【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
「お、お嬢様〜……!」
「エリー! 遅いわよ!」
俺の前に颯爽と現れた少女、田中ヨルフィさんの後ろから、執事服を来た女性が肩で息をしながら走ってくる。
「はあ……い、いきなり走らないで下さい〜……! ホームは人が多くて……うぷ」
「だ、大丈夫ですか?」
ヨレヨレになっている女性を支えようとすると、すぐさま周さんが彼女に寄り添う。
「しゅ、すみませぇん……ひ、人が多い場所は苦手でぇ〜……」
「んもう! 少しは慣れたかと思えば、全然ダメじゃない! しょうがないわね。お兄ちゃ……スイッチ様、突然の失礼をお詫び致しますわ。早速なのですけれど、お車を用意しておりますので、共に来ていただけますか?」
「あ、ああはい。大丈夫ですよ」
「それと、敬語は不要ですわ。
「そうで……そ、そうか。こんな感じで良い?」
「! えへへ、ええ!」
「そろそろ良いかな?」
俺と田中さんの間に、先輩が割って入ってくる。
途端、和やかな空気がピンと張り詰められるのを感じた。
「……久しぶりだね、田中さん?」
「……ええ。お久しぶりですわ、伽藍堂さん」
あれ? おかしいな、今は夏の筈なのに背筋が寒くなってきたぞ?
というかやっぱり仲悪いじゃないですか! 最初の挨拶だけで空気が冷えましたよ!? こうなると思って何も言わなかったのに!
「伽藍堂さんは
「ああ。序でに、一緒に来た可愛い後輩と共に巡るのも悪くないかな。ところで、何故君が彼を待っていたのかな?」
「うふふ、それを聞くのは野暮ではありませんこと?
「あ?」
「ひゃああ……お、お嬢様が怖い……!」
「ですねぇ」
「ひゃあああああああ!?」
「あ、すいません。戸張照真って言います、よろしくお願いします」
二人の対峙が終わりそうにないので、執事服の女性の下へ行く。
長い前髪と眼鏡で目を隠し、自信なさげにオロオロしている。最初は周さんの肩を借りていたが、今は背を丸めて忙しなく周囲を警戒している。
……一見頼りなさそうに見えるけど、マナを宿しているな。この人もダンジョンアタッカーなのか。普段から田中さんと一緒にダンジョンアタックしてるのかな?
「お、男の子……ボボボクに!? 話しかけてる!?」
「え? はい、田中さんのメイド……執事? の人なんですよね?」
「うぇ? うぇひ……
ボディーガード? あ、そうか。確か、田中さんはトライティーの社長令嬢で看板娘なんだっけ? 危険な目に遭わない様に護衛ぐらいいいるよな。やっぱり先輩が規格外過ぎる……。
「照真さん、ボディーガードのお仕事の邪魔しちゃ駄目ですよ」
「あ、確かにそうですね。すいません」
「い、いえいえ〜お気になさらず……ってぇぇぇ!?あああまにゃん!? あの有名ムーバーの!?」
「あ、知ってもらえてて嬉しいです! ところで、ちょっと距離近いですよね?」
「ふぉわああああごめんなしゃい! ボク如き陰キャがダンジョンアタッカーの太陽に近づくなど畏れ多い事を! 大人しく離れましゅぅぅ……!」
あ、こっち来た。
……あの、ボディーガードさん? 俺が盾になってるんですけど。俺のボディガラ空きなんですけど。ホントに護衛なんですよね?
周さん、笑顔が怖いですよ? この人も悪気は無いですから。ちゃんと迷惑をかけないファンの鑑じゃないですか。
「どうしてそっちに行くんですか? 距離近いですよ? ほら、こっちに来て下さい」
「ひょわわぁ……だ、大丈夫ですぅ。こちらの男の子の方が安心出来るのでぇ……」
「周さん、どうどう。あのー皆さん、ここ駅ですから、とりあえず離れませんか?」
「あら、確かにそうですわ」
俺の声に真っ先に反応したのは、田中さんとエリー……真野さん。
真野さんは凄い勢いで赤べこの様に首を縦に振りまくっている。田中さんは、先程まで先輩と険悪な空気で睨み合っていたの止め、自然に俺の手を取る。
「初対面の男性の手を取るなんて、淑女としてのマナーがなってないんじゃないかな?」
「伽藍堂さんは、細かい所作まで良く見ていますのね。まるで小姑のよう」
「……あ゛?」
「ヒェ……あの、喧嘩はやめて? 仲悪いのは分かったから」
「ええ、存じておりますわ。ホームにいる皆様方、お騒がせして大変失礼を致しましたわ。エリー、車の用意を」
「は、はぁ〜い……や、やっと人混みから逃れるぅ〜……」
真野さんが脱兎の如く早足で歩き始め、田中さんに手を引かれていく。
そんな俺達の後ろから、何故か二人がピッタリとくっ付いてくる。
「……あの。先輩、周さん? この後の予定は……」
「実は、特に何も決めてなくてね。だから、今から宿探しなんだ」
「どうせなら同じホテルか、近い方が良いですよね。知ってる人がいると安心出来ますから」
「あら、ごめんあそばせ。彼はこの後、我が家にて宿泊してもらいますの」
「え?」
「「は?」」
◆
「さあ、お家に到着致しましたわ」
「……」
「どうかされまして?」
「……うん」
地獄の圧迫面接の様な空気だった駅を抜け出し、辿り着いたのは大きな洋風の屋敷。
……い、え? 家? 異世界の間違いじゃなくて?
開いた口が塞がらない俺を乗せ、車はナンバープレートを照合して開く門を抜け、綺麗に手入れされた庭を通る。
『お帰りなさいませ、お嬢様』
「ただいま。客室の用意は済んでるかしら」
「はい。夕食のご準備まで滞りなく」
「そう。彼は、慣れない場所で疲れてるみたいなの。すぐに休ませてあげて」
「かしこまりました」
扉を開けた瞬間、高貴な華の香りと共に使用人達総出の出迎え。
彼らを取り纏めていそうな雰囲気の老紳士が、すぐに田中さんの側に寄ってくる。
「で、ではお部屋へご案内しますぅ〜……」
真野さんが俺の荷物を受け取り、フッカフカなカーペットの上を歩いて行く。
……え、あの。これ土足で良いんですか? 俺の靴で汚して罰金とか無いですよね?
恐る恐る、抜き足差し足で廊下を歩く。横にも縦にも広い廊下を歩いて行くと、メイドさんが幾つもある扉の一つで待っており、恭しく頭を下げる。
「ようこそおいで下さいました。本日はこちらでお寛ぎ下さい」
中に通されると、それはもう広い部屋。天蓋付きのベッド、庭を見渡せるバルコニー、使う事を躊躇う豪奢な家具の数々。
「ご不便がございましたら、控えている私共にお声がけ下さいませ」
「そ、それでは失礼しますぅ〜……」
テキパキとベッドメイクと荷物を整え、部屋から出て行くメイド達。防音機能も高いのか、扉を閉めた途端無音の世界が出来上がる。
ぽつんと一人、小さな異世界に取り残された俺は、とりあえず自分の荷物を抱きしめる。
「……スゥー……」
いや。いやいやいや。
社長令嬢なのは調べたらから知ってるよ? けど、こんな家に住んでるとは思わないじゃん? 確かに、切符用意されてるのにホテルの予約はされてないのかなーとは思ってたよ? それをこんな形で裏切ってくるってある? まあ自分の家に泊めた方が安く済むもん、気持ちは分かるよ。
けどさぁ……!
「……や」
休めるかあああああああああああああああ!!? こちとら出自が貧乏なんだよぉおおおおおおおおおお!! どれもこれも怖くて使えないんじゃああああああああああああ!!!
俺の魂の叫びは、残念ながら自分の鞄と心に吐き出すだけに終わった。床に唾とか飛んだら怖いし。
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