ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第拾捌話:探究者の会合

 

 

「ふうん、それで喧嘩別れしてきちゃったの?」

 

「おぅ、様子見に来たフジムラタイガに止められてな」

 

 

 口論に熱中していてシロウは気付かなかったらしいが、電話がずっと鳴り響いていたのだ。

どうやらそれはホームルームとかいうものにシロウの姿がなかったのを見て、心配したらしいフジムラタイガからの電話だったらしい。

 うむ、フジムラタイガの登場を見たときのシロウの顔は見物だった。何か俺も怒られたが。

 

 

「あ、フジムラタイガっつのはシロウの保護者だとさ」

 

「お兄ちゃんの保護者?」

 

「18歳でも未成年だなんてこの時代は随分過保護になったもんだよなー」

 

 

 その過保護さを利用したこともあるけどな。

隣りに座っているイリヤスフィールが俺のボヤキを聞いてクスリと笑う。

 

 

「あら、いいの?私はバーサーカーのマスターなのに自分の情報もらして」

 

「こんなん真名に繋がるもんじゃないだろ。

十八以下で成人と見なされるとこが出身のヤツなんざ五萬といるだろうよ。大体俺は今バーサーカーのマスターじゃなくて、イリヤスフィールと話してんだよ。イリヤスフィールは違うのか?」

 

「……違わないけど。大体真名なんて関係ないわ。どうせ私のバーサーカーが勝つんだから」

 

「そうそう、それでいいんだよ。今日はなー、肉まん買ってきた」

 

「ニクマン?食べ物?」

 

「おぅ、肉をまんじゅうで巻いたヤツって店のやつが言ってた」

 

 

 人気のない公園にイリヤスフィールと二人、ベンチに並んで座っている。

シロウがオヤツの用意を忘れやがったので商店街に行って、肉まんという食べ物を買って家に戻る途中、公園にポツンと立っている少女を見たのだ。ま、暇だったし、いろいろあったし、こうして何でもない話に付き合ってもらっている。

 

 ビニール袋から取り出した肉まんは紙袋で包まれていて、白い湯気と空腹を誘う香りを冬の空に立ち上らせる。

 

 

「わぁ、真っ白…雪みたい」

 

「雪は湯気でねぇし、冷たいだろが」

 

「そうね。ねぇセイバー、それとっても熱そうね」

 

「熱いんじゃないか?前食ったたい焼きより湯気が………あぁ、マフラーか」

 

「うんうん、セイバーったらちゃんと分かってるわね。

あ。でも私に言われるまで気付かないのは減点よ?」

 

 

 そりゃすいませんね、と謝って嬉しそうに赤い瞳を輝かすお嬢様に以前たい焼きにやったように肉まんの包装紙の上からマフラーを巻いて手渡す。

 はむ、と齧り付くと「?」と首を傾げるイリヤスフィール。

 

 

「なあにこれ?お肉なんて入ってないわよ?」

 

「イリヤスフィールの口がちいせぇんだよ。ほれ、俺は一口で到達したぜ?」

 

「む!まんじゅうの部分が多すぎるのよ」

 

「イリヤスフィールがお上品に口小さくして食ってるからだろ」

 

「当たり前じゃない。私はレディなんだからはしたないことなんてしないわ」

 

 

 むぐむぐと口に入れた物を飲み込んで、肉の部分に到達している断面をイリヤスフィールに向けて見せれば口を尖らせた。まったく、こういうもんは大きく口を開けて食うもんだってのにちっとも分かってねぇな、このお嬢様は。

 俺の指摘にプンと顔を逸らして自分のペースで食べ始めたイリヤスフィールに習い、俺も肉まんに齧りついた。この寒さじゃ直ぐ冷めちまうからな。

 

 

「ねえセイバー」

 

「んあー?」

 

 

 食べ終わったので包み紙を丸め、ビニール袋に突っ込んで新しいものを取り出していると、イリヤスフィールが話しかけてきた。基本的に俺から話しかけるので珍しい。

 

 

「お兄ちゃんと仲悪いっていうなら、私のサーヴァントになる?」

 

「は?」

 

「他のやつらは殺すけど、

 

セイバーが私のサーヴァントになるっていうなら最後まで生かしてあげてもいいわ」

 

「ふぅん……断っとくわ」

 

「な、なんで?!」

 

「ここで頷いたらよ、イリヤスフィールと話してるってことになんねぇじゃねえか」

 

 

 聖杯戦争に関係ない時間だから、俺はイリヤスフィールと並んで肉まんなんぞを食ってる。

ここで聖杯戦争のことを持ち出せば俺はセイバーのサーヴァント。

イリヤスフィールはバーサーカーのマスターになってしまう。それはちょっと惜しいような気がする。

イリヤスフィールもそう思ったのか、コクンと小さく頷いた。

 

 

「……それもそうね」

 

「うむ。聖杯戦争の話は止めようぜ」

 

「うん」

 

「あ、でも肉まん分の情報は後で貰うからな」

 

 

 一回は一回なのだ。対等である為に俺からだって聖杯戦争のことを持ち込ませてもらう。詭弁?屁理屈?ははは、そんな馬鹿な。

 

 

「……セイバーなんか嫌い」

 

 

 イリヤスフィール、この時代じゃただじゃ何も得られないもんなんだよ。

 世の無常さを少女に説きつつ、俺たちは二人揃って肉まんを頬張るのであった。

 

 

 

******

 

 

 

「あんまり意地悪すると来てあげないんだからー!」

 

「ははは、情報取られっぱなしでいいんなら来なくていいぜー?」

 

「むー!別にいらないもん!バーサーカーには勝てないんだから!」

 

 

 公園の横を通り過ぎる人が多くなってきたので早々に解散することになった。

 情報?勿論聞きたいことをちゃんと聞かせていただきましたとも。当然の報酬だろ?流石いいとこのお嬢様、踏み倒すなんてそんなことしなかった。ふ、ちょろいぜ。

 可愛い負け犬の遠吠えを笑って聞きながら、走っていく姿を見送った。

 

 

「さて、と……」

 

 

 シロウが家に帰ってくるまで時間はある。イリヤスフィールに会える可能性はかなり低かったが会えた。難しいかと思った用件も済んだし、後は……後は、うむ。

 

 

「吉と出るか凶と出るか」

 

 

 俺の場合大凶しか出たことないけどな。

 

 

 

******

 

 

 

 辿り着いたのは柳洞寺―――ではなく、その山の下方の地下洞。大空洞の入り口。

以前森の中に仕込んでおいた出刃包丁を片手に、魔術による偽装を潜り人一人がなんとか入れるほどの岩の隙間に身をねじ込む。明かりのない闇の中を進み、聖杯を目指すものなら既に用はない聖杯戦争の大元、

 

 

 ―――大聖杯を目指す。

 

 

「―――ここか」

 

 

 今まで通ってきた空洞も広いものだったが、終着点は洞窟と呼べぬほどに広大だった。

なんせ地下だというのに目の前に聳え立っているのは崖だ。

 

 

(地盤沈下とか起きねぇのかな)

 

 

 そんなことを思ってしまうのは、この洞窟に満ちる空気のせいだ。

七人のサーヴァントが揃い、聖杯戦争が始まってまだ三日目。

脱落者はおらず、聖杯戦争の終わりを待つだけのもの―――なのに、嫌な感じがする。

臭いものには蓋をしろ、という言葉に習って退散したい。

 

 

「地盤沈下しそうだから帰ります、ってわけにはいかねぇしな」

 

 

 ここでなにもせずに帰ったら何の為に来たんだかわかりゃしないので、ガリガリと頭を掻きながら、崖の頂上をもう一度眺めて、歩き出す。

 シロウは日が暮れる前には帰ってくるって言ったが、何が起こるかわからないからな。出来るだけ早く用を済ませて家で待機しとかねぇと。

 ランサーだったらこんなところひとっとびだろーなー。いや、魔力使えば俺も飛べるが。そんな無駄遣いする気も起きないので、大人しく昇る。

 

 

「ふぅん……こりゃ、圧巻だ」

 

 

 崖を上りきって、頂上に辿り着いた俺の目の前に広がる光景に目を細めた。

 魔術のことなど分からない。目の前に広がる魔術回路がどれほどのものか、この祭壇にどれだけの価値があるのか、何一つ理解出来ないが―――あまり歓迎できたもんではないことは分かる。

 

 

「一応ここから出てきた事になってるし、繋がりはあるよな……多分」

 

 

 足元に広がる広大な魔術回路を一度撫で、感触を確かめる。

 霊体になっているから可能……だとは思うのだが、賭けだな。

 大聖杯に腕を突っ込み、自分の魔術回路を大聖杯の魔術回路に重ねる。うっかり取り込まれても踏ん張れるように実体化し、そのまま解析を続ける。

 これで何も得られなかったら……大聖杯ぶっ壊す。俺もシロウも別にいらないし、壊しても何の問題もない……んん?大聖杯が聖杯戦争のシステム面を管理してんなら壊しちまえば聖杯戦争終わらないか?聖杯戦争がなくなれば冬木市は至って普通の町に戻るし、聖杯戦争に巻き込まれる人々だっていなくなるだろう。元凶がなくなるんだから。

 

 

「そりゃい、いっ?!」

 

 

 ゾクリ、と逆流…いや、侵食してきた何かの気配を感じて一気に手を引き抜く。が、がっちりと固定されていて抜けない。じわじわと侵食してくる何かが全身に到達する前に片手に持っていた包丁で一気に実体化している無防備な腕をぶった切った。

 噴出す血液。脳に伝達された痛みを少し呻くだけに止める。切り離された腕に一瞬だけ体勢を崩すが、直ぐにその場を離れ大聖杯から飛びのいた。

 

 

「おいおい…」

 

 

 腕を修復しながら、溜息をつく。

 情報と共に流れ込んできた―――悪意。それは有り得ない。大聖杯に溜まるのが無色の魔力ならば……それはあってはならない。

 

 

「何でも願いの叶う魔法の釜ーなんて可愛らしいもんじゃねぇぞ、コレ」

 

「―――あら、じゃあなんなのかしら」

 

 

 洞窟に響く二人目の声は女のものだった。ふわりと翻るローブ。フードで隠された顔から覗く口元は笑みを浮かべている。

 このあからさまな格好は―――

 

 

「よう、キャスター」

 

「こんにちはセイバー、敵の陣地に単身で踏み込んでくるとは随分と無謀なものね」

 

「はっ、そりゃてめぇよりも弱いやつが乗り込んできた場合だろ。実力が備わってりゃ、勇敢ってな―――で、喧嘩売りに来たわけじゃねぇんだろ?」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

 

 くつり、と互いに笑い合った。

 

 

 





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