ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
「っっってぇ~~~~……」
パラパラと落ちてくる石粉を頭を振って振り払う。
腕は―――勿論ついてる。篭手は怪しい音を立てたが、魔力放出が間に合った。殺人衝動を抑えていても耐久はA。下手な攻撃など通用しない。問題は―――腹に受けた一撃だ。
「普通あそこで攻撃してくるか?」
ボロボロの武器ではあったが、俺のあそこで出来る最大の一撃だった。
あそこで討ち取れるとは思わなかったが、武器という盾を調達する隙は作れると思った。
まさかアーチャーの追撃を受けて尚、倒れながら攻撃してくるとは思わなかった…。
油断―――、そう言ってしまえばそれだけなのだが、本当に予想外だった。
腹を見て―――やはり見なかったことにして上辺だけ修復し、鎧も修復する。
こんなものシロウに見せでもしたら………おー人事、おー人事。
なんか聖杯から変な知識が……まぁとにかくだ。
あの巨体であのスピードって本当に反則だと思うわけだ。アレ、間違いなくこの聖杯戦争で最凶に相応しいカードだわ。粉々になった墓石の中で倒れたままそんなことを考える。
もう全てうっちゃってしまって、聖杯戦争という嵐が過ぎ去るまでシロウの料理を堪能したい。
別に聖杯なんてぶっちゃけいらねぇし。シロウが何かやりたいっていってたけど、聖杯に願う何かを持つほど器用じゃなさそうだ。本人も「聖杯が必要」とは一言も言ってなかったしな。
そうだな……最後の相手がリンだったら譲ってやってもいいな。
―――あの赤い弓兵は絶対ボコるが。
そんな些細な未来を叶える為にもここで打ち砕かれるわけには行かないので起き上がる。周りは墓石ばかり―――武器にはなるけどあのバーサーカーを倒すには難しい。
あの異常さ……俺みたいにただ耐久力が馬鹿みたいにあるってわけじゃない。本気を出してつけた傷も直ぐに治っていたしな―――上辺だけでなく、完璧に。
俺が戦っている間に逃げてくれればいいんだが……シロウの性格だと難しいな。リンが現状を理解して俺の意思を察して動いてくれると有りがたいのだが。
「大体リンもアーチャーもややこしいんだよ」
敵なら見捨てることも出来た。味方なら宝具を使ってバーサーカーを殺すことも出来た。
でも現状は―――、一日限定の味方。
なんじゃそりゃーーーーっ!!!って叫んでやりたいものである。まさか今日の友が明日の敵状態をこんな間が悪い時に思い知らされるとは思わなかった……。仮に敵であっても…シロウなら令呪を使ってでもリンを守れって言いそうだが。
あーぁ、貴重な令呪使用の機会まで逃しちまって本当散々ですよ。
「ま、それだけ守りたいってんなら守ってやるのがサーヴァントってね」
幸いとこの身は守ることには長けている―――守った人間はほとんど死んだけど。
とにかくアーチャーにリンたちに逃げるように報告して貰えるよう伝えねぇと。残念ながら敵は今までのようにお遊びを含んだ戦闘で済むような相手ではない。
ヒ、ィン―――!
確実にトドメを刺そうと追ってくるであろう巨人を迎え撃つ為、気合を入れて自分がついさっき転がってきた跡を見やると……一条の矢が飛んで来た。紙が括りつけられたそれを空中で掴み、開く。
『敵は去った』
「は?」
信じられない。明らかにあちらの方が有利だったろうに―――俺が吹っ飛ばされてやった後何かあったか?考えてみるが、あの少女が俺たちを見逃す理由が思いつかない。
アーチャーが切り札でも放ったのか?いくら素人といえど一日だけの味方でしかない、敵であるシロウの前で?それだったらシロウが死んでいる可能性もなくはないが、ちゃんとラインは繋がっている。ならば敵を生かしておいて敵に披露したと?それこそないだろ。
「セイバー!!」
「お、丁度いいとこに来たな。アーチャーから敵が撤退したって聞いたんだがどういうことだ?」
必死な顔をして駆け寄ってきたシロウたちに軽く手を振り、アーチャーからの手紙を見せる。すると凄く複雑そうな顔をしている……なんなんだ?
「……見逃してもらったのよ」
「はぁ?なんでまた」
「セイバーの健闘を讃えて、だとさ」
「アホか!んな理由で見逃してたら戦争の意味がねぇわ!」
なんかの競技とでも思ってんのかあのお子様は!
「……まぁ、本心なんてわざわざ教えるわけねぇか」
「それよりセイバー!お前腕大丈夫か?!いや、どこか怪我とか……」
「ありゃわざとだし、腕もちゃんとくっ付いてる。打ち身なんて直ぐ治るっていうかその心配ははっきり言って侮辱だぞ、シロウ」
「え、あ……悪い。でもセイバーも悪いんだぞ。木刀なんかで立ち向かうから」
「そうそれよ!なんでアーチャーの矢が通じなくてあんたの木刀が通じるのよ!!」
納得いかない!と噛み付いてくるリン。
シロウもそれもそうだとこちらを見てくるが、溜息を吐く。
「明日から敵なんだろ。そんなん教えてやれるほど余裕なんてねぇよ」
「う」
「とにかくいつまでもこんな所にいる訳にもいかねぇだろ。帰るぞ」
「そうね、丁度近くに教会があるからここらへんの修復とかは綺礼にまかせちゃいましょ。アイツの仕事だし」
立ち上がり、再度教会に向かおうと足を動かそうとした時―――背後で何かが倒れる音がした。振り返るとそこには、何故か地に伏せているシロウがいた。
「シロウ死んだか?」
「そこは心配するところじゃないの?」
「いやぁ、死んだらそれまでだろ」
「そりゃそうだけど……まぁいいわ。ただの魔力切れね、普通だったらとっくの昔に倒れてたんだし、しょうがないっか」
「召喚にも魔力が必要だったし、今日はいろんなことが起きたからな」
まさに青天の霹靂。
ただ当たり前の日常を過ごしてただけなのにこんな物騒な戦争に巻き込まれるなんて、シロウの運も相当悪いのやもしれない。俺の幸運値も最高に最悪なので、もしかしたらそういう繋がりで召喚されたのかもしれんな。悪運コンビ……生き残れなそうだな、シロウが。俺は生き残れるが。
「きっとアンタの無事な姿見て一気に気が抜けたんでしょうね」
「俺?んなに頼りないか?」
「木刀で立ち向かうなんて正気の沙汰じゃないって事だけはいっておくわ」
「銃刀法違反とかそういうのがあるからな……ほんっ気で戦争やるには向いてねぇよこの国」
こんなに簡単に壊れそうな町の中で、戦争も戦いも知らない平穏に浸かった人間。
そこにさきほどのバーサーカーの様な奴らが七人も暴れるんだから溜まったもんじゃないだろう。……まぁ、バーサーカーは言いすぎか。…だが、一人ひとりこの町くらい消滅させるくらいのものは持ってるはず。
ま、そんなこと考えてたってしょうがないし、既に始まっちまってるんだから意味も無い。これからどうするかってのが問題だ。
「さっさと帰るか」
「そうね」
「…………」
「…………セイバー、衛宮君をまさか私に運ばせようとか言わないわよね」
「さっきの戦いでほぼなんの消耗もしなかった奴が、まさか最後の最後まで最大の功労者に面倒見させようとしないよな」
バチバチッと火花が散った気がするが、俺の言葉を聞いてリンが二の句を告げなくなる。一時ではあるが協力関係を結んでいた割には割に合ってないと思っていたらしい。バーサーカーの攻撃を受けた方の手を振ると、がっくりとリンが肩を落としてうな垂れた。
フッ、勝った……。
「………アーチャー、お願い」
「セイバー貴様は早急に地獄に落ちた方がいい」
「ハッ、残念ながら英霊だから地獄行きの切符は発行されねぇんだ」
「っていうかアンタどれだけ衛宮君のこと気に食わないのよ」
「別に運ぶ必要ないのに運びたいと思わないだけだが」
「…そう」
別に俺が運んでやっても構わないのだが、散々人を馬鹿にしてくれたアーチャーへの仕返しをする機会をわざわざ逃す気はない。んで、アーチャーが嫌がることって言ったらシロウの手助けとかそういう事柄。俺は楽できて、アーチャーへの鬱憤も晴らせる、と。正に一石二鳥。
流石に女の子であるリンに運ばせるような鬼ではないとここに記しておく。
******
「それじゃぁ、私たちはもう帰るわ。他にもやらなきゃならないことあるし」
玄関先でシロウをアーチャーから投げ渡され、アーチャーがそのことに関してリンの怒りに触れひと悶着あった後、気付いたようにそんなことをいって俺たちの一日だけの協力関係は終わった。
「あ、ちゃんと衛宮君にはサーヴァントの説明をすること。
貴方が木刀持ってバーサーカーに立ち向かった時飛び出そうとしてたわよ、ソイツ」
振り返り様、そんな頭の痛くなるようなことを言い残して。
「説明、ねぇ」
シロウを肩に担ぎ上げ、居間に向かいながらボンヤリと考える。
説明………してもいいのだが、その説明が意味のあるものかないものか。
俺は後者になる、と断言しておく。サーヴァントの身を心配してあんな災害じみた人災に立ち向かう方が如何にかしている。
勇敢と無謀を一緒にしてはいけない。この馬鹿の行動は無謀だ。そして呆れるほどに無意味だ。
「何度も言ってるっつの」
タタミの上に降ろして、枕の代わりに座布団を丸めて頭の下に置く。看病完了。いや、この屋敷の構造理解してないもん。引き出しあければ掛ける物くらい……。
そこまで考えて、ふと疑問を覚えた。
………そういえば、なんでアーチャー布団の位置とか分かったんだ?
凄い今更で申し訳ないんだが。
マスターになったばかりのシロウと出会ったのは今日が始めてのはず。家屋の構造なんてどこも同じもんなのか?でもこれだけ広くて他人の家だったら普通……わかんないよな。んー?と首を傾げると暢気に気を失っているシロウの顔。
「ま、なるようになれ、だな」
取りあえずこの命を捨てないとか言っといてあっさりと投げ打ったマスターが起きたら、きっちりかっちり問い詰めて……絶対俺を侮っているので力関係をはっきりさせてやろう。
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