【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第178話 ついで

 草気も眠る丑三つ時。雑多なビルが立ち並ぶビジネス街の一角。

 深夜になると街灯だけが頼りとなるそこは、戦場となっていた。

 ……否。『戦場』という言葉は誤りだろう。そこで行われているのは、一方的な蹂躙なのだから。

 

「……ヒッ……ヒッ……!」

 

 トラックの下に潜り込む、黒いスーツを着た男が、必死に声を押し殺している。普段は荒事が得意だと豪語している男だが、目の前で起きた惨劇に心の底から怯えていた。

 事の始まりは、彼の()()に送られてきたリーク情報。敵対組織である『駒野組(こまのぐみ)』が、今夜彼の所属する『泰弘會(ほうげんかい)』を組の総力を挙げて潰すというものだった。

 当然、『泰弘會』は大激怒。共に広域暴力団であり、時に警察をも凌駕するネットワークで裏社会を牛耳ってきた両組織。同じ稼業に身を置く間柄で、商売による小競り合いで死傷者を出した数は計り知れない、正に最大の宿敵だった。

 組員を全員集め、逆に奴らを完膚なきまでに潰してやろう。警察という国家権力すら手を出しあぐねる我らに、怖いものなぞあるものか。こちらには、最近()()()()()()が付いたのだから。

 そう息巻いて、本社の守りを完全武装で固める。今宵は歴史に残る世紀の一戦、表社会でも彼らの名が畏怖と共にお茶の間を席巻する。

 

 

 

 

 ──筈だった。

 

「……あ?」

 

 夜の帷を抜け現れたのは、たった三人。

 その姿を完全に認識する前に放たれた凶弾が、男の隣にいた仲間の頭を、割れたスイカの様に破裂させた。

 

「……て、てめええええええええええええ!!!」

 

 湧き上がってきた恐怖を怒声で押さえ込み、即座に臨戦態勢に入る。

 

「おーおー流石はヤクザじゃ、威勢がいいの」

 

 が、()()()の言う『即座』とは、ダンジョンアタッカーにとって格好の餌食である。

 風切音が鳴り、首が落ちる。何処にでも落ちていそうな木の枝を持つ白髪の少年が、いつの間にか集団の中に入り込んでいた。

 

「それくーださいっ」

 

 反対を振り向けば、笑顔のマークが付いたフルフェイスマスクを被った()()()が、まるで散歩にでも出掛けている様なテンションで、組員の脈打つ心臓を握り潰していた。

 

「ひっ……」

 

 この時点で、彼の心は折れる。武器を投げ捨て、他の組員の怒鳴り声を無視して、何処か身体を隠せる場所へと逃げ込んだ。

 

(な、何だ一体……『駒野組』は……どんな悪魔を呼びやがったんだ!?)

 

 騒々しかった筈の道路が、あっという間に静まりかえる。

 水の上を歩く音が三つ、自分のボスの居座る本社ビルに近付いてくる。

 

「何じゃ、もう終いかの?」

 

「ちょいちょい、ボクの出番潰しておいて何言うとんねん。もうちょい分け合う心とか無いんか?」

 

「たわけ。初撃の権利はくれてやったわ。後は早い者勝ちに決まっておろう」

 

「そんなイチゴ狩りじゃないんですから……いや、狩り放題って意味では正しいか?」

 

「酷いわぁ。最後の獲物だけは絶対ボクのもんやからな」

 

(おれたちは……何を、敵に回してしまったんだ)

 

 大虐殺が行われたというのに、彼らの声音はまるで揺るがない。極道の世界に身を置きながら、それが唯々恐ろしい。

 そして、死の足音が彼の横まで来た。

 

「────」

 

「てか遠隔一筋って、そのまんまじゃないですかー」

 

「名は体を表すゆうやん。ボクの得意分野を分かりやすく教えてあげてるだけや。ジブンらこそ、もっと名前捻らなアカンやろ。な? お義兄さん僕に妹さんを下さい君」

 

「そうじゃぞ、お義兄さん僕に妹さんを下さい。長ったらしいんじゃ、お主の名前は」

 

「じゃあ略せば良いでしょ!? まだ小学生さんなんて完全ショタじゃないですか! 今すぐゴーホーム!」

 

「わしはこれでも五十超えとるわアホウ。スキルのせいで年齢が逆行してしもたんじゃ」

 

「嫌やなぁ、加齢臭漂うショタにキモマスクの変態とか、ボクまで同類や思われそうやん。ホンマ、四つ星以上のダンジョンアタッカーはイカれた奴しかおらんわ」

 

「失礼じゃな。目上には敬意を払わんか青二才が」

 

「ブーメラン刺さってますよ」

 

(だ、んじょん……コイツら、DAGの手先!? 何で、ウチと提携予定だった筈……)

 

 彼らの話した内容が信じられず、思考が固まる。

 ダンジョンアタッカーとは、『泰弘會』が裏で手を組む予定だったDAGの()()()。そう聞かされていた男は、自分もいずれ超常の力を手に出来ると目論んでいた。

 だというのに、何故その化け物達がウチを襲撃してくるのか。しかも、まるで『泰弘會』とDAGが提携したタイミングを見計らっていたかの様に。

 

(まさか、『駒野組』も──)

 

「あ、自分達は雇われヤクザじゃないですよ」

 

 男の思考は、淡々と恐怖を煽るその口調に中断させられる。

 血に染まった笑顔のマークが、トラックと地面の隙間を覗き込んでいた。

 絶叫をあげてトラックの下から這い出ようとした男の行動は、スーツの裾に加わる圧力で無為に終わる。

 

「極道と一緒にされるとは、流石に反吐が出るのう」

 

 小さな手が、その体躯に見合わぬ万力の様な力で足首を掴んでいた。

 

「ぎぃぃあああああああああああああ!!!」

 

「かかっ、活きがいいのう。獲物はそうでなくては」

 

 トラックの下から無理矢理引きずり出される。抵抗しようと踠いた跡が赤黒い軌跡を作り、それが無意味な抵抗である事を悟らせる。

 視界が開け、まず大量の血が目に入る。続いてむせかえる程濃い鉄錆の臭いが鼻腔を刺激し、かつての仲間だった者達のパーツが散乱する光景が、彼の脳を侵す。

 

「な、なんだよ! 何でこんな事……何なんだよ!? おれたちがてめえらに何したってんだ!?」

 

 吐き気を催す惨状に発狂しながら、白髪の少年……まだ小学生と呼ばれた子供に唾を吐く。

 男の言葉に、彼は壊れた玩具を見つめる様な目で、手に持つ小枝を軽く振った。

 

「お主らを殺すのは()()()じゃ」

 

「は」

 

 その意味を尋ねる前に、男の視界は縦に割れた。

 

 

 

 

「貴様……何をしたか分かってんのか」

 

「どーもどーも、『泰弘會』組長サン。夜分遅くにすんません」

 

 『泰弘會』本社ビル、最上階。既に人の気配は無く、戦いと呼ぶのも憚られる蹂躙を終えた後、件の掲示板で『遠隔一筋』と名乗る糸目の男は、悪びれる様子も無くヘラヘラ笑った。

 だが、その態度に反比例する冷徹な殺意に、二大ヤクザのトップを張る男はあらゆる呪詛を心の中でぶち撒けながら冷や汗を流す。

 

「『泰弘會』に手出してどうなるか……」

 

「どうなるん? ジブン含めて、みぃんな死ぬんに」

 

「……『駒野組』か。幾ら積まれたんだ? その倍払って」

 

「いらんわ金なんて。傭兵やないでウチは」

 

「じゃあ一体何しに来やがった! DAG(お前ら)とは業務提携を結んだ筈だ。約束を反故にしやがって、ふざけんな! 事業を何だと思ってやがる!? おお!?」

 

「……何言うとるん? ジブンら、社会のルールも守れん屑の集まりやん。最初っから言う事聞く気も無いんに、ヘタなモンに手出すからこんな事なるんや」

 

 精一杯の虚勢に対する返答は、至極真っ当な正論と暴力を象徴する二丁の銃剣。それは虚仮威しではないと、銃弾により身体を貫かれるどころか爆散して死んでいった部下が証明している。

 人としてマトモな死に方すら許されない、怪物の牙。それが今、自分に向けられた。

 

()()()や」

 

「……つ、いで……!?」

 

「ボクらの嫌いな連中がジブンらに手ぇ伸ばしたんや。せやから、奴さん潰す()()()()街のお掃除しよう思てん」

 

「そ、そんな理由で、こんな……ふざけんじゃねえ!!」

 

「じゃ、さいなら。そうそう、『駒野組』もすぐに後を追うさかい、地獄で仲良くしーや」

 

 裏社会で生きてきた者の矜持か。遠隔一筋の殺意に反応し、咄嗟に銃を抜こうとする。

 しかし腕は既に消し飛び、衝撃と痛みが広がる頃には、上半身に幾つものクレーターが出来上がっていた。

 

「はーおもんな。やっぱ格下狩りはつまらんわ」

 

 そう吐き捨て、ゴミ溜まりとなったビルを後にする。

 外は音一つ無く、深夜に相応しい静けさが戻っていた。

 

「おう、終わったか」

 

「お疲れ様です。いやー今回は臓物沢山、ありがたいですねー。臓器移植が必要な方に届けてあげなきゃ」

 

「え、死体バラしてた理由ってそれなん? こっわ、近寄らんとこ」

 

「リサイクルの精神は大事でしょ」

 

「かかっ、やはり壊れとるのう。どうじゃ、後で力比べでもせんか? 久方ぶりに滾ってきたというのに、ちと物足りなくての」

 

「いやー遠慮します。季節外れのサンタさんしたいので」

 

「ボクも。後片付けはマスターがやってくれるっちゅう話やし、そろそろ帰るわ」

 

 この日、『泰弘會』は()()した。

 そしてもう一つの組織も、同じ運命を辿る事となる。

 

=====

 

無事に第2巻が発売されました。

番外編「とある男の末路」を含む二つを収録致しております。

メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

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