ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第拾伍話:秒読み開始

 

「ふぅん、んじゃマトウサクラはシロウの後輩だったのか」

 

「はい」

 

 

 センパイというのは名前ではなく、先輩という呼び名だったらしい。んで、マトウサクラが後輩。同じ学校という教育機関に通っているらしく、ここには朝晩と食事を作りに通っているらしい。

 そういえば着ている服も昨日リンが着ていたものと同じだ。制服といって学生の証であり、統一しているのだそうだ。うむ、なにやら複雑な世の中になっているな。

 

 

「セイバーさんは観光に来たの?」

 

「ん、日本の観光ついでにキリツグに会っとこうと思ってな。日本家屋で武家屋敷なんて珍しいから見たいと思ってたんだ」

 

「そうよね、外人さんにしてみれば珍しいものね」

 

 

 見たこともあったこともないが、シロウのオヤジ=キリツグというのは理解出来ている。ついでに日本の文化にも興味があることを匂わせておけば完璧だろう。

 俺の言葉を信じて頷いているフジムラタイガ。どうでもいいけど口端にご飯粒付いてるぞ。

 そんなこんなで互いの情報を交換しつつ、比較的にぎやかに夕飯は終わったのであった。

 

 マトウサクラはやはりというかなんというか、話にはあまり乗ってこなかった。初対面の印象が最悪だから警戒するのはあたりまえだが、警戒の種類が違うんだよな。なんつーの?俺だけをひたすらに敵視してる感じ。恐怖とかそういう類ではなく、敵視。そこが問題なのだ。…………シロウは当てにならないし、独自に調べた方がいいかもな。

 

 

「そろそろ時間かな」

 

「藤ねえー。帰るなら桜の見送りを頼むー」

 

 

 台所からフジムラタイガの声を聞いたシロウが声をかけてくる。しかしそれに返事をせず、お茶を飲みつつテレビを眺めていた俺に視線を寄越す。

 ?残念ながら俺は視線を読むなんていう高等技術はまだ習得してないぞ。そんな意味を込めて首を傾げてみるとフジムラタイガは何事もなかったかのようにテレビに視線を戻した。

 

 

「……もしもーし。聞こえなかったんですか、藤村先生」

 

「悪いけど、それは却下。しばらくは桜ちゃんを送ってあげられないから」

 

 

 居間に戻ってきたシロウに頭をぺちぺちと叩かれたフジムラタイガがそう返す。

 ま、物騒だししばらく夜は自分の家にこもっていた方が正解だな。

 

 

「?なんでさ。藤ねえ、何か用でもあるのか?」

 

「えっとね。用じゃなくて、今日からわたしもここに泊まるから」

 

「――――――はい?」

 

「あ、桜ちゃんもどう?おうちの方には私から連絡入れておくから安心だよ。

 

女の子二人でお泊り大会とかどうなのよう」

 

「あ…………は、はい、是非!藤村先生、たのもしいですっ!」

 

 

 突然声を掛けられて呆けていたマトウサクラだったが、すぐに勇んでその話に乗っかってきた。

 おいおい、一応保護者として泊まるってのは分かるが……マトウサクラを誘っちゃいかんだろ。保護者として、教師として。

 

 

「いやフジムラタイガ。マトウサクラはダメだろ。いくら気安い仲と言っても未成年だし、何かあったらそれこそ問題なんじゃねぇのか」

 

 

 成人しているフジムラタイガはいい。行動の責任は自分で取れる。しかしマトウサクラは未成年で、学生という身分。その責任はマトウサクラが何と言おうとフジムラタイガや俺にくるのだ。

 ぶっちゃけるとこんな時間まで外出させてる方がおかしいというものである。

 

 

「ぅぐ!それもそうかー。じゃあ桜ちゃんはシロウが送ってってあげて」

 

「馬鹿か、こんな夜中に学生二人を歩かせるんじゃない。俺も付いてく」

 

「わ、私は平気ですから!泊まらせてください!」

 

「いやー、セイバーさんの言うことは正しいもの。いざという時のことも考えて、ね?」

 

「それでしたら尚更藤村先生一人じゃ心配じゃないですか!」

 

「いや、セイバーのことはちゃんと俺が見張っておくから心配要らないぞ桜。これ以上遅くなるといけないから送ってくよ、セイバーも頼むな」

 

「了解ー」

 

 

 夕食時は邪魔だったので隅に丸めておいたロングマフラーを首に巻き立ち上がる。流石に3対1は分が悪すぎると思ったのか、それともなんの案も出てこなかったのか、何も言えずにうな垂れているマトウサクラには悪い気もしないでもない(様な気がする)。

 だが、ここは戦場になる可能性があるし、マトウサクラ自身も怪しい。彼女をここに置くという選択肢は俺にはないのだ。リンやイリヤスフィールやランサーみたいに「敵」とはっきりしていた方が扱い易いのである。この、敵か味方か分からない、クロに近いグレーなのに手を出せないという状況が悪すぎる。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……あの、送ってくれてありがとうございました。帰り道、気をつけてくださいね」

 

「ああ、桜も最近物騒だから気をつけろよ」

 

「はいっそれじゃおやすみなさい」

 

 

 終始無言のままマトウサクラの家に着き、軽い別れを告げてから帰路に着く。人気のないポツポツと街灯に照らされた夜道を二人で歩きながら話しかける。

 

 

「なぁシロウ。お前ちっとも分かってないから言うけどよ。聖杯戦争なんだ。戦争なんだよ」

 

「分かってるよ」

 

「分かってねぇよ。分かってたら大事な人間を戦場になるような場所に置きはしない」

 

「っ!それ、は」

 

「大事なんだろ――――――令呪使っちまうほどに」

 

 

 左手を取ってみると、やはり令呪の一角が色を失っている。チリと蚊に指されるほどに僅かに干渉してきた気配は令呪の縛りだったのだ。

 

 

「悪い、俺の不注意だ……でも俺は後悔してない」

 

「ならいい、それと謝らなくてもいい。ソレをいつ使うか決めるのはお前だ」

 

 

 困るのはお前だといっておく。きっとその言葉の真意をシロウは分かってないんだろうが。

 あぁ、それともう一つ言っておかねぇと。フジムラタイガを家に留めるというのなら尚更。

 

 

「シロウ、俺はお前の護衛だ。フジムラタイガの護衛じゃない。あの家が襲撃された時俺はフジムラタイガではなく、お前を優先する」

 

「なっ!」

 

「っつか契約する時いっただろ。人助けとかそういうの興味ないって」

 

 

 俺はシロウが目指すような正義の味方ではないのだ。いくらサーヴァントだといっても、限界はある。ただでさえ魔力に制限が付けられてるんだから余分なことに割く労力はない。そこんとこぜってえ理解してないよなー、こいつ。

 リンの前では弱点の暴露になるから完全には告げなかったが魔力供給が一切されてない。

それは今日シロウが起きた時に話しておいたのだ。睡眠と食事があれば戦闘には一切支障がないといったのが悪かったのか。悪かったんだな。悪かったんだろーね。

 

 

「そうだけど……いや、分かった。藤ねえは俺が守る」

 

「うむ、それでそのシロウを俺が守る、ということでいいな」

 

「ああ、苦労かけるなセイバー」

 

 

 身体を張って助けるとまで言われちゃ、サーヴァントとして守りきるしかないだろう。

 

 

「でもよ、シロウ。いつか限界は来る。その時に日常か、戦争か、どっちを捨てるか選ぶ日が絶対に来る」

 

 

 今日明日で捨てろ、とは言えない―――そんなことできる筈がないと分かってる。その反応は普通のことだし、別に俺だって無意味にシロウを追い詰めたいわけじゃない。流石にそこまでの興味がないというか、そんなことして楽しいの?って感じだ。

 なので俺は傍観する―――

 

 

「その時に、ちゃんと決めろよ。シロウ」

 

「ああ」

 

 

 ―――その日が来るのを騙し騙し伸ばしながら。

 サーヴァントだ英霊だと呼ばれても、出来ることっつたら所詮そんなもんなのだ。ちっともありがたくないことこの上ない。解決なんて出来ない出来ない。そういうのは正規の英霊様に頼んでくれ。

 夢見た方が負け。現実というのは結構そういうものだ。

 

 ―――でも、夢を見たらひたすらそこを目指し続けそうだよなぁ、コイツは。

戦争の真っ只中だというのに抜け切らない甘さが何よりの証拠のマスター様を盗み見た。こんな甘ちゃんで聖杯戦争の結末が見れるのだろうか……あぁ、運がない。

 こっちもいろいろ譲歩してんだからシロウにも譲歩して欲しいもんだ。

 

 

 

 

 

士郎SIDE

 

 

 

 

 

「その時に、ちゃんと決めろよ。シロウ」

 

「ああ」

 

 

 今ここで決めろ、と選べ、といわないセイバーに少しだけ胸が温かくなる。先程の藤ねえの件もセイバーにとっては屁理屈でしかないのに守ってくれようとする。俺のことをお人好しだと言いながら、冷酷な顔をしておきながら、どこか甘くてお人好しな剣士が嫌いになれない。

 でもコイツは甘くてお人好しだけじゃないのも分かる。セイバーが言ったとおり、藤ねえか俺かを選ぶ時躊躇なく俺を選ぶだろう―――だから、俺が強くならなきゃならない。

 サーヴァントの相手はセイバーがしてくれる。そういうものだと「へこへこ出てこられた方が邪魔だ」と何度も言われたから分かっている。ならば俺は、その戦禍から藤ねえを守れるくらいに強くならなければならない。それが俺に時間をくれたセイバーへのお返しだ。

 

 

「なあセイバー、朝と夜だけでいいからさ、稽古つけてくれないか?」

 

「稽古?……お前まさかサーヴァント相手に突っ込むとか言わねぇだろうな」

 

「む、流石にそこまで物分り悪くないぞ俺。セイバーは俺のせいでずっと付いていられる状況じゃないし、セイバーが来るまでの時間稼ぎや、戦闘の時とばっちりにならないよう鍛えて置かなきゃだろ」

 

 

 じとっとした目で見てきたセイバーに反論すればフム、と考えるセイバー。

 顎に添えられた手袋をした手を見て、そういえばセイバーの素手って見たことないなと思いつく。食事中も外さなかったし……意外と潔癖症なのか?

 

 

「いいぜ、朝と夜に稽古つけてやるよ」

 

「ああ、…よろしく、な」

 

 

 ニヤリと笑った顔がちょっとだけ怪しい。セイバーさんの足取りが軽くなったと思うのは……俺の気のせいなのでしょーか。

 

 

 

 

士郎SIDE END

 

 

 

 





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