【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
(何なんだ一体……!)
思考が一向に纏まらない。ベッドに顔を埋めている羽場焔那の胸中は、グチャグチャに荒れていた。
原因は分かっている。戸張照真、あの同居人だ。
彼の言葉が、笑顔が、言動が。終始彼女の頭から離れない。
加えて、軽蔑していた父との会話。それも彼女の思考を掻き乱す。
◇
『確かに、オレは国の実験に協力していた。だが、お前が生まれた時、オレは……家族が出来て、純粋に嬉しいと思った』
『……は?』
『……妻に関してもそうだ。オレは、大した名分も、目的も、何も無く……唯、ずっとオレに寄り添ってくれたあいつと、いたかった。政府の打算は関係なかった』
『嘘だ』
『お前が聞いていたあの会話、オレは結局答える事が出来なかった。お前を、DAGの為に使おうとは一度も──』
『嘘だッッ!!』
椅子を倒し、机を叩く。それでも父の顔は変わらなかった。
自分の見てきた世界が否定される、気持ち悪い感覚。本来ならば喜ばしい筈なのに、脳が理解を拒もうとする。
それ程に、目の前に座る人物の変わりようが信じられなかった。仮に、この場にもう一人の羽場童剛が現れ、「そいつは偽者だ」と言われても、焔那は信じてしまっただろう。
『何でだ……! 何で急にそんな懺悔をする! そんな、そんなのは……!』
『……すまない』
『だって! ……お、まえは……オレの、憧れだったんだぞッ……!』
童剛の目が見開かれる。
涙で定まらない視界と纏まらない意識の中で、それでも何かを紡ごうと言葉が勝手に吐き出されていく。
『子供の頃から、ずっと……お前みたいな、強い奴になりたかった……! なのにあの日、裏切られた……そう思った』
『…………ああ』
『きらいだ……きらいだ、きらいだッ! お前のせいで、オレがどれ程……っ』
『……分かっている。オレは本当に、最低な父親だ。だから焔那』
自分でも何を喋っているのか分からない、子供の様な癇癪。幼い頃から押し込めてきた想いは、止められる事なく流れ続ける。
童剛は、そんな彼女にゆっくり近付く。
『今まですまなかった。どうか、これから……少しずつで構わない。オレに父親をさせてほしい』
『……っ』
父の胸に寄りかかり、拳を何度も打ちつける。その威力は慎ましく、まるで駄々をこねる子供の様に小さくなった娘を、父はぎこちなく迎え入れた。
そんな、家族として接してくる童剛に、また涙が溢れて止まらなくなってしまった。
◇
(知らなかった。
知ろうとしてこなかった父の愛が、頑なだった心を砕いてしまう。
同時に気付いてしまう。何故父が、あそこまで変わったのか。自身の気持ちをぶつけられる程強くなったのか、その理由に。
(あいつだ……! 戸張照真!!)
名前を思うだけで、あの人懐っこい笑顔が浮かび上がる。
その笑顔を見る度に、心がキュッと苦しくなる。
(知らない、知らない、知らない……何なんだ一体。何でオレはお前を……)
『ホントにありがとうございます』
自分の為に用意された料理を並べてくれて。
『羽場さんが頑張ってる分俺もサポートしますから』
自分にだけ向けられた言葉と笑みが、忘れられなくて。
それからずっと、彼女の頭は彼に支配されている。その思考をどう定義すれば良いのか、彼女は分からない。
故に、口をついて出たのは、シンプルな言葉。
「………………好きだ」
(ぁ……ああ)
心がジンワリと熱を帯びる。同時に、掻き毟りたくなる程の疼きに襲われる。
(好き。好き。スキ。すき。好きだ、好きなんだ……)
「戸張照真ぁ……」
枕を抱きしめる。しかし、そこに欲しい熱は無い。
気付いてしまえば、後戻りは出来なかった。この情動こそ、恋……否、愛であると。
だからこそ、涙を流す。彼女のそれは、気付くにはあまりにも遅過ぎた。
何故なら、彼の隣に並び立つのは、少し前まで目の敵にしていた男の妹、それにアイドルと遜色ない可愛さを持つ人気ムーバー。
対して自分に何があるかと問われると、何も答えられない。実力も地位も、何もかもが中途半端であると自覚している。可愛ささえも捨ててきた人生に、勝ち目などどこにも無い。
だが。
(嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。あの温もりを手放したくない。あの笑顔をオレ以外に見せないでほしい。オレにだけ……)
分不相応な願い、叶わぬ願いに涙が流れる。
『俺より高いでかい奴と? 無理無理』
陰でそう笑い飛ばされた、最悪の初恋。告白する前に終了してしまったそれを経験しているからこそ、この恋だけは諦めたくなかった。
しかし、彼女は何も知らない。恋愛のやり方、想いの伝え方、タイミング。知っているのは、既に戸張には相応しい相手がいるという悲しい事実だけ。
情けなくて涙が出て、それでも諦められず自己嫌悪してしまう。
(あいつもあいつだろ! あんな言葉をスラスラ言いやがって、そのせいで勘違いする奴が多いんじゃないか!)
戸張が焔那にした事も、強者に媚びる三下ムーブである。
(……駄目だ。離したくない。あの太陽みたいな熱が奪われる? 嫌だ、もう嫌だ……! どうすればいい? どうすればオレといてくれる?)
いくら責任転嫁しようとも、現実は変わらない。彼を自分の元に繋ぎ止めたくても、自分より先に好きだった者がいる。敵対心を剥き出しにしていた相手にいきなり好意を告げても、どうせ断られてしまう。今更挽回など、どうすれば良いのか。
知る努力が出来なかった彼女は、悲しい程に何も知らない。
そう。
「スー……スー……」
「……」
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第2巻の発売が2/17に決定致しました。
番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しました。
メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。
手に取っていただけると嬉しいです。
売れ行きが芳しくないらしい!お願いしますもっと買って下さい何でもしますから!