【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
「ふぃいいい〜〜……」
今日は疲れたなぁ。色々あった一日だった……。
身体検査に行ったら伽藍堂さんに会って、『至強』に行く途中であまにゃん……シュウさんに会って、三鶴城さんと配信して戦って……とにかく、凄い濃い日だった。
それにしても、三鶴城さんの戦い方は参考になったな。マジックスキルを武器として使うなんて考えもしなかった。銃弾みたいに、撃てば終わりだという思い込みを壊されたのは良い経験だった。
「んー……それでも悔しい」
結果自体は納得の敗北。けど、やっぱり負けるのは嫌だ。
もっと強くならないと。もう負けたくない。
それに、師匠の技術と三鶴城さんの戦い方……この二つを組み合わせる事が出来れば。
「……うん。疲れた」
とにかく、少し休んで考えを整理したいな。
滅茶苦茶動いたし、精神的にも疲れてるし……今日は早めに寝るか。
そんな事をボンヤリ思いながら、スマホでスレ民達と戯れる。買い物でパンパンになったエコバッグを揺らしながら、通い慣れた自室のドアを開ける。
ガチャ
「お帰りなさいませ♡ご主人様」
バタン
「……ふぅ〜。疲れてるなぁ、俺」
まさかメイドさんに出迎えられる幻覚を見るなんて。幻覚じゃないなら、俺が部屋を間違えたんだな。
表札を確認。『戸張』と書いてある。うん、俺の部屋で合ってるな。じゃあやっぱり幻覚だな! 俺が疲れてるだけで何もおかしくない!
……いやおかしいな? ここ俺の住居ぞ? 羽場さんならまだしも、何でメイドさんがいるんだよ。しかも先輩にあまにゃんさんに良く似てた様な気もするし……先輩のメイド姿とか、妄想の中でも殺されるのでは?
「……い、一応スレ民に報告しよ」
「どうされましたか? ご主人様」
「ウッパス!?」
ドアから離れようとしたら、後ろから肩をぐわしと掴まれる。そのまま中へ引き摺り込まれてしまった。
げ、幻覚じゃなかった!? 何で先輩とシュウさんがメイド服を!?
「というか、何でウチにいるんですか!?」
「このマンションのオーナーは私でございます、ご主人様」
「まさかの職権濫用!?」
「今日も一日お疲れ様でした。疲れた貴方を癒す為に、アタシ達が精一杯おもてなし致しますね!」
「その気持ちは有り難いですけども!?」
出来れば事前に教えて欲しかったなぁ!?
いきなり「お帰りなさいませ」って言われるのは恐怖でしかないよ! 顔見知りだからギリギリ許せるだけで!
「ところで、いかがですか? 私のメイド服は」
「え、可愛いですけど」
「スイ、ご主人様! アタシは!?」
「最高だと思います。ハイ」
まあなんだかんだ言っても、俺もホラ、健全な心を持つ男子高校生なのでね? 嬉しくないとは言ってない。
先輩とシュウさんのメイド姿は、言葉を無くすぐらい可愛い。コスプレ用だと一目で分かるメイド服も、二人が着ると本物に見えてしまうくらいだ。
唯、何でそれを着てるのかとか、何で俺に奉仕するのかとか理由が分からないから怖いんですよね?
「では。今日も頑張ったご主人様に、ささやかながらお食事をご用意しております」
「え。でも……」
「手荷物をお預かり致しますね」
何か言う前に買い物袋とバッグを奪われ、あれよあれよと椅子に座らされる。
あの、何で当たり前みたいにウチの間取り把握してるんですか?
なすがままの俺の前に、シュウさんがケチャップでハートが描かれたオムライスを置いた。
「お待たせしました〜。萌え萌えオムライスです」
「も、え……ん? メイド喫茶の真似事?」
「それじゃ、魔法をかけますね〜」
「あ、ホントに何も説明ねえや」
「美味しくな〜れ♡萌え萌えキュンッ♡」
おっっっっっっっっデッッッッッッッッッ!!
「オデッッ!!」
「ご主人様!?」
「だ、大丈夫です……!」
あ、あっぶねええええええ! シュウさんが胸でハートを作った事で、思い切り強調された胸に、目がブラックホールみたいに吸い込まれた……。
咄嗟に自分を張り倒していなかったら、また先輩から冷気が漂うところだった……!シュウさん、何て危険な技を……。
「い、いただきます……」
「は、はい。召し上がれ」
……あ、普通に美味いオムライスだ。
◇
「……それで。いい加減説明してくれませんか?」
皆でご飯を食べ終えて、心なしか小綺麗になっている部屋で向かい合う。
流石にもう勢いだけで誤魔化されないぞ。
「何で俺の部屋にいるんですか? 有り難かったですけど、何で色々してくれたんですか? 理由を教えてください」
理由……そう、理由だ。二人には何度も説明しているが、俺にはそこまでされる理由も価値も無い。彼女達にここまで与えられて、まだ殆ど返せてないのだから。
タダほど高いモノは無い。俺はそれを嫌というほど知っている。二人は悪くないのに、つい睨んでしまう。
……いや不法侵入は悪いな? 危ない危ない、感覚が麻痺してた。そこはちゃんと反省してくださいね?
「……ご主人、いや、戸張君。人の善意に、何か対価が必要かい?」
「え?」
「勝手に入っちゃったのはごめんなさい。でもアタシ達が、どれだけ貴方を大切に想ってるのか知ってもらいたくて」
「どういう……」
「君が家族想いなのは知っている。その愛を否定するつもりは無い。だが過去の経験なのか、君は
「!?」
そんな事はない、と言おうとして声が出なかった。
心臓が跳ねる。心のどこかで、これ以上何を支払えば良いのかと考えていた俺の思考を、先輩に当てられてしまったから。
「別に悪い事じゃない。だが君は、与えられた善意に対価で返そうとする意識が強過ぎる。それが心配なんだ」
「だから覚えていてほしいんです。少なくともアタシ達は、見返りが欲しくてこうした訳じゃありません。唯、自分がしたい事をしてるだけなんだって。戸張さんと一緒にいたい……アタシにはそれだけで良いんです。戸張さんは、それだけじゃ……ダメですか?」
「……」
何も答える事が出来なかった。
人の
知っている。俺に向けて優しい顔をしていた父さんと母さんも、互いを見る目は冷たかった。『時間』という大切な対価を、俺へ愛情を注ぐ為だけに使ってくれていた事を。
知ってしまった。人の心に巣食う、ヘドロみたいに気持ち悪い悪意。『誰かの努力』を対価に、自分の欲を満たそうとする人間がいる事を。
俺は、自分が受ける幸せに対して、ずっと……ずっと、相応しい対価を探し続けていた。きっと今も。
「……すいません。分からないです」
だから、せめて二人には誤魔化さずに伝えたかった。
至近距離で、温かい眼差しを向けてくれる先輩とシュウさんに頭を下げる。
「俺は、まだ中途半端で……その、自分の事も全然分からなくて、あの……。けど、そんな俺にちゃんと言葉を向けてくれて嬉しかったです」
「戸張君……」
「戸張さん」
「なので。ちょっとずつですけど、ちゃんと二人の……ああいや、皆さんの気持ちを受け止められる様に、頑張ろうと思います」
俺の始まりとなった人達でもある、掲示板の住民の分も、いつかちゃんと受け止める為に。
そう宣言すると、二人は嬉しそう破顔した。
「じゃあ今から『練習』をしましょうか、ご主人様」
「エッ」
「このままお風呂に行きましょう。たぁくさん
「エッエッ」
二人が俺の手を掴んで、脱衣所に引っ張り込もうとし始める。
あの、急に何で!? 早い早い! 俺ちょっとずつって言いましたよね!? というかいつの間にそんなに息の合ったプレーが出来るようになったn力強っ! 先輩はともかくシュウさん!? 一体何があったんですか!?
「何も怖くありませんよ。全てメイドである私達に委ねて下さい。さあご主人様、一緒にお風呂に入りましょう」
怖いって! 今のこの状況が怖いんだって! ジャンルの違うヤバさが目の前で起こってるんですよ先輩! シュウさん!
「いやあああああああああ!! 奉仕されるうううううううううううう!!」
「何を、しているんだ……?」
突如、酷い懐かしく感じる声が聞こえてくる。
全員の動きが一瞬止まり、声のした方を見る。そこには、俺と同じくらい表情の固まった羽場さんと……羽場さん!? 親の方の羽場さんがいる!
並べて見ると、羽場さん(親)の面影が分かるなぁ……って違う! この二人はこの状況を切り抜ける助け! 心苦しいけど、先輩とシュウさんを止める言葉をかけ……! クソ、すぐに思いつかない! 何かないか!? 例えば、そう! 道路で職質を受ける羽場さん(親)みたいな怖い顔の……!
「不審者!!」
「「誰が不審者だ貴様!」」
「違うそうじゃない!」
息ぴったりじゃないですか! 凄い似てますよ! とにかく助けて下さい!
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書籍版1巻発売中です。手に取っていただけると嬉しいです。
第2巻の発売が2/17に決定致しました。
番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しました。
オマケも一応作成中であります。
手に取っていただけると嬉しいです。