ヴォートゥミラ大陸伝承記〜想念の姫と放逐の箱舟〜   作:?がらくた

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第25話 狂人と狂人

仲間の死さえも賭けにするベル・ベルの言葉に、トマスの背に汗が滲む。

彼女と接した感情は単純な暴力の権化であるドラゴンとも、傍若無人に振る舞う悪党とも異なっていた。

人語を介するも価値観が交わらず、対話の通じない事実。

人の姿でありながら人外のような、彼女の言動は人を戦慄させるに充分だった。

彼女の放言から数秒が経ち、ゆっくりと言葉の意味を噛み砕いたセリウスは

 

「……何を言うかと思えば。君には失望しました、ベルさん」

 

そう淡々と自身の感情を吐露する。

厳しくはあるものの、元から他人へさほど期待していないのか。

或いは理性で抑え込んでいるのか。

彼はこういった台詞を、ほぼ口にしない。

よほど彼女が不愉快なのだろう。

しかしベルは反省の素振りを見せず、視線を吟遊詩人へと流し

 

「貴方はどうなさるの、トマス?」

 

問いかけられたトマスがこくりと頷くと、副隊長は割って入った。

 

「トマス君、君まで仲間の安否で博打をするつもりですか。不謹慎極まりない」

「確かに不謹慎ですけど、俺がいくら注意をしても無意味でしょう。ベル・ベルの土俵で……ギャンブルの勝敗で雌雄を決さないと、きっと彼女は従いませんよ。セリウス副隊長」

 

セリウスはトマスの指摘に対し押し黙って、無言の肯定を示す。

ベル・ベルとて生きていく上での方針や原理原則はあり、それには素直に従う。

彼女にとっての絶対の法たるギャンブルで負けたのならば、流石に納得するはずだと。

 

「私は豚女の死に金貨5枚をベット。トマス、貴方はエンバーの為に何を差し出してくださるの? まさか何も失わずに一方的に利を得ようなんて、熱が冷める小賢しい真似はしませんわよね。敗者の末路は悲惨でなくては……でなければ興が削がれるというもの」

「俺が求めるのは金じゃない。ベル・ベルにも硬貨以外の物を賭けてもらう」

 

啖呵を切った吟遊詩人はトマスは続けざまに

 

「エンバーが生きている方に、俺は指を賭ける。指がなければ弦を弾いて、リュートの音を奏でることもできない。一人の吟遊詩人としての生を、かなぐり捨てるんだ。これで燃えない博徒(ギャンブラー)はいないよな?」

「よく私は下賤な民に、狂人と蔑まれるのだけれど。他人の為に夢さえ捨てる貴方も、私からすれば狂人よ?」

 

とんでもない爆弾発言を投下したではないか。

それには一時は成り行きを見守っていた眼鏡のエルフも

 

「正気ですか、トマス君?! そも隊員同士の争いは御法度と、何度も伝えたでしょう。君は必要な人材だ、考え直してください」

 

説教をし、博打を撤回せざるを得ない。

だが彼は決して軽はずみに、そう告げたのではなく。

 

「たかが金貨では、釣り合いが取れませんものね。よろしいわ。貴方の命令に、何でも従ってあげましょう。もちろん殿方の猛りや不安を、ふたりきりで慰め満たすもよし……貪るように愛してくださるかしら、トマス?」

 

ベル・ベルは蠱惑的な微笑で、自らの胸を揉みしだく。

彼女なりの動揺を誘う作戦なのだろうが、乗りはしない。

トマスが口を真一文字に閉じ睨み

 

「2度と同じ冒険者ギルドの仲間が窮地に陥った姿で、賭けをしたり侮辱するな。人の生死や苦境を嘲笑い、愚弄するのは許さない。俺が勝った暁には、望むがまま従ってもらうぞ。ベル・ベル」

「ええ、もちろん。二言はなくてよ」

 

条件を提示したトマスとベルは火花を散らし、自らの人生とプライドを賭ける。

博徒が2人揃えば、何処であろうと鉄火場だ。

両者の熱と狂気で、盛り上がりは最高潮に達していた。

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