ヴォートゥミラ大陸伝承記〜想念の姫と放逐の箱舟〜   作:?がらくた

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第5話 強大な力

離島に辿り着き、冒険者一行は軍の指示に従うと、噂の〝それ〟をまじまじと眺めた。

広大な海を渡るには心許ない、こじんまりした木製の一隻。

先入観さえなければ、何の気なしに調べてしまいそうな船が、どこか禍々しく思えた。

だがこれから出現した魔物に、イアンは襲われたのだ。

緊張した冒険者らは顔を見合わせ、様子を伺う。

さっさと入りはしたい、しかし犠牲者になるのは勘弁だ。

相反するジレンマに縛られた彼らは進まず、ただ現状維持に努めている。

 

「……誰が最初に入るか、決めあぐねているようですね。このままでは任務開始はいつになるやら……いかがいたしましょう、大尉」

「……臆したか。未開の大地へ向かい、死地にも活路を見出すのが冒険者と聞き及んでいたが……実に情けない。どけ、愚図共。正規軍の力を見せてやる」

 

少尉が訊ね、業を煮やしたライリーが船へとにじり寄る。

これほどの大言壮語。

肩書だけではなく、実力も申し分ないのだろう。

王の凱旋を敬うように、命令されるでもないのに、誰もが彼に道を譲る。

 

「危険です、大尉。ここは我々が……」

「下がっていなさい。祖国に誇りを持ち、民草のため戦い抜く軍人はそうはいない。だが目先の利益に浅ましくつられる冒険者如き、いくらでも代わりがいる」

 

冒険者を嘲る彼に

 

「おい、俺たちはそんなんじゃねぇ……ここにしかねぇ、〝希望〟を求めにきたんだ!」

 

羽根付きの緑の帽子を被る男が発すると

 

「目先の利益の為に、我々軍人と共に船の調査をしにきた貴様らが、それを否定するのか? 面白い冗談だな」

 

と、ライリーは彼の発言に冷笑を重ねた。

ドアノブに手をかけた青年にもたらされるは至上の幸福か、はたまた禁忌(パンドラ)の箱か。

勢いよく開くと犬頭の魔獣がよだれを垂らし、ライリーを見据えた。

 

「グルル……」

「こ、これが俺たちのかつての仲間を……イアンを喰った魔獣か!?」

「再三の手荒い歓迎。よほど触れられたくないものがあるのか?」

 

唸られた青年は一切の動揺を見せず、冷静に分析をした。

退く気はないのを察し、ライリーの言葉を掻き消す大音量で咆哮した魔獣は、すぐさま彼へ飛びかかった。

筋骨隆々とした丸太のような腕が、ムチの如くしなる。

あのまま攻撃が当たれば、彼は命を落とす。

惨劇が起こるのを脳裏に浮かべた帝国兵は、思わず眼を閉じた。

 

「私に歯向かうとは。躾がなっていない駄犬に、上下関係を教えてやる。塵埃(じんあい)と化せ―――ダムナティオ」

 

詠唱した彼の掌に漆黒の魔法陣が現れ、次の瞬間魔獣の腕は胴体から切り離される。

絶叫に耳を塞ぐ周囲へ目を向けて指を鳴らすと、今度は魔獣の首が弾け飛び、ピクリとも動かなくなった。

ものの数秒で自分の数十倍はあろう体躯の魔獣を殺戮した魔法の威力に、冒険者らは押し黙る。

―――彼の逆鱗に触れてしまえば……あの魔物の二の舞になる。

 

「驚いているな。私は日々己の技を磨き、高めてきた。もし逆らえば……全て言わずとも理解できるな? 冒険者諸君」

「見事な腕前ですね、大尉」

 

調査隊の一員に云われ

 

「諸君らもこれくらいの魔物は瞬殺できるように、研鑽するように。でなければ到底、船内の闘争にはついてこれまい」

 

と応えると

 

「ハァ……そう、ですね」

 

歯切れの悪い返事には言外に《真似などできない》という感情が含まれており、それを隠すように兵士は愛想よく微笑した。

 

「少々やりすぎた。残った肉片と骨は軍の研究室に運び次第、分析してくれ。船内の魔物の解析に役立つかもしれん」

「イエッサー!」

 

遺骸をちらりと打見し、ライリーがそう言い残すと、冒険者らに扉の奥を指差す。

入れと指示された彼らが中に進み、異常がないのを確認すると、軍人たちも後を追うのだった。

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