翌朝、キラとシンはルナマリアに正座させられていた。
「あ、あの……ルナマリア? 僕達、何かやらかしたかな……」
「配信切り忘れたからじゃないですか?」
「あ、そっか。ごめんね」
「違います! それもあるけど!」
つい呑気に配信を見入ってしまっていたが、改めてどんな配信をしていたかを思い出すと困る。こいつら、他人の名前をガンガン配信中に叫んでいた。
「人の名前を配信で言わないでください! 百歩譲って言うにしても、せめて彼女とかそんな発言はやめて!」
「そんなこと言ってましたっけ?」
「言ってたわよあんたが! このバカシン!」
記憶力まで大雑把なの、なんとかしていただきたい。
「でも、俺隊長に最後勝ったからさ、許してくれよ」
「あんたのゲームでの勝敗と、私の名前全世界に配信になんの関係があるのよ!」
「あ……ま、まぁないけど……」
「ほら、見なさいよこれ!」
そう言いながら、ルナマリアは端末の画面を差し出す。そこには大量のメッセージが届いていた。シンにとっても見覚えがある名前のあたり、元アカデミーの面々だろう。
『あんたシンと付き合ってたの⁉︎』
『あのガキのどこが良いの⁉︎』
『ひどい! あたしとは遊びだったって言うの⁉︎』
『それともまさかショタコン?』
『どこまで行った? もう襲われた?』
まぁ言いたい放題だった。同級生と思われる女子から質問攻めにあっていて、ルナマリア自身、割と涙目である。
「な、なんだよこれ⁉︎」
「あんたが蒔いた種でしょうが!」
「そ、そりゃそうだけど……てか、なんでこいつらオレがルナを襲ったこと知ってるんだよ⁉︎」
「ちょっと待ちなさい! それどういう意味⁉︎」
初耳も良い所である。まさかこの男、可愛い顔と性格をしておいて、自分が寝ている間に部屋に忍び込んだとでも言うのだろうか?
「襲ったって何よ! あんた私が寝てる間に何かしたの⁉︎」
「いや、ルナ起きてたよその時」
「はぁ⁉︎」
記憶にない。付き合い始めて3年くらい経つけれど、そう言う雰囲気なったことすらない。
もしかして……イキって酒でも飲んだりとかしたのだろうか? それなら記憶になくてもわからなくないが……。
「ほら、一年前、オレと隊長達とでミレニアムハイジャックした時あったろ? それでルナの背中にハイジャック犯のフリして銃を向けたらぶん投げられた……」
「襲われたけど! 確かに襲われたけど‼︎」
そういう襲うじゃない! と頭を抱える。あの時は本当に心臓が口から飛び出るかと思った。ハイジャック犯に背中を取られたからではなく、シンが無事だった事が本当に嬉しすぎるサプライズで。
……そして、それと同時に人に散々心配かけさせておいて、第一声がハイジャック犯の真似事だった事も徐々にイラついて来た。
「シンのバカ! ほんとガキ!」
「き、急になんだよ⁉︎」
「待って、シン。あの時『オレはルナに会いに行きます!』って言ってそんな事したの?」
「え? あ、はい」
「それはダメだよ。心配かけさせたんだから」
「……す、スミマセン……」
隊長にも怒られ、完全に凹んでしまった。でも自業自得である。
だが、空気に流されるようなルナマリアではない。そもそもこの隊長も今は怒られる側だ。
「とにかく! 個人名を出すのは控えてください! 良いですね?」
「はーい」
「ごめんね」
と、いうわけで、話はおさまる。とりあえずお説教は終わったので、そのまま今日の任務に移る。
さて、今日は昨日の演習で気になった「地形の利用」についてキラの方から隊員へ軽く講義のようなものを行う。
×××
「……はい、以上です。じゃあみんな、後は各々休んでて」
「「「はい!」」」
アグネス、ルナマリア、シンが返事をして、会議室で立ち上がる。
そんな中、アグネスがキラに声を掛けた。
「ヤマト隊長」
「何?」
「次はなんのゲームやるんですか?」
「え? またスマブラのつもりだけど……」
「えっ、まーた同じゲームやるんですかー?」
「ダメなの?」
少し困っている様子を見せるキラを見て、当然のようにシンはアグネスを睨む。キラが困っていたら、とりあえず売るのがシンだ。
「おい、アグネス。別にスマブラだって良いだろ。隊長が言ってるんだから」
「はぁーあ、相変わらず何も分かってないのねーシンは。そんなんだからいつまで経ってもルナマリアの気持ちも理解出来ないのよ」
「な、何⁉︎」
名前を出されたルナマリアは巻き込まれないように自分の爪に視線を落とす。
その横でアグネスはそのままシンに言った。
「シリーズものでもないのに同じゲームを何度もやったってマンネリ化するだけよ。特に昨日の配信、初回だったから許されたけど、シンが隊長にボコボコにされるだけの配信だったじゃない。ガチの説教込みで」
「うぐっ……!」
それはその通りだ。シンも言い返せないのか、奥歯を噛み締めている。
「特に隊長達はゲームをやりたくて実況をしてるんじゃなくて、あくまでも広報のための実況ですよね。なら、有名なゲームを複数種類やった方が良いと思いますよ」
「なるほどね……確かにそうかもしれない。シン、何か他にゲームある?」
聞かれたシンは、顎に手を当てながら席に座る。それに伴い、アグネスも何故か座った。
え、これまだ部屋に戻れない流れ? と、ルナマリアは眉間に皺を寄せた。
「そうですね……ルナ、オレ達あと何のゲームしてたっけ?」
「え? えーっと……そうね。マリパ、マリカー、桃鉄……とか?」
「じゃあ、次はルナとアグネスも一緒に桃鉄やりましょうよ!」
「「えっ」」
「うん、面白そうだね」
ルナマリアどころかアグネスも固まった。普通に絶対嫌だ。
「アグネスはともかく……私もやるの⁉︎」
「ちょっと! なんであたしはともかくなのよ!」
なんで問題発言しかしない人たちと実況なんてしなくてはいけないのか。アグネスは他に個人でチャンネルを立てているし、絶対面倒くさい。
「だってアグネスは配信もうやってるじゃない。実況の先輩として一緒にやってあげなさいよ」
「あ、あんたこそシンが出てるのに彼女は嫌がるわけ⁉︎ 一緒に付き合ってもあげないとか冷たい彼女!」
「あんたこそ今だって指導してもらってるのに自分が指導するのを拒否するとか冷たいじゃない!」
「はー⁉︎」
と、少しずつ口喧嘩に花が咲く。当然、そんな反応を見れば、どんなに鈍い奴だって嫌がられていると分かるわけであって。
「……そっか。二人とも僕とゲームは嫌か……そうだよね、一人だけ年上だもんね」
「えっ……いや」
「あっ……その」
「おい、二人とも隊長のことそんな風に思ってたのか⁉︎」
面倒臭い子が食いついて来てしまった。そんな風に言われると、二人としてもちょっと断りづらい。いや、まぁ正直、キラとゲームをやること自体は嫌じゃない。昨日だって、オフレコだとしたら楽しそうだったから。
だが……せめて二人がもう少し実況に慣れて来たらにしてほしい。その為、アグネスの経験が活きた。
「も、もう少し二人でやってみたらどうですか?」
「もう少しって?」
「あたしもルナマリアも隊長とゲームはしたいです! でも、まだ視聴者の方々に顔を覚えられたばかりなのに、すぐ人を増やすのはかえって覚えられにくいんじゃないかなって思うんです!」
懸命にそれらしいことを捲し立てる。ここにいる実況経験者がアグネスだけで助かった。
「なるほど……?」
「だからもう少しシンと二人でやってみて、シンキラが視聴者に浸透して来たらパーティゲームをやる時だけ人を増やしてやるとか!」
さりげなく「常に呼ぶのはやめてほしい」とも付け加えた。ルナマリアも気付いていたが、だからこそ聞き流した。
すると……キラは穏やかな笑みを浮かべて小さく頷いた。
「うん、分かった。アグネスがそう言うなら、僕もそうした方が良いと思う」
「っ……そ、そうですね……」
ダメだ、この隊長の言い方、とても狡い。今でこそ、スペックを度外視してもこの人を好きになる人の気持ちが分かってしまう。
「じゃあ、シン。どうしよっか、ゲーム」
「あ、そうですね。どうしましょうか」
「昨日の配信見た限りだと、シンが隊長にボコボコにされるのが面白い配信ですし、また対戦ゲームにしたらどうですか?」
「いや、悪いけど次はオレが隊長をボコボコにしますから!」
すごくシンは鬱陶しいが、それはスルーして話を進めるアグネス。
「他には、逆に協力ゲームとかですね。二人で協力してステージをクリアする挑戦系のものも良いと思います」
「そんなのもあるんだ」
「マリオとかですね」
それはそれで良いかもしれない……が、この二人がCPU相手に苦戦する未来は全く見えないので、割と作業的になるかもしれない。そう思うと、やはり対戦ゲームだろうか?
「まぁ……おすすめは、マリオとかですかねー。簡単だし。……あーでも、協力ゲームだと基本ストーリーがあったりするし、そうなるとシリーズものになっちゃったりするかもなー」
「そういうもの?」
「はい。初見プレイって割とクリアまでやるものですし。やっぱり協力より対戦の方が良いかも?」
「対戦……あ、じゃあマリオカートとか?」
「良いんじゃないですか? シリーズものやるなら、もう少し後とかでも良いと思います」
「なるほど……シンは?」
「オレもそれで良いですよ」
「じゃあ……次はマリオカートで決まりだね」
そんなわけで、マリオカートをやることになった。
×××
うーん……と、キラは少し悩むように席について顎に手を当てる。どうにも、実況をやると言っても簡単なことではない感じだ。
いや、決して侮っていたつもりではないが、これ一つとっても戦略となるものがある気がする。
どうしようかな、と思いながら、たまには他の実況者の動画を見てみることにした。あまりゲーム実況に興味はなかったけれど、こうなると嫌でも出てくるというものだ。
パソコンで動画サイトを開き、カチカチとマウスを動かす。配信者、と一口に言っても、本当に色々と配信内容があるものだ。
「ゲームだけじゃないんだ……」
釣り、キャンプ、手品、ドッキリ、オリジナルアニメ、漫画の感想や考察、カードゲーム……などなど、様々だ。また、生放送とは限らず動画にしているものも多い。
「動画、動画か……」
それはそれでアリな気がする。MS解説? いや絶対ダメ。性能や兵装をばらしてどうするのか。
……と、そこで見つけた。切り抜き動画、なんてものもあるらしい。生放送は約二時間やったが、それらの見所を編集して繋ぎ合わせた動画のようだ。
確かに、アーカイブを何時間も見ていられない人もいるだろう。そういう人のためとも言える。
「うん……まぁ今後より、先にこれやってみようかな……」
そう呟いて、パソコンのデータをいじろうとした時だ。コンコン、とノックの音が響く。
「あ……はい」
「ハインラインです」
「どうぞー」
入って来たのは和天才技術大尉のアルバート・ハインラインだ。彼にはいつも助けられており、キラとしても尊敬する所が多々ある。
「お疲れ様です、ハインライン大尉」
「失礼しますヤマト隊長。昨夜の配信はお疲れ様でした」
「いえいえ、僕らもオープニングアニメーションを無理に作らせてしまい、申し訳ありません」
「問題ありません。最近はミレニアムも出撃回数が減り時間が空いていましたので」
挨拶をしながら何かタブレットを持っている様子なので、椅子を用意する。何かデータが入っているのだろうと予測し、話が長くなると見切った。
「お茶、飲まれますか?」
「いえお構いなく。用事は至ってシンプルですし時間がかかるものでもありませんので」
そう言いながら、用意した椅子に腰を下ろすアルバート。そして、タブレットの画面を見せた。
「そろそろ昨日の配信動画の切り抜き動画が必要になるとご判断される頃だと思いましたので勝手ながら作っておきました。確認をお願いします」
「わ……ありがとうございます」
ありがたい……というか、たまにこの人の推測の的中率が少し怖いまである。だが、これくらいのことをしてくれるから戦場では助けられることも多い。
そのタブレットを受け取り、動画を見ようとしたがアルバートは既に部屋の外に出ていた。
「では私はこれで。何かございましたらいつでもお呼びください。失礼致します」
「あ……はい」
そのまま別れた……が、一緒に見てくれないんだ、と思ってしまったり。まぁ確かにそう言う人ではないので仕方ない。
さて、それよりも……せっかくならシンと見た方が良いだろうか? 一緒に配信している相棒と呼べる相手でもあるわけだし。
……いや、さっきの講義のレポートをまとめている頃だろうし、後にした方が良い。
でも作ってくれたものは早めに見なくては。どうしようかな……なんて思っていると、端末に着信が入る。
『こんにちは、キラ』
「ラクス。どうしたの? こんな時間に」
彼女の予定を全て把握しているわけではないが、時刻はまだ昼前。ラクスは忙しい時間だと思っていた。
『いえ、会議の時間が少し早めに終わったものですから。……これも、もしかしたら平和のお陰かもしれませんわね』
「そうなんだ……ふふ、そうだと良いね」
こうしてゆっくりと話をする機会というのはとても心地良い。余裕のある時間、というのが増えて来たのは、確かに平和を実感させられる。
まぁ、要するに雑談したかったのだろう。それならば、こちらもちょうど良かったかもしれない。
「じゃあさ、ラクス。ちょっと一緒に見て欲しいものがあるんだ」
『なんですか?』
「昨日の配信をハインライン大尉が切り抜き動画? って言うのにしてくれたんだ。良かったら、一緒に確認してみない?」
『それは是非、お願いしますわ』
「じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って、通話の形態を変える。ビデオ通話にして、端末の動画をパソコンに送って……などとカチカチとマウスを動かし、ラクスの顔と動画を同時に見られるように設定した。
「動画、見えてる?」
『はい』
「じゃあ、始めるね」
そう言って、二人でのんびりと動画を見始めた。
こうして見ていると、中々自分の実況動画というものの拙さが見えて来る。配信であることを忘れるのは良くない気がするし、トークもほぼシンが叫んでいるか、自分が説教しているだけ。
……だが。
『あら……ふふっ。もう、キラったら……大人げないですわね』
ラクスは微笑んでいる。控えめとはいえ、自分の動画で笑いを漏らしている。ラクスを笑わせてあげることも出来ないと嘆いたこともあるけれど、こういう笑わせ方もあるんだな、なんて少し嬉しく思ってしまった。
いや……ラクスだけではない。昨日の動画で、もしかしたらこんな風に笑ってくれている人は多くいたのかもしれない。戦争の爪痕が薄れる世界が、笑顔に包まれるならばそれに越したことはない。
「……」
決めた。もう少し実況、頑張ろう。切り抜き動画も作って、もう少し工夫をして、色んなゲームをやってみて、なんならゲームに囚われることなく色んなものに手を出してみて。
それこそ、動画ならば軽い慰安も兼ねて隊員達とキャンプも面白いかもしれない。極東の島国は、フリーダムの新たな武装である刀を生んだ国であると言う。
そこは観光名所も多いし、何ならもうみんなで社員旅行的なことしても良いかもしれない。
なんて考えている時だった。ラクスの表情が少し変わっていた。少し膨れっ面になっている。
『キラ?』
「な、何?」
『私もキラとゲームしたいです』
「……へっ?」
何か怒らせちゃったのかと思ったら、なんか可愛い駄々をこね始めた。
『そういえば私、キラとゲームなんてやった事もないです』
「え? あ……そ、そうだね」
『こんな風に私もキラと年相応にはしゃいでみたいですわ』
「うん……じゃあ、今度帰る機会があったらやろうか」
『はい。楽しみにさせてもらいます』
ラクスはどんなゲームが好みかな、なんて考えながら、のんびりと実況を眺めた。
×××
基本的に頑張り屋でキラの役に立ちたがりなシンは、次のゲームであるマリカーに備えて練習を始めたい。
だが、仮にもMSのパイロット。それもデスティニーの、だ。相手がCPUでは相手にならない。
だから、練習相手が欲しいのだが……。
「ルナ、なんか機嫌悪いんだよなぁ……」
今頃、自室にいるであろうルナマリアを思い浮かべて、ため息を漏らす。何故かは分からないが……いや、分かるけれど。
何にしても、隊長のためにもこのままなのはマズイ。何とかして、仲直りした上で練習に付き合ってもらわないと。
その為にも、自分には良い伝手がある。
「もしもし、メイリン?」
『……あ、シン? どうしたの?』
「ルナが機嫌悪いんだけど、どうしたら良いかな」
妹に聞けば、その辺もわかるだろう。最近こそ一緒にいる時間はシンの方が多いが、生まれながらに一緒にいる妹にルナマリア情報で勝てるとも思っていない。
『もー、また何かしたのー? ……あ、ていうか昨日の実況で名前とか彼女とか言ったからでしょ』
「そうなんだよ。一応、説教で隊長は許されたのにオレにはなんか怒ってるみたいでさー」
『え、それ……』
「お、何。なんか分かる感じ?」
『いや別に……』
何かピンと来たのではないのだろうか? と思ったのだが、はぐらかされる。
『私にはよく分かんないから、他の人に聞いてみても良い?』
「良いけど……え、何。他に誰かいんの?」
『アス……アレックスさん〜』
『なんだ』
「げっ、アスランに聞くのかよ……」
彼女持ち、という意味では同じ立場だが、どうせアスランのことだ。彼女の前ではどうせ良い顔をしているのだろう。そんな奴にこっちの気持ちなんて……。
『シンが相談ですって。ルナマリアを怒らせちゃうから』
『それならメイリンが答えてあげれば良いだろう。なんで俺に聞くんだ?』
『よくカガリさん怒らせてるじゃないですか』
思ったのと違った。こいつも割と人を怒らせているらしい。まぁ、でも実際、シンはいつでもアスランにキレているし、納得と言えば納得だ。
『……仕方ないな。少しだけだぞ』
『お願いしまーす』
とのことで電話が代わられる。やがて、聞きたくない声が耳元に届く。
『シンか?』
「どーも。お疲れ」
『ルナマリアを怒らせた件、ということだったな?』
「そっすー」
あからさまに態度が悪くなるが、アスランも慣れている。聞き流しながら、すぐにアドバイスする。
『安心しろ。俺の言うとおりすれば仲直り出来る』
「はぁ? あんたに言われることで安心なんて出来る気がしないんだけど」
『カガリを何回怒らせても、一度も破局していない男の助言が信用出来ないか?』
「いや何回も怒らせてんじゃねーよ! どう信用しろってんだよあんたを!」
『お前に「何回も怒らせるな」と言われたくはないな』
「っ! あ、あんたって人はァアアアア‼︎」
『電話で大声を出すな。子供でも分かるやってはいけないことだぞ』
「あんたがツッコミを入れさせるからだろうが!」
やはり、相入れない。この人との会話は腹が立つ事が多い……が、まぁメイリンがダメとなると確かにこの人しかいないかもしれない。キラはさっき部屋の前に行ったらラクスと電話中の声が聞こえたので邪魔出来ないし、アスランしかいない。
「もういいから、さっさと教えてくれ」
『随分と態度が大きいな。普段なら多めに見てやるが、頼み事をしている時くらいしおらしく出来ないのか?』
「んがっ……よ、よろしくお願いします!」
こいつ、付け上がりやがって! と思っても口に出来なかった。いつか絶対ぶっ飛ばす、という殺意だけが高まってきた。
『じゃあ、メモの準備はしたな? 俺の言われた通りにするんだぞ。少なくともカガリならこれで許してくれる』
その言葉を聞きながら、シンは本当に手書きでメモを始めた。
×××
ルナマリアは、部屋のベッドの上で寝転がる。出撃の命令があるまで待機をしなければならないが、平和になるとこうしているのが退屈だ。
……でも、その退屈な時間が何処か自分を安心させてくれる。本当に世界は平和に進んでいる、と実感させてくれるから。
でも、シン関係で機嫌が悪い時は、少しくらい何かすることが無いとちょっと手持ち無沙汰になってしまう。イライラとモヤモヤが収まらないから。
「はぁっ……もうっ!」
名前を出された事も、周囲に付き合っていることがバレたことも確かにむかついた。でも、ほとんどの時間をこうしてミレニアムで過ごす以上、割とあまり関係ないことでもある。
じゃあ、何にムカつくのか? それは……昨日のゲーム中のシンだ。なんか、自分と二人でゲームやっている時より楽しそうに見えた。
ほとんど態度は変わらないけれど、ルナマリアと互角の戦いをしている時より、キラにボコボコにされている時の方が声が大きい。そんな事が気になる。
普段の態度といい……こいつ、自分よりも隊長の方が好きなのではないだろうか?
好きなベクトルが違う事は理解しているのに、そんな風に不要な比較をしてしまう自分にも少し腹が立つ。
「はぁ……シンのガキ……」
ため息をつきながら、ルナマリアはまた暇つぶしにアグネスのアーカイブでも見ようかと思って、端末の画面を開いた時だった。
コンコン、とノックの音がする。このミレニアムで自分の部屋に入る時にノックをしてくれる人間は目上の人間しかいない。よって、すぐに身体を起こして服装と髪を軽く正した。
「はーい。どうぞー?」
「失礼する」
なんかやたらとキリッとした声で中に入ってきたのは……シンだった。
「……何、どうしたの? らしくなくノックなんてして」
「すまない、ルナマリア」
「何なのよさっきからその口ちょ……うっ⁉︎」
顎を人差し指と親指で摘まれ、クイッと持ち上げられる……が、シンとルナマリアの身長に大差はないので、シンと目線が微妙に合わない。
「お、おおっ……オレ、ルナの……じゃない、ルナマリアのキッ……気持ち、分かってなかった」
「は、はぁ? まぁそうだけど……」
「ルナマリアも、こっ、ここっ……こうしたかったんだよな?」
「……」
随分とキザな真似をしているが……シン、顔真っ赤だし噛みまくりだし全く似合っていないし、こっちにトキメキが一ミリも来ない。なんだこの子、背伸びの方向性まで小学生なのか。
中身を知っている分、思わず半眼になって冷たい声で聞いてしまった。
「……あんたさっきから何言ってんの?」
その言葉は、端的に言ってクリティカルヒットだった。増えたデスティニーの中から本物の一機を一撃で射抜いたくらいクリティカル。
ただでさえ赤かったシンの顔は、ソードインパルスよりも赤く染まり、プルプルと身体が震える。
そして、一気に手を離した。
「っ、だァアアアアアア‼︎ あんの野郎オオオオ‼︎ 全然、使えねーじゃねえかチックショオオオオオオ‼︎」
「ちょっと、何よ」
「もういい! オレはオレのやり方でやってやる! ルナ!」
ガッ、と涙目でまだ赤い顔のまま、ルナマリアの両肩に手を置かれる。その力強さの方がさっきの三文芝居より余程、ドキッとした。
「オレが悪かった! だから頼む、今からオレとマリオカートの練習、付き合ってくれ!」
「っ……!」
こ、こいつまさか……鈍ちんのくせに気付いていたのだろうか? 自分も、キラと一緒にやっている時のように楽しくゲームがやりたい、なんて思っていた事に。
その気持ちを察してそう言ってくれているのなら……まぁ、こっちも拒否する理由はない。むしろ……こっちもそんな事で態度悪くしていたのはガキだったかも、とさえ思えてくる。
「……はいはい。私も悪かったわ。こんな事で機嫌悪くして」
「許してくれんの⁉︎」
お願いだから、可愛くパァッという擬音がなりそうな眩しい笑顔はやめてほしい。全力で愛でたくなる。
照れたように頬を赤らめたまま顔を背けて呟くように頷く。
「許すから……で、マリカーで良いの?」
「ああ! ……へへっ、見たかあの野郎! アスランなんかの力なんて借りなかったって、オレだって仲直り出来る!」
どうやら、アスランから助言をもらったらしい。嫌いな相手から助言をもらってまで仲直りしてくれようとするなんて……と、嬉しさが増す。
……反面、普段こんな事して普段、怒られても許してもらってるんですか、アスラン元隊長、と呆れる。怒っている時にこんな真似したら、どんな人でも普通は怒……いや、カガリならチョロいからいけるか、なんて無礼を頭の中で重ねる。
「あっ……!」
「? 何よ。ベッドの上で良いわよね? マリカ」
「あ、うん。いやそうじゃなくて」
ベッドの上に腰を二人で降ろしながら、シンは相変わらず照れた様子で歯切れ悪く言った。
「さっ……さっきのやつ、誰にも言うなよ……!」
「さっきの?」
「ほ、ほら……あ、あの……アスランに習った痛い奴」
あれのことか、とすぐに理解する。シンの中では最新の黒歴史になりつつあるらしい。まぁ、キャラじゃないし、それはそうだろう。
だからこそ……たまにはこっちが揶揄う側に回りたくなってしまった。ニンマリと笑みを浮かべてしまう。
「え〜? どうしよっかな〜?」
「んなっ……な、なんだよその返事!」
「とりあえず、もう一回やってくれない? 今度は撮っときたいから」
「それ言われてやる奴がいるかー!」
「誰にも見せないから。夜に使うだけだから!」
「絶対嫌……え、使うなら朝じゃないの? 目覚ましとかそういう事だろ?」
「何でもないわよ。だからもっかい見せて」
「いーやーだー!」
なんでベッドの上でわちゃわちゃやりながら、その日を過ごした。