ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
桜SIDE
『この短期間で怪しまれずに探るのは難しかろう』
お爺様はそういって、しばらく泊り込みでの偵察を許可してくださった。
その間の修行は勿論休みだ。でもそんなことはどうでもいい。
偵察としての使命より、あの家に帰らなくていいことより、何よりも―――先輩の傍にいられるということが嬉しかった。それだけが頭を占めていた。
先輩を裏切るような行為をするのに、嬉しさを感じるなんて何て卑しいんだろう。
それでも、……それでも浮かれてしまうのは止められない。
「桜ちゃんの部屋はー……大丈夫ね、何か足りなかったら遠慮なく言ってね」
「はい、ありがとうございます」
お爺様から電話で連絡してもらって、先輩の家の宿泊は保護者の許可もあるということで藤村先生も納得してくれた。たぶんセイバーさんも何も言わない………と思う。ううん、絶対に勝ち取ってみせる。
「突然桜ちゃんがしばらく泊まるって知ったら士郎びっくりするかもね」
「そうですね、ちょっと驚いた顔が楽しみです」
「授業サボったお説教しようかと思ったけど桜ちゃんのお泊り会だもんね、今日は勘弁してやろう!」
「フフ、ありがとうございます」
ミカンを剥く手をそのままに、顎をあげてフフンと笑う藤村先生に笑って御礼を言う。
でも時間を無駄にするわけにはいかないのは私が一番分かっている。授業を欠席したのは先輩だけじゃなくて兄さんもだった―――つまり時間が残されていない。
先輩、先輩は私が―――……。
ガラガラガラ
「あ、士郎かな?」
「かもしれませんね、私見てきます」
「お出迎えかあ~青春ねえ」
「藤村先生!もう……」
ニヨニヨと笑みを浮かべる藤村先生に軽く注意をいれて、玄関に向かう。
顔、赤くなってないといいんだけど………藤村先生がからかうから。
先輩の声が聞こえる。あ、セイバーさんも一緒なのかな。思わず足が速くなる。早く先輩を驚かせたい。
「先輩!おかえりなさ……」
なんで、遠坂先輩が…………いるんですか?
桜SIDE END
見知らぬお嬢さん(リンのことだ)と一緒に買い物という面白い状況を、商店街のおっちゃんにシロウが囃し立てられるなどいろいろあったが特に何の問題もなく今夜の夕飯の材料をゲットした。
ちなみに、商店街の人間の中にはシロウとマトウサクラをセットとして見てた者もいて、俺とリンが……なんて恐ろしい勘繰りをする奴らもいたが、無知とは罪深いな。色恋沙汰にはとんと疎いシロウですら足早に罪人から俺たちを引き離すような状況だったとだけ言っておこう。
やー、俺は別に構わないんだがリンとその護衛兼保護者がな。
どうせ一週間も経たない内に消えるんだし言わせたいヤツには言わせとけって思うんだが、ブツブツとリンの独り言をシロウと二人で聞き流して歩いていれば、あっという間にシロウの家に辿り着いた。
ガラガラと玄関の引き戸を開ければその音を聞いてか、トタトタと軽い足音がした。心なしか足取りが軽い。しかもこんな風に狙ったように出迎えるのは珍しいな。
「先輩!おかえりなさ……」
予想通りマトウサクラがいつもよりも若干嬉しそうな笑みを浮かべて出迎えたが、視線が俺、シロウ、そしてリンに流れつくとその笑みはすぐに曖昧な笑みになってしまった。引き攣らなかったのは―――感情を抑えたんだろうな。あーあ。
ニブチン野郎はそんな表情の変化に気付かず、珍しくマトウサクラが出迎えたことに首を傾げている。ま、いつもなら夕飯の下ごしらえしてて居間で「おかえりなさい」だからな。
「さく」
「どうして………どうして遠坂先輩が一緒なんです?」
「事情はあとで説明するから。取りあえず玄関は寒いから居間に行かないか」
「……そうですね、では遠坂先輩どうぞ」
「ありがとう」
来客用のスリッパをリンの前に用意するマトウサクラ。
その表情とこの場の空気はこれから始まる修羅場の序章みたいなもんだろう。
更にこの状況にフジムラタイガが加わるんだろ?シロウとリンはどうやって自分の主張と要求を通すんだろうな。いや楽しみだ。
(っつーかこいつらよ)
マトウサクラの宿泊を一度阻止した俺が立場的に阻止せざるをえないの………分かってんのかね?俺の言い分は後回しにしただけでリンが泊まるの納得した訳じゃねぇしな。ってか、自分の陣地に休戦中とはいえ敵を泊めるとかないわ。
俺もシロウも魔術方面には明るくないんだから仕掛けし放題じゃねぇかとかいろいろ言いたいが、大事なことを相談しなかったシロウが悪いので言わないで置く。うむ、何もかもシロウが悪い。ってか俺の茶々入れ程度で撤退させられる理由しか作れなかった時点で終わってるがな……いや本当楽しみだ。ちょっとは成長してっかな?
まぁ、
「なんで遠坂さんがいるのよおおおう!!?」
第一関門くらいちゃちゃっと突破してくれねぇとな。
******
「―――という訳で、こちらにお世話になろうと思いまして」
リンの屋敷は只今改装工事中で、ホテル暮らしよりは学生らしいし、先生であるフジムラタイガが既に泊り込んでいる分安心で安全だし金もかからないので、途中で出会ったシロウの誘いに乗らせてもらうことにした―――というのがリンの言い分。
本当に改装工事してんのか見に行かれたらアウトだよな。とは言わない。まだ。
リンも魔術師だし幻覚系などの魔術なり使ってそこらへんもカバー済みだと思うが、どうだろな。リン変なところで抜けてっからな。
あーでも魔術は秘匿するものってなってんだっけ。んじゃそんな大々的に使っちゃいかんのか………いや、聖杯戦争自体大々的か。本当この時代の秘匿の線引きってどうなってんだか。俺には理解できん。
と、そんなこと考えてる間に話が進んでた。
やや私情も含んだフジムラタイガはリンに完封されて眉を寄せて唸っている。しかしそれも少しの間で、観念したように溜息を吐いた。
「むうーん。そうね、そういうことなら丁度良かったし」
「丁度良かった?」
「あれ、士郎まだ聞いてなかったの?今日ね、桜ちゃんのお爺さんから電話があって暫らく家を空けるけど、留守がちな間桐君とじゃ心配だからって桜ちゃんを少しの間預かって欲しいんだって。
『日頃から世話になっている衛宮君と藤村先生に預けるのなら安心して家を空けられる』なーんて言われちゃったら引き受けない方が失礼ってものよ」
ははは胡散くせー。
と思うのは俺だけらしく、フジムラタイガに至っては「これだけ信頼されるなんて教師冥利に尽きるってものね!」などと言ってる。人間として、教師として、やはり保護者からの信頼は嬉しいのだろう。
「こうなったら一人も二人も同じようなもんだし女三人で」
「セイバーさん!」
「んあ?」
「セイバーさんは…………その、いいんですか?」
「俺ねぇ」
ぶっちゃけ構わん。
餓鬼に手を出すほど飢えてるワケじゃないし。そもそもそういう色恋沙汰に興味ないしな。誰かとそういう関係になることもそういう関係を強要することもない。
「たかが居候の俺がシロウの家のことについてとやかく言う筋合いはねぇだろ」
フジムラタイガがおれ、縋りつくようにこちらを見ていたマトウサクラの瞳が影になる。ここで俺が何にも言わなきゃこんな状態で日々を過ごすのか?うわ、ぜってぇやだ。このドンドロした空気で飯とか食いづれぇわ!
「一つ言わせて貰うとするなら、ちっと軽率すぎんじゃねぇか?ってことだ」
「軽率?」
「お前ら知り合いの知り合い、程度の仲なんだろ?その程度の間柄の男の家に泊まるとか、いくら教師がいるっていってもねーよ。フジムラタイガも、いくら自分がいるからって他の同性の友人を探させるべきなんじゃねぇか?」
ずっと済み続けていた家を改装工事ってんなら、予定を立てて行うはずだ。別に災害に遭ったってワケじゃないしな。猶予があったのに何も動かなかった………なんていうわけねぇよな。
「それともえーっと、トオサカリン?お前同性の友人頼れねぇ理由でもあんのか?」
それこそ、知り合いの知り合い程度の仲でしかない男の家に泊まるような理由が。
「はっ、まさか頼れる相手がいないのか?そりゃ悪かったな」
「ご心配なく、親しくしてもらっている相手はいますので!」
思わず、というように息を飲み少しだけ優しい視線で謝るとすかさずに返してくるリン。
口調は丁寧ではあるが、視線は(どういうことよ!?)とその心情を訴えている。フ、恨むなら何の相談もしなかった上、感情の機微を読めないシロウを恨め。
「んじゃ、そっち当たった方がいいんじゃないか?見ての通り学校関係者でもなんでもない男が居座ってるからな。親しい友人の家のほうが安心で安全だと思うが………俺間違ってるか?」
「え?!いえ、セイバーさんの言うとおりだと思います!そうね遠坂さん、セイバーさんの言う通り美綴さんに相談してみたら?今日はもう遅いから泊まってもらって………いいですよね?セイバーさん」
「何故俺に聞く。ま、もう遅いし今更出てけとは言えんだろ。トオサカリン」
「なんでしょうかセイバーさん」
「改装工事すんならもうちっと計画的にな」
「フフフ、そうですね。お騒がせしてしまってすいません」
「ははは、別に俺は居候だから迷惑なんて思ってないぞ」
「フフフそうですか、それならよかった。ええ本当に」
「ははは」
「フフフ」
「(こ、怖い………)」
「(良かったんですよね?これ、で………)」
「(遠坂さんとセイバーさんが怖いよう……!)」
「衛宮君、電話お借りしてもいいかしら?出来れば案内もお願いしたいのだけど」
「え!あ、ああ……じゃあ桜、夕飯の支度お願いしていいか?タラとホタテの寄せ鍋しようと思って材料買ってきたから」
「は、はい!その……あの、頑張ってください」
「うん、ありがとな」
(セイバー!セイバー!)
む、危急時にしか通じないはずのシロウからの念話が。
それほどの脅威だというのかトオサカリン―――恐ろしい子…!
「お、このミカンあめぇな」
「あ、セイバーさんは甘い方が好きな人?」
「うむ。酸っぱいよりは甘い派だな」
恐ろしいのでミカンを食べながら縮こまっていよう。
ミカンうまー。
ちなみに、凛嬢の家がアーチャーによって工事が必要な状態にあることはセイバーさんは知りません。天井に大穴が開いてる部屋に通すことは凛嬢の性格上考えられませんし、お宅訪問した時もセイバーさんは探索していないので、セイバーさんにとっては凛嬢の言い分は嘘としか見ていません。凛嬢の家の構造がどうなってるか自分にはわからないので、おかしな点があればご指摘いただけると幸いです。
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