ヴォートゥミラ大陸伝承記〜想念の姫と放逐の箱舟〜 作:?がらくた
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第14話 死屍累々
「ハハ、なんなんだろうな。これ、夢か?」
弓を背に負う狩人(レンジャー)セスが、常軌を逸した光景を目の当たりにし、苦し紛れに明るく振る舞う。
木々から垂れ下がる、無数の吊られた人間や獣の死体。
それも全て遺体の皮が剥がれ、血流が通る管が丸見えの、異常な状態なのだ。
中には骨が剥き出しになり、今にも地面へ落下しそうな腐敗の進んだものまで散見される。
死から目を背けても風に揺らされ、軋む枝が鼓膜を刺激し、嫌でも脳裏から離れない。
何故、誰が、何の目的で惨い仕打ちを。
頭を過る理性が、一行に疑問符を浮かばせた。
しかしそのような狂気じみた光景を前にしても、動じない漆黒の鎧を身に纏う冒険者が1人。
「……エンバー、本当に図太いな」
「お前らがだらしねぇんだよ。初めてでもねぇんだ、しっかりしろ」
強気に言い返す彼女の名前は、エンバー・リード。
巨人(オーク)族の血を引く者だ。
赤髪に金の瞳を宿す浅黒い肌、何よりも人間などよりも遥かに大柄な体躯が、見る者を捉えて離さない。
樹海を我が物顔で闊歩する姿には頼もしさを覚える反面、恐怖すら感じてしまう。
「トマス、あいつ怖くないか?」
「エンバーとは何回か依頼に同行したことがあるけど。良い奴でもないけど、悪い奴でもないよ。たぶんね」
曖昧な返事にセスは肩を竦め、再度聞き返す。
「いや、どっちだよ」
「おい、つまらねぇこと喋るな。私は敵が出たらブチのめす。トマス、セス、テメーらは決めた通りにやれよ」
なまじ力がある分、怒らせると何をしでかすか。
促されたトマスはパン屑を地面に落としつつ、帰りの道を確保する。
樹海で迷うという話を、古今東西で耳にした。
精確な地図を書き上げた者へ報奨を出すという軍の甘言に踊らされ、セスは羊皮紙と通った道を睨み合う。
暫らく周囲から響く獣の唸り声へ警戒しながらも、道なき道を前進すると、一行の目にあるものが映った。
第15話 永遠の紅
木々が枯死(こし)し、木々の密集した樹海に木漏れ日が差す。
スポットライトが当てられるような一筋の光が照らす先。
そこには無惨に身体を引き裂かれ、かつて人であったであろうものが天を仰いでいた。
おびただしい紅の液体が傷口から溢れ、地面を濡らす。
体格から察するに、ちょうど学校へ通う年齢だろうか。
ワンピースの着衣から女児であると判別できる。
年端もいかぬ少女が惨殺された姿に一行は瞼を閉じ、冥福を祈った。
鼻腔に充満する鉄の匂いと目を塞ぎたくなるような光景に
「……次から次に遺体ばかり。どうなってんだ、ここはよ。どこにもないのかよ、〝人の生死すら操れるような霊薬〟は」
セスが取り乱したように叫ぶと、しんと静まり返る。
だがトマス、エンバーの2人は冷静に
「道中の遺体とは同一犯ではなさそうだ。絞殺と斬殺だと手口が違いすぎる」
「同感だ、殺人鬼は少なくとも2人いるらしい。勿論両方とも、私がズタズタに切り刻んでやるがな」
状況からそう推測をする。
せめて埋葬だけでもしてやりたいが、あいにく道具もない。
どうにかして弔えないか。
三人が思考する―――瞬間、炎が突如として発生した。
「敵襲か?!」
「いや、物音はなかった。何かが火を起こしたんだろうよ。おい、男共。しゃんとしろよ」
エンバーが呼び掛け、周囲を見渡すも、特段人影らしき存在は確認できない。
ならば何故?
疑問を解決しようと脳を働かせると、またもや火が立ち込める。
刹那トマスは倒木の近くから生える、焼け爛れた手のようなものを一瞥した。
それから赤の魔法陣が現出したのを目撃し、疑いは確信へと変わる。
生物かも定かではないが、あれが炎の魔法を利用していた原因のようだ。
「まずはあれを倒さないといけないらしいな。エンバー、セス、いつも通りに頼むよ」
「しゃらくせぇな。どうせなら倒しがいのあるデケーのがよかったぜ」
前方にエンバーが立ち、後衛からセスが弓矢で援護。
中ほどに位置するトマスが、歌で味方の支援を行う隊列を組む。
戦いの幕は切って落とされた。
混沌の理の守護者 エンバー・リード
職業·暗黒騎士(ダークナイト)
種族·巨人(オーク)
MBTI:ESTP
アライメント 混沌·悪
大陸の古参冒険者ギルド《コッチネラ・ディアボルス》に所属し、トマスと共に行動する女性冒険者。
浅黒い肌に紅の髪、金の瞳が特徴のオークで、人間よりも巨体故に腕力、体力に秀でる。
男勝りな性格で豪胆にして奔放、しかし意外にも理知的な対話も可能。
問答無用で敵対する者を蹂躙し、捻じ伏せる姿は、仲間のトマスをもってして
「おっかねぇ」
と呼ばれる程度には非道。
秩序と模倣を司るイミタ神の下僕(しもべ)である聖騎士とは異なり、混沌と変化を尊ぶメタモルフォシス神の説く理を行動の指針とする。
彼女曰く
「秩序の神イミタと混沌の神メタモルフォシスは、元々同一の存在。ならば主の裁きなき限り、混沌の理に則る私の悪逆は許される」
とのことであり、今日も元気に傍若無人に振る舞う模様。
「リース伍長とジェレミー衛生隊長のドキドキ♡ワクワク☆魔物図鑑」
燃え盛る茸 バーニングハンド
種族·菌類
アライメント 中立·中庸
焼け爛れた手、とも呼称される紅蓮の茸。
粘膜に触れると、皮膚が焼けるような痛みが襲うので、取り扱いは要注意。
摂取した場合は頭痛、めまい、嘔吐、下痢、腹痛etcといった数え切れない症状に罹患。
無数のバーニングハンドが、地中から生えた姿はまさに地獄絵図。
近づくと火の魔術を用い、敵対する生物を排除しにかかる。
危険極まりない茸は数あれど、これほど害しかもたらさない種は他にないだろう。
「見た目といい、生態といい、結構面白いキノコだ〜。どうにかして薬にできないものか……」
「魔物ちゃんには食べないよう、言い聞かせないと」
「どれ、少し採取していこうかな……って、熱ッ!!!」