【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第176話 羽場焔那は知らない

(何なんだ一体……!)

 

 思考が一向に纏まらない。ベッドに顔を埋めている羽場焔那の胸中は、グチャグチャに荒れていた。

 原因は分かっている。戸張照真、あの同居人だ。

 彼の言葉が、笑顔が、言動が。終始彼女の頭から離れない。

 加えて、軽蔑していた父との会話。それも彼女の思考を掻き乱す。

 

     ◇

 

『確かに、オレは国の実験に協力していた。だが、お前が生まれた時、オレは……家族が出来て、純粋に嬉しいと思った』

 

『……は?』

 

『……妻に関してもそうだ。オレは、大した名分も、目的も、何も無く……唯、ずっとオレに寄り添ってくれたあいつと、いたかった。政府の打算は関係なかった』

 

『嘘だ』

 

『お前が聞いていたあの会話、オレは結局答える事が出来なかった。お前を、DAGの為に使おうとは一度も──』

 

『嘘だッッ!!』

 

 椅子を倒し、机を叩く。それでも父の顔は変わらなかった。

 自分の見てきた世界が否定される、気持ち悪い感覚。本来ならば喜ばしい筈なのに、脳が理解を拒もうとする。

 それ程に、目の前に座る人物の変わりようが信じられなかった。仮に、この場にもう一人の羽場童剛が現れ、「そいつは偽者だ」と言われても、焔那は信じてしまっただろう。

 

『何でだ……! 何で急にそんな懺悔をする! そんな、そんなのは……!』

 

『……すまない』

 

『だって! ……お、まえは……オレの、憧れだったんだぞッ……!』

 

 童剛の目が見開かれる。

 涙で定まらない視界と纏まらない意識の中で、それでも何かを紡ごうと言葉が勝手に吐き出されていく。

 

『子供の頃から、ずっと……お前みたいな、強い奴になりたかった……! なのにあの日、裏切られた……そう思った』

 

『…………ああ』

 

『きらいだ……きらいだ、きらいだッ! お前のせいで、オレがどれ程……っ』

 

『……分かっている。オレは本当に、最低な父親だ。だから焔那』

 

 自分でも何を喋っているのか分からない、子供の様な癇癪。幼い頃から押し込めてきた想いは、止められる事なく流れ続ける。

 童剛は、そんな彼女にゆっくり近付く。

 

『今まですまなかった。どうか、これから……少しずつで構わない。オレに父親をさせてほしい』

 

『……っ』

 

 父の胸に寄りかかり、拳を何度も打ちつける。その威力は慎ましく、まるで駄々をこねる子供の様に小さくなった娘を、父はぎこちなく迎え入れた。

 そんな、家族として接してくる童剛に、また涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 

     ◇

 

(知らなかった。()()がそんな風に思ってたなんて)

 

 知ろうとしてこなかった父の愛が、頑なだった心を砕いてしまう。

 同時に気付いてしまう。何故父が、あそこまで変わったのか。自身の気持ちをぶつけられる程強くなったのか、その理由に。

 

(あいつだ……! 戸張照真!!)

 

 名前を思うだけで、あの人懐っこい笑顔が浮かび上がる。

 その笑顔を見る度に、心がキュッと苦しくなる。

 

(知らない、知らない、知らない……何なんだ一体。何でオレはお前を……)

 

『ホントにありがとうございます』

 

 自分の為に用意された料理を並べてくれて。

 

『羽場さんが頑張ってる分俺もサポートしますから』

 

 自分にだけ向けられた言葉と笑みが、忘れられなくて。

 それからずっと、彼女の頭は彼に支配されている。その思考をどう定義すれば良いのか、彼女は分からない。

 故に、口をついて出たのは、シンプルな言葉。

 

「………………好きだ」

 

(ぁ……ああ)

 

 心がジンワリと熱を帯びる。同時に、掻き毟りたくなる程の疼きに襲われる。

 

(好き。好き。スキ。すき。好きだ、好きなんだ……)

 

「戸張照真ぁ……」

 

 枕を抱きしめる。しかし、そこに欲しい熱は無い。

 気付いてしまえば、後戻りは出来なかった。この情動こそ、恋……否、愛であると。

 だからこそ、涙を流す。彼女のそれは、気付くにはあまりにも遅過ぎた。

 何故なら、彼の隣に並び立つのは、少し前まで目の敵にしていた男の妹、それにアイドルと遜色ない可愛さを持つ人気ムーバー。

 対して自分に何があるかと問われると、何も答えられない。実力も地位も、何もかもが中途半端であると自覚している。可愛ささえも捨ててきた人生に、勝ち目などどこにも無い。

 だが。

 

(嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。あの温もりを手放したくない。あの笑顔をオレ以外に見せないでほしい。オレにだけ……)

 

 分不相応な願い、叶わぬ願いに涙が流れる。

 

『俺より高いでかい奴と? 無理無理』

 

 陰でそう笑い飛ばされた、最悪の初恋。告白する前に終了してしまったそれを経験しているからこそ、この恋だけは諦めたくなかった。

 しかし、彼女は何も知らない。恋愛のやり方、想いの伝え方、タイミング。知っているのは、既に戸張には相応しい相手がいるという悲しい事実だけ。

 情けなくて涙が出て、それでも諦められず自己嫌悪してしまう。

 

(あいつもあいつだろ! あんな言葉をスラスラ言いやがって、そのせいで勘違いする奴が多いんじゃないか!)

 

 戸張が焔那にした事も、強者に媚びる三下ムーブである。

 

(……駄目だ。離したくない。あの太陽みたいな熱が奪われる? 嫌だ、もう嫌だ……! どうすればいい? どうすればオレといてくれる?)

 

 いくら責任転嫁しようとも、現実は変わらない。彼を自分の元に繋ぎ止めたくても、自分より先に好きだった者がいる。敵対心を剥き出しにしていた相手にいきなり好意を告げても、どうせ断られてしまう。今更挽回など、どうすれば良いのか。

 知る努力が出来なかった彼女は、悲しい程に何も知らない。

 

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー……スー……」

 

「……」

 

既成事実(これ)しか、知らなかった。

 

 

=====

 

第2巻の発売が2/17に決定致しました。

番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しました。

 

メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

 

売れ行きが芳しくないらしい!お願いしますもっと買って下さい何でもしますから!

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