ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
「見られちゃ困るものなんてないし、好きに過ごしてくれていいんだ」
遠慮なんて似合わないことしないでくれ、と学校に行く前にシロウは困ったように笑った。
シロウの魔術師の工房といわれる場所は予想通り俺を召喚した土蔵で、そこにはマトウサクラも入ったことがあるらしい。魔術とは関係ない(とシロウは思っている)マトウサクラが入れるような場所に、魔術的な罠や呪いが掛かった物など置くわけがないというのがシロウの言い分だ。
シロウの言い分とかはどうでもいいとして(どうせ聞かないから)、魔術的なものがごろごろしていないというのなら確かめて置きたかったことが一つある。
「ふむ、埃っぽくはねぇな」
召喚されてから一度も足を踏み入れていなかった土蔵に入る。
初日にランサーに開けられた壁の穴は青いビニールシートで覆ってあり、ビニールシートに遮られながらも太陽の光は土蔵の中をうすぼんやりと照らしていた。
この穴を見て「業者さんに連絡して修復してもらわないとな……なんて説明しよう」とぼやいていたシロウを思い出して口元を歪める。
「と、こんなことしてる場合じゃねぇな」
時間は有限だ。それが分かっていながらこうして過去のことに足を止めてしまうとは……老けたか?
俺も若くねぇな、などと笑ってみたい気もするがそんな人間らしい行為は座に戻ってからでいい。
「時間が足りない」
そう、時間が足りない。知識が足りない。人員が足りない。
その癖求めるものは複数あるときた……いや突き詰めれば一つか?ま、どうでもいいか。
全く欲深になったものだと過去の俺は呆れるだろうか―――いや、見向きもしないだろうな。
だが、うむ。
「これが人間らしいというものなのだろう」
時間が足りないなら間に合わせろ。
知識が足りないならあるものをかき集めて補え。
人員が足りないなら協力せざるを得ない状況に持ち込め。
「流れに身を任せて何でも叶うほど運は良くねぇよってな」
言っててこれほど悲しいことはないが本当なのだから仕方ない。
下に続く階段を見つけ、そこを下りていく。
役に立つものであればいいんだけどな。期待はしていないが。
士郎SIDE
セイバーや遠坂には「何もしなくても大丈夫」と言われたが、その言葉に甘えているワケにもいかないよな。俺にだって出来ることはあるはずだ。違和感を察知する能力はセイバーのお墨付きを貰ったし、数日前から感じているこの甘ったるい感覚が結界がもたらすものなら遠坂が言っていた『不審な場所』―――刻印を解除できなくても、場所を特定するくらいは出来るはずだ。そこを遠坂に教えて解除してもらえばいい。
やった事がない、分からないといって何もやらず二人に頼りきりと言うわけにはいかないのだ。
「よし」
そうと決まれば後は行動するだけだ。数分で昼食を済ませ、校内を回る。
人目につくところはたぶん遠坂が見つけているだろうから、人目に付かない所だな。
昨日の黒いサーヴァントとの一戦を忘れたわけではないけれど、放課後でもないから、日も高いところにあるし異変があれば直ぐに人目につくから大丈夫だろう。
―――昼休みは一時間。少しでも見つけることが出来ればいいのだが……。
「―――まさか、ここもか」
校舎の中を周り、念の為にと外に出た。
グラウンドや校舎裏には異常はなかったが、この一帯―――弓道場は毛色が違いすぎる。
校舎の中にも可笑しな場所は多々あったが、それは人目に付かない場所だった。
でもここは違う。ここは人目につかないどころか、毎日人が集まる場所だ。
ふいに、昨日の雑木林の一件を―――林の間から一瞬だけ見えた人影を思い出す。
(慎二……なのか?)
雑木林での一戦。
敵の姿を見極める為に走らせた視線が捕らえたのは桜の兄である間桐慎二の姿だった。
昨日は偶然だろうと言い聞かせたが、これほどの異常を弓道場一帯に感じるとなれば、もしかするかもしれない。濃密な風、湿った空気は息苦しく、胸を押さえる。
「……結界には基点がある、と遠坂は言ってたな。何ヶ所あるか知らないが、最初の基点がこのあたりにあるって事か……」
吐き気がこみ上げるほどの濃密な風と匂い。頭に過ぎる嫌な予感。
気にかかることはたくさんあるが、兎に角結界のことをどうにかしなければならない。
遠坂曰く、基点があるところにはそれらしい刻印があるらしいが……。
………
………………
…………………だめか。
違和感を感じることは出来ても、結界を括ってる刻印なんて見える筈がなかった。
でも収穫はあったな。後で遠坂にここを報告して……、
「なんだ。探し物かい、衛宮」
「!」
突然掛けられた声に振り返る。
昼休み、人気の途絶えた弓道場に立っていたのは―――
「―――慎二」
全て分かっているとでも言いたげに笑みを浮かべる間桐慎二だった。
士郎SIDE END
「おっじょうっさん!」
「ひゃあ!」
正午は過ぎたというのに、人は途切れない商店街。
しかし行き交う人々は大人が多く、歩く度にひょこひょこと揺れる白い髪を見つけ声を掛けた。
跳び上がって驚いたのが悔しかったのか、白い髪の少女―――イリヤスフィールに睨みつけられた。
「な、なんでセイバーがいるのよ」
「買い食い。で、可愛いお嬢さん、驚かせちまったお詫びに暇ならご一緒しないか?」
ガサリと音を立てるビニール袋にイリヤスフィールが顔を歪める。
お?いつもなら喜んでくれるんだが間が悪かったのか?
「どうしたよ。忙しいんなら断ってくれていいんだぞ」
「そうじゃないの……いいわ、付き合ってあげる」
「おいこら、子どもが我慢なんかするもんじゃねぇぞ」
眉を寄せて考えていたが、ふっきれた……というよりどこか諦めたように溜息を疲れてはたまらない。溜息の後に笑えば誤魔化されてくれるような空気の読める人間じゃねぇっつの。子どもに我慢を強いる大人だなんて思われたかねーよ。
そういう意味を込めて帽子の上から軽く小突くと、イリヤスフィールが不貞腐れた顔で見上げてくる。
「私子どもじゃないもん」
「そうか。んで、何かあったのか?」
「別になんでもないわ。あんまりしつこいと女の子にもてないんだから」
「ははは、別にもてようだなんて思ってねぇよ。嫌われようが聞きたいことは聞いとく性分だからな」
「……セイバーに仕返ししようと思っただけよ」
仕返し……されるようなことしたか?………そういや昨日とても可愛い負け犬の遠吠えを聞いた気がする。
「なんか奢ってくれんのか?」
「…………セイバーのバカ。女の子に恥をかかすなんて許されないんだから」
「そりゃ悪かった」
「誠意がたりなーい!もう絶対許さないんだから!」
「誠意なんて俺に求められてもなぁー。あ、ほれ、俺の誠意!」
ポカポカと叩いてくる小さい拳を受けながら考える。
誠意……俺に程遠い言葉だ。しかしいつまでも叩かれてるわけにもいかないので、もっていたビニール袋を差し出す。
「なあに?これ」
「今日は二つやろう!」
「タイヤキ?」
「ハズレ。ま、公園行こうぜ。そこ行ってからのお楽しみだ」
クンクンと鼻を鳴らして覗き込もうとするイリヤスフィールを留めて、イリヤスフィールの手が届かない高さまでビニール袋を持ち上げる。俺の態度に頬を膨らませていたイリヤスフィールだが、「仕方ないわね」と笑うと手を握られる。
「…………」
「どうしたのセイバー?………嫌だった?」
「ちげぇよ。そんな不安そうな顔すんな。飲み物はイリヤスフィールが選んでくれるか?」
「!―――ええ、いいわよ。甘い匂いがしたから甘いものでしょ?任せておいて!」
「取りあえずミルクティーは除外な。あれは甘すぎた」
「そう?そんなに悪くなかったわよ」
そりゃお子様だからさ。
なんて水は差さずに手を握ったまま商店街を歩く。
「またアンコ?」
「それもあるなー」
「ちょっとくらいヒントくれたっていいじゃない。意地悪するとミルクティーよ?」
「そりゃちょっとなー……まぁ、アンコとカスタードクリームとチョコレートとか多種多様だな」
「そんなに種類があるの?!えーっと、じゃあ紅茶がいいわよね。でも自動販売機っていうので売ってるのは質が落ちるのよね」
「緑茶でいいんじゃね?シロウの家で結構出るけど美味いぜ」
「そうなの?」
「おぅ。あ、でも俺も自動販売機の緑茶は飲んだことねぇな。試してみねぇか?」
「セイバーが私の屋敷に来れば最高の紅茶をご馳走してあげるのに」
「ははは、また今度誘ってくれよ」
販売機の前でそんな会話をした後、結局緑茶を二つ買って………イリヤスフィールの持ってた金は受け付けてくれなかったので俺が換金して、それをイリヤスフィールが払って公園に向かったら、
「よぉサボり魔。学生の本分は学業じゃなかったのか」
「げ、」
「お兄ちゃんだー!」
「なんなのこいつら。衛宮の知り合い?」
学校で授業を受けているはずの勤勉な生徒がサボり魔になっているところを見つけた。
うむ、フジムラタイガに告げ口しよう。一番効果的な人物に任せるだけであって、なんかもう放り出したい気分になった訳ではない。
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