【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第174話 歪んだ歯車

「ちっ、まだ連絡は来んのか……!」

 

 久留米恒夫は苛立ちを隠さず、そうひとりごちた。

 危険な橋を渡っている自覚はある。最近()()が滞り、満足のいく成果が出ていないのだ。加えて、人員の補充を担当していた鏑矢(かぶらや)がヘマをしたせいで、新たな『牙』も期待出来ないときた。

 だからこそ、ヤクザに声をかけたのだ。所詮使い捨てのゴミ溜め。誰もが目を背ける程に疎まれる存在に、注目する者などいないのだから。寧ろ、この行いは彼らに対するボランティア精神であるとまで考えていた。

 そんな久留米の目論見は、早くも頓挫しようとしていた。向こうから『すぐに上と掛け合う』と喜色満面の声が聞こえて、色良い返事を期待しているというのに、待てど暮らせと連絡が来ないのだ。

 

(何をもたついている……! ダンジョンの素材で作った貴重な武器や資源を融資してやるというのだぞ! 裏社会で君臨出来るチャンスがぶら下がっておるのに、食らいつく力も無いか!? 駒野組も泰弘會も、早く軍門に降れば良いものを……)

 

「これだから愚図は信用出来んのだ……おい! 貴様にも言っとるんだぞ! 分かっとるのか!?」

 

 無様な老人のヒステリックな叫びを、暗がりにぶつける。

 その暗がりから、枯れ木みたいに細いノッポの男が、音もなくヌルリと現れる。

 

「あ゛ー……何で?」

 

「貴様の様な死に損ないを使ってやってるだけ有り難いと思え! どうせ社会に出ても何の役にも立たん欠陥品が!」

 

「あ゛ー……じゃあ護衛いらなくね? アンタもずっと引き籠ってるだけだし」

 

「ふざけるな! 誰が私を護るというのだ! 我らの利益を横からくすねようとする鼠の正体が分かるまで、貴様は私を死んでも守れ!」

 

「あ゛ー……」

 

 タバコと酒でしゃがれた声で、虚ろな返事をする。

 『牙』。国とDAG上層部の為に動く影の私兵。

 元死刑囚のこの男は、7号の牙と()を与えられ、仮初の自由を謳歌しようとしていた。

 しかし、伽藍堂結城とその仲間達による殺戮。そして『牙』補充要員の消滅。迂闊に数を減らせなくなった事で、7号の牙の身動きは封じられてしまった。

 

「……」

 

 だが、それで言う事を素直に従えば、彼は死刑囚になどなっていないのだ。自由の無い鳥籠に、奴隷以下の扱い。7号のフラストレーションは、既に限界だった。

 ゆっくり、ゆっくりと蛇の如く静かに近付く。こちらに振り向く気配も見せず、目線をスマホとパソコンに行ったり来たりさせている久留米。

 7号の手が、久留米の首に向かおうとした刹那。

 

「だから言ったのだ。愚図は信用出来んと」

 

 7号の首が爆ぜた。

 『牙』に付けられた枷。竜系統のコアモンスターからドロップする素材が使われた、最凶の超小型爆弾。それはかつて、元1号……数多洸の反逆により更に改悪され、首輪を付けた者が特定の人間、即ちDAG上層部の誰かに危害を加えようとした瞬間に起爆するプログラムに進化していた。

 噴き出す血が、爆弾の火力で蒸発していく。赤い煙から嫌な臭いが立ち込め、鼻を摘まんで立ったまま動かない肉袋から距離を取る。

 

「フン……物事の分別もつかん愚図が。クソ、仕方ない。直接こちらから出向いてや」

 

 久留米の言葉は、最後まで続かなかった。

 突如動き出した7号の手が、彼の顔と首を力の限り掴んだ。

 

「……ア゛、ア」

 

「──ッッ!!?」

 

(馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! あり得ない! 何故動く!? 何故この愚図が生きている!?)

 

「の゛っでで、ヨ゛ガった……いつつぼし、ライフポーション」

 

 煙の中から、千切れた首が塞がっていく途中の7号の顔が現れる。

 久留米は驚愕を露わにしながら、万力の様な力で顔を締め付ける手から逃れようと必死に暴れる。

 

「──、んんんん゛!!!!」

 

「あ゛ー……ア゛ハッ」

 

 その抵抗を嘲笑い、首の治癒が終わった7号が嗤う。久留米の骨が軋む音が大きくなっていく程、その笑みは深くなっていく。

 

「あ゛ー……アハッアハッアハッ!!」

 

 硬いナニカが砕ける音がして、久留米の頭が潰れていく。そのまま首、胴、手、足と執拗に握り潰していく。

 そうして、かろうじて人だと思われる形にまで久留米を()()()()後、堪えきれないという風に7号は笑った。

 

「ア゛ーッハッハッハッハ!! ()()()()()()()()()()()!!!」

 

 【適応力】。そのスキルを手にした時から、密かに準備をしていた。強力な爆風を浴び続け、()()手に入れた五つ星ポーションを肉体に仕込み、文句を言いながら命令を着実にこなしてきた。

 全ては、この時の為に。

 

「ア゛ー……自由。自由だああああああア゛ッハッハッハッハァ!!」

 

 社会に取り込んだ、ほんの小さな歯車。

 しかし、いつしか歯車は歪なまでに巨大化していき、周囲をも巻き込む一つの機構となっていた。

 誰かが気付くべきだったのだ。その利便性に歯止めが効く内に。

 

「ア゛ー……きもち」

 

 『歪んだ歯車は、いつか必ず暴走を始める』と。

 

=====

 

第2巻の発売が2/17に決定致しました。

番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しました。

 

メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

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