ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
敵サーヴァントが立ち去ったことを知って気が抜けたのか、その場に倒れ伏したシロウの傍に寄り、近くの木にもたせ掛けてから隣りに膝をついて傷付いた腕を取る。
「結構乱暴に抜いちまったけど大丈夫か?」
「ああ、一気に抜いてくれた方が助かった」
本来ならば血が噴出さないように治療の目処が立つまで刺さったままにしておくのだが、いかんせん刺さっていたのが敵サーヴァントの武器だ。破壊する術がない訳ではないだろうが、俺には不可能だったのでその場で引き抜いた。
まったく、あれが刺さっていた時点で逃げ場もなく、結末は決まっていたというのに、じりじりと甚振るような真似をするとは……ほんと、蛇は気に食わない。
それともシロウが甚振りたくなるほどに興味を引いたのか?
ま、おかげでこうしてシロウの救出に成功したわけだが。
「って!何暢気に話してんのよあんたらはーーっ!!とにかく血止めしないと…!衛宮君、何か巻く物持ってない!?」
「ああっと……あ、ハンカチ発見。いつも桜が用意してくれてるんで、きっと清潔」
シロウ、それは惚気か。
シロウの発言に突っ込みを入れる余裕もないのか、リンは差し出されたハンカチを見て呻いた。
「う、似たもの同士か。……セイバーは?」
「ない」
「その腰帯寄越しなさいよ」
「ばっ!ななな何言ってんだよ遠坂!」
きっぱりと言ったのに俺の格好を上から下まで眺めていたリンの目に留まったのは腰帯。
二本あるなら一本くらいいいじゃない、といった所か。腿に縫い付けてある鉄板が重いから二本で支えてるんだが……ま、いっか。
しかしここで過剰反応するのは俺のはずであるのに何故お前が反応するんだシロウ。
「仕方ねぇなーそんなに見たいってんなら」
「ちちち違うわよ!止血する為だっていってんでしょ馬鹿!いいから寄越せ!」
顔を真っ赤にさせてうろたえるリンに「へーへー」と頷いてずり落ちないように支えながら、腰帯を一本だけ抜き取って渡すとリンはひったくるように奪ってチャキチャキと手当てをする。
ずり落ちないようにいつもよりもややきつめに残った腰帯を巻き、固く縛る。
「よし、これで応急処置はこんなところね。……それで、あいつなんだったの?追い付いたら交戦してたみたいだから援護しようと来たけど」
「俺も判らない。ここまで追いかけてきて、襲われた」
「俺もいないのに追いかけるんじゃねぇっての。死にたいのかシロウ」
「わ、悪かったって。セイバーがいないってことすっかり忘れてた」
「……はぁ」
「……はあ」
リンと二人で揃って溜息をつく。
まぁ俺はリンとシロウが交戦してるときから気づいていたんだが…いやー、まさか敵サーヴァントに突っ込むとは思わなかった。
うむ。見事にこれまでの忠告をさらっと無駄にしてくれやがったな。
「ぅ……そんな顔するなよ二人とも。正体は掴めなかったけど、ともかくあいつもサーヴァントだろ。なら、俺たち以外にマスターがいたって事がわかって良かったじゃないか」
「……そうね。学校に私たち以外のマスターがいるって事は知ってたけど、ようやく尻尾を出したってワケか」
リンはとっくに第三のマスターに気がついていたらしい。シロウがちょっと口元引き攣らせてる。
大丈夫だシロウ、俺はお前に期待していることなんてなーんもないから。今正に信頼度が底辺すれすれだから。
「―――む?待った遠坂、さっきの子はどうなった……!?」
「持ち直したわ。今は保健室で寝かせてあるから、もう大事はないと思う」
「―――そうか。それは、良かった」
目を細めて安心させるように笑うリンに、ほうと胸をなで下ろすシロウ。
どうやら話は落ち着いたようだ。なら―――
「んじゃ、こっちの用事を済ませようか」
チャッ、と握っていた包丁をリンの喉元に突きつけた。
士郎SIDE
「―――――」
「―――――」
今までの和やかな空気が一気に張り詰めた。
少しでも遠坂が動けば、あの包丁は遠坂の喉を突き刺すだろう。
それが判っているから遠坂はまっすぐに睨みつけるだけで、指一本も動かさずにいる。
遠坂は動けない。ならば俺が動くしかない。
「セイバー?!何やってんだ!」
「何?敵サーヴァントのマスターがサーヴァント連れずに出歩いてんだぜ?
コレを殺さないで何を殺せって言うんだよお前は」
「殺すって…!遠坂は」
「お前を狙った。シロウは自分の命を奪おうとしたヤツを生かすってのか?」
「遠坂は俺を殺そうと思えば殺せた。
そもそもアーチャーをけしかければ俺なんてとっくに死んでる」
赤い弓兵の名前を出して、なんでこんな肝心な所で出てこないのかと記憶の中のアーチャーを詰る。
とことん気に食わないが、最初から遠坂じゃなくてあいつが出てきてたのなら、俺はこんなところでこうしてセイバーと会うこともなかった。
それに遠坂はとんでもなくいいヤツだ。甘えだとセイバーは言うかもしれないが、彼女に死んで欲しくない。生き残って欲しい。
「セイバー、お前がここで遠坂を殺すって言うなら―――令呪を使ってでも止める」
「なっ―――っ!」
驚きの声を上げたのは遠坂だった。思わず動きかけたその体は、セイバーの鋭い視線と、少し食い込んだ刃先によって止まる。
「命令権を持っているのはお前だし、それを使えるのもお前だ。だから俺はお前が使うべきと判断したならその判断に異を唱える気はない」
分かっている。
桜の時だってセイバーは何も言わなかった。ソレをいつ使うか決めるのはお前だ、困るのはお前だ、と言うだけで。それが信頼から来るものならどんなに嬉しいことか。
でも違う、ということは分かっている。
俺はセイバーに対して信頼に足るものをなにもしてやれてない。自分の無力さを痛感して、早く強くなりたいと思う。彼に何かを返せる位に。
「俺は使いたくない」
「当たり前だな。限りある資源だ」
「違う。そうじゃなくて―――セイバーに命令で言うことを聞いてもらいたくない。俺は、セイバーに理解して、ちゃんと納得してもらいたい」
未熟な俺では戦闘で足を引っ張ってしまう。戦闘面でセイバーの協力者として出来ることはまだ少ない。ならばせめて、と思う。
夢で見た大人たちのようにセイバーを道具のように扱いたくない。
俺の意思を少しでも尊重してくれているのなら、俺だってセイバーの意思を尊重したい。勿論譲れないものもあるから……そこはとことん話し合うくらいしかできないけど。
「……………」
「それにセイバーはサーヴァントと戦うんだろ?マスターとの戦いは俺の分野だ。それぐらい任せてもらえないか?」
「……は、じゃぁなんだ、お前がリンを殺すって言うのか?」
「殺さない。戦うってんならアーチャーを呼んで正々堂々と戦う」
「………っはぁ~~~わぁったよ。俺もあの弓兵の引導は俺が渡してやる気だったからな。
マスター死んで魔力切れで消える、なんてつまんねぇ落ちつけさせる気はねぇ」
「セイバー」
「礼は言うなよ。俺はマスターの指示に従っただけだ」
遠坂に向けていた包丁を腰帯に挟んで、腕を組み、居心地悪そうに顔を逸らす。
セイバーがこの場を任せてくれたのなら話は早い。遠坂の硬直していた身体が少しだけ力を抜いたのを見て、話かける。
「で、どうする?」
「なにがよ」
「俺は喧嘩する気はないけど遠坂が引き下がれないって言うならアーチャーを呼んでくれ」
「……………」
遠坂はこっちを睨み、セイバーを睨み、悩みながらも苛立ちを含んだ微妙な表情をし、プイと何もない雑木林の方へ顔を向け、またこちらを恨みがましそうに睨み、……………深く深く溜息をついた。
「やらないわよ。っていうか出来ないわよ………また借り出きちゃったし」
「だよなぁ、本来ならリンの聖杯戦争も人生もここで終了だったもんなー」
「分かってるわよ!兎に角、ここで一戦交えるなんて恩を仇で返す真似しないわよ!!」
悔しそうに恨みがましそうにこちらを睨む遠坂に、にやにやとからかい混じりの声で追い討ちをかけるセイバー。があー!と半ばヤケクソ気味にセイバーに噛み付く遠坂。
取りあえず、遠坂と喧嘩はせずにすんだことにほっと安堵する。自分から聞きはしたものの、やっぱり遠坂とは喧嘩なんてしたくない。だから遠坂が引いてくれてすごく、助かった。
「じゃ、そろそろ行くわよ。辛いだろうけど、うちに着くまで我慢して」
「……?」
セイバーと言い争っていたのに、ざかざかと落ち葉を踏み散らしながらこちらに来た遠坂が突然手を差し出してきた。遠坂の意図が分からずにその手を眺めて首を傾げて遠坂の目を覗き込む。
「だから、私の家に行くわよって言ってるの。衛宮君じゃその傷を治すなんて芸当出来ないでしょ」
「あ―――そりゃそうだけど、なんで?」
「何でもなにもないわよ。その傷、治療しないと壊死しちゃうじゃない。それで片腕にでもなられたら、私の落ち度みたいじゃない」
私を庇って出来た傷だし、とぼそぼそ呟いて目を逸らす遠坂をポカンとした顔で見上げる。
いつまでも手を取らない俺に痺れを切らしたのか「いいから」と俺の手を引く遠坂。
突然近付いた距離に目を白黒させながら戸惑う。助けを求めてセイバーに視線を走らせれば、面白そうににやにやと笑う顔と出合った。あの野郎。
士郎SIDE END
わたわたと顔を赤くして慌てるシロウを見ているのもいいが、折角出来た借りをここで返されてしまうのは非常に勿体無い。自分達で解決できる物事なら尚更。
「リン、シロウを放してやれ。それくらいの傷なら治す当てはある」
「はあ?衛宮君に?無理に決まってるじゃない」
「シロウ、お前何か忘れてないか?」
「え?……………あ!」
俺が示すものに思い当たって、リンの拘束がわずかに緩んだ隙を付いて素早く掴まれていた腕を抜き取るシロウ。ゴソゴソとポケットを漁り、取り出そうとした腕を―――俺は止めた。
「待てシロウ、一時休戦なだけでリンとは敵同士だ。意味は分かってるだろ、リン」
「……そうね。でも私もその傷がちゃんと治るって証拠を掴むまで引き下がれないの」
こちらが指摘した境界線を乗り越えてまで、敵であるシロウの心配をするリンに少しだけ驚く。
ふぅん?と内心笑みを浮かべてリンの目を見るが、その瞳は逸らされず、まっすぐに俺を見る。
「ここじゃ誰の目があるかも分からないし、詳しいことは私の家で話したいんだけど、衛宮君、それにセイバー―――私の提案を受ける気はないかしら」
「提案?」
「ええ、損はさせないと思うわ」
「んで、その提案を聞く前提がシロウの治療方法ってわけか。何も聞かさずに先払いって交渉舐めてんのかって言いたいが……シロウも限界だろうしな」
血止めをしているが、あくまでそれは応急処置でしかない。
これ以上放って置いても悪化することはあっても良くなることはないだろう。リンに引く気はないようだし、俺はリンに手を出せない。リンが持ち出す提案も気になる。
「その提案、こっちに有利なものだろうな」
「ええ、私が考える分じゃそっちも受ける甲斐はあると思うわ。勿論、私にも利益はあるけどね」
「そこまで言うんならいいさ。リンは嘘吐かないしな」
「……えーと、治してもいいのか?」
「さっさと治しなさいよ。それともなに?衛宮君には自虐趣味でもあるわけ」
「あるわけないだろ!遠坂たちが話し合ってるから待ってたんじゃないか」
「あはは、話に夢中になってた隙に治しちまえばいいのにシロウはほんと痛いの好きなんだな」
「んなわけあるか!ったく、待ってて損した」
不貞腐れた顔をしてポケットから護符を出すシロウ。
穴の開いた傷口にそれを押し付ければ、血に含まれた魔力に反応して傷の修復を始める。
それを見たリンが目を見開いて、ありえないものを見るかのように指に摘まれた護符を見る。
「………なにそれ」
「護符」
「護符?!っていうか何その桁違いの魔力!?しかもほぼ何の工程もなく発動するってなにそれ!」
「まぁまぁ、そこらへんの種明かしまでするほど親切じゃねぇよっとな」
「すごいよなこれ。もうほとんど痛みがない」
「すごいで片付けられるものじゃないでしょうに!うぁあ勿体無い!」
あんたら何も分かってない!と叫ぶリンが非常に印象的だった。
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