには、貴方の名前もあります。普通に考えて、山櫛でDAGの支部長をしている貴方にさせるものではありません。一体、どういう関係なんですか?」
そこまで言って、伽藍堂は羽場の反応を待つ。
資料を閉じた羽場は、溜息を吐きながらそれを雑に投げ返した。
「フン。照真に会う前のオレなら、この組織に加担していただろうな。これは形は違えど、昔作られた暗部の草案に似ている」
「暗部、ですか。それは初耳です」
「当然だ。DAGの第一世代……オレが現役だった頃に白紙になったからな」
眉間に出来た皺を揉みほぐす。そうして、過去の出来事を少しずつ掘り起こしていく。
「DAGは元々、ダンジョンを調べる為に各国から軍人を集めて結成された多国籍連合軍だ。当然だが、一枚岩では無かった」
「……ああ。ダンジョンは新たな金脈、素材やマナの奪い合いが密かに行われていたんですね」
「そうだ。そこで当時の軍部は、我が国の資源を守る為、DAGとは別に非正規の組織を作ろうとした。少数の精鋭を戸籍上死亡扱いにして、秘密裏に国益を守る部隊、それが暗部の原形。オレもそこに配属される予定だった」
「しかし、そうはならなかった」
羽場が沈黙する。口が重くなった彼の代わりには伽藍堂が口を開いた。
「中東のとあるダンジョンの調査。そこで起きたスタンピードを単独で止めた事で、貴方は一躍有名になった。DAGを知らない人間でも、名前だけは知っているという程度に」
「……あったな、そんな事も」
「それは当時、暗部の草案を作っていた軍部でも想定外の出来事だった筈。貴方は有名になり過ぎましたから。ですが、不可解な点もあります。スタンピードの件は貴方の活躍だけが記録され、それ以外は全て不自然に消されていました。しかも、暗部の設立も立ち消えになり、貴方は……何故なんですか?」
「…………色々、あったのだ」
疲れた様に吐き出されたその言葉には、複雑な感情が込められていた。
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書籍版1巻発売中です。手に取っていただけると嬉しいです。