ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
妙な所だけ鋭いシロウがうるさい上、なんだか学校の規則というものでピアス(という分類に護符は入れられるらしい)の着用が禁じられていると言われたので付けることはせず、ポケットに忍ばせるという形になった。
しかし護符が禁じられる学校とはなんとも物騒なところなんだな。護符とは名ばかりの呪いの一品だが、死ねないという事柄に関しては一級品なのに。
「ま、持ってるだけでも怪我の治りを早くしてくれるからな」
「そうなのか?」
「それに魔力を流してみろ。血でもいいが。ほれ、打ち身が治ってきてんだろ。それのおかげだ」
「ほんとだ…でも、いいのか?俺に渡して」
「俺の耐魔力が強すぎて効かねぇんだ。効果が出るお前が持ってた方がいい」
「そっか、ありがとなセイバー」
気が遠くなるほどの年月貯められた上質な魔力が続く限り、発動の為の僅かな外部からの魔力さえあれば腕の一本は軽くくっ付けられる。数分立てばぼろっぼろのとてもご近所様には見せられないシロウの様もあっというまに完治だ。
生前は憎くてたまらなかったものだが、今だけは感謝してやってもいい。
「あれ?先輩こんなところにいたんですか」
「桜、あ、起こしにきてくれたのか。悪いな、セイバーに軽く手合わせしてもらったんだ」
「えっあの、怪我は?!」
「大丈夫だよ。ちゃんと手加減してくれたから」
ひょこりと道場の入り口に姿を現したマトウサクラに心配させじとパタパタと手を振るシロウ。
もう少し遅かったら朝っぱらかすごいものがみれた気がする。っていうか何なんだ。この夫婦のような会話は。
「起こしにきてくれたって事は朝食の支度は」
「はい、もうほとんど片付いちゃってます」
「いつも悪いな。桜だって朝練とか忙しいのに」
「いいんです。私が好きでやってるんですから!」
うむ。マトウサクラに気をつけろ。なんて言う雰囲気じゃないなこれ!警戒する相手の前でお前を警戒させてもらうとか言えるワケ無いしな。
仕方ねぇな。マトウサクラが居なくなってからシロウに話すか。っつか昨日の夜に話そうとしたらシロウが気絶しちまったんだもん。シロウが悪い。うむ。
「じゃ、セイバーのリクエストくらいは俺が作るか。セイバー、何がいい?」
「だし巻き卵がいい」
昨日の朝食に食ったが……あれは、いい。
「あの、卵焼きでしたら私が作って…」
「だし巻き卵がいい」
「……そう、ですか」
「セイバー!いや、ほらさ、卵焼きとだし巻き卵って違うしさ。そうだ、桜!桜が作ってやったらどうだ?いいよな、セイバー」
何故お前が慌てるんだシロウ。良く分からん。別に誰が作ろうと美味しいだし巻き卵が食べられるんなら構わない。だがしかし、俺はマトウサクラの料理の腕なんて知らない。
「マトウサクラは料理が上手いのか?」
「ああ、俺が教えてたんだけどもうほとんど教えることはないくらいだ」
「でも和食はまだまだ追いつけませんよ」
ふむ、つまり和食という分類のだし巻き卵はシロウの方が上手いと。
じゃぁやっぱり、
「シロウの方が上手いならシロウが作ってくれ」
「セイバー……」
「あの、いいんです先輩。先輩に追いつけない私が悪いんです」
「頑張って精進してくれ、マトウサクラ」
「はい、すぐに先輩を追い越しちゃいます。そしたら、その……」
「そん時は俺の方から頼むさ」
敵だろうとなんだろうと作らせる。それが俺。
「はいっ!」
「……じゃあ居間に行くか」
「おう」
桜と俺のやり取りを見て、桜の笑顔をポカンとした顔で見ていたシロウだったが、ほっと安堵の息を吐いた。
おぉおぉ、何考えてるか丸分かりだなありゃ。どうせ俺とマトウサクラの仲がそれなりに良好だとでも思ってんだろ。馬鹿だなー、アホだなー、お人好しだなー。
敵だと明言するリンとだって笑いあえて、殺しあえるような存在だってのに。
士郎SIDE
藤ねえが起きてきて、賑やかに朝食を終えて、一足先に出た桜から遅れて学校に行く。朝食の時一瞬だけど冷たく細められたセイバーの顔が忘れられない。ニュースで報じられていたガス漏れ事件。あれはきっと、サーヴァントの仕業なのだろう。
「シロウ」
学校に行こうと玄関で靴を履いているとセイバーが立っていた。
表情は真剣で、赤い瞳は戦っている時の様に冷たい。
「マトウサクラには気をつけろ。俺がいる時はいいが、リンと同じで学校では近付くな」
「な、なんだよそれ」
遠坂を警戒するのはわかる。
こっちは喧嘩なんてしたくないけど遠坂は明日から敵だと言っていた。
人目の多い学校じゃ心配なんていらないけど、それでも心配してしまうんだろう。
それはいい……いや、本当はよくないけど、まだ分かる。だけど桜は。
「桜は魔術なんかとは関係ない。聖杯戦争なんかとも一切関係ないんだ」
「ふぅん?お前がそう思ってるならそれでいい」
「どういうことだよ」
信じていないとあからさまな態度で言われ語気が荒くなる。睨みあげてもセイバーにとっちゃまったく効果は無いけど、睨まずにはいられなかった。
ここで引けば―――昨日のようなことになる気がする。
桜の喉元に走った凶器。
あそこで止めていなかったら、そう思うだけで目の前が真っ暗になる。
本当に桜が殺されていたら……俺はどうするか分からない。
勘違いだから、俺が説明不足だったから、そんな言葉を並べて押し込めた恐怖が今のセイバーを見ていると甦ってくる。
「マトウサクラは俺を敵視している。敵だと認識している」
「それはセイバーとの初対面が最悪だったからだろ」
「シロウ、それだけだったらな、ただ恐怖を感じるんだ。わかってんだろ?」
恐怖で凍りつく。動いたら死んでいると理解出来る―――恐怖なんて言葉で表すことすら温い死の予感。一昨日三体のサーヴァントと対立したから分かっている。人間という存在に対する殺人性、それだけ取ればバーサーカーとセイバーは似ている。敵視を抱く前に、死を感じる。そんな存在を敵に回すなんて自殺行為だ。
遊びでしか生かしてもらえない。それが人間とサーヴァントの差。
だからセイバーは言っている―――桜に気を許すな、と。
でも、そんなことが出来るはずがない―――、
「……俺には桜がセイバーを敵視してるなんて思わない」
桜が敵なんて思わない。桜は―――俺の家族のような女の子だ。その桜を信じてやれなくて、何が正義の味方だ―――!
「そうか」
セイバーはそれだけ言うとこちらに背を向けた。
落胆も怒りも呆れも何もない。ただ坦々とした無機質な声。
「セイ―――」
「お前がそれならいい、シロウ。
元より俺はサーヴァントと戦うだけのモノ。マスターのことを気にする意味などなかった」
「な、」
「そうだ、そうだったな……初めからマスターは生かしてサーヴァントを斃す、そういう協力を求められたんだったな。悪い、俺が忘れてた。俺の過失だ」
「セイバー!!」
思わず土足で家に乗り上げ、その背中を掴もうとしたが掴む前にその姿は消えた。
でもセイバーは、あの馬鹿はいるはずだ。だから声を上げた。
「俺はお前を道具なんて思ってない!ただ俺は、俺はお前に桜を傷つけないで欲しいだけなんだ!」
『シロウ、学校に遅れるぜ』
「そんなの後でいい!とにかく姿を現せ、話しにくい!」
『話は終わったし、これからの方針も決まった。あとはお前が学校にいくだけだ』
「マスター命令だ、いいから出て来い」
『……分かったから、お前は俺を道具として見てない。マトウサクラを傷つけて欲しくない。その要求に応えてやる。それでいいんだろ?早く行け、学生の本分は学業だってフジムラタイガが言ってたぞ』
「お前…絶対分かってないだろ」
分かってるというのならば顔を見せて見ろってんだ。
セイバーが立っていた場所を睨みつけながらその姿が現れるのを待つ。ここで引いてしまったら、きっと俺とセイバーの関係は協力者ではなくなる―――そんなのは、嫌だった。
『はぁー……これでいいんだろ」
「なんだよ、やっぱ納得してなんていないじゃないか」
溜息の後、やれやれといった風を装って現れたセイバーの顔は、まったく納得してなかった。
不機嫌そうに細められた赤い瞳は冷たい色をしている。
「別にいいじゃねぇか、納得しました、そうですか、で。シロウ、お前ちょっとわがままだぞ?」
「んな!お前に言われたくねえよ!俺も黙ってたけどな、セイバー!お前がめついぞ!?」
「がめっ…?!俺は正当な報酬しか求めてない…っていうかサービスしまくりだぞ?!」
「サービス?!いちいち報酬だ必要経費だなんだって行動する度になんか要求するじゃないか!」
「それは当然の報酬だ、大体お前の提案だったじゃねぇか!シロウが素人同然の未熟もんだから経費が掛かんだろーが!もっぺん鍛えなおして来い!」
「俺が未熟なのは悪いと思ってるさ!だからセイバーに鍛錬頼んだんだろ!」
「なんでそんな偉そうなんだ!お前今日帰ってきたら覚えてろよ!」
「偉そう?!偉そうなのはセイバーじゃないか、お茶請け切れると怒るし!」
「おぉそうだ、俺は偉いんだ!てめぇよか何十倍も偉い英霊様だよ、参ったか!」
「開き直ったな?!大体セイバーは―――!」
「そもそもシロウは―――!」
学校には遅刻した。
士郎SIDE END
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