ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
キャスターSIDE
「単刀直入に言うわ」
「おう」
「私と手を組まない?」
「何で」
「この馬鹿馬鹿しい戦争をさっさと終わらせる為よ」
まったく、最後の一人になるまで戦い続けるなんて馬鹿らしい。
私はこのシステムを作った人間の狙いなんてどうでもいい。システムを作ったことには感謝してあげてもいいけど、そのルールを守り通す気はないの。不完全であろうとなかろうと、願いが叶えばいい。
それを為すためには戦力が必要。門の前にいるでくの坊なんて役に立たないわ。
「貴方と私が手をくめ」
「いや、組む必要はねぇだろ」
「なんですって?」
交渉を続けようとすると、それを遮るセイバー。
こちらを見上げてくる瞳は不思議そうで、聞き返した私に「いやよ、」と続ける。
「だってここで壊しちまえば終わるじゃねぇか」
あっけらかんと、なんでもないことのように、むしろそれが当然のことのように言い切った。
「うちのマスターはお人好しで聖杯はいらねぇってサーヴァントに直接いってくる馬鹿だし。
それ以前にこんな物騒なもん使ってまで叶えたい願いを持てるほど器用じゃねぇし?」
「あ、あなたもそうだっていうの?!」
「俺?叶えたい願いがあってコレで叶うってなら使うが、生憎と持ち合わせてないんでな」
ヒョイと両手を挙げて肩を竦めて見せるセイバーに絶句する。
聖杯戦争に呼ばれたというのなら何がしかの願いがあるはず。嘘をついているのかと探ろうとしてもその飄々とした表情からは何も窺えない。
ああっ!門前のでくの坊だけで厄介なのに!なんでこの聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは碌なのがいないのよ!!
「じゃあ何故聖杯戦争に参加しているのよ貴方は!」
「願いはある。だがこんなもんにかなえてもらうほど安いもんじゃねぇんだ」
腕を組んだまま不敵に笑うセイバー。
チロリと動いた赤い瞳の先にはこの聖杯戦争のシステム面を担う大聖杯。
「待ちなさい。貴方たちに必要がなくても私には必要なの。大聖杯を破壊するというのなら―――相手になるわよ」
「あんだよ、この時代の人間大量虐殺したいってのか?随分物騒だな」
「違うわよ!そんな有象無象どうでもいいわ!」
大体大量虐殺なんて聖杯に願わなくとも容易く実行できるもの。
特に、私の網を張り巡らされたこの冬木市の人間の命など赤子の手を捻るようなものだわ。生かしておけば延々と魔力を生み出し続ける。だから殺さない。たったそれだけ。聖杯に死を願うほどの価値もない。
「ほーぉ、んじゃなんだよ。どんな犠牲を払っても叶えたい願いってのは」
「そ、それはっ……!」
疑わしそうなセイバーの視線なんて気にならない。
私の願い―――本当は宗一郎様の願いを叶えて差し上げたい。あの方が願うのならば聖杯戦争なんてそっちのけで全力を注ぐのにも異存はない。
でもあの人はとてもお優しくて、無欲で、誠実で…キャッ!
「………………きも」
「殺すわ」
「おわっ!テメ、俺の背後に大聖杯あるってのわかってんのか!?」
「関係ないわよ。殺すわ」
「あるある!関係大有りだっつの!あーちくしょ!」
崖の縁にいたセイバーが悪態をついて地を蹴り、宙に身を躍らせた。そこを狙って魔弾を放つ。
「うぉてめ!容赦なしか!」とかほざいているけど気にせずに攻撃の手を止めない。
セイバークラスの耐魔力が高いのは知っていたけど―――これほどとは思わなかったわ。
段々と威力を上げていっている魔弾の尽くがその身に届く前にキャンセルされる。洞窟が崩れるといけないからせいぜいBランク程度の攻撃しか出来ないけれど、この様子じゃAランクが届くかどうかも怪しいものね……本当、化け物揃いだわこの聖杯戦争は。
「っち、当たりなさいよ!」
「お前が怪しい笑み浮かべながら身を捩じらせてるから悪いんだろー!」
「うるさいわね、死になさい!」
「既に死人だっつの。条件次第じゃ……っっ?!」
突然足を止めたセイバーに思わず攻撃の手を止める。
不審に思ってセイバーを見ると
「悪いな、俺のマスターが墓穴掘ってるから行ってくるわ。
あと交渉すんならまずマスターに声掛けな。一応あれでも俺のマスターなんでな」
「ちょ、!」
どういうことなのか問い質そうと制止の声を掛けてもセイバーはあっという間に見えなくなった。
岩の僅かな取っ掛かりを足場にしただけで洞窟の壁を縦横無尽に駆け回ったり、風のように姿を消したり―――あれ、本当にセイバーかしら。持っていたのも剣じゃなくて包丁だったし。
(でも……)
大聖杯の機能に関係のない崖の端が少し削れただけでまったくの無傷の大聖杯を見下ろす。
大聖杯を盾にすればよかったのにセイバーはわざわざその場を離れた。それは即ち交渉の余地があるということに間違いなくて……、
「ふふ、お人好しのマスターにお人好しのサーヴァント、ね」
さてまずは、セイバーのマスターを迎える準備でもしようかしら?
キャスターSIDE END
士郎SIDE
弓道場の裏の雑木林。
女生徒を襲った”誰か”。
遠坂に短剣を放った”何か”を追って踏み入った雑木林にいたのは、―――黒衣に身を包んだサーヴァントだった。
「―――――は、」
喉を狙った一撃。脳天を突き刺そうとした一撃。
俺の命を刈り取ろうとしたサーヴァントの攻撃を防ぐことが出来たから、俺はまだこうして生きている。
しかしそんな偶然は続かない。
次に襲われては防ぎようがないし、逃げられる術も持たない。サーヴァントの動きを見るなんて俺には出来ない。俺に出来ることといったら背中から襲われることがないように、こうして木に背中を預けて次の襲撃がどこからくるのか待ち構えることだけだ―――。
「は、ははは―――」
次に襲われたら間違いなく殺されると分かっているのにそれを待ち構えている。
死にたくないと思っているのに、次の攻撃を待ち構えている―――そんな矛盾に笑いたくなる。
逃げ場などないと言わんばかりに、ずっと耳について離れず雑木林に響く鎖の音。
頭は既に真っ白で、時間の感覚なんてない。見えない襲撃に怯え、それでも抗おうとしている今だって、「生きたい」と願う自分の夢でしかないのかもしれない。
ふと、武器を握る左手が目に入った。
「―――セイバー」
自分ではサーヴァントには太刀打ちできない。
ならアイツに頼るしかない。
令呪はサーヴァントに対する絶対の命令権だが、それを使えばサーヴァントが本来なしえない魔法をも可能とする魔力の塊でもある。コレを使えば、この窮地を脱する事だって出来るだろう。
だがそれは―――、
『元より俺はサーヴァントと戦うだけの物』
そんなセイバーの言葉を肯定してしまうものではないのか。ただでさえ都合のいいことをいって協力してもらい、ここでも都合よく助けてもらうのか。あと二つしかない切り札とも言える令呪を使って?
「は」
笑う。少しでもそんな考えを浮かべた自分を笑う。
「そんなの―――ごめんだ。俺はまだ、出来ることをやっていない」
そうだ。拙いけれど、この腕には武器がある。それに体だってまだ動く。場所が悪いのなら移動すればいい。こんなにやれることがあると言うのに何を弱気になっているんだ俺は。
セイバーを呼ぶのは出来ることがなくなって、万策が尽きた時―――。
「驚いた。令呪を使わないのですね、貴方は」
「――――!」
声が上から響く。上―――やはり木の上に潜んでいるのか。
しかし話しかけてきてくれたのはいい。話を続けて声から敵の位置を探ることが出来ればあるいは―――。
「……ふん。生憎残りが少なくてな。こんな事で使ってたら、この先やってられないんだよ」
「……そう。私のマスターと違って勇敢なのですね、貴方は」
坦々と話すサーヴァントの言葉に少し、感心したようなこちらの反応を楽しむかのような感情が混ざる。
「では、私もやり方を変えましょう。
サーヴァントのいないマスターに本気は出せませんから―――貴方は、優しく殺してあげます」
少しもありがたくない優しさを含んだ最後通告をすると、会話は止まり雑木林にはまたジャラジャラと鎖が鳴る音だけが響く。
全く以ってありがたくはない最後通告なのだが、敵のサーヴァントが攻撃をしかけてくるタイミングが分かった。たったそれだけのことでも俺の足を動かし、次にどんな行動をするかを決めることは出来る。
(………来るか)
俺のやるべきことはまず、相手に有利な地であるこの林から出ることだ。それにはあのサーヴァントの”釘”を数回受け止めなくてはならない―――椅子の足を強化しただけという頼りにするには心許ない即席の武器ひとつで。
バーサーカーの攻撃を木刀で受け止めたセイバーのコツを聞いておけば良かったかもしれない。そのコツを聞く為に、もう一度あの馬鹿と話す機会を得る為に、ここは生き残らなければ。
(せめて、そう―――)
校庭で一度だけ見た、赤い弓兵が握っていた黒と白の一対の短剣を思い描いて手元を見る。
この棒が、あいつの武器ぐらい立派だったら、防ぐどころか反撃さえ出来るだろうに。
「―――――――――行くぞ」
もしもの話を振り切って、顔を上げる。
これ以上ごちゃごちゃと余分なことを考えていたら死ぬ。それが分かっているからか思考は至ってクリアで、ただ走り抜けるという目的を遂げる為に働き出す。
雑木林の出口まで、わずか三十メートル程度。
それだけを頭に入れて木に預けていた背中を離して―――俺は走った。
「っふ―――!」
頭上から放たれた一撃。
地面スレスレに着地したサーヴァントが左側から放った回し蹴り。
二度の襲撃を防がれた苛立ちか、正面から立て続けに放たれた剣戟。
その全てを尽く弾き返す―――!
「っ、そんな―――!?」
驚きの色を含んだ呟きと共にわずかに後退するサーヴァント。
しかしそれも一瞬のこと。直ぐにその呟きは苛立ちを含む―――ぞっとするほどに綺麗なものに変わる。
「―――貴方」
「は、大したことないな、他のサーヴァントに比べたら迫力不足だ―――!」
立ち塞がるサーヴァントをなぎ払う。
「っ……!」
黒いサーヴァントは俺の武器を受け止め、長い髪を靡かせて飛びのいた。
「行ける―――!」
もう邪魔はいない。
黒いサーヴァントは離れた。
あと、ほんの数メートルで出口に辿り着く。ならばこのまま―――
「―――いいえ、そこまでです。
貴方は、始めから私に捕らわれているのですから」
「え―――?」
体が倒れる。いや、後ろに引っ張られる。さっきまで忘れていた右腕の痛みが戻ってくる。
ただでさえ大穴が開いている腕が、何か得体の知れない力に引っ張られている―――!?
「まだ判りませんか?貴方の腕に刺さったそれは、私の杭だという事に」
「おまえの、杭―――しまっ…!」
サーヴァントの言葉を反芻して、状況が理解出来たと同時に左手を右手へと伸ばすが、もう遅い。
血に濡れた腕はひとりでに持ち上がり、サーヴァントの意思に従ってそのままどこまでも
「なーんでそう、抜けてんのかねぇ我がマスター様は」
鎖が動かされる度に広がっていく傷口から発する痛みに掻き消されようとする意識の中に、聞き覚えのある声が届いた。途端グン、と腕が激しく痛む。あまりの痛みに視界が真っ赤に染まるが、軽くなり、自由を取り戻した腕が力無く地面に落ちるのを視界に捉えた。
俺の前にカシャンと金属音を立てて転がったのは、先端が血に染まった杭だった。
腐葉土の地面に転がった杭。そしてそれに繋がる伸びた鎖を辿っていけば、見慣れた黒いブーツ。更に視線を上げていけばこちらを庇うようにサーヴァントと対立する男の背中が見えた。
自由になったとはいえ、傷は塞がっていない。朦朧とする意識と痛みにつまりそうになる息をなんとか奮い立たせてその背中に声をかけた。
「セ、イバー………」
「勝てなきゃ呼べ。呼ばなきゃ勝て。そんでなきゃ戦うな」
「だから逃げてたじゃないか……ありがとう」
「お礼は要らん。巻き添え食いたくなかったら―――」
一瞬にしていつもの軽鎧がセイバーの身を覆った。
「隅っこでガタガタ震えてな―――!!」
「―――っっ!!」
気合一閃。
セイバーが振るった武器は既に目に見えない。
しかし敵サーヴァントはその攻撃範囲を読んで一気に後方に跳んだ。その反動のまま、木々の間に紛れるように飛び上がり、姿を消した。
「――――――逃げたか」
「そう、なのか?」
「でなきゃ首を貰ってる。っち、蛇は嫌いだ」
「蛇?」
まさかあのサーヴァントの正体がわかったというのだろうか。出刃包丁を手持ち無沙汰に弄ぶセイバーに疑問の声をかけるが、答えは帰ってこなかった。
「衛宮君っ!!」
「遠坂っ!?」
こちらに向かってくる人影が見える。
隣りにはセイバー。目の前には遠坂―――あぁ、俺は生き残れたのだ。
そう実感したら、今まで張り詰めていた何かが切れて脱力してしまった。
士郎SIDE END
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