【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

183 / 185
第183話 田中ヨルフィは恵まれたい

「え、え……どなた?」

 

 混乱している。伽藍堂さんを観にきたら、知らない男性が土下座しているのだから。

 訳が分からず、別のタブを開いて最初から配信を見返す事にする。

 

「スイッチって、この方のお名前だったのね」

 

 しかも、(ワタクシ)と同じ時期にDAGに入って、もう二つ星……将来有望なんてものじゃない。見る人が見れば即戦力になりそうな逸材じゃない。

 なるほど……スイッチ様のチャンネルに、伽藍堂さんが現れたのね。とりあえず、彼女がチャンネルを作って配信を始めた訳じゃない事に安堵する。

 唯、画面の向こうの彼女は……。

 

「笑っている……?」

 

 (ワタクシ)の知る伽藍堂さんは、まるで氷の女王。漂わせる圧倒的な冷たさで全てを従え、害意が触れる事さえ叶わない、絶対零度の世界の住人。

 だが今の彼女は、陽だまりに咲く一輪の華のよう。浮かべる笑みは暖かく、同性である(ワタクシ)さえドキッとする程魅力が溢れている。

 ……あの、どちら様? 本当に(ワタクシ)の知る伽藍堂さんなのかしら?

 

「な、何がどうなって……スイッチ様とお知り合いだった訳じゃなさそうだし」

 

 そこで興味は、伽藍堂さんがわざわざ配信中に会いに行ったスイッチ様に移る。

 顔立ちは悪くない、寧ろ良い。表情が豊かで、観ていてこちらも笑ってしまう愛嬌を感じさせる。

 その配信内容は……え? 吸魔の墓でGWの新武器? しかも初出!? な、なんて贅沢な……! 

 オーバードウェポンという新たな武器を手にしたスイッチ様が、ダンジョンを蹂躙していく。

 当然、コメント欄は大盛り上がり。けれどそれは、オーバードウェポンの性能のお陰だけじゃない。スイッチ様自身の魅力も合わさっているからだ。

 

『オラアッッ!!』

 

 荒削りな戦闘スタイル、死を恐れない大胆な戦術、無邪気な子供の様に奔放なダンジョンアタック。

 観ていて飽きない……というより、次に彼がどんな行動をするのか、予測が付かない。破天荒で、人を惹き付けて止まない、天性のカリスマ。

 気付けば(ワタクシ)は、段々と彼の配信にのめり込んでいた。一緒に盛り上がって、彼のおかしな言動に笑って……。

 

「……可愛い、カッコいい」

 

 何か、おかしな気持ちが湧いてくる。

 彼の方が年上なのに、護ってあげたいと思ってしまう。変にカッコつけたりしないのに、それが却ってカッコ良さを引き出している、不思議な魅力を持つ男性だった。

 途中でまさかのあまにゃん様も加わり、何やら更に凄まじいパーティが出来ていたけれど、パーティの中心は変わらずスイッチ様。

 

「……良いなぁ」

 

 羨ましいなぁ。こんなカッコいい人とダンジョンアタックして。どうして伽藍堂さんだけ、(ワタクシ)が欲しいと思っているモノを全て持っているの? 彼女と(ワタクシ)で何が違うというの?

 モヤモヤした気分を抱えたまま、あまにゃん様と不穏な空気を醸している伽藍堂さんを睨みつけてしまう。

 ……結局、その配信は最後まで観入ってしまった。イレギュラーの出現から、スイッチ様が涙を流しながら再び奮起するまで、本当に……カッコいい方でした。

 ブラックアウトした今も、心臓が煩い程に高鳴っているのが分かる。

 

「大丈夫かしら……ああ、伽藍堂さんが付いているから問題ないと思うけれど」

 

 自分の配信すら手に付かないまま、彼の安否を心配する日々。

 おかしい。(ワタクシ)は伽藍堂さんに勝つ為に、今まで頑張ってきたのに。どうして配信で偶然見つけただけの殿方の事が頭から離れないのかしら。

 

「! 来た!」

 

『えー………ん? これ合ってる? あ、スレ民の皆さんやっほーです。スイッチです』

 

「いつも通りー!?」

 

 あれだけ人を不安にさせる終わり方させながら、どうして普通に配信始めてるのよ!? 心配したんだから!

 

「……って。あれ? お勉強?」

 

 どうして配信でお勉強なんかしているのかしら。

 ……それにしても、コメント欄の方達と随分仲が良いのね。まるで友達みたい。

 自然、(ワタクシ)もついついコメントを沢山打ち込み、彼と交流出来たらな……なんて思ってたら、コメントが読まれて反応を貰えて、これが生配信リスナーの気持ち……! と感動した。

 彼に気安く接してしまう気持ちが凄く分かる。初対面の人と容易く繋がれる包容力、どこか抜けていて放っておけない天然ぶり、気付いたら懐に入り込んでくる遠慮の無さ。

 スイッチ様は、とても……愛に恵まれている。たった数時間の配信しか観てないけれど、そんな言葉が相応しい人に感じた。

 チクリ、と。胸の中が痛くなる。

 

『この前の吸魔の墓の攻略を観てくれた人、ありがとうございました。先輩やあまにゃんさん、スレ民の皆さんのお陰で無事に終える事が出来ました。感謝してます』

 

「あ、やっとその件に触れるのね。全く……天然なのかしら」

 

 けれど、そんな痛みを消してくれるのも彼で。

 後に『スイッチ勉強シリーズ』として伝説を残したこのアーカイブで、(ワタクシ)は初めて人に笑い殺されると思った。

 

     ◇

 

 スイッチ様を知って、(ワタクシ)の配信へのモチベーションは変わった。

 誰かの為、何かの為といった言い訳を用いずとも、自分の為だけの配信をしても良いのだと勇気を貰った。

 また、新たな目標も出来た。スイッチ様はムーバー、そして(ワタクシ)もムーバー。

 となれば、コラボでしょう! あまにゃん様とも(突発的とはいえ)コラボしていたのだから、コラボ自体に抵抗は無い筈! 

 伽藍堂さんがオーバードウェポンのPRをしていたし、(ワタクシ)もトライティーとしての強みを──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『驚かせてごめんね。でも、無事で良かった……』

 

「はあああああああああああうっっ!!??」

 

 ズギュウウウウン!! という音が聞こえた気がした。

 気付いちゃったのよね。「あ、この人絶対(ワタクシ)の事好きだ」って。

 アンニュイな表情であんな事言われたら……誰だってドキッとするじゃない! もう! もう〜〜〜〜!!

 

『無事で良かった……』

 

「ああああああああああ〜〜」

 

 (ワタクシ)を労ってくれるあの声が離れない。

 本当にどうしたのかしら。スイッチ様を見つけてから、ずっと彼の隣にいる自分ばかり妄想してしまう。

 そう、家族の様に……。

 

「家族?」

 

 その時、(ワタクシ)に電流が走る。

 もしスイッチ様が家族……例えば(ワタクシ)のお兄様だったら。

 

『ヨル、どうした? また眠れないのか?』

 

『仕方ないなぁ。ほら、ここ空いてるぞ?』

 

『ご飯の時間だぞー。起きろー』

 

『行ってらっしゃい。気を付けてな』

 

「……んふふ」

 

 良い。すっごく良い。

 だったら、お兄様なんて他人行儀な呼び方は距離を感じる。ここはやっぱりお兄ちゃんとか……。

 

「きゃーっ♡」

 

 はしたないと分かっていても、ベッドの上で泳ぐのをやめられない。

 かなり前からコラボの打診をし続けて、ようやく夏休みの間に時間を貰えた。それが嬉しくて、初めて日々が過ぎ去るのを待ち遠しく感じる。

 普段のお兄ちゃんってどんな感じなのかしら。やっぱり人懐っこい? 彼の周りの方達は楽しそう。(ワタクシ)もその輪に入れるかしら。

 ……お兄ちゃんって呼んでも、許してくれるかな。

 

「んふふ……」

 

 早く会いたいな、お兄ちゃん。

 

 

=====

 

第2巻発売中です。メロンブックス様限定で特典SS「写真」を収録させていただきました。

手に取っていただけると嬉しいです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。