ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
アーチャーSIDE
日曜日、買い物客で賑わう商店街。ものをいっぱい詰めた買い物袋を自転車に乗せて運ぶ主婦、買い物籠片手に歩く主婦を陽気な声で呼び止める店の店員、
「―――で、君たちは何をしているのだね?」
―――キョロキョロと物珍しそうに商店街を見回す長身の男と、冬の少女。奇しくもその髪と瞳の色は同じで、傍からみれば歳の離れた兄弟のようだ。
しかし実際は聖杯戦争で命を取り合う中であり、敵同士だ。それなのにこちらをキョトンとした幼い顔で見てくるセイバーとイリヤスフィール。何でそんなことを聞くのか、といわんばかりだ。
「イリヤスフィールが暇してるっていうから観光」
「セイバーが暇だっていうから付き合ってあげてるの」
「「…………」」
互いの主張に何やら言いたいことがあるのか、にらみ合うこどもふたり。
どちらが声をかけたのかは残念ながら見ていなかったが、二人とも暇を持て余していたらしい。………いや、セイバー、貴様は暇ではないだろう。
「セイバー、小僧はどうした」
「学校。付いてくんなって言われたから戦場の偵察に来たんだよ」
「貴様…その手に持っているものはなんだ」
「お、流石弓兵目ざといな……弓兵の名は伊達じゃないってか」
「貴様は弓兵を誤解している」
セイバーの腕に抱えられている紙袋を指摘すると、フと軽く笑って格好をつけているが、全く格好はついていない。セイバーの戦い方を昨夜見ていたから戦場の偵察の重要さは理解している。ヤツが抱えているのが何らかの武器ならば何も言わん。
だが、
「戦場の偵察といっておいて何故江戸前屋のたい焼きが抱えられているのだ」
「オヤツ」
「貴様…まさか小僧に買収されて護衛をさぼったのではあるまいな…」
「ははは、まさか。
アーチャーは買い物か?」
「違う。バーサーカーのマスターとセイバーたるお前が一緒にいるのでな。少し気になっただけさ」
霊体化をして冬木の町を偵察していた時、一緒に歩く二人を見てビルから落ちそうになったことは言うまい。私の覚えているセイバーならこんな状況にはならなかっただろう。目の前のセイバーは行動が読めない。
しかし、笑いあっていた人物が自分に不利益ならば殺すことが出来る人物だ。
(まったく、私もまだまだだな……)
とうに切り捨てたと思っていても、目の前にこうして現れると忘れていた感情が戻ってくる。
キョトンと不思議そうにこちらを眺める白い少女を彼が傷つけるというのなら、邪魔してしまいそうになるくらいには―――私も甘いということだ。わざわざ服を着替えて実体化してまで声をかけているのだから自分に呆れる。
「別に俺たちふたりだけじゃねぇよな?」
「えぇそうね。でもアーチャーは居なかったもの、分かるはずないわ」
クスクスとからかう様にイリヤスフィールが笑う。
「?それはどういう」
「あぁ?お前らなんでこんなところ……げ、アーチャーかよ」
聞き覚えのある声。粗雑な口調。嫌な予感を感じつつゆっくりと振り返れば―――目の覚めるような青がそこにあった。
アーチャーSIDE END
人気のない公園には大人の男三人に少女が一人。
この世界の警察機関の下っ端が駆けつけてきそうな状況である。しかし日曜だというのに人が居ない……誰か人避けの魔術でも使ったか?まぁ、人目を大いに気にしているアーチャーには丁度いいのかもしれん。
「君らは、馬鹿かね?いや、特にランサー、貴様が大問題だ」
「んだと?喧嘩なら良いぜ、買ってやらぁ」
「聖杯戦争は夜じゃないとしちゃいけないのよ?知らないの?」
うむ、見事に混沌としている。俺はぶらんこというものに座ってユラユラと揺れながら三人を眺めている。いや、イリヤスフィールも隣りに座っているので目の前で舌戦を繰り広げている二人か。
「何故、概念武装のまま実体化している!実体化するならするで、この時代の服に着替えろ、たわけ!セイバーでさえ人目を気にして着替えているのだぞ?」
「俺を引き合いに出すなよ。そういや、シロウも概念武装で出てこうとしたら怒ったな」
お前ら言うこと似てるよなーと笑い混じりに告げればアーチャーは嫌そうに顔を歪めた。
「すまん。ランサー、貴様はセイバーと同類だった」
「「おい」」
ちなみに俺の格好はロングマフラーにハイネックのセーターにジーンズ。上から下まで全部黒で統一している。シロウが「着替えないなら家から出さないからな!噂になる!」と必死に頼むので、フジネエなる人物に弁当を届けに行く前に服一式を買いに行かせたのである。
まったく、シロウといいアーチャーといい、いちいち細かいんだよな。
「ちょっと時代錯誤な人種かな?って見逃してくれるよ」
「くれんわ!言っておくがその格好は時代錯誤という言葉で済まされる物ではない!」
「買い物してきたが何も言われなかったぜ?アーチャーてめぇよぉ、いちいち細けぇんだよ」
「そ、その格好で買い物をしたのか……」
信じられん、とよろめく弓兵。
と、ランサーの「買い物」という言葉で思い出した。
「俺とイリヤのミルクティーは?」
「お、おぉ。アーチャーが突っかかってくるからすっかり忘れてた。おらよ」
「ありがとさん。じゃ、ほれたい焼き」
頼んでおいた飲み物を受け取り、イリヤスフィールに片方渡す。予想外に熱かったのか、小さい手の平の上で缶を転がしている。紙袋の中から個別に包装されたたい焼きをひとつ取り出し、ランサーに渡せば軽くお礼を言われる。そしてそのやりとりを有り得ないものをみるような目で見ているアーチャー。
「ほれイリヤスフィールも」
「……ぇ」
先程シロウお勧めの店で買ったたい焼きを一つイリヤスフィールに差し出す。目の前にたい焼きを差し出されて、マジマジとそれをたっぷり眺めた後。「私に?」と小さく聞いてきた。
まさか自分がもらえるとは思わなかったらしい。流石の俺も子供の前で自分だけ食べるような大人気ない真似はしないのだが…。
不安そうな声と、こちらを窺うように見上げてくる赤い瞳。頷きで俺が問いに答えてもイリヤスフィールはまだ迷っているようだ。
「ほれ、毒見係」
「誰が毒見係だね」
「お前」
「貴様というヤツは……まあいい、貰おう」
「そうそう、素直に受けとっておけ」
イリヤスフィールに差し出し、少し時間がたってしまったたい焼きを差し出すと、ブツブツいいながらもイリヤスフィールの為かたい焼きの香ばしい香りにつられたのか、アーチャーはたい焼きを受け取って齧り付く。
もそもそと咀嚼するその姿をじっとイリヤスフィールとランサーの三人で眺める。
もくもくもく、と味わうように咀嚼するアーチャー。
じぃっとその口元、おいしさなど感じないといわんばかりの無表情を見る俺とイリヤスフィールとランサー。
「…………おいしい、から。君たちも安心して食べたまえ……こっちを見るんじゃない」
「うむ、毒見ご苦労」
「わわ、熱…!」
俺から受け取ったたい焼きを膝の上に落して手を振るイリヤスフィール。
んー、子供って手の皮薄いからな。出来立てがいいって思ったけど少し冷ました方が良かったか。
ちょっと反省しつつ、イリヤスフィールの膝の上に乗っかったたい焼きを取り、ロングマフラーを解いて、包装紙の上から適当に2、3度巻いてイリヤスフィールに手渡す。
「あ、りがとう…」
「どーいたしまして」
ちょっとだけとまどいながらも目を細めて喜ぶイリヤスフィールは歳相応に見える。
ま、殺しちゃえーとか言わなきゃ……そこも子供らしい残酷さかもな。
「…………」
「…………」
「あんだよ」
目を見開いて表情を固まらせるアーチャー。
ポカンとたい焼きを銜えたままという間抜けな表情でこちらを見るランサー。
「貴様が気遣い、だと…」
「いや、面白いもん見たと思ってな」
「よし、喧嘩なら買うぞ」
特にアーチャー、なんだその世界の終わりみたいな声は。
「もう三人とも子供なのね、食べ物食べてる間くらい大人しく出来ないのかしら」
「「「…………」」」
行儀良く口に入れていたたい焼きを飲み込んだ最年少にたしなめられる。
俺は悪くない。悪いのは赤い弓兵と青い槍兵だ。しかしそんなことを言えば、更に子供扱いをされるのでおとなしく食べることにする。
「しかし、何故君ら三人が揃っているのだね?かなり有り得ない組み合わせだと思うが」
「買い食いしてたらイリヤスフィールを見つけて」
「そこにランサーが来たのよ」
「たい焼き奢るから飲み物買って来いってセイバーに頼まれたんだよ」
「それで待ち合わせがこの公園だった、というわけか」
いやー、流石の俺もここまでサーヴァントが揃うとは思わなかった。アーチャーがいぶかしむのも当然のことだ。俺たちの代わる代わるの説明を聞いて深い溜息を吐いているが。
「ランサーがしばらく劇物しか食ってないっていうからよ」
「ありゃぁ人間が食うもんじゃねぇよ」
どこか遠い目をして空を見上げるランサー。一体どんな目に遭っているというのか……別に知りたくもないが。知りたくないのでヤツのマスターと鉢合わせることがないようここで祈っておこう。
「そもそもサーヴァントは食べ物を食べなくとも平気だろうが…」
ボソボソとアーチャーが何か呟いているが無視だ。
たい焼きを食べ、ミルクティーで喉を潤しながら、聖杯戦争にまったく関係ないことを話していた俺たちだったが、「そろそろ帰るわ、バーサーカーが起きちゃう」というイリヤスフィールの言葉によって解散した。
「じゃ、ごっそさん」
「一応たい焼きの礼は言っておく」
「お前本当にあれだな。嫌なやつ」
「明るいうちは戦っちゃダメなんだよ~?」
「「「分かってる」」」
うむ、しっかりしたお子さんだ。
******
石の匂いがする部屋。人工的なものではない、ランプの火の明かりに照らされた一室。
そこには椅子に座り、手元の羊皮紙を眺める黒尽くめの男の姿があった。
「戻ったぜ」
突如現れた青い影にも、背後から掛けられた声にも、何の驚きも見せない男―――言峰綺礼は視線を羊皮紙に向けたままランサーを労った。
「ご苦労だった」
「……オレの監視なんざ必要なさそうだったぜ」
「ああ、随分と仲睦まじいようすだったな」
微笑ましいものだ、と怪しく笑う言峰にランサーは顔を歪める。
視覚と聴覚の共融で公園での出来事を…いや、セイバーとバーサーカーのマスターに声をかけた時から一部始終をこの男は覗き見していたのだ。
「そういえば、アーチャーのマスターは凛だったな」
「ああ、そうだ。なんであのいけすかねえ野郎があそこに居たかは知らんがな」
「ふむ、やはり凛も気付いているということか」
何かに納得するように頷く言峰。その「何か」がなんなのかは分からないが、ランサーには聞いておかなければならないことがあった。
「バーサーカーのマスターを監視するのも、護衛するのもいい―――だがな、」
元よりランサーにはマスターを狙う効率など視野に入れていない。
―――英雄として相応しい戦い。それが彼の望みだからだ。
敵マスターを庇う真似をすることに疑問は抱くが、そんなものはどうでもいいのだ。
「セイバーと戦うなとはどういうことだ。後から来たアーチャーともな」
両者とも一度手合わせをした相手だ。令呪の縛りは関係ない。自分の思うままに力を振るえる相手を前に戦闘を止められた。そこだけはランサーには解せなかった。
「ふ、バーサーカーのマスターも言っていただろう。聖杯戦争は夜にするものだ」
「……ッケ、んじゃ夜まで待たしてもらわぁ」
「ああ、戦いの場は用意させてもらう―――時期が来たらな」
「ならいい」
それだけ言うとランサーは姿を消した。部屋に浮かぶ影はまた一つに戻り、静寂が戻ってくる。
消えたランサーを一度だけ振り返り、ふむと頷くと
「夕食でも奢ってやるとするか」
ポツンと呟いてから言峰は自分の作業に戻った。
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