ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
「そういえばシロウ、聞きたいことがあるんだが」
「ん?何だよ」
シロウの目が覚めた後、とりあえず腹が減っていたので飯を食べることにした。問い詰めるのは後だ。朝食の時間が過ぎる。
んで、時間もないしとぱぱっと手軽に作られた今日の朝食は、ソバの上に山菜を乗せ、その上に半熟タマゴをオマケしてもらった山菜ソバだ。付け合せにほうれん草の胡麻和え、俺のリクエストのだし巻き卵。
ズルズルとソバを啜りながら、シロウが寝ている間に頭の中で整理していた疑問をぶつける。
「この家ってお前以外の人間が住んでたことってあんのか?」
「俺以外?んー、爺さんが数年前まで一緒だったけどその前は知らないな。なんでだ」
「ん、ちょっと気になったことがあってな。
その爺さんってどんなヤツだったんだ?若い頃ガン黒マッチョだったか?」
「なぁセイバー、俺の家で一体何見たんだ?激しく気になるんだけど」
「気にするな。何も見ていない」
「本当か?……ん、まぁ外見は別に普通だったな。黒髪でちょっと猫背で、身長はセイバーより低かったかな?」
全く正反対だな。アイツは猫背なんて無縁なやつだ。まっすぐに伸びた背中と崩れない正しい姿勢を思い出す。
シロウの家の造りや物の配置を知っているのならシロウが知ってる奴か、一緒に暮らした経験があるヤツかと思ったんだが……思えばあの仲の悪さじゃぁあの弓兵とシロウの同居生活が送れるはずねぇわな。真名と弱点が分かるかもしれんと期待したが……やっぱ上手く行かないよな。
敵のリサーチをそこらへんにして、ソバに集中する。うむ、上手い。これだけでも現界した甲斐があるというものである。汁を最後まで飲み干して、ゴトリと丼を置く。昨日のシロウたちを見習って、「ごちそうさま」といえば「お粗末様」と返される。
「デザートは白玉だんごだ」
「おぉ」
「白玉には味つけしてないから上にのってる黒い、餡子っていうのと食べた方が美味いぞ」
「了解」
シロウの忠告に従って、白いつるつるとした団子と餡子をスプーンに掬う。一口食べて、口の中に広がる素朴な甘みに両手を握り締めてじっくりと味わう。昨日のイチゴ大福も餡子が入ってたけど、この餡子って果物の甘さとは全然違うんだよな。
「セイバーは餡子とか大丈夫なんだな」
「ん、甘すぎるかもしれんが俺は気になんないな」
「餡子がダメなヤツとかいるからな。喜んでもらえて嬉しいよ」
甘いものは果物が主流だったので、この癖のある甘さは初めてだが……うむ、良い。白玉のもちもちとした食感もけっこういいな。昨日の大福の食感の方が楽しかったけど。
二人でデザートを食べ終わり、傍に置かれていた湯飲みに入っていたお茶を飲み干し、一息つく。
「お替りいるか?」
「お、頼む」
シロウの方へ湯飲みを寄せれば直ぐに注がれるお茶。俺の湯飲みにお茶を注ぎ終えると、空になった器を持って台所にシロウは引っ込んだ。俺はリモコンを弄くって、テレビをつけてニュースにチャンネルを変えて眺める。
―――平和だ。
うむ、俺たちは聖杯なんて必要ないから是非とも欲しい奴らだけでドンパチやってて欲しい。
(そんな思い通りに行かないのはわかってんだがな)
少なくともランサーとバーサーカーには狙われているはずだ。
アーチャーは…別にこちらから仕掛けに行かなければ最後まで来ない気がする。来たとしても狙われるのは俺だけだろうな。リンはシロウを生かしたがっている。それは昨日の内に散々理解したことだ。
その理由が分からないところが不安ではあるが……まぁ大丈夫だろ。
士郎SIDE
「さて、シロウ」
いつのまに茶の入れ方を覚えたのか、とうに飲み干しているはずの湯のみの中のお茶を一口啜り一息ついて、「ん?ちょっと薄いか」と批評をしてからセイバーは語り出した。
ちなみに俺の姿勢は相変わらず座りかけた―――中腰状態である。何故この体勢なのかといえば、目の前のセイバーさんが止めたからだ。
「昨日の件で弁解があるのならば聞くが?」
「昨日の件?」
昨日といえばセイバーと契約をした、がそれはセイバーも了承してくれたことだ。その後バーサーカーとの一戦やらなにやら……って、
「セイバーお前やっぱり怪我してたのか?!」
「俺は昨日の問答を繰り返すつもりはないぞ。…その様子じゃ、本気で気付いてないようだから言っておくが、俺がバーサーカーと立ち会おうとした時飛び出そうとしたんだってな?」
「そ、それはお前があんな木刀で立ち向かおうとしたからっ―――!」
俺が声を上げると、セイバーは深く溜息を吐いた。眉間には皺が寄っている。
「いいか、俺は意味の無い説明は嫌いだ。説明をして欲しかったら理解しろ。そして感情で動くな」
「んなっ…!」
その物言いに、頭の中が真っ赤になった。言葉を失う俺をじっと赤い瞳が見つめる。
こっちが冷静さを欠いているというのに、冷たい温度を保つその色が、―――どうしようもなく気に食わなかった。
「…ら、……か……い」
「あん?」
「だったら、説明なんかしなくていい!って言ったんだ」
説明を聞いたらそれに従え、なんて。だったら説明なんか聞かなくていい。自分でどうにかする。……具体的な案はないけど……どうにかする!セイバーには頼らない!
「お前はガキか」
「なんだと?!」
「なぁシロウ、お前は自分ひとりじゃ無理だから俺に協力を求めたんじゃないのか?」
「そ、れは…そうだけど」
「だったら、少しは余裕を持て。サーヴァントの戦いに首を突っ込むな。折角俺が手を貸してやってんのにお前が死んじゃ意味ねぇだろ」
言っておくが、無意味に突っ込んで死んだ馬鹿の弔いなんざしてやんねぇぞ。と腕を組んで嫌そうに表情を歪めるセイバー。
「誰もお前の意思を継いじゃくれねぇよ。だからお前がやれ」
「あぁ、分かってる」
これは俺が決めたことだ。逃げないと決めた。十年前の出来事を二度と起さないと決めた。セイバーとこの聖杯戦争を乗り切ると決めたんだ。ならば、こんなところで戸惑っている暇などあるはずもない―――!
「セイバー、これからよろしくな」
「おう」
差し出した手をセイバーが握る。俺よりも一回り以上大きい、篭手の上からグローブをつけたままの手。暖かさなんて微塵も感じない。でもこの手が離されない限り、俺は戦っていける。
昨日の契約よりも、これこそが確かな契約のように思えた。
士郎SIDE END
聖杯戦争への参加の理由を聞いたとき、シロウは言った。
「聖杯なんかいらない」と。
曰く、この戦争に参加したのは聖杯戦争という椅子取りゲームに勝ち抜くためではなく、勝ち抜く為の方法に、聖杯戦争とは無関係な人に危害を加えるやつを止める為、らしい。
若者がそれでいいのかね、とちょっと年寄りじみたことを思ってみる。別に俺だって聖杯が特別欲しいと言う訳ではない。勝てたら貰う。当然の権利と報酬だ。でもな、万能の窯とか言われてるんだぜ?ちょっと位なにかあってもいいんじゃないかと俺は思う。
世界征服とか恒久平和とか人類滅亡とか地球爆発しろとかそういう大きいもんじゃなくてもさ、おみくじで大吉当てたいとか美味しい料理を出す店見つけたいとか明日晴れたら良いなくらいの、そんな些細なもんだっていい。人の感じ方なんてそれぞれだし、人の願いにケチをつけられるほどのもんじゃないしな、俺も。
そんな俺でも、折角命を懸けて参加しているんだから、もし聖杯を手に入れたら、位は考えてもいいと思う。他人の為に命かけて戦うのなら、何かしら報酬を求めないと変なのだ。……まぁ、求めようにも報酬は聖杯って決まってるんだが。うむ、破格だと思う。しかしシロウはそれすらもいらないと突っぱねている。
(その生き方は―――歪だ)
死者でしかない俺には、道具でしかなかった俺には何も言えない。言う権利すらない。こういう馬鹿は結構しぶといから、ちゃんと傍で呼び戻してやれる存在が必要なのだ。
いや、呼ぶだけじゃ弱いな。突き進もうとするだろうから、こう首に縄括りつけて連れ戻すくらいの気概があると尚いい。…………まぁ、俺には関係のないことだけれども。
「取りあえず地理を把握しないことにはやってられん。町を回りたいんだ、が…」
コール音が耳に届く。
確か、あれだ。電話。
「ちょっと出てくる」
「居留守使っちまえ」
「んなこと出来るか…ぃっっ…」
正に天の助け、といわんばかりに安堵の息をついて立ち上がるシロウ。しかし30分以上無理な体勢で居た為、足はがくがく腕も結構辛そうだ。ざまぁ。これでシロウも自分のサーヴァントを侮ったら恐ろしいと実感したはずである。決して途中でシロウの体勢のことを忘れていたワケではない。(こいつ、なんでこんな体勢で固まってんだ?)と思ったことはない。
俺としては電話なんざ放って置いて、早く町に繰り出したいのである。戦場のように敵さんの武器がゴロゴロしてる訳でもないこの時代で、俺の戦い方はかなり不利だと思う。なんせ相手の武器もほぼ一品物だしな。素手で立ち向かうのは些か難しい奴らばかりが揃っている。
剣を持たない剣士って本当に致命的だと思う―――ってそりゃ本当に剣士か?………とにかく、物の配置を確認して、いざどんな時にでも武器に出来るものを把握しておかねばならない。
あと自分に都合のいいフィールドの確保と、そのルートの確認な。
「セイバー、ちょっと俺出掛けるから留守番しててくれ」
………こいつ、聖杯戦争は日曜が定休日とでも思ってんのか?
誤字脱字などありましたらご報告下さい。