ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第拾肆話:日常の変わる音

 帰り道を辿りながら夕日に染まり始める住宅街を眺める。

 ここは本当に―――人が多い。

 

 

「人間はここまで増えたのか」

 

 

 今日商店街に溢れ返る人々を見て、まずその多さに驚いた。そしてその無防備さに驚いた。

 きっと俺が  したら―――一人も残らない。魔力が残っているからまだ大丈夫。そう自分に言い聞かせる。いくら聖杯戦争といえども、全ての敵と戦うなんて状況にはならないはずだ。

 

 

「あぁ。だから嫌なんだ―――こんな死に掛けの、世界なんて」

 

 

 少し傾いただけでたくさん零れ落ちてしまいそうな世界。

 かつてこんな平穏を望んだけど―――いや、望んだからこそ。自分がどれほど異質なものなのかということが分かる気がして。

 

 

「……ま、なるようになれ、だな」

 

 

 寒さなんて感じないけど、手袋をはめた手の上から息を吐きかけてみたりした。

 

 まるで人間がやるように。

 

 

 

******

 

 

 

 この時代では日本といえども武家屋敷、というものは珍しいらしい。おかげで直ぐにその白壁が続くシロウの家が分かった。

 

 

「戻ったぜー」

 

 

 ガラガラと引き戸を開けて夕飯の支度をし始めるだろうシロウに帰宅を告げる。

 トテトテと軽い足音。シロウとは違う、女一人分の足音に横に視線を走らせて傘を取る。

 

 

「……え、あの……どちらさまでしょうか」

 

「そっちこそ。シロウはどうした」

 

「先輩ですか?」

 

「センパイじゃないシロウだ」

 

「えっと……」

 

 

 侵入者は女。年頃はシロウとそう変わらない。武器は持っていない。しかし足運びから何かの武術をやっているのが分かる。髪は紫。肩を少し超えたほどの髪を右の側面の赤いリボンで止めて居る。

クン、と鼻を鳴らすと。人間と、異物の混ざった匂いが鼻に付く。

 混ざりもん…つまり一般人ではない。ラインは切れてない。つまりシロウは生存している。ならば、

 

 

「答える気がないのならいい。じゃあな」

 

「止めろセイバァァァァァ!!!」

 

 

 無防備な首を貫こうとした手はシロウの姿を目に留めて、止まった。

ポカンとこちらを見て、自分の首に傘の切っ先が突きつけられてるのを見て、目の前の少女はペタンとその場にへたり込んだ。んーーーー…俺、見誤った?

 

 

「何してんだセイバー!桜、大丈夫か?!」

 

「…は、はい、だい…じょうぶです」

 

「いや、普通見知らぬ人間が自分の陣地にいたら殺すだろ」

 

 

 シロウは女子供に弱そうだし、特に注意しとかないとだろ。俺も一般人が相手だったらそこまで警戒しないが……なぁ?

 人間という生き物に対して利く鼻に、人間ではない別のものの匂いが混じっている。これで「一般人です」といわれて「そうですか」で返せるほど俺は甘くないのである。

 

 

「殺すって…!桜は…関係ないんだ」

 

「あぁ、そうか。そりゃ悪かった。えーっと、サクラ?」

 

「は、い……」

 

 

 うむ、すっかり怯えてるな。まぁ勘違いで殺されそうになったんだからそりゃ怯えるわなぁ。……っつか、戦場になるような自分の陣地に無関係な人間を連れ込むなよ、シロウ。事後でそれをいうのは言い訳でしかないとは思うが、そこはきっちりしていただきたい。

 

 

「悪かったな。シロウが危ない目に遭ってると思ったんだ。ほら、シロウ女子供に弱いし、お人好しだし、見知らぬ人間ほいほい家にあげそうだし」

 

「だ、大丈夫です。怪我もしてませんから」

 

 

 頭を下げた俺にパタパタと手を振って萎縮するサクラ。

 やはり家に上がるほどの知り合いらしく、シロウの人となりを知っているので、自分が掛けられた容疑を容易く想像出来たらしい。シロウ、男だからと言って女相手に油断したら命がないぞお前。今のところサーヴァントは男しか出ていないが、女性もいるので非常に心配である。

 

 

「士郎、どうしたの?!」

 

「あ、藤ねえ、ちょっとな」

 

 

 バタバタと急いで走ってきた茶髪の女性。どうやらこの人がフジネエらしい。手には竹刀を握っている……もしかしなくとも俺が不審者?

 俺は何の説明も受けていない。そして彼女らも何の説明も受けていないらしい。自然、両者の立場を理解しているシロウに視線が集まる。

 

 

「……あー、取りあえず、居間に行こう。そこで紹介する」

 

「おう」

 

 

 傘立てに傘を刺しこみ、シロウの手を借りて立ち上がり歩き出したサクラとシロウのあとに続く。

 昨日も深夜外出をしていたし、今日の朝も昼近くまで寝ていたので、保護者とかそういう人物がいないのだと思って実体化したまま帰ってきたのだが、…………ちょっと失敗したかな。恐らくシロウもそう思ってるだろう。

 

 

「で。誰なのよ、この外人さんは」

 

 

 居間に着き、開口一番フジネエは俺の方を見て言った。サクラもその意見はもっともなのか、とまどいつつも目を逸らさないでこちらを見ている。

 ま、目を離していた隙に物騒な人物が気を許してる相手の陣地にいたらそうなるか。

 甘いものばっか食べていたのでお茶が欲しいなーと思うが、流石の俺も「お茶」と言える状況でないのはわかる。

 

 

「オヤジの知り合いなんだ。オヤジが飛び回ってた頃に知り合った人だって」

 

「切嗣さんの?じゃあその人、切嗣さんを訪ねに来たの?」

 

「そういうこと。今日からしばらくうちで暮らすから。

 

見てのとおり外人さんで勝手が分からないこともあるけど、よろしくしてやってくれ」

 

「「――――え?」」

 

 

 勝手が分からない。

 んな理由で殺されかけるのに慣れてる時代じゃないだろうに。目を見開いて驚いている二人を見て(当然か)という顔をしているシロウ。

 

 

「別にずっとってワケじゃない。セイバーの滞在中に宿として家を貸すだけなんだから、そう驚くことでもないだろ」

 

 

 反論される前に反論を封じるように先制攻撃をしかけるシロウ。

 おぉ、ちょっとだけ頼もしいな。こんな攻勢的なシロウも珍しい。……まぁ、シロウがどういうヤツかなんて2日しか顔を合わせてない俺では分からんが。

 うむ。今まで流されてばっかだったシロウが頼もしく見えるとは、今日は赤飯か。

 

 

「……あの。先輩、この人セイバーさんって言うんですか……?」

 

「ああ、変わった名前だけどな。あんまり日本に慣れてないんで驚かせるようなこともするけど、悪いやつじゃないんだ。さっきはセイバーも見知らぬ人が家に居たから驚いたんだと思う。そのことについては俺も話してなかったのが悪かったんだ。大目に見てくれると助かる」

 

「……それは、いいんです。けど……」

 

「…………」

 

 

 やはり、サクラは怪しい。この状況で気に掛けるべきことは名前じゃない。なのにいち早く「セイバー」という名前に反応した。シロウとも目を合わさない。流石に人の家の事情なので口には出していないが、隣りにいるシロウの保護者であるフジネエの方に視線を移している。まるで、―――最後の砦だというかのように。

 

 

(……クロか?)

 

 

 クロだとしたらかなり不味い状況だ。シロウは無関係だと信じきっている。それは仕方のないことだ。ぽっとでの俺とじゃ信頼度が違いすぎる。さっきの出来事が悪すぎた。この状況で自分の陣地に居座られるようなことがあると……ヤバイな。

 

 

「藤村先生。藤村先生は、セイバーさんの滞在を許可するんですか?」

 

「んー……切嗣さんを頼ってきた人を無碍には出来ないし……、ちょっと自衛に関しては問題ありかとは思うけど……最近物騒だもんねー。夜に士郎一人っていうのもやっぱ心配だったし、ちゃんと注意しておけば間違いは起きないかな。ね、士郎もそう思うんでしょ?」

 

 

 ふむ、どうやら夜は二人は各自の家に帰っているらしい。出来れば聖杯戦争中は来ないでほしいのだが……どうだろうなー。

 

 

「と、当然だろ。オヤジの客なら俺の客だ。失礼な事なんて出来ないし、日本に慣れてないんだから放っておけないだろ」

 

「そうだよねー、海外と日本じゃ全然違うもんね」

 

 

 うむうむ、と腕を組んで頷くフジネエ。

 

 

「いいんじゃない?ホームステイと思えばいい経験だし、ここって無駄に部屋も多いもの」

 

 

 というフジネエの言葉によって俺のシロウの家への滞在が許可された。

 サクラは終始無言だったが、最後に

 

 

「はい。私が意見できることじゃありませんから」

 

 

 と、何かを押し込めたような表情でポツポツと呟いた。うーーーん、修羅場だ。

 ちなみにシロウはそんなサクラの変化に気付かないようで、納得してくれたと思って安堵の息を吐いている―――赤飯は取り消しだな、この鈍感。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………えーと、取りあえず、夕飯の準備するか。セイバー、リクエストあるか?」

 

「お、んじゃニクジャガっての食いてぇ!日本じゃ定番だって商店街で聞いた」

 

「わかった。セイバーの歓迎も兼ねて今日は力をいれるからな」

 

「おぉ、気ぃ使わせて悪いな」

 

 

 気まずい沈黙を破って夕食の準備に取り掛かる為台所に向かうシロウ。

 惣菜屋さんで定番の日本食ってどんなのか聞いてきたんだよなー。話も終わったのでお茶を飲もうと湯飲みと急須を……台所か。

 

 

「えーとフジネエ?とサクラはお茶どうする?」

 

「ブッ!なんでセイバーさんがフジネエって呼ぶのよ」

 

「シロウからフジネエって紹介されてたんだが」

 

「それは呼び名よー。私の名前は藤村大河っていうの。シロウの保護者兼担任よ」

 

「フジムラタイガか。俺はセイバー、短い間だけどシロウの護衛みたいなもんかな」

 

「へぇー、セイバーさんって何か武術でも習ってるの?結構良い体格してるもんね」

 

「剣を少し」

 

 

 むむ、台所から「少しじゃねーだろ」という声が。

 

 

「それよかお茶どうする?料理は出来んがお茶くらいは淹れられるんだが」

 

「あ、湯飲みはあるからお替り頂戴。桜ちゃんは?」

 

「…………ぇ、あ…お願いします」

 

「了解ー、シロウこれ茶葉替えてくれ」

 

 

 渡された急須には出涸らしが入っていたので台所に居るシロウに渡す。手馴れた手付きで茶葉を捨てて、新しい茶葉を適量入れて返してきた。

 

 

「溶け込むの早いな」

 

「そうか?俺は俺のやりたいようにやるだけさ」

 

 

 急須を受け取り、食器棚から一人分の湯飲みを持ち出して居間に戻る。ポットの中のお湯を注いで、少しだけ蒸らしてからそれぞれの湯飲みにお茶を注ぐ。

 

 

「んー、今日は甘いものばっかだったからうまい」

 

「甘いもの?」

 

「うむ、商店街でシロウおすすめの江戸前屋に行ってきたんだよ」

 

「江戸前屋?!おみやげは?セイバーさんお土産は!」

 

「悪いな、予想外な知り合いが多数居て全部食っちまった」

 

「そっかー、でも旅行しに一人で来たのに知り合いに会うって世界は狭いのねー」

 

「あぁ、ちょっと腐れ縁ってやつが恐ろしくなった」

 

 

 本気でな。あいつらなんであんなところうろうろしてたんだか。疑問に思えど答えてくれる奴おらず。ズズ、とお茶を一口含み後でシロウにソレも含めて話さないとな、と考える。

 まずは夕食が何よりも先だが。

 





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