【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第182話 田中ヨルフィは恵まれているか?

 (ワタクシ)、田中ヨルフィは恵まれている。

 トライティー。軍から派生して生まれた企業、ガーランドウェポンズと双璧を成す、複数の民間企業で結成された、ダンジョン産業関連会社。

 その一つ、名新屋(なにや)を拠点とする会社の社長令嬢として生まれた(ワタクシ)は、誰が見ても恵まれていると思う。

 

『くそっ! ガーランドウェポンズめ……またウチの客を取りやがって!』

 

 どれ程利益にしか目が向かなくても。

 

『ごめんな、お父さんは今忙しいんだ。遊び相手は他の人を選びなさい』

 

 家族がいなくても。

 

『ヨルちゃん家、お金持ちなんだってねー』

 

『貧乏人の遊びなんてつまんないでしょ』

 

 どれだけ孤独でも。

 他人より恵まれた環境にいるのだから、それ以上は望んではいけない。

 (ワタクシ)は、恵まれている。恵まれているの。

 

 

 

 

 だから、幸せじゃないなんて思ってはいけないの。

 

     ◇

 

 有名な企業が数多く参列するパーティで、伽藍堂叶という人に出会った。

 彼女のお爺様が、その身一つで築き上げたというガーランドウェポンズ。日々危険な環境に飛び込んでいくダンジョンアタッカー達の為の、押せも押されぬ大企業様。いずれその看板を背負う彼女に、どこか(ワタクシ)と近しいモノを感じていた。

 だってそうじゃない? 彼女もきっと、親がいつも忙しくて会えなくて、周りからは雲上人みたいに扱われて、独りでいるに違いないもの。

 だから仲良くなれる。(ワタクシ)たちは、心に同じ傷を持つ同族だもの。

 そう思っていた。

 

『初めまして、田中ヨルフィさん。この子は私達の娘、叶です。どうか仲良くして下さい』

 

『初めまして、伽藍堂叶です。今後ともよろしくお願い致します』

 

 気品の漂う、お父様と思われる方にエスコートしてもらっている女の子。

 周囲を釘付けにして凍らせてしまう様な美貌。纏う高級なドレスさえ引き立て役にして、彼女は(ワタクシ)の前に立った。

 その時、(ワタクシ)はどういう受け答えをしたのだろう。良く覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯、伽藍堂叶という存在に、理不尽な怒りを抱えた事だけ覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パパは知り合いの人に挨拶してくるよ』

 

 優しく接してくれるな親がいて。

 

『叶には僕が付いてるから大丈夫だよ。行ってらっしゃい』

 

『お前はいらない』

 

 真っ直ぐに育った優しい兄がいて。

 

『伽藍堂さんのご家族は、皆様とても素晴らしい! いずれ国の将来を背負っていくでしょうな』

 

『それに見目も良い。是非ウチに引き入れたい程だ』

 

 誰よりも才能があって。

 

『……』

 

 なのに、アナタはつまらなさそうにしている。

 どうして? (ワタクシ)より恵まれているのに、どうして人が集まるの? 家族に愛されているのに、何がつまらないの? 私《ワタクシ》は何故、アナタより劣っている様に見えるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同類だと思っていたのに。

 愛されるのを退屈に感じている。それが、唯々憎かった。

 (ワタクシ)以上に恵まれているのだから、相応の不幸を持っていると思っていた。だというのに、彼女の周りは幸せそうな家族がいて、何かも(ワタクシ)と正反対で……。

 自分が今まで以上に酷く醜く見えて、使用人しかいない家で、涙を拭ってくれる親を待っていた。

 

     ◇

 

 恨むだけでは自分が死ぬ。だから必死に勉強した。

 学校の勉強以外に帝王学、経理……ダンジョンアタッカーの事だって学んだ。

 知識を付け、物事を理解し、成長を実感するに連れ、その度思い知らされる。

 伽藍堂叶は、(ワタクシ)のやっている遥か先にいる。その現実に何度心が折れそうになったか。

 けれど、彼女に勝てそうな所も見つけた。

 それが知名度。世間ではGWと彼女のお兄様である伽藍堂結城ばかり取り上げられ、彼女自身は知る人ぞ知る才女として扱われていた。

 ならば(ワタクシ)は、(ワタクシ)自身の知名度……ひいてはトライティーの知名度を上げる。広告塔として(ワタクシ)の知名度が上がれば、商品の売り上げも伸びる。正に一石二鳥の作戦。

 だから十五歳になってすぐ、使用人を後見人に立ててダンジョンアタッカーになった。勿論、お父様には内緒で。

 娘が危険な所に行く事に、少しは怒ってくれるかな。そんな淡い想いを抱いていた(ワタクシ)に送られてきたのは、とある映像。

 

『逃げろ! ここはもう──』

 

『きゃあああああああああああああああああああああ!!』

 

『こちらI班! 誰か! 誰か応援いなぐっがああああああああああ!!?』

 

 複数のダンジョンが同時にスタンピードを起こした、最悪の災害……通称D災。そこで戦っていたダンジョンアタッカー達の、壮絶な末路だった。

 過去に存在したどの国の軍事力をも上回ると言われる、一騎当千の超人達。そんな彼らが、成すすべもなく惨たらしく死んでいく。映像に映る誰もが、その顔を苦痛に歪め断末魔の叫び声を上げて消えていく。

 恐怖に震えながら気付いた。これは、『お前もこんな風に死ぬ事になるぞ』という、お父様からの無言の警告なのだと。

 けれど……結局、お父様自身は何も言ってこなかった。それが一番、(ワタクシ)の心を引き裂いた。

 

     ◇

 

「お、お嬢様〜……ほ、本当にやるんですか〜?」

 

「勿論! さあ、教えて頂戴な!」

 

 自分のこれまでを無駄にしたくなくて、(ワタクシ)なりに必死にトライティーのアピール方法を考えた。

 参考にしたのは、プロ野球や興業で見られる、スポンサーのロゴを背負った人達。

 だったら、(ワタクシ)がトライティーの看板娘として、SNSや各種動画サイトで宣伝するのはどうだろうか。彼女程じゃないけれど、(ワタクシ)だって容姿は恵まれているし……ぷ、プロポーションだって可能性は残ってるし?

 

「皆様、ご機嫌よう。トライティーの明日を担う事確実! な田中ヨルフィよ。今日も我が社の自慢の商品と共に、ダンジョンアタックしていくわ!」

 

“ヨルフィチャンカワイイヤッター!”

“ご機嫌ようざます”

“よるふぃーがんばえ〜”

 

 ガーランドウェポンズに勝って、トライティーの利益に繋がれば、お父様に褒めてもらえるかな。そんな理由で始めた配信活動。

 けれど、観てくれている人は意外と優しいコメントで励ましてくれる。偶に心無いコメントもあるけど、応援コメントの方が多くて嬉しくなっちゃう。このままいけば、あまにゃん様の様な人気ムーバーでも目指せちゃうかもしれないわ。

 そうして、少しずつだけれど伸びていくチャンネル登録者数にニマニマしていると、タイムラインで衝撃的な情報が飛び込んできた。

 

「なっぁ!? が、伽藍堂さんが配信を!?」

 

 そんな!? メディアに顔を出す事を嫌って、カメラにも滅多に映らない彼女が!?

 慌てて検索を掛けると、すぐに『スイッチ』というチャンネルが出てきた。

 彼女は今、ガーランドウェポンズで武器のオーダーメイドを始め、それが大好評を博している。もしやその宣伝の為に、(ワタクシ)と同じ発想に至った……!?

 また彼女の存在に喰われるのか。その不安を抱きながら、サブアカウントを作成して恐る恐る配信画面を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませんでしたぁぁぁぁああああ!!!』

 

 ……何か、男の人が土下座してるんだけれど。

 

=====

 

第2巻発売中です。メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

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