ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第弐拾壱話:遠坂凛式交渉術(対セイバー戦)

 

 リンの家はシロウの武家屋敷とは正反対の住宅地にあった。

シロウの家が和風であるのなら、リンの家は洋風の古い歴史が刻まれたような洋館だ。

内装も古めかしい―――あ?あんてぃーく?っていうらしい―――、リンの家の居間に通されるとふわりといい香りが漂っていた。

 

 

「ただいまアーチャー」

 

「ああ。茶の用意は出来ている」

 

「ご苦労様。二人とも紅茶でいいわよね、ミルクと砂糖は自由に入れて頂戴」

 

 

 二人がけのソファに促されたが、一人がけのソファに座ってずりずりと自分の紅茶を回収する。

 俺の行動を見てリンとシロウが微妙な顔をしているが知らん。生憎と空いている席があるのに男と隣り合って座る趣味は俺にはねぇ。

 

 

「紅茶、か。ミルクと砂糖入れるとどう変わるんだ?」

 

「えーっと、味が甘くて、まろやかになる…んじゃないかな」

 

「セイバー貴様は良くミルクティーを飲んでいるだろう。あれと似たようなものだ」

 

「ふぅん、調味料入れただけで名前変わるのか」

 

 

 この時代の飲み物は不思議だ。

 白い小ぶりの器の蓋を取り、砂糖とミルクを確かめて紅茶に注ぐ。

 ミルクティーにしたいんだがどれだけいれりゃいいんだか。いや、両方入れたらミルクティーなのか。

 

 

「―――さて、学校で話した提案なんだけど」

 

 

 一口だけ紅茶に口をつけ、気分を入れ替えたリンが姿勢を正して話を切り出した。

その背後には面白くなさそうに給仕をしているアーチャー、………お前サーヴァントだよな、茶坊主じゃなく。

 ちなみにリンと向かい合って座っているのはシロウ一人だ。俺は二人を横から眺めている。

俺は基本的にシロウの指示に従うだけだしなー。気に食わない時ややるべきことがある時は従わないが。

 

 

「衛宮君、休戦しない?」

 

「休戦って………休戦、だよな?」

 

 

 まぁいきなり敵意満々で、突然襲ってきた敵にいきなり「休戦しない?」なんていわれても困るわな。聞き間違えたかとこちらに不安そうにシロウが視線を寄越すが、肩を竦めるだけにする。

 この状況に持ってきたのはシロウだ。だったら自分で片付けてくれ。

 ま、割に合わない提案だったら口出しさせて貰うけどなー。お、この紅茶うめぇ。

 

 

「衛宮君は気付いていないかもしれないけど、学校にいるほかのマスターが厄介なことしてくれてんのよ」

 

 

 リン曰く、リン達が通う学校に悪質な結界が張られているらしい。

その結界の最終的な狙いは自分のサーヴァントの強化。俺たちサーヴァントは基本的に霊体だ。つまり栄養となるのは精神と魂。

 その魂を効率よく吸収する為、余分な物である肉体を溶解し、魂だけを取り出す。ただそれだけの為の結界だ。そして生贄は学校に通う人間全員。

 常に大人数が留まっているのだからこれほど適した場所はないだろう。………狙いはいいんだが、やり方がお粗末っていうか馬鹿っていうか………んー、アホか?って笑顔で見下してやりたい。きっと怒る。そこを更にからって……ゴホゴホ。

 

 

「………マスターはマスターだけを狙うわけじゃない、か」

 

 

 シロウの膝に置かれた手に力が篭る。

 理解はしていたが、身近でそれが現実に起こって実感をした、ってところか。シロウが何も気付かずに暢気に過ごしていたことに怒りと後悔を感じているのが、わずかに俯いた表情から分かる―――なんで自分を責めるのかね?俺には良く分からん。

 

 シロウは犯人と自分に怒りを覚えている。

 でも俺は―――無条件に賛成は出来ないが、真っ向から否定する気もない。

 

 

(呼び出されるサーヴァントはマスターに似ている所があるっていうけど、)

 

 

 俺とシロウは例外、かもしれんな。

 涼しい顔で足を組み、ソファに身を沈めて紅茶なんぞを飲みながら二人のやり取りを眺めていると、アーチャーの冷たい視線がシロウから俺に移すと同時に、俺らに取っちゃ当然の、しかしシロウ達にとっちゃ爆弾じみた質問を投げかけてきた。

 

 

「そういえばセイバー、貴様は魔力の供給が不十分だったな。貴様はどうなのだ?」

 

「俺?」

 

「っ、セイバーはそんなことはしない!俺がさせない!」

 

「ふん、本当に貴様ごときに舵が取れているのか?その割には随分と自由に満喫しているようだが」

 

 

 この提案を考えたのはリンだろうし、アーチャーはあまり乗り気じゃないんだろうな。

リンを殺そうとしたのは気付いただろうし、俺がシロウから離れて好き勝手してるのを知ってるし。

 んーでもなぁ、アーチャー。

 

 

「提案はそっちが持ってきたんだろ?その質問がどういう意味か分かってんのか?」

 

「ハッ、初心者ぶるのは止めてくれセイバー。俺が何故その質問をしたか、貴様なら分かるだろう?」

 

「アーチャー!私から休戦を提案しているのよ?分かってるの貴方」

 

「凛、君とて気になっていたことではないのかね?ここははっきりさせた方がいい。

 

セイバーがいざという時学校に結界を張っているサーヴァントのようなことをしないかどうかをな」

 

「そ、れは……いいえ、私は士郎とセイバーを見込んで休戦を提案したの。聞かなくていいわ」

 

 

 一瞬だけ戸惑ったのは、戦闘中の俺を見ているからだろう。そして俺に殺されかけたからだろう。

それでもリンは、最終的に「シロウと休戦協定を結ぶ」と決めた自分を信じた。リンのアーチャーを見返す目に迷いや戸惑いはない。

 赤い主従がにらみ合ってすっかり蚊帳の外になっているので、はぁと溜息を吐いて意識をこちらに向ける。

 

 

「こんなギスギスした状態じゃ休戦協定もないわな」

 

「せ」

 

「シロウも気になってんだろうし言うが、俺はやってねぇよ」

 

 

 信じるか信じないかはそっちの勝手だがな、と付け加えておく。

 確かに保有スキルの極悪さからみればやってもおかしくないが、無駄な殺人は趣味じゃない。聖杯なんて使う気はさらさらないのだから勝ち残っても俺にはプラスにならない。残念ながら、返ってくるものがないのに労力使うほど勤労者ではないのである。ただ働き?なにそれ不味いよ、の精神だ。

 

 

「シロウが他人を犠牲にしてまで聖杯欲しいってんならその手を使ってもいいが」

 

「いい!使わないでくれ!!」

 

「な?これだろ?別に俺だって無差別大量虐殺したいってワケじゃないしなー」

 

 

 ちらりとシロウの意思を確認する意味を込めて視線をやればブンブンと勢い良く首を振るシロウ。

この戦争に参加する理由が無関係な人間を巻き込むマスターを止める為、なんだから当然の反応か。

 

 

「ですって。これで疑問は解決したわよね、アーチャー」

 

「ふん」

 

「じゃ、疑いも晴れたところで…学校に潜む敵マスターがいなくなるまでだけど、休戦協定を受けてくれるかしら?衛宮君」

 

「もちr「なあ」え?」

 

 

 笑みを浮かべて首を傾げるリンに頷こうとするシロウを遮って間に乗り込む。

休戦協定の了承を遮られて二人はポカンとしていたが、すぐにこちらをむっとした表情で睨む。

 うむ、手と手を取り合って戦場を乗り越えようとする男女は微笑ましいが、微笑ましい情景だけで乗り切れるほど甘い戦場ではないのだよ少年少女よ。

 

 

「なによ、セイバー」

 

「休戦協定は学校のマスターを倒すまででいいのか?」

 

「ええ。よほどのことでもない限り協定は維持しないわ」

 

「ふぅん。ってことは俺らがいなくてもバーサーカーを倒しうる術があるってことだよな。さっすが始まりの御三家。伊達に歴史を積んでないってか」

 

 

 憧れちゃうぜ、と軽く言って椅子に座りなおして足を組み腕を組む。

 

 

「んじゃ、こっちもさっき切り札見せてやったんだからそれに見合うものを返してもらおう。

この協定でお前らの利はこちらから攻撃されないこと。戦闘になった際の援護。そして敵マスター捜索の足が増えること、後は共闘するにあたり相手の手の内を状況次第で見ることが出来る、くらいか?……ま、コレは俺らにも言えることだがな。

これだけだったらイーブンだが切り札を見せてやった見返りがない」

 

「う」

 

「別にアーチャーの切り札見せろってワケじゃねぇ。

リン、お前の切り札を見せるか、俺らが既に支払ったものに見合った対価を払ってもらいたい」

 

「凛、どういうことだね」

 

 

 あの場にいなかったアーチャーには俺が何をいっているのか、何に対しての請求をしているのかわからないだろう。恐らくリンはそこまでの説明をしていない。

 学校からリンの家まで行く間に話で気を逸らせていたし、家に着いてからは協定についての話だけだ。アーチャーはこういう交渉ごとには強そうだからな、参加は控えて欲しい。

 リンに説明を求めるアーチャーの言葉を遮って更に畳み掛ける。

 

 

「あぁ、言っておくが先払いした、という行為も加算してくれよ?」

 

 

 たじろぐリンにニッコリと笑いかける。

 …………ま、休戦協定結ばないってなら全部チャラになるけどな。こっちが敵の甘言に騙されて手の内を晒した馬鹿だった、という落ちがつくだけで。

 

 まぁトオサカリンが、シロウに借り作って、自分から提案して、更にリン自身が「損はさせない」と発言していながら、自分から「やっぱ提案止めるわ」って言えるようなヤツなら、という話ではあるけどなー。

 

 

「………セイバー、お前さあ………」

 

「シロウは黙ってろ。で、リン?」

 

「うぐぐ、分かってるわよ!」

 

「おい、話がみえない。説明しろ」

 

 

 リンは俺との交渉について考えてるし、俺は説明する気はない。シロウにいたっては言わずもがな、である。アーチャーには蚊帳の外でいてもらおう。

 顎に手を添えて、考え込んでいたリンが顔を上げてこちらを見た。

 

 

「私の切り札はそうバンバン撃てるものじゃないの」

 

「そりゃ切り札だからな」

 

「だからここで無駄に消費するわけにはいかない。

使うときには使うけどそれは今じゃない……貴方達から何か他に要求はある?出来る限り善処するつもりだけど」

 

「ふむ……じゃぁ、シロウに魔術師として基本的な指導をしてもらいたい」

 

「はあ?」

 

「こいつ魔術発動した時微妙に息切れすんだよ。ちょっと調子見てくれ。んでおかしいとこあったら直して欲しい」

 

 

 強化しか使えない、とか言っておきながら強化使うと汗かいてるんだよな、時間もかかるし。

 戦闘中にそんな隙を見せてたら生きていけない。鍛錬の時に調子を見ておいてよかった。使えないから使わないで鍛錬続けたけどな。

 

 

「ちょっと、それ手の内見せるってことじゃない。馬鹿?」

 

「馬鹿じゃねぇよ。隙が出来るような魔術を主に使ってるんじゃ戦闘中役に立たねぇだろ。それに協定を結ぶ相手として基本的な力量は見ておきたいし、そっちも少しは情報公開するつもりだったんじゃねぇの?」

 

「う、まあ、そのつもりだったけど……長くなるわよ?衛宮君が置かれていた状況とか聞かなきゃだし」

 

「別にいいぜ。いいよな、シロウ」

 

「え、ああ。俺は構わない。俺も遠坂のこと気になるし」

 

「ふーん?ま、いいわ。別に私が不利になるわけじゃないしね。それだけ?」

 

「まさか。あとは、俺は魔力温存の為にシロウに付きっきりってワケじゃない。だから学校にいる間だけでいいからシロウのことも気に掛けてやってほしい」

 

「それは私に小僧の護衛をしろということか」

 

「優先順位はリンが一番だぜ?シロウが狙われてリンが狙われてなかったら助けてくれってことだ」

 

「……………そこまでしてこの協定を結ぶ意味があるのかね、凛」

 

「アーチャーは消えてて。―――いいわ、無防備な衛宮君を狙って馬鹿なマスターが引っかかるかもしれないしね」

 

「……それってさ、」

 

「うむ。間違いなく生餌だな」

 

「やっぱり……」

 

 

 ずーんと落ち込むシロウ。自分が置かれた状況に文句があるなら強くなれ。

 

 

「他には?」

 

「んー、やって貰いたいことはこんなもんかな。期限は協定が続くまで。それまではリンが魔術に関しての指導してくれるから存分に利用しろよシロウ」

 

「ああ。ありがとな、セイバー」

 

「俺に礼を言うんじゃねぇ。リンによろしくとでも言っとけ」

 

「む、そこまで持って言ってくれたのはセイバーじゃないかお礼を言って何が悪いんだ」

 

「軽々しく言うなって言ってんだよ。大体コレはお前の為じゃなくて俺が」

 

「ちょっと、口喧嘩する前に協定結ぶか結ばないかの返答くれない?」

 

 

 怪しくなってきた雲行きにまったをかけたのはリンだった。

こっちの条件はもう引き受けてもらえることになっている。ならば協定を断る理由はない。

 

 

「どうする?シロウ、お前が決めろ」

 

「いろいろ条件つけちゃって悪いな……でも、こっちから頼みたいくらいだ。喜んで受けさせてもらうよ遠坂。よろしくな」

 

「ええ、こちらこそよろしくね士郎。貴方が裏切らない限り私たちは協力関係よ」

 

 

 笑い合いながら手を握るシロウとリン。

 さて、俺はこれからどうするかな。

 

 





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