ヴォートゥミラ大陸伝承記〜想念の姫と放逐の箱舟〜   作:?がらくた

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序章 放逐の箱舟 第1話 魔物の巣窟

序章 放逐の箱舟

 

星屑が散りばめられた美しい夜に、〝それ〟は我々の元に訪れた。

最初の発見者はサピル・シヌス帝国の酒に溺れた冒険者が潮風に当たり、呆然と海を眺めていた時のこと。

闇を照らすように夜空で何かが瞬くと、周囲に閃光が走ったという。

肝心な冒険者はというと呑気なもので

 

「お〜、なんだぁ、お前らもこっちこ〜い!」

 

と、大笑しながら仲間へ呼びかける。

呂律の回らない話し方で、途切れ途切れに状況を説明するも、最初は酒呑みの戯言と切り捨てられた。

しかしあまりにしつこく云うものだから、指差す方を眺めてみると、確かに巨大な何かが海に漂っている。

まさか海賊ではないか、だとすれば一大事だ。

その場にいた冷静な人々がすぐさま憲兵に知らせ、民衆が不安を抱えつつ夜が明けると、一隻の木製の船が浮かんでいるではないか。

状況を考えれば灯台の光を頼りに、帝国に迷ったとみるのが妥当。

だが乗員らしき人物は誰もおらず、奇妙な船と形容する他なかった。

 

「昨日までにこんな船あったか?」

「いや、どうだか……こんなもの私らには手に負えないよ。冒険者や兵隊さまに何とかしてもらわないと」

 

顔を見合わせて語らう人々へ

 

「どきなさい。許可なく船へ立ち入らぬように」

「賊がいるやもしれません。ですがご安心ください。我々が来たからには必ずや悪党を成敗してみせましょう」

 

鎧を着込む兵士が叫ぶと、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

けれども話題は〝それ〟についてで持ち切りだ。

兵士がたむろしても、民衆の視線は船に釘付けになっていた。

 

 

 

第1話 魔物の巣窟

 

帝国率いる軍艦は3本の白の帆を広げ、謎の船に対して威嚇するように徐々に接近していく。

ガンデッキには黒光りした小口径の砲台が隙間なく規則的に並び、迎撃に備えていた。

大人と子供ほどの大きさの差があり、謎の船に勝ち目はないだろう。

ただもしもの事態を考慮すれば、軍の対応は決して大袈裟ではなかった。

 

「君たちは包囲されている。侵略の意図がなければ、ただちに投降しなさい」

 

船員が交渉を持ちかけるも返事はなく、誰もがその瞬間無人だと悟る。

 

「まさか全員、海の藻屑になって船だけが流れ着いたのか?」

「いや、昨日の波は穏やかだったが……もし報告通りなら、天からの使いかもしれんな。ハハハ」

 

船員の1人が体を揺らし笑うも、軽口は叩けずにいた。

……にわかに信じがたいが、酔っ払い冒険者の話がもし真実だとすれば。

沈黙に痺れを切らす軍人たちを見かね

 

「皆様、だいぶお困りの様子。ならば私が調べに参りましょう」

 

とある青年が訊ねた。

白髪碧眼のローブを身に纏う彼の名はイアン。

サピル・シヌス帝国お抱えの冒険者で、風と水の魔術を極めた、船旅に欠かせない存在であった。

 

「では。風の精霊シルフ。精霊微笑む刹那、私は一時、鳥となるだろう。レビテイト」

 

唱えるとイアンは空へふわりと浮かび、謎の船の甲板に降り立った。

手を振りつつ無事だと合図をした彼は、脇目も振らずキャビンへと向かっていき、ドアノブに手を伸ばす。

扉を開くと大きく口を開けた獣が、突如現れたではないか!

魔獣が毛むくじゃらの手でイアンを捕えると

 

「た、助けてくれぇ!」

 

悲鳴が虚しく響き、謎の船へと引きずり込まれた。

あまりに唐突な出来事に、その場に居合わせた軍人は取り乱すでも騒ぐでもなく、ただただ目の前の現実を直視した。

 

「な、なんだ、あの怪物っ!」

「船の中から化物が……何がどうなってるんだ!」

「そんなものは知らん! だが民間人を絶対に近づけるな!」

 

一瞬の静寂が過ぎ去ると、今まで堪えていた不安や恐怖が一気に噴出する。

しかし軍人としての責務が、彼らを冷静に行動させる。

彼らはただちに港へと引き返すと事の顛末を上官に報告し、生きた心地のしないまま一日を終えたという。




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