ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第弐拾伍話:戦慄の●鍋事件

 

 いやもう、本気でなんでこんなとこに居るんだ?

「アーチャーに世話になるなんざ真っ平ごめんだぜ!クラスメイトとボイコットだ!」ってことか?………んなわけねぇわな。

 

 

「衛宮妹なんていたんだ」

 

「いや違うけど」

 

「はあ?じゃあお前妹でもない子供に自分のこと『お兄ちゃん』なんて呼ばせてるワケ。………衛宮ってそういう趣味だっけ。これじゃあ桜も見込みないわけだ」

 

「誰がそういう趣味だ!ってなんで桜が出てくるんだ?」

 

「そうそう、だからいざって時の為に俺がこうして監視役として付き添ってんだよ。なぁイリヤスフィール」

 

「ふうん?お兄ちゃんてば私のことが好みなんだあ~」

 

「だから違うって!ていうかいつの間にそんな仲良くなってんのさお前ら!」

 

 

 唇に人差し指を添えて、にんまりと怪しく微笑むイリヤスフィールにブンブンと手と首を振るシロウ。そんな必死の否定を見てイリヤスフィールが今までのからかう素振りとは一転し、少しだけ眉を寄せて悲しそうに目を細めさせながら「私のこと嫌いなの?」といえば、「いや嫌いじゃない!嫌いじゃないけどそういうことじゃなくて!」と更に慌てるシロウ。

そしてこちらに目配せをしてニヤリと笑うイリヤスフィール。それなりに憂さ晴らしが出来て「グッジョブ!」と親指を立ててやる俺。

 とまあシロウをからかうのはこの辺にしておいて、

 

 

「んで、学校サボって何やってんだ?」

 

「子どもの保護者には関係ないことだよ。じゃあ衛宮、用事は終わったし僕は帰らせてもらうよ。言っておくけど、今日のことは遠坂には内緒だからね」

 

 

 怪しいと踏んでいたが今の発言で決まりだな。

戦争に巻き込まれているシロウが昼間とはいえアーチャーの保護下を離れて連れ歩く人物。

そしてリンの名前―――聖杯戦争の関係者か。マトウサクラとの関わりもあるようだし………後でシロウに問い質すか。

 シロウもあからさまに「ヤバイヤツに見つかった」と言わんばかりの表情で俺の方を見ているし、自覚をしつつも単独行動をし腐りやがったってことだよな。いい度胸だこのやろう。覚えとけ。ま、今は保留だけどな。

 

 

「ねえシロウ、暇ならシロウも一緒にオヤツ食べましょ」

 

「え?あ、いいのか?えっと、じゃあ邪魔させてもらうよ」

 

「うんっ!今日はね、セイバーが二つくれるって言ったから私の分分けてあげるね!」

 

「それはイリヤスフィールが貰ったんだろ?気持ちだけでいいよ、ありがとな」

 

「そう?あ、シロウだったらイリヤって呼んでもいいよ」

 

「そっか、じゃあイリヤって呼ばせてもらうな」

 

 

 仲良さ気に笑い合うガキ共の間をぶち壊しにする保護者ってのものなんだしな。

 

 

「んじゃ、落ち着いたところでシロウはアンコでいいか?」

 

「俺?セイバーの分だろ?俺は別に」

 

「お前さぁ、空気読もうぜー?お前だけ食わないって俺らが食いづらいじゃねぇか。

 

そもそもの話お前の金だし」

 

「む……それもそうだな、じゃあ貰う。大判焼きか、ありがとなセイバー」

 

「イリヤスフィールはどうするよ。アンコとチョコレートとカスタードがあるけど」

 

「シロウと一緒がいい!」

 

「了解、と。ほれ熱いから気をつけな」

 

「ありがとう」

 

 

 熱くないように包装紙の上からマフラーを巻きつけて渡せばお礼を言われる。

その光景をシロウがポカンと見ている―――前もあったよな、この光景。

 

 

「あんだよ」

 

「いや……セイバーが気遣いするのがさ、珍しくて」

 

「アーチャーとおんなじこというのね、シロウったら」

 

「げ、アイツも同じこと言ったのか……いやでも仕方ないだろ、セイバーが細かい気遣いできるとは思わないし」

 

「お前ら失礼だよな」

 

「そうよ?セイバーは意地悪だけど優しいんだから」

 

「そうそう、俺は優しくすべき時は優しいんだぜー。んで、俺はチーズと」

 

 

 二人に大判焼きが行き渡ったとの確かめてから、袋の隅に取っておいたチーズを取り出す。

と、微妙な表情でこちらを見るシロウとイリヤスフィール。

 

 

「ほら、な。分かるだろイリヤ」

 

「そうね。セイバーったら大人気ないところあるものね」

 

「二種類ずつ買ったらチーズ一つしか買えなかったんだから仕方ねーだろ」

 

「いや、そこはイリヤの選択肢の中にいれてやれよ!」

 

「却下だ!俺は全種食いたい!」

 

「大人気ない!」

 

 

 言い争いが続くかと思いきや、クスクスと心底楽しそうな笑い声に止められる。

口元を押さえて、小さな肩を震わせながら俺とシロウのやりとりを見ていたイリヤスフィールだ。

 

 

「二人とも子どもみたい。こんなに寒いと冷めちゃうわ、早く食べましょ?」

 

「「それもそうだな」」

 

 

最年少に諭されて、微妙な顔で大判焼きを頬張る…………なんかデジャヴが。

 

 

 

******

 

 

 

「喧嘩してもいいけど……ううん、やっぱ二人は喧嘩しちゃダメなんだからねー!」

 

「分かった、気をつけて帰るんだぞイリヤ!」

 

「前向いて歩かねぇとすっ転ぶぞー!」

 

 

 「そんなヘマしないもんー!」と元気よく両手を振りながらピョコピョコと跳ねると、俺とシロウに背を向けてイリヤスフィールは帰路に着いた。そんな小さな姿を見送ってから、今更学校に戻る気もないのかシロウも俺と一緒に帰るらしい。

 

 

「あ、夕飯の材料買うから商店街寄ってってもいいか?」

 

「別に構わねぇ」

 

「今日は鍋にしようかと思うんだけどさ、」

 

「鍋?」

 

 

 鍋って調理器具だよな。この時代の人間は調理器具を食糧にする食文化があるのか?いや確かに『石のスープ』とかあるが、アレは別に石を食べるわけじゃなく……。

 

 

「セイバー、お前が勘違いしているのが凄く分かるから言うけどさ。別に鍋をボリボリ食べるってワケじゃないからな?煮込み料理みたいなもんだよ」

 

「あぁー、そういや寒いから今日は鍋にしようかしら~とか言ってたな。それか」

 

 

 キムチナベボタンナベトマトナベとかその形をした鍋使って作る料理かと思ってたのだが、それ自体を材料にする煮込み料理ってワケか。ん?ボタンは食い物か?

 

 

「スープの味とかメインの食材とか希望があるなら聞くけど、なんかあるか?」

 

「あら衛宮君、奇遇ねえ」

 

「お、リンじゃねぇ……か」

 

 

 シロウの問いにんー、と悩みながら、商店街を歩く際に耳に入ってきた情報の中で気になるものを思い出しつつ商店街に繋がる道を並んで歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。

見知った声になんの警戒もせずに振り返ると―――貼り付けた悪魔の笑みに出会った。

 

 

「放課後に話し合いたいことがあるから一度落ち合いましょうって話してなかったかしら。それとも私の予定じゃ今日のことだったけど、衛宮君の予定じゃ明日のことだったのかしら」

 

 

 アーチャーが気付いてたから良かったけどもし言われなかったら私はいつまで待ってたんでしょうね。なんて長い台詞の全てを微笑んだまま、一息で言い切った。

穏やかな表情で言い切って、ふと一息をいれるとリンはにぃっこりと笑みを深くした。

 

 

「私、何か聞かなきゃいけないことがあると思うのだけど?」

 

「すいませんでした」

 

 

 サボりの上に同盟相手との約束すっぽかしたのかよ、救いがねぇなシロウ。

 救おうとも思わねぇけど。

 自分には非しかないことを自覚しているのか、シロウは九十度の直角で頭を下げたままである。リンの怒りの矛先がこちらに向いていないので改めてリンの様子をじっくり眺める。

 リンの手にははシロウとあまり変わらない学生鞄があったが、その華奢な肩には夜逃げでもしてきたかのような大荷物が掛かっていた。

 

 

「リン、その荷物どうしたんだ?夜逃げか?」

 

「んなわけないでしょ!ってそれも言ってなかったの?士郎」

 

「あー、そういえば言うの忘れてた」

 

「?」

 

「魔術指南や作戦会議のこととか考えると拠点はひとつの方がいいってことになったの。

藤村先生の目もあるし士郎が私の家に来るのは無理だから、士郎の家を拠点にすることになったんだけど……聞いてなかったみたいね」

 

「うむ、初耳だ」

 

「う、悪かった!帰ったら一番に言うべきことだったんだけど……すっかり忘れてた」

 

 

 忘れんなよ。…………そういえば突然聖杯の話なんてもの持ち出してきたよな、興味ないくせに。

リン……はないな、んじゃアーチャーにでも聖杯のことに関して吹き込まれてそっちに意識もってかれたってとこか?

 

 

「ま、過ぎたことグダグダ言ってたってしゃぁないわな。フジムラタイガにはそっちでうまく言っとけよ」

 

「ああ、それは考えて有るから大丈夫だ。じゃあせめて荷物持つよ遠坂」

 

「あら、気が利くじゃない」

 

 

 大荷物を見て、目的地が一緒ということもあってかすかさず荷物持ちを進み出るシロウ。

うむ、実にいい心がけだ。

 

 

「て、商店街寄るんじゃないの?」

 

「あ、そういやそうだった……でも行くんなら一緒に行った方がいいよな」

 

「そうね」

 

「んじゃ途中で材料捕獲しようぜ」

 

「は?」

 

 

 

「俺一度商店街で聞いてからずっと興味あったんだよなー、猫鍋っての」

 

 

 

「士郎、商店街付き合うからそれだけは止めて頂戴」

 

「食卓に出す以前のはなしだろ!やらないよ!」

 

「セイバー貴様、よもや腹が減ったからとネコさんに手を出したとはいわんだろうな!!」

 

「のあ!突然出てくんじゃねぇよ!」

 

「いいから答えんか!」

 

「俺は料理は食べる専門で作るのは専門外だっつの!」

 

「そうか、ならいい」

 

 

 唐突に現れて、鬼気迫る表情で胸倉を掴んできたアーチャーはあっけなく姿を消した。

 一体なんだったんだ?っつかでかい図体の男が猫「さん」ってお前…………プ。

 

 

「セイバー、お前は絶対に料理するなよ?材料の捕獲も調達も禁止だからな?」

 

「んだよ、折角食費を少しでも浮かしてやろうって俺の心遣いだったのに」

 

「うん、ありがとう。でもいらない。絶対止めてくれ」

 

 

 この時代の食糧事情は複雑怪奇だ。

 





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