【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
「戸張様、お休みのところ失礼致します。お食事の用意が出来ましたので、お迎えにあがりました」
「ん、ぅ……?」
遠くの方で何か聞こえる。人の声と、軽い物を叩く様な……。
「……ハッ! 今何時!?」
ベッドのあまりの気持ち良さで、俺は夢の世界へ旅立っていたらしい。
慌てて飛び起きてスマホを確認する。時計は「18:00」を示してる……俺がここに来たのは確か午後の一時くらいだったから……え!? あれから五時間も寝てたのか!?
「お、おお……」
手が震える。これが高級ベッドの力……身体が吸い込まれそうになる柔らかさに、邪魔にならない程度に優しく跳ね返してくれる弾力。ホテルのベッドとは比べ物にならない高級感だ……!
「戸張様? 何かございましたでしょうか?」
「え!? あっ、大丈夫です! 何ですか?」
「失礼致します」
自分の状況に驚いている間に、メイドさんが部屋に入って来る。
……最近、メイドさんによく会うなぁ。二人程メイドというか、メイド喫茶で働いてそうな人はいたけど。
寝起きなのに現実味が無さすぎる。まだ夢の中にいるって言われた方が信じられる状況だ。
「お食事の用意が整いました」
「お食事……?」
「はい。お嬢様と共に召し上がっていただきたく。勿論、こちらでお食べになっても構いませんが、如何致しましょう?」
「えっ。いやいや! 流石に悪いですよ」
ここまで凄い部屋を、食べカスなんかでこれ以上汚したくない。
という事で、メイドさんと一緒に再び広い屋敷を歩いて行く。
……うん、もうカーペットとかどうしても汚しちゃう物は考えないようにしよう! 仕方ないもん! その代わり、所々に置かれてる絵画や壺には絶ッッッッッッッッ対に触らないと誓う。
「お待ちしておりましたわ、戸張様」
「あ、うん」
ホールみたいな広い部屋の中央には、巨大なテーブル。その前で俺達を待っていた田中さんは、嬉しそうに破顔して近づいてくる。
「今日は貴方様の歓迎を祝して、少しばかり豪勢なお料理にしてみましたの」
「あ、うん。そうなんで、だ……」
彼女に手を引かれ、メイドさんが引いてくれた椅子に座り、その隣に田中さんも座る。
ううん、割り切ってても、このいたせり尽せり感は……身体がムズムズするな。
緊張を紛らわそうと辺りを見回してみる。壁に執事とメイドさんが整列しており、俺達に視線を向けない為なのか、顔をやや下にしている。あ、真野さんもいる。手を振ってみると、慌てたように何度もお辞儀が返ってきた。律儀な人だなぁ。
……ん?
「戸張様、どうかされまして?」
「え? ああ、その……父さ、ご両親はいないのかなって」
「ああ……母は
「あ、その……ごめんなさい」
「気にしないで下さいな。もう慣れましたので」
俺の失言に、彼女は笑ってくれる。心なしか、その笑みはどこか寂しそうに見えた。
いや、この家の異世界感に気圧されて、肝心な事に気付いてなかった。ホントに悪い事聞いちゃったな……あ、だから俺をお兄ちゃんって呼んだのかな? アレも、彼女なりに家族がいない寂しさを紛らわせる為の手段だったのかもしれない。
「えっと……この家にいる間は、お兄ちゃんって呼ぶ?」
「!! 良いんですの!?」
「うん」
家族のいない辛さは痛い程分かる。けど、田中さんには父さんがいて、帰りを待つ事が出来る。まだやり直せる機会はあると思うんだ。
家族の代わりなんて烏滸がましい事は言わないけど、少しでもその心の傷が癒えるなら……。
「……えへへ。ありがと、お兄ちゃん。それなら、
「ん? じゃあヨルフィで」
「ええ!」
田中さん……いや、ヨルフィの顔が綻ぶ。無理して浮かべたものじゃないと分かるそれに、俺もほっとする。
先程まで浮世離れしていた少女が、親近感を増した様子で椅子を詰めてくる。
「お兄ちゃん、何か困ってない?
「あー……それなら助けというか、お願いがあるんだけど」
「ん?」
「ここにいる皆さんと一緒に夕食にしませんか?」
ザワ、と使用人達の空気が揺れた。
しかし、誰一人口を挟まず、若干緊張を孕んだ気を俺達に向けてくる。
……え? 何? 何かしちゃった?
「いやあの、俺こういう空気慣れてなくて。折角のおもてなしなら、近くで見守られるよりも一緒に食事を楽しみたくて……」
「ふふ、大丈夫。分かってるわ。皆、聞いたわね? テーブルを増やして頂戴」
『かしこまりました』
その言葉を言うや否や、全員が一糸乱れぬ動きで動き出す。
俺が何か手伝おうかと身体を動かす前に、あっという間に全員分のダイニングテーブルが出来上がっていた。
「お、おお……!」
「それじゃ、皆で夕食にしましょう。料理を運んで頂戴」
「あ、それなら俺も」
「お兄ちゃん。ここはホストの
「あ、うん」
ストン、と椅子に座り直す。
……確かに、ゲストにも礼儀ってあるんだよな。大事な事なんだけど、混乱して自分しか見れてなかった。反省しないと。
何度か深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。うん、今はちゃんと料理を楽しもう。皆さんの好意を無碍にしたくないし。
良い香りを漂わせる一品が、次々と出されてくる。
全員に料理が行き渡り、それぞれが食前の礼をした所で、俺も近くの料理を口に運び始める。
……うっまぁ。いや美味い、ホントに美味しい。言葉では言えない様な旨味の暴力が口の中で暴れ回っている。
凄い。正直、どんな味か分からなくなるかと思ってたけど、全然そんな事ない。凄い食べやすい。
これどんな調味料使ってるんだろ。家で作れるかな。羽場さんにも食べてもらいたいな……ところであの人、ちゃんとご飯食べてるよね?
「お兄ちゃん、あーん」
「ん、あーん……うわ、これも美味い」
「えへへ、でしょ?」
「じゃあ俺はメイドさんに」
「えっ? と、戸張様……?」
「はい、あーん」
「あ、あー……」
恥ずかしそうにしながら、メイドさんは俺のスプーンから料理を食べてくれる。
「美味しいですよねぇ」
口元を押さえて顔を赤らめながらも、コクコクと小さく首を縦に振ってくれた。
「お兄ちゃん!
「ん? ああ、はいあーん」
「あーん」
ヨルフィにもお返しをする。周囲からの生暖かい視線と笑みが送られてくる。
そこからは、粗野になり過ぎない程度に賑やかで穏やかな食事が続いた。
メイドさんの話によると、主人と使用人は同じ部屋では食事をしないらしい。距離の近い関係だと、主人を舐めてかかる使用人が出てしまうから、と執事さんが教えてくれた。
へー、なるほど。そこまで気が回らなかったな。俺はやっぱり、皆で食事を楽しめる方が好きなんだけど、上に立つ人達はまた違う感覚なんだな。
あ、でもコックさんは『久しぶりにこっちまで声が届いて嬉しくなった』と言ってくれた。オマケに少しだけレシピを教えてくれるみたいだし、後で聞きに行こう。
「ご馳走様でした。ホントに美味しかったです」
「勿体無いお言葉、感謝致します」
「お兄ちゃん、本当はコラボの件とか色々話したいんだけど、
「んー……確かに。初めての事ばかりだから、今日はもうゆっくりしたいかな」
「うん! お兄ちゃんを浴場へ案内をお願いね」
「かしこまりました」
執事さんに案内され、浴場に向かう廊下を歩く。
……田中ヨルフィ。凄い子だな。
この屋敷の実質的な主人。まだ中学生の筈なのに、俺よりずっと礼儀や対人関係を弁えていた。
自分より年上の使用人に対する物言いも堂に入っている。伽藍堂先輩の様な、主従関係を理解している人間のそれだ。
この執事さんの言動も、嫌々やっている訳じゃないのが分かる。主従関係を理解した上で、信頼が構築されていると一目でこちらに伝えてくるみたいだ。
「……凄いですね。ヨルフィ」
「ありがとうございます。是非、それをお嬢様に直接お伝え下さいませ」
「あはは、そうですね」
……もしかして、初対面で抱きついてきたり、お兄ちゃんと呼んできたのも、彼女なりにどんなコミュニケーションを取れば良いのか悩んだ結果なんだろうか。
彼女がどんな立場であろうと、まだ中学生なんだ。色んな視線に晒されて、甘える隙も無かったのかもしれない。それこそ、部外者である俺に癒しを求める程に。
……お兄ちゃん、か。
「……せめて、ヨルフィを満足させれる兄にはなりたいですね」
「録音完了しました」
「執事さん???」
録音完了って何? ちょっとそれ貸して……いや消すだけなんで、この……ちょっ、あっ壺を盾にするな! 卑怯だぞ!
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