ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第弐拾参話:届かない夢

 

 

 

士郎SIDE

 

 

 

―――果たして、剣に言葉をかけるのは必要か。

 

―――答えは『否』。

 

―――では情けは、情は必要か。

 

―――答えは『否』。

 

―――最後に、鞘は必要か。

 

―――『否』。求めるのは切れ味、抑止力は不要である。

 

 

 

 

 道具にかける言葉はない。

ならば「一振りの剣」と決められた彼に掛けられる言葉など、あるわけがなかった。

例えどんなに傷付こうとも、傷つけられようとも、その果てに村の平穏を守れても。

 

 

 きっと彼は、彼の耳には―――「ありがとう」の一言すら、届けられなかったに違いない。

 

 

 そして言葉だけでなく―――彼の目は自分が守った人間の笑顔すら、目に映すことはなかった。

 

 

 

 それは、どんな気持ちだったのだろう。交わされる言葉を聞いているはずなのに、自分のことのはずなのに…………ソイツはピクリとも動かなかった。まるで命令以外の言葉は「理解」出来ないとでも言うように。

 

 果たしてそれは―――生きているといえるのだろうか。

 否、そもそも「彼」は生まれてもいない。

 

 

 

 ソレに付けられたのは「剣」としての『銘』であって、「彼」の『名前』ではないのだから―――。

 

 

 

 

 何も遮るものがない空は間もなく夜明けを迎える。ポツリと一つ立つ影は真正面を見つめている。

しかしその瞳には空も広い大地も自分のいる世界も見えていない。感情のない瞳が使われるのは『敵』を補足する時だけ。

 広大な大地に、カタカタと音が響く。

 人の身を人外となすほどの魔力放出を受けて腰に佩いた太刀が音を立てる。

 合わない刀と鞘が奏でるその音にソイツの敵は恐怖に顔を歪め身を震わせる。

 

 カタカタ、カタカタ、カタカタ―――死神の鎌が迫る音がする。

 

 それはたった一人で戦場を駆けるソレには似合いの音だ。

血と脂で切れ味が鈍った刀を捨て、死体の刀を取り、死体の仲間を増やす。

 

 そうだ、それが彼の―――アイツの戦い方だ。

 

 だからアイツは武器を持たない―――それは「アイツ」の物じゃないから。

 アイツは鞘すらもたない―――彼の為の鞘はなく、腰にある鞘ですら、死者の物だから。

 

 

 届かない。

 この手は絶対に届かない。分かっている、コレはとうの昔に過ぎ去ってしまった記憶でしかないことが。どうしようもないことだなんて、分かってる。この世にはどうしようもないことがたくさんあって、自分が無力な人間だということも分かっている。

 

 でもそれじゃ嫌なんだ。

 

 これだけ苦労したんだから、あんなにも大勢の人の平穏を守ってるのだから、きっと報われる。

そう願う俺と、それが所詮「願い」や「希望」でしかないことを理解している俺がいる。まだこの物語は終わりを告げていないけど、分かるんだ。俺が納得できるような―――彼が笑顔で逝けるような結末じゃないことくらい分かるんだ。

 届かない手を握る。どうしようもない衝動を抑えたまま、景色が遠ざかる。

 

 

 

 最後に映ったソイツの顔もやっぱり、怒鳴りたくなるくらいつまらなそうな顔だった―――

 

 

 

 ダン!と拳を畳みに打ち付けた音で目が覚めた。視界に入り込んできた天井に一瞬戸惑うが、見慣れた自分の部屋の天井だった。ジンジンと痛みを伝えてくる拳を感じて、初めて自分が寝惚けて畳みに拳を打ちつけたのだと理解出来た。

 

 

「ってえー……」

 

「そりゃいてぇだろうよ。え、何お前そこまで寝相悪かったか?」

 

「寝相はいいほうだと思う。ただ夢見が……………なんでセイバーが俺の部屋にいるのさ」

 

 

 痛みで少しは冷静になれたけど、正直セイバーには会いたくなかった。

 セイバーは俺がセイバーの過去を覗き見してるなんて欠片も思っていないだろうし、俺が感情のまま怒鳴ってもただの八つ当たりでしかない。そんなのは嫌だ。俺はセイバーに八つ当たりがしたいわけじゃなくって………ん、俺どうしたいんだ?…ヤバイ。寝起きなのと夢と現実がごっちゃになってるのと、セイバーがここにいる不思議やらが頭の中をぐるぐると回って思考がまとまらない……。

 

 

「なんでってお前なぁ」

 

 

 はぁ、と呆れたように溜息をつくセイバー。

 「寝惚けてんの、それとも天然なの?」とか何気に失礼なことを言っている。寝惚けてるだけなのになんで天然って言葉が出てくるのさ。

 

 

「睡眠中なんてもっとも無防備な状態じゃねぇか。昼間勝手にさせて貰ってる分夜くらいはちゃんとサーヴァントらしくしてやろうって心遣いだよ」

 

「は?え?……じゃあ昨日起きた時傍にいたのは看病とかじゃなくて見張りだったのか?!」

 

「それ以外に何があんだよ。ま、一応休止の形だな。なにか気配を察するまでは起きない」

 

 

 そういえば昨日も布団や毛布なんてセイバーの傍に無かったし、今だって俺が買った服にマフラーを巻いただけで暖房器具の類もない。

 

 

「お…前、さあ……」

 

「あん?」

 

「いや、気付かなかった俺が悪いんだけどさ、せめて布団で寝てくれよ……」

 

 

 何年も家じゃ一人で寝てたから今更誰かと一緒の部屋で寝ることに違和感を覚えないわけではないが、セイバーは男だし、今までだって気付かなかったんだから大丈夫だろう。

 取りあえず客用の布団を一式こっちに持ってきて……………そこまで考えて一大事に気付く。そして今まで気付かなかった自分の間抜けっぷりに頭に手をやって溜息を吐いた。

 

 

「あー、ごめん。そういえば俺セイバーに部屋あげてなかったよな」

 

「おぅ」

 

「本っ当にごめん。お前なら勝手に居心地いいところ見つけて占領してると思ってたんだ」

 

「てめぇ謝りたいのか喧嘩売るのかどっちかにしろや」

 

「いやだってセイバーが今更遠慮とかないだろ?!」

 

「よし、宣戦布告だな。覚悟しろ」

 

「まま待ってくれ!取りあえず部屋用意させてくれないか。何か落ち着かない」

 

 

 俺の頭を鷲掴みしようとこちらに伸ばされた手を両手で防いで、セイバーの部屋を用意させてもらうことにする。っていうか本当に何でセイバーは勝手に選ばなかったんだろ……。

 

 

 

士郎SIDE END

 

 

 

「うーーむ……」

 

「はあっ!」

 

「甘い」

 

「ガッ……!ッッグ………」

 

「悪い悪い、今朝はここまでにしとくか」

 

 

 考えこんでいるのを隙と見たシロウが突っ込んできたので、攻撃が届く前に飛び込んできた勢いをそのまま利用させて貰って首を打たせてもらった。

 背中から防御も何もなく倒れ、首を押さえたまま咳き込むシロウ。

 シロウの勢いを利用したからこれだけですんでいるが…………うむ、やはり考えながらの鍛錬は危険だな。主にシロウが。

 いくら殺人衝動を抑えているとはいえ、俺の本能みたいなものだから無意識に人間を一撃で殺そうと手が動くんだよな。まぁその方が実戦を考えればいいのかもしれないが……。

 

 

「ゴホッ……隙付いたと思ったんだけどな……喉いてえ………」

 

「お前の狙いが分かってから動いたとしても間に合うような相手に捨て身の攻撃は自殺行為だぞシロウ」

 

 

 いやほんと、時々というかしょっちゅうという確率でこいつ死にたいの?と思うような行為ばっかするよなシロウって。やっぱ自殺志願者か?

 

 

「うぐ…ところでセイバー、なにか悩んでたみたいだけどどうしたんだ?」

 

「ん?あぁ……大したことじゃないんだが、シロウの命を奪わずにじわじわと痛めつけるにはどうすればいいかと」

 

「セイバー?大したことじゃないことじゃないぞそれ」

 

「はははシロウ、言葉変だぞ」

 

「そりゃおかしくなるさ!なんだよそれ!怖いぞ!」

 

「いやぁ、学校でお前を襲ったサーヴァントのこと考えててな」

 

 

 殺すつもりなら殺せたはずだ。なのにシロウは殺されなかった。

 まぁいたぶるのが趣味っていうのならいいんだが、何かの目的があった場合が問題なんだよな。

どれくらいのダメージならば意識や命を保ったままで動かせるか、どの箇所を欠損または損傷すれば動けなくなるか、兎に角シロウの限界を知っておく必要がシロウにはある。

 えーっと………あれだ。『敵を知り、己を知れば百戦危うからずや』ってやつだ。

 

 

「敵の狙いや嗜好とかは情報が足りないから無理だとして、まずはシロウの限界をシロウ自身に叩きこ、じゃなくて理解してもらおうと思ってな」

 

「そういうことなら……いきなりじわじわと痛めつけるとかいいだしたから驚いたじゃないか」

 

「悪い悪い。そんな訳で出来るだけ急所は避けようと思ってたんだが、無意識に急所に手が伸びるんだよな」

 

「なんでさ。というかセイバー、恐ろしいことをさらっと言わないでくれないか」

 

「隠してたってしょうがねぇだろ~?まぁ、やはりここはシロウに頑張って貰うとして」

 

「そりゃそうだけどさ、って何かコツとかあるのか?」

 

 

 若干目を輝かせてこちらを窺ってくるシロウ。

 しかし俺は剣術とか武術なんて習った事ない戦場での叩き上げだったからなぁ。コツなんて…………「頑張れ?」の一言しか思いつかんな!うむ!

 

 

「俺は剣術なんてからっきしだからな、お前が求める答えはだせん」

 

「…………セイバーなのにか?」

 

「セイバーなのになぁ」

 

「うん、何かごめん。じゃあ今まで通り……」

 

「いや、お前は誰かの形を真似て、自分の形に調整した方がいいだろ。ゼロから始めるには時間が足りなすぎるからな。幸いこの戦争はその道のスペシャリストばっかだし」

 

 

 贅沢な見本市だよなぁ、聖杯戦争って………まぁ、視認できればの話ではあるが。人間の動きじゃねぇ!っていう動きするヤツの宝庫でもあるしな。シロウなら………大丈夫だろ。

 

 

「セイバーの動きを真似るのか?」

 

「俺の動きを真似るにはお前には足りないものがあり過ぎる」

 

「足りないものってなんだよ」

 

「言っていいのか?」

 

「……………なんか凄く嫌な予感がするけど言ってくれ」

 

 

 俺の確認にたじろぎ、悩み、葛藤していたシロウだったが、まずは己のことを知るのが一番だと思ったのか決意を固めて聞く姿勢に身構えた。

 

 

「まず身長が足りない。腕とか足とかの長さ、つまりリーチが短い。あと筋力と体重、経験が足りない。身の危険に対する直感能力もない。あ、危険じゃないけど違和感を察知する能力は評価できるかもしれんが、お前の場合いろんなものが足りてないのに首突っ込もうとするから逆にマイナスな。いやそもそも俺自身魔力放出で強化してるんだからお前には無理だな。魔術で肉体の強化っていうのも出来るかもしれないが俺には分からんし、魔術ってのは短期で瞬間的に身に付くものじゃないってリンも言ってたじゃねぇか」

 

 

 取りあえずこんなところか?同年代の奴らよりは身体も鍛えてあるし、努力や継続させる根性もあるからこれからを期待ってとこだな。一朝一夕じゃ身に付かないものを求めすぎたかもしれん………本当のことだけどな!

 

 

「まずは自分の方向性を決めて、俺との鍛錬で体の動かし方を身に付けて、いざという時の逃走経路を作れるような力を………シロウ?」

 

「俺が未熟だってことくらい分かってたさ………、そりゃ俺だって身長欲しいさ、いや俺はこれから伸びるんだ、たぶんまだ間に合うと思う。これから一気に成長期が来たっておかしくない―――というか俺と同じ体格の英霊なんていないだろ!」

 

「うむ。今回の聖杯戦争にはいないな」

 

 

 憎憎しいことに今まで出会った男の英霊という英霊は俺よりも背が高い。シロウの嘆きが痛いほどに分かる。俺だって四捨五入すりゃ180cmだ!…………と、今は身長のことでとやかく言ってる場合じゃねぇな。

 

 

「お前の戦闘の方向性を決めるだけだよ。それをどうするかはお前次第だろ。とりあえず今まで会って来た英霊の戦闘を見てどの形がしっくり来た?」

 

 

 ないとは思うが俺と言ったら………とことん叩き上げるしかないな。家でも戦場を見せてやるぜ!

 

 

「しっくり来る、というか………一番印象に残ってるのは―――アーチャーだ」

 

 

 剣も、戦闘技術も、と呟くシロウ。

その顔は認めているけど認められないと言いたげな、複雑な表情だ。

 

 

「アーチャーね、分かった。その方法で行こう」

 

 

 まずはアーチャーにお手本になってもらうか。難しいが……まぁ、嫌がらせだとおもえば。

 

 

「う、やっぱそうなるか………」

 

「シロウ、お前に選択肢などない」

 

 

 前の選択が4択あっただけでもかなりの譲歩だとおもう。っつか気に食わないなんて理由で駄々捏ねられるほどの余裕ねぇだろお前。

 

 

「分かってるよ。じゃあアーチャーの形を思い出して手合わせしてみるか?」

 

「あぁ、そういや学校でランサーとの一戦見たって言ってたな。じゃぁいっちょ」

 

「おはようございます、鍛錬の方終わりましたか?」

 

 

 ひょこりと朝日を背にして覗き込むマトウサクラの姿が道場の入り口にあった。

 いつの間にか朝食の時間になっていたらしい。んで、そのあとシロウは学校か………やること多いな。

 

 

「んじゃ、続きは学校帰って夕飯食った後だな」

 

「ああ。桜も悪いな、最近朝食の準備まかせっきりで」

 

「いえ、私が好きでやってることですから。

 

頑張って修行して、いつか先輩を追い越しちゃいますからね」

 

「む。そう簡単に師匠の座は譲れないからな」

 

 

 さて無意識バカップルは放って置いて掃除すっか。

 

 





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