ヴォートゥミラ大陸伝承記〜想念の姫と放逐の箱舟〜   作:?がらくた

2 / 20
作品に目を通していただき、ありがとうございます。

作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。


第2話  栄光の調査隊 第3話 確執と支配

第2話 栄光の調査隊

 

真紅の絨毯の敷かれた先の玉座に、一人の老爺が佇む。

その老爺の元へ蒼の海の荒々しさを、偉大なりし母なる海を模した詰襟を身に纏う、アーモンド型の瞳の青年が向かっていった。

彼が一歩踏み締める度、灰色の髪は白波のように揺れる。

 

「お初にお目にかかります、陛下」

 

深々と頭を垂れた青年は皇帝に頭を上げよと云われ、指示に従う。

 

「そう畏まらないでくれたまえ、ライリー・グレイ大尉。儂はあくまで人。人を支配し奴隷とするは、宇宙の法則そのものであり、唯一絶対たるヴォートゥミラ三神の特権。皇帝として為政に携わる儂も、ただの神の代理に過ぎぬのだから」

 

小麦色の髪に白髪の混じり始めた老爺が微笑み、ライリーもぎこちなく笑った。

緊張を解こうとする優しさはありがたいが、一国の主を前にして、固くなるなという方が無理だ。

青年は静かに次の言葉を待った。

 

「時に謎の船の件については耳にしたかね、ライリー大尉。なんでも船から巨大な魔物が現れ、数年もの間、軍に貢献した冒険者イアン殿が犠牲者になったとのことだ。この件についての調査を君に頼みたい」

 

謎の船の存在を危惧する皇帝の不安が伝染したのか、帝城も何やら慌ただしい。

部下からの報告を耳にしていたライリーは自らの考えを整理し、丁寧に言葉を紡ぐ。

 

「船は魔物の積載、運搬ができるほどの大きさではなく、眼の前の光景は夢か幻のようであった、と。確証はありませんが、あの船舶は異界に繋がる可能性が予想されます。だとすれば調査には、相応の人手が必要やもしれません。ですが領土防衛にも人員を配置せねばならぬ以上、軍の積極的介入は得策ではないかと」

 

残念がり、眉を八の字にした皇帝を見かねた青年は深呼吸をし、一旦区切ると

 

「我々軍人はあくまで治安、秩序維持の為の組織の歯車。決して探索のプロフェッショナルではありません。なれば未開の地へと足を踏み入れ、怪物との交戦をも恐れぬ、勇猛果敢な冒険者との協力は不可欠といえるでしょう―――陛下直々の任務、必ずや成功に導いてみせましょう」

 

条件を提示しつつも了承し、敬礼した。

ライリーが皇帝から最大級の賛辞を受け取ると、数週間の時を経て、謎の船の調査隊《グロリア》が編制。

突如現れた船の調査に冒険者募集の噂が立つと数多の冒険者が夢を、野望を胸に秘め、サピル・シヌス帝国に集った。

 

 

 

第3話 確執と支配

 

かつて海から帰ってきた男たちと、その恋人が愛を深めたというアマトゥルの大広場に、所狭しと冒険者一同が集められた。

蒼の詰襟を着用した軍人は苦虫を噛み潰したように険しい面様で固唾を呑み、演説を見守っている。

 

「では大尉。どうぞ」

 

異世界の道具だという拡声器を手渡すは、ローレン・ミッチェル少尉。

士官学校を卒業したばかりの新人であり、実務経験は浅い、女性尉官だ。

透き通る白い肌に碧の宝石を思わせる瞳、短く切り揃えた鮮やかな金髪。

見た者を魅力する整った相貌だが、周囲の冒険者や軍人と比較するとやや華奢で、場違いな印象を見る者に与えた。

しかし彼女も選ばれし精鋭には変わりない。

 

「ありがとう、ローレン少尉。言葉を濁すのは得意ではないので、率直に伝えよう。私は調査隊《グロリア》の全権を握る指導者であり、君たち冒険者の生命は、今から帝国軍の統制下に置かれる。船内の踏破に指示に従わぬ、感情を宿した駒は不要だ。私からは以上」

 

鼓舞や称揚もない淡々とした語りには人の感情が欠落しており、腹話術の人形が喋っているようだった。

冒険者を道具とみなす〝統制〟、〝駒〟といった類の単語が次々に並べられ、屈強な漢の額に青筋が浮かぶ。

 

「横暴だぞ、テメー!」

「お前じゃ話にならねぇ、元帥を出せぇ!」

 

言い終えた直後、気性の荒い一同はライリーへと食ってかかるのだが

 

「逆らうというなら構わん。だが我々軍の精鋭の回復や魔法の支援を受けられるのは、軍属の冒険者のみだ」

 

冒険者の非難へも屈さず、断言した。

射抜くような眼力が単なるこけおどしではないと物語り、冒険者らは立ち竦む。

蛇に睨まれた蛙が自らの立場を悟るが如く、ライリーの放つ並々ならぬ闘気に気圧され、沈黙した彼らに間髪入れず

 

「無論それ以外の冒険者が、船に許可なく立ち入ろうものなら、我々は帝国の治安維持を名目に、容赦なく制裁を加える。大陸有数の軍事力を誇るサピル・シヌス軍が味方につき、支援までしてくれるのだ。お前たちのようなゴロツキにとっても、悪い話ではないと思うがな」

 

冒険者への利害と敵意を率直に述べた。

軍を味方につけるか、敵に回すか。

後者には一切の利益はなく、ただ死期を早めるのみだ。

高圧的な物言いには腹は立つが、冒険者としての活動に、後方支援は欠かせない。

この期を逃せば稼ぎのいい依頼は、いつ舞い込むだろうか。

なに、少しの間だけ我慢すればいいのだ。

ゆっくりと深呼吸する冒険者らからは、そんな声が聞こえてくるようだった。

つまらぬ意地を通して利を逃すほど、彼らとて間抜けではない。

軍人、冒険者の幾人かは青年の強引な手段に顔を引き攣らせ、畏怖の念を込めて視線を送る。

ライリーが我が物顔で闊歩し、軍艦へと向かい

 

「覚悟は決まったかな。乗りたまえ、諸君」

 

振り返り促すと

 

「ありゃ? 港じゃねぇのか、あの船は」

 

冒険者の1人が訊ねた。

 

「民間人がみだりに船へ乗らぬよう、軍が港から付近の離島へ移動させたのです。皆さん、お気をつけて軍艦へ搭乗してくださいね」

「……つまりアンタらがいなければ、俺たちゃ往復もできねぇのかよ……これもアンタの指示なのか?」

「意地の悪いことをいうな。民草の平和を守る、最善を尽くしただけだろう?」

 

少尉が何気なく口にした一言に、勘の良い冒険者が察すると、ライリーは薄笑いの後、口角の片側を吊り上げた。

青年の策謀の一部となれば、もう2度とは帰れない。

……死地の旅から、帝国へと。




調査隊の長 ライリー・グレイ大尉

職業·魔法戦士(マジックナイト)
種族·人間(ヒューマン)
MBTI:ENTJ
アライメント 秩序·悪

灰色がかった髪の本作の主人公。
若くして皇帝から直接、放逐の箱舟の調査隊≪グロリア≫の指導者に抜擢された、サピル・シヌス帝国軍のエリート。
傲慢かつ高慢な性格で、目的の為なら手段を選ばない。
毛嫌いする冒険者へも、《正規軍に戦闘面でも知能面でも劣る有象無象》と直裁的な物言いをし、彼らから反感を買う。
だが知性や戦闘力、冒険者との利害関係を築く手腕は確かで、嫌々ながらも冒険者たちを軍に従わざるを得ない状況に追い込んだ。
冒険者の活動に邁進する、吟遊詩人の双子の弟トマスを軽蔑しており、兄弟仲は険悪。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。