【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第177話 独占する闇

 玄関のドアに鍵をかけ、結界を何重にも張る。

 父はいない。元々ここに泊まる予定ではなかったから当然だ。

 今この世界にいるのは、二人だけ。

 

(戸張照真……)

 

 静かに彼の眠る部屋に侵入する。

 殺風景な部屋。非常に簡素で、必要最低限な家具だけが置かれているのが、戸張の部屋だった。綺麗に掃除されている部屋は人の住んでいる痕跡が希薄で、そこには『戸張照真』を象徴する物が何も無い。私物と言えば、彼にすり寄る女性達から貰ったポーチやぬいぐるみぐらいだ。

 焔那は、戸張のベッドを向いて鎮座するぬいぐるみを、なんとなく窓の方へと向けた。そして、静かな足取りで戸張のベッドへ近付く。

 

「スー……スー……」

 

「……」

 

 彼の寝息だけが微かに聞こえる室内で、心臓が嫌に五月蝿く聞こえる。今からやろうとする事への羞恥と罪悪感で、身体は震える。

 しかし止まらない。焔那は、薄い掛け布団をゆっくりと剥がした。

 

「ん、ぅ……」

 

「ッ!」

 

 僅かに零した吐息が、やたら艶めかしく耳朶に響く。罪悪感に背徳感が加わり、背筋に気持ち良い刺激が走る。

 そのまま、ベッドに潜り込む。彼の顔が近付き、その匂いに当てられ心音が激しく高鳴る。

 

「……と、とばり、しょうま……」

 

「……んー……? はばさぁん……?」

 

 向かい合っている状態で何も出来ずにいると、気配に気付いた戸張の目が開く。

 身を強張らせる焔那。寝ぼけ眼の戸張は、夢うつつのまま彼女を抱き寄せた。

 

「──ッッ!!?」

 

「ほうむしっくですかぁ……良いですよぉ」

 

 違う。夜這いしにきたのだが、彼にそんな知識は無い。

 赤子をあやす様に、背中を優しくさすられる。感じた事のない温もりに包まれ、身を委ねてしまいそうになる。

 

「かえれる、いいなぁ……俺にはもう、ないから……」

 

 しかし、その言葉に芯まで凍り付く。即座に己の浅はかさを呪った。

 腕を動かし、戸張を抱きしめ返す。心地良い締め付けが、荒れ狂う情動を宥めてくれる。

 

(……馬鹿だな。結局、こいつの事を何も分かろうとしなかった)

 

 再び寝息を立てる戸張の胸板に顔を埋める。

 初めて聞いた、彼の心の闇。周りを明るく巻き込む普段の雰囲気からは想像出来ない、底冷えした本音。

 それが無意識に出てしまったのは、自分達親子のせいなのだろうか、それとも……そこまで考えて、抱きしめる腕に力を込める。

 

「……帰る場所が無いなんて、言うなよ」

 

(オレがお前の居場所に……居場所?)

 

 気付く。戸張の抱える闇を知っているのは、自分だけだと。伽藍堂叶とあまにゃん、二人でさえ知らない彼の本音を、自分が独占している。全身に甘い痺れと快感が迸る。

 

(オレが……オレだけが、お前の捌け口になってやれる)

 

 ドロドロとした感情が湧き出てくる。勢いに任せた衝動的な熱ではなく、蛇の如く絡み付いて離さない、粘つく様な熱。

 肺一杯に戸張の匂いを吸い込み、マーキングする様に頭を擦りつける。

 

(もっと教えてくれ。お前の全てを、もっとぶつけてくれ。オレが全部受け止めてやる。だから、もっと……)

 

 もっとお前の温もりが欲しい。そう思いながら、身体をより一層密着させる。混じり合う匂いに、口元が三日月に歪んでいく。

 既成事実は失敗した。しかし、自分が彼に対して出来る事を見出し、焔那は満足そうに彼の腕の中で眠りについた。

 

     ◇

 

【悲報?】ワイ将、目が覚めたら同居人と寝てるwww【無事DT】

 ふぁーーーwwwどうすれば良いんやwww

 

 ……ん? え? 何がどうしてこうなった?

 おかしい。ここは俺の部屋で、確かに一人で寝ていた筈。羽場さんも年頃の女性だし、これまで部屋を間違えて入ってきた事なんて無かった。何でここにいるんだ?

 ……良いnおおおおおおおおおちゅおちゅちゅおちゅちゅけ。まずは深呼kyをせずに周りを見てみよう。

 まず身だしなみ。俺はいつもの古い薄くなったパジャマ姿のまま。羽場さんは、薄手の……良くわからない高級そうな肌着を着ている。というか、暑いし色々困るので離してほしい……。

 次、部屋の確認。簡素で殺風景な部屋。「クーラーは付けろ。死ぬぞ」と言われて付けっぱなしのエアコンが、静かに稼働している。うん、俺の部屋だな……あれ、ぬいぐるみの向きってあっちだったっけ。覚えてないな。

 よし。総合的に見て……。

 

「んん、ぅ……」

 

「……」

 

 どういう事だってばよ。

 俺の動く気配に気付いたのか、羽場さんが薄目を開ける。

 

「お、おはようございます……」

 

「……」

 

「あの、暑いんで離れ」

 

 羽場さんは俺の言葉を無視して、更に身体をくっ付けて二度寝を開始する。

 いやあの、そろそろ朝食の準備とかしたいんですけど。今日ゴミ出しの日だし、暑いし……。

 ……うーん、やっぱり支部長と何か話し合ったのが理由だよな。久しぶりに家族が恋しくなったとか? 

 

「……しょうがないですねぇ」

 

 そういう事なら仕方ない。今日ぐらいは朝の仕込みをサボって、ホームシックになってる羽場さんの相手をしても、バチは当たらないだろう。

 とりあえず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポ

 アケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケロアケロアケロアケロアケロアケロ

 

 玄関の向こうから聞こえてくる呪詛みたいな恐怖の音を、どうにかしなければ……!

 

 

=====

 

第2巻の発売が2/17に決定致しました。

番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しました。

 

メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

 

 

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