ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
巨体が飛ぶ。バーサーカーが坂の上からここまで、何十メートルという距離を一息で落下してくる。
夜の闇を裂くように、何条もの光の弾丸が落下してくるバーサーカーをつるべ打ちにする。
―――八連。
矢と言うにはあまりにも膨大な威力が込められたそれが正確無比な精度を保ち、宙を高速で、重力に従ったままの軌道で落下する巨体を射抜く。
「■■■■■■ーーーー!!!」
ガギギギギギンッ!!!!
「うそ、効いていない―――!?」
揺らめきもしない巨体を見てリンが驚愕の声を上げる。
俺は舌打ちをし、呪詛を吐く。見ているか分からないがここには居ないアーチャーに『役立たず!』と言ってやる。
バーサーカーの落下地点へと疾走しながら、保険として用意していたロングコートに隠していた武器を取り出した。
士郎SIDE
呆然とした。
思わず叫びたくなった。飛び出したくなった。
バーサーカーへの恐怖や、暴虐なまでに突きつけられた殺気なんて吹っ飛んだ。
剣を持たないセイバー
分かっていた。ランサーと戦っていた時から。
あの時だってセイバーは鉄パイプなんてものでランサーと渡り合っていた。だけどあの時は危急で、何の用意も出来ないから―――って今もそうだった!
高速で落下してくる巨体。
それに迎え撃とうと疾風となって駆け出すセイバーの手には―――木刀。
何の冗談かと思った。人の事を自分の命を省みない、命を捨ててる馬鹿だと言っていたが、セイバーは俺以上の馬鹿だ。確かに力を貸してくれと言った。剣となり、盾となると言ってくれた。
だけど、そう、だけど!
俺の代わりに命を捨ててくれなんて言っていない―――!!!
ガギィ!!!
「―――は、?」
思わず駆け出そうとしていた足が止まる。
誰もが無謀だと思った迎撃。
誰もが想像した未来。
それは全て―――バーサーカーの必殺の一撃を木刀で受け止めたセイバーによって覆された。
士郎SIDE END
落下と共に繰り出された俺を真っ二つにしかねない大剣を受け止める。夜に停滞していた空気が震える。重圧に耐え切れなくてコンクリートが抉れる。
俺の宝具”殺戮に武器は選ばず”によりこの木刀はCランク相当の宝具となっているが、所詮これは保険でしかない。ランサーやアーチャー程度の攻撃なら大丈夫だった。
しかしバーサーカーの攻撃はヤバイ。俺が全力を持ってその攻撃を防ぎ、押し返そうとすれば―――この唯一の武器は壊れる。だからアーチャーの攻撃で僅かに気を逸らせてる内に、行きにここを通った時に見当をつけておいた公共物を引っこ抜いて使おうと思ってたのに、
(アーチャーの役立たず!もっと気合入れて撃て!!)
リンが別れる時に「明日から敵同士」なんて言わなかったら見捨ててやってた。
それが当然だ。戦いが混迷を極めた際に死ぬのは防ぐ方法を何も持たないシロウだ。令呪を三回使い切るまでではあるが、それまでは守ってやるつもりだ。
守るのに一番手っ取り早いのは戦場からの離脱。
魔力放出状態であれば―――確実にシロウをここから離脱させてやれる。なのに……あぁもういい!
頭を掻き毟りたいが、そんなことを考えている間も暴風じみた攻撃は続いている。
「■■■■■■ーーーー!!!」
「ふっん―――!!」
ギィン!ガッ!
旋風の様な剣の切っ先を見切り、真正面から受けて力を相殺させる。避ける……なんてことは出来ない。俺とバーサーカーのやりとりを呆然と見ているシロウが死ぬ。ただの素人と変わらないシロウがあの大剣が抉ったコンクリートの欠片を受けたら、確実だな。
(それに―――ここには殺してはいけないものが多すぎる)
再度心の中で不運を呪い、舌打ちをして気合を入れる。
このままじゃ消耗する一方―――場所を変える。それしかない。
士郎SIDE
大剣と木刀。
無謀としか呼べない武器のぶつかり合いが一体何十回続いただろう。
視界で捉えることなど出来ない。
暴風と疾風。
風を伴って技も何もなく無造作に力任せに振るわれる暴風にしか見えないその大剣を、完璧に見切って最小限の接触で弾き、流し、受け止める木刀。
有りえない。常識では考えられない光景と剣戟が目の前にあった。
「――――――」
遠坂も、バーサーカーのマスターである少女も驚愕し、剣技を持って巨人の猛攻を防ぎ切るセイバーの姿に見惚れていた。
(これが、サーヴァント……そして、セイバークラスの英霊)
しかしそんなやりとりが続くはずもない―――それは打ち合っているセイバーも理解しているだろう。弾き返す音だけだった剣戟の中に、不穏な音が混ざり始めている。
横薙ぎ振るわれた大剣を見切り、初めて避けたその時―――、魔力放出で輝いていたセイバーの赤い瞳に殺意が灯る。
不利な状況に刻一刻と追い詰められていっているのに唇が笑みに歪む。
停滞していた戦場が凍りつく。
「は、あぁぁああぁぁあっ!!!!!」
「■■、■■■■■■■ーーーー!!!」
力任せに大きく振るわれた大剣という死地を潜り抜けたのは疾風。
返る刃さえもそれには届かず、愉悦すら篭った気合と共に巨体に木刀を振りぬいた―――!
ビギ、ィ!!!
セイバーの渾身の一撃に耐え切れず木刀がついに鈍い音を立てて砕けた。
「うそっ―――!」
「アーチャー!援護!!」
少女が驚愕するのも当然だ。
ただの木刀。そのただの木刀が、あのアーチャーの機関銃めいた矢の襲撃すら物ともしなかった巨体が、傾いただけでも驚きなのに―――振るわれた木刀が描いたままに鉛色の体に傷をつけていたのだから。
そこに向けて放たれるのは遠坂の声に応えて落ちてくる銀光。大気を穿ちながら飛んで来たアーチャーの矢は戦車の砲撃に匹敵する力を持って、セイバーが超えたバーサーカーに刻まれた一筋の傷を撃った。
「■■■■■■■■■ーーーー!!!」
しかし、そう簡単に倒されないからこそ英霊と呼ばれるに至った者。
セイバーの強力な一撃を受け、アーチャーの追撃を受け、倒れながらも自らの敵に武器を振るう!
「―――っっっっ!!!」
暴れ出しそうになる殺気を抑えていたのか、一瞬だけ出来た隙を付かれセイバーが吹き飛ぶ。
「セイバー!!!」
防ぐ手なんてなかった。
唯一攻撃を防ぐ手立てだった木刀は粉々になってしまった。
巨体が地に着いた地響きと、セイバーがコンクリートの上に受身も取れぬまま落下したのは同時だった。
「バーサーカー!追いなさい!!」
「アーチャー、続けて!」
また、互いのサーヴァントに追撃を促すマスターの声も同時だった。
黒い巨人の傷は既に塞がっている。少女に命じられるままに坂の入り口でよろよろと立ち上がったセイバーを追撃する。追撃を阻止しようと奔るいくつもの銀光。目的地に向かう視線を逸らそうとしてか、眉間に放たれたそれは尽く巨人の身体に敗れ去った。
「■■■■■■■■■ーーーー!!!」
バーサーカーはその巨体からは考え付かないスピードでセイバーに辿り着く。
同時に振るわれた大剣を見切り、セイバーは篭手で受け止める。
力を殺すことも出来ず、闇に吹き飛ぶ白。凄まじい音を立てながら坂道を逸れ、外人墓地のあった空き地に突っ込む。
「……なんてめちゃくちゃ……」
それはどちらに対して呟かれた言葉か。
アーチャーの追撃を物ともせず、セイバーの渾身の一撃も致命傷に至らなかったバーサーカーの異常さか。それともそのバーサーカーに傷を負わせ、常に必殺の一撃を篭手のみで防ごうとしたセイバーの異常さか。
「……いいわ、バーサーカー下がって。つまらない事は初めに済まそうとしたんだけど……そうね、セイバーの健闘を讃えてあげる」
「ここまでやって、逃げる気?」
「見逃してあげるのよ。お兄ちゃんのセイバーには興味が湧いたの。リンはおまけで見逃してあげるのよ、感謝してよね―――次は殺すから」
追いかけようとしていた巨体が止まり、マスターの言葉を聞いてその姿を消した。
白い少女は笑いながら、
「それじゃあバイバイ。また遊ぼうね、お兄ちゃん」
ひらひらと小さな手を振って別れを告げると夜の街へと姿を消した。
「…………」
「…………」
呆然と、突然の災厄が去った方向を見送った。少女を追いかけることもせずに、この場に留まっているということは、やはり遠坂も分かっているのだろう―――これ以上の闘いが無謀でしかないことが。
セイバーがあの少女の意表をついてくれた……だから見逃してもらえたに過ぎない。
「って、そうだ!セイバー!!」
「追いかけるわよ、衛宮君!」
遠坂に言われるまでもない。セイバーの存在を思い出した途端に俺は走り出していた。
士郎SIDE END
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