ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
桜SIDE
「どうしよう……」
先輩に送ってもらって、なんとか笑顔で見送って、部屋に戻って呟いたのはそんな言葉だった。
頭の中ではずっと同じ言葉が渦巻いている。
朝食の支度を手伝いに行った際、先輩の左手に聖痕が現れた時からずっと続いてる。
どうしようどうしようどうしようどうしよう―――先輩が聖杯戦争に巻き込まれたら。
だけどそれも今日、先輩の背後に控える白い人、セイバーさんを見て変化した。
どうしようどうしようどうしようどうしよう―――私のことが先輩に知られたら。
どうしようどうしようどうしようどうしよう―――先輩が怪我でもしたら。
どうしようどうしようどうしようどうしよう―――先輩と、戦うことになったら。
どうしようどうしようどうしようどうしよう―――先輩が、……死ん、じゃったら。
立っていられない。扉の前に蹲る。どうにかしなきゃ、と思っても私にはそんなことできない。
「らいだー…」
頼れない。私からライダーを兄さんに預けちゃった。
姉さん……もっと頼れない。互いの家には不干渉と決められている。
それに、私なんかが頼れるわけがない。
「先輩、先輩先輩……私、どうしたらいいんですか」
コツコツ。背後の扉がノックされ、「桜」とおじい様が声を掛けてくる。
ザッと青褪める。
「衛宮の子倅のところに行っておったのじゃろう、様子はどうだった」
「…………セイバーさんが、いました」
「ほお、セイバーを召喚したのか。お主から見てどうじゃった?」
「分かりませ、ん…ごめんなさい、ごめんなさい」
「何、謝る必要などない。まだ聖杯戦争は始まったばかり、時間はある」
おじい様の言葉にほっと息をつく。でも次の言葉で心臓が縮まった。
「しかし相手は最優のサーヴァント、なんの情報もないのでは今のライダーにはちときついかのう」
「……ぁ、」
セイバーさんを狙えないなら、誰を狙うのか―――想像もしたくない。
私の心中を知ってか、おじい様が安心させるような声で言う。
「なあに、可愛い孫の想い人じゃ。お主がセイバーの情報を知らせてくれるなら手出しはせぬよ」
先輩には手を出さない。それが約束だった。
「桜、お主が衛宮の子倅を救うのじゃ。聖杯戦争という危機からの」
「わたし、が?」
「うむ、衛宮の子倅が参加する理由であるセイバーさえいなくなれば無関係じゃ」
戦争なんてものとは無関係な綺麗で、暖かい人。
そんな先輩が戦争に参加する理由であるセイバーさんが居なくなれば、先輩は―――無関係になる。
握り締めていた手を更に強く握り、前を向く。
「わかりました。頑張ります」
「おお、やってくれるか」
先輩、待っていてくださいね。
桜SIDE END
士郎SIDE
桜を送って、冷えた体をお茶で温めてから藤ねえは離れの方に。
そして俺たちは早速セイバーによる稽古を開始する為、道場の方へと足を向けた。
のが、数十分前。
既に俺はくじけそうである。
「おらおらおらおらぁ!どうしたシロウ!んな体たらくじゃバーサーカーの攻撃の余波で降ってくるコンクリートは避けらんねぇぞ!!」
ズドドドドドドド!と雪崩のように降ってくる丸められた座布団の嵐。
先生!セイバー先生!一昨日のバーサーカー戦とは比べ物になりません!!
木刀でなく、竹刀っていうのもかなり無理があると思う。
ただの座布団というなかれ、いくら筋力のランクが低いといっても英霊の中での話なのだ。戦場で鍛えられた目は的確に俺の動きを読み、要所要所に座布団が降ってくる。
「せい、せいば、ぁー!これ、余波じゃな…狙ってる!むさ、べつじゃ…ねえ!」
避け切れなくて竹刀で受け止めた座布団がぎゅるぎゅると音を立てて回り、落ちた。
……これ、当たったら俺死ぬんじゃないだろうか。
バカン!と座布団からしちゃいけない音がして、身体が宙を舞い、視界が暗転した。
「おいおい、戦闘中に余所見出来るほど強くねぇだろがシロウ。いいか、サーヴァント相手じゃ……―――」
呆れ混じりの叱責する声がボンヤリと耳に届いてきたが、最後までは聞こえなかった。
うん、もう絶対にこの修行は止めさせる。命が足りない。
そう固く心に誓って、俺は意識も暗転させたのであった―――。
―――夢を、見ている。
記憶にない声。記憶にない景色。記憶にない人物。
ここまで揃っているのなら、これは記憶の再現じゃない。
これは―――夢だ。
―――ソレが生まれた時にかけられたのは祝福でも喜びの声でもなかった。
ソレが生まれた時に掛けられたのは、与えられたのは―――たったひとつの呪い。
『―――逃げることは許されない。お前は一振りの剣なのだから』
生れ落ちた瞬間。
もっとも純粋でもっとも脆弱で―――誰よりも庇護が必要なモノ。
その時に彼は―――彼が辿るであったろう道の全てを閉ざされた。
それからというもの、彼の人生は全て戦場だったといっても過言ではない。
本来戦うべき何百人を守る為、彼はたった一人で戦場を駆けた。
背後の村の平穏をを守る為、彼はたった一人で人生を過ごした。
ただ、それだけ。
剣には鞘
鞘には剣
剣と鞘は一心同体。
それがこの世の理というものだ。
そんな理からはずれた、たった一振りの剣―――それが彼だったのだ。
ふざけてる。
だったらソイツは、その誰かは頑張った分だけ報われなければならない。
人を救おうと頑張ったヤツが報われないのは嫌なんだ。
夢に入り込んできたその理不尽な物語に噛み付いた。
その先を、剣として人を守り、戦い続けた誰かの物語を、結末を見るために―――
「ぁ、………」
夢の先は―――なんのことはない、自分の家の天井だった。
朝日を浴びて視界が白くぼやける。夢を覚えている事なんてないのに、何故か誰かの人生の一端を綴ったあの夢は覚えていた。夢だと分かっているのに熱くなったからかもしれない。
けど、覚めた今でも納得がいかない。
結末は見れなかったけれど―――決して俺が望むような結末じゃない気がする。
「む、いけない。朝食用意しないと」
今の自分の眉間には皺が寄っているだろう。
もやもやとした胸をすっきりさせるために朝食の準備を始めよう。起き上がろうと手を突くと、身体に激痛が走った。
「あいててて…ちくしょう、セイバーのヤツちょっとは加減しろよな……」
痛みに呻きながら顔を上げると―――俺の直ぐ傍でセイバーが眠っていた。
冬だというのになにも掛けずに壁に寄りかかって座った状態で眠っている。
『魔力供給がないからな、出来る限り俺は眠っている』
そう言ったのはセイバーだ。霊体化は武器が持てないから行動する時は出来る限り実体化しているといっていた。
(それにしても……)
サーヴァントだ、死者だ、英霊だと言っていたが、この季節にこれでは寒くないのだろうか。思わず自分が今まで掛けていた布団を引っ張ってきて掛けようとした所で、
「んあ、起きたか。稽古どうする?筋肉痛で動けねぇか?」
「あの修行のやり方は止めてくれ。他のサーヴァントと会う前にお前に殺される」
ゆるりと開いた目を擦り、眠そうに欠伸をするセイバー。
まだ寝たりないのではないかと心配になるが、すぐに向けられた目はきっちりと意思が灯っている。
「あー、フジムラタイガも言ってたな。
『ややややりすぎよぅ!セイバーさん何処の軍人上がりのスナイパー?!』って」
ケケケと笑うセイバー。あぁ、藤ねえに心配掛けちまった……これは監視が付きそうだな。
時間なんて限られているのに、と歯噛みしても時間は戻らないのである。
やはり剣をあわせる程度の方がいいかもしれないな。昨日の修行はダメ、絶対。
「なあ、セイバー」
「ん?」
「………朝の鍛錬も、頼むな」
「おう」
今俺は何を聞こうとしていたんだろう。
あの夢がセイバーの過去だなんていう証拠なんてないのに。
いや、もしあっても―――俺はなんていえばいいのか分からない。
楽しそうに笑い、仮初めの生を謳歌するセイバーがいるから、尚更に。
士郎SIDE END
パン、パパン!
竹刀がぶつかる音が朝日に照らされた道場に響く。
二月の初めの空気はひんやりとして、早急に寝ぼけた意識を引き締めてくれる。
「シロウ、ちゃんと見ろ!見えないなら筋肉を読め、動きを予想しろ、空気の音を聞け」
「む、無茶言うな!」
「うむ、俺も無茶だと思う。そこまでお前のスキルは高くない」
「っっぐぐぐ!」
魔術の師匠は勿論、剣の師匠も居らず、戦場に身をおいたこともない人間にいきなりそんなことを求めるのは酷だと分かってる。しかし、手を抜いて振るっている竹刀の動きくらいは見切ってもらわなければ話にならない。勿論、無茶を言っているのでシロウは数十分でボロボロである。
学校……行くんだよな。このボロボロの身体で。
「シロウ、学校行くのか?」
「?当たり前だろ」
「リンが居るのにか?相手はお前と違ってちゃんとした魔術師だぞ」
「だからこそ有り得ないだろ。
ちゃんとした魔術師だから『無関係な人間を巻き込むな』っていう協会のルールが染み付いてるヤツだし、学校じゃ優等生って猫を被ってるんだぞ」
ふぅん、やはり一般社会に溶け込むのならそれ相応の擬態をするもんなのか。
しかし、擬態は所詮擬態でしかない。っつか本性を知ってるのにこの警戒心の無さっぷりはどうなんだ。運がない。あと二回頑張れ俺。ま、無駄だと思うが一応シロウのサーヴァントとして忠告しとくか。
朝から晩まで忠告しっぱなしだな、俺……ほんっとうにこんな所を舞台にした責任者出て来いって話だ。
「人目があれば失くせばいい。それだけの話だ。その程度の魔術は会得してるだろ」
「遠坂が無関係な人間をどうにかするっていうのか?!」
「違ぇよ。この世にはな、人避けの魔術っていうそりゃぁ便利なもんがあるんだよ。学習しろ」
「ぅ、悪かった…怒鳴って。人気が無い所には近付かないし、日が落ちるまでには帰ってくるからさ、安心してくれよ」
あ、安心…シロウの口から安心…?!
この国では溜息を吐くと幸せが逃げるらしい。俺の幸運値が下がったら絶対にシロウのせいだ……聖杯で幸運値上げてもらうかな。流石にEランクの壁を越えたくない。
「この冬木の町は以前とは違う。くれぐれも油断するなよ。警戒しすぎて困ることは無い」
「ありがとな、セイバー。
大丈夫だと思うけど、俺の身に何かあったらセイバーにも伝わるんだろ?その時は頼む」
「確かに繋がりはあるし、危急の時は察知できるだろうが、そん時はお前が死ぬ一歩手前だ。
俺がそこに行った時にゃ死体でした、って落ちがつくさ」
「……そうなのか」
肩を竦めながら軽く言うと口元が引き攣るシロウ。でも学校、行くんだよな。そんなに譲れないもんがあるのかねー?俺には理解不能だ。
一つ息を吐いて耳に付けていた護符を片方取り、シロウに渡す。
「お前の協力者としてんな落ちで終わらせたら立つ瀬が無いからな。ほれ、これ貸しとく」
「これって…ピアス?」
「護符だ。一応礼装の一部だから何かあればラインの繋がりから察知するより早い。それにこれには『生存』の呪いが懸かってる。怪我すると酷いぜー」
「ひ、酷いって…しかも呪いなのかよ!」
俺にはこの呪いは既に効かないものになっているが、シロウならまったく問題ない。この呪いはシロウの魔力を引き金にして確実にシロウ生かすだろう。
ま、呪いだから普通に生きてるヤツにとっちゃ辛いもんがあるがそこには目をつぶれ。
「ま、絶対死ねないから安心しろ」
「出来ない!その死なない、じゃなくて死ねないってところが特に!!」
んなもん知らん。
ちなみに、セイバーさんが護符だといっている物は宝具ではありません。
それどころか呪具のひとつとして数えられる物です。でもセイバーさんは「これは護符だ」と言われて渡されたので彼の中では護符となっています。
誤字脱字などありましたらご報告下さい。