【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
どうも、植木屋です。今、『捜星』メンバーでの会議をしています。
議題の内容は、これまで行ってきた粛清の事後処理や今後の『捜星』の活動がメインのようです。
「先日潰したヤクザについて、駒野組や泰弘會の下部組織、それと海外のマフィアなどが次の後釜を巡って水面下で抗争が起きているようです」
「ならわしが赴こうかの。ナリが子供であれば、警戒もされんじゃろ」
「
「そのまま残しておきましょう。現在の闇ルートの流通に規制をかけると、他の所から漏れてしまいますから。それに、ヤクザ者は人が関わる商売に顔が広いですから、そのコネを潰すのは勿体無い」
「でしたらブツの管理は私が致しますわ! 表の人脈も合わせて、裏社会に根を張って差し上げますわー!」
喧々諤々とまではいきませんが、全員最初にあった硬さは消えてますね。やはり、スイッチ君の掲示板を見てる事を開示したからでしょうか。
彼の立てるスレッドには、時々気軽に現れてはいけない大物が来ます。それでいて、変に偉ぶる訳でもなく普通に掲示板の住人と交流しているので、良い意味で期待を裏切られる人が多いみたいですね。
そんなネットの掲示板に、伽藍堂さん……マスターが興味を示したのです。誰もが心の底で、『捜星』とは別枠の仲間意識が芽生えたのではないでしょうか
「蟲の知らせによりますと、上層部は使える駒が減ってきた事と、網走の暴走のせいで警戒心が高まっています。近いうち、三つ星以上のダンジョンアタッカーに高額で護衛の依頼を検討しているそうです」
「フン、今度は無知の奴らを抱き込むつもりか。そういえば、結局羽場童剛はどうなんだ?」
「クロ寄りグレーの印象」
「羽場さんとは面談を行いました。彼は現在の牙とは無関係でしたよ」
「……あの男、東城に来ているのか」
「はい。まもなく上層部からコンタクトが来ると思いますよ」
人間、一つの共通点があれば自然と警戒を緩めやすくなるもの。物怖じする事なく会話が出来ているので、会議は滞りなく進んでいます。
もしこれを狙ってやったのであれば……いえ、この方ならやれそうですね。私のかつてのリーダーとは違った意味で、人心掌握に長けていますから。
唯、そのせいであまり会議に集中出来ていない人もちらほら。あ、眠そうな目をしたフリをしながら片手でスマホを操作する人がいますね。黒木さんでしたか、私の位置からはバレバレですからね。多分マスターも気付いていると思いますよ。
「あ、あの……コテハンの変更って……」
「駄目ですよ。責任を持って管理して下さいね、お義兄さん僕に妹さんを下さいさん?」
「ヒュッ──」
「ブッハ! アカンわろてまう。止めてーや、珍しく真面目に話聞いとんのに」
ここまで一時間程。特に認識の食い違いや新しい問題が発生しないので、全員集中力が切れかけてますね。
まあ、ここにいる殆どは長々と椅子に座って会議する社会とは無縁の世界にいる人達です。隣にいる鬼熊さんなんか、先程から貧乏ゆすりが止まりません。ストレスが限界のようですね。
「他に何か、議題のある方はいますか?」
途端、オフィス内が無音と化しました。
慣れない座りっぱなしの頭脳労働で疲弊しているのが半分、他の事が気になって会議が頭に入らないのが半分といった感じでしょうか。
この場でマスターに意見の申し立てをする人はいません。
「では、これで会議を終わります。後ほど、要項を纏めて掲示板に載せておきます。今日はありがとうございました」
「お疲れっした。じゃ解散」
いの一番に黒木さんが抜けました。あれはスイッチ君の掲示板に乗り込む気満々ですね……。
私ですか? 別に気になりませんよ、彼の事は
黒木さんを皮切りに、皆さんゾロゾロと立ち上がり始めました。
「お疲れサン。ぼく観光でもうちょい東城おるから、何かあったら声掛けてーなー」
「全く、老体を顎で使いおって」
「……ここに雁首並べている時点で、同じ穴の狢だろう」
「分かっとるわ! 年甲斐も無く肉体が疼くのよ!」
「身体が鈍っちまうな。これからダンジョンアタックするが、お前はどうする?」
「私は最後にのんびり出ますよ。この足ですから」
鬼熊さんに別れを告げ、皆さんの帰りを見送ります。
後に残ったのは私とマスター、亜継さんのみとなりました。
「……さて。まだ何か、僕に聞きたい事があるんですね」
「……気付いていたんですね」
マスターは本当に年下なのでしょうか。
恐ろしい方だ。まだ何もアクションをしていないのに、私の目的を看破しているなんて。あまりの完全無欠ぶりに鳥肌が立つのを抑えられません。
……そう、完全無欠の完璧主義。冷徹にして人の心を操る合理主義者。
「会議で話題に出さなかったのは、僕が他の方々からの反感を買う事を恐れてでしょう? 現在の『捜星』からは逸れていますから」
ああ、私の聞きたい事まで分かっているんですね。
そこまで分かっていながら、私の口から言わせようとするなんて、性質が悪いどころではありません。悪魔ですよ。
口の中が一気にカラカラになります。唾液の代わりに、汗が滲み出てきました。
「……では、単刀直入にお聞きします」
「はい。どうぞ?」
「網走の脱走を手引きしたのは、貴方ですか?」
最大級の警戒を室内に張り巡らせました。
マスターは何も変わりません。いつもの様に美しい笑みを浮かべたまま、私を見つめています。
しかし、亜継さんだけは私の言葉を聞いた時、一瞬だけ動きが止まりました。
答えというならば、これ以上のものは無いでしょう。
「植木屋さん。まず、その考えに至った理由を聞いても良いですか?」
「……網走がニュースで指名手配になった時です。あれは私達が暴力団を排除した深夜、その数時間後でした。あまりにも手際が良すぎると思ったんです。しかも臨時ニュースという形にして、暴力団の件は有耶無耶にされました。まるで、こうなると分かっていたようです」
ここまで喋った時点で、私の中に別の違和感が持ち上がってきました。
「そして、そんな事が出来るのは……」
……もし。いやまさか。
もしかして、私はとんでもないやらかしを──。
「素晴らしい。そこから僕を疑い始めるなんて」
拍手の音で、ハッと我にかえりました。
マスターは穏やかな笑みで──胸中はまるで定かではありませんが──私を称賛しています。
ですが、私はその賛辞を素直に受け取る事が出来ませんでした。
「み、認めるのが早いですね……」
「特に隠す必要もありませんから。違和感を持つ人は一定数いるとは思ってましたよ。時に植木屋さん、貴方は鬼ごっこをした事はありますか?」
「……はい?」
あまりに突飛な質問に、首を傾げてしまいます。
鬼ごっこ? マスターの口から子供の遊びが出るのは、凄い違和感ですね。
「ふふ、そんなに考えないで下さい。簡単な質問ですよ」
「……それはまあ、ありますが」
「鬼ごっこやかくれんぼをする時、殆どは一人が多人数を追いかけます。その時、狙われてない子供はどうすると思いますか?」
「……話が、良く」
「答えは、『捕まりやすい場所に身を晒す』です。だって鬼ごっこに参加してるのに鬼に追いかけられないんじゃ、
全身から冷や汗が止まりません。言葉や口調は優しいのに、まるで真綿に首を絞められているかの様に呼吸が苦しくなってきました。
見えやすい位置にあるからと、軽率に深淵など覗き込むべきではありませんでした。
彼の深淵は、私にはあまりにも……。
「網走は良い餌ですよ。従順で、自分が自由だと思い込み、勝手に動いてくれる。引っ掻き回された場所の後片付けは、他の方々が請け負ってくれますから」
「……貴方という人は」
「『捜星』のメンバーは必死に網走を捜索しているでしょう。僕だったら、終電の新幹線にどうにか張り付いて、名新屋辺りまで逃げますね。あそこは様々なダンジョンがありますから、潜伏も容易です」
「……ッ!」
最初から、掌の上だったという事ですか。
網走の暴走も、上層部の対応も、私にこれを
「……もし本当に、魔王なる存在が現れるとするなら。私は、スイッチ君ではなく貴方こそが相応しいと思いますよ」
苦し紛れの、せめてもの負け惜しみ。
怒りよりも恐怖が勝る私の言葉に、彼は表情一つ変えず頷きました。
「ええ、僕もそう思います」
……気付けば、私は公園のベンチに座っていました。
身体がダルい……普段ダンジョンアタックする時でさえ、ここまで疲れないのですが。
「……」
日差しが暑い……ですが、指先まで冷たくなる様な絶対零度の微笑みに比べれば遥かにマシです。
嗚呼なるほど、これが天才を間近で見る絶望ですか。視座が違い過ぎて、最早笑いすら起きませんね。
鬼ごっこ……あの発言の真意は、そういう事ですか。
彼は暗に告げたのです。DAG上層部や『牙』だけでなく、私達にも。
『もう全員、逃げられませんよ』
「……誰も勝てませんよ、あんな化け物」
勝って兜の緒を締めよ。言葉で表すのは簡単ですが、そんな生易しいものではありません。
誰かが勇み足をしたり功を焦ったりといった、致命的なボロを出した瞬間、彼は本気で
そうならない様に、自分と周囲を諌めよ。あの恐怖の時間は、私にそこまで理解させる為の芝居に過ぎなかった訳ですか。
「アレを怒らせてしまった相手に、改めて殺意が湧いてきましたね……」
或いは、私がこういう思いを抱く事も含めて、あの方の思惑通りなのでしょうか。
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