ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
「客用の布団は俺が用意するから、桜、遠坂に部屋の案内してくれないか」
「はい、では遠坂先輩いきましょう」
「ええ、ありがとう桜」
「っ、い、いえ、これくらいのこと!」
笑いかけられて挙動不審になるマトウサクラの後をリンがついていき、続いて布団を用意する為に部屋をあとにするシロウ。そして夕食後のお茶をのんびりと楽しみながらテレビを見る俺とフジムラタイガ。少年少女がいなくなり、特に話すこともなく居間にはテレビから流れる音だけが響く。
しかしそれもシロウ達が居なくなったのを見計らったフジムラタイガの手によって止められる。
「―――ねえセイバーさん、ちょっといいかしら」
「どうした?フジムラタイガ」
士郎SIDE
遠坂が泊まる部屋に布団を持っていき、軽くベッドメイキングを済ませてから後のことを桜に任せて俺はセイバーと藤ねえのいる居間へと向かった。勿論、遠坂の件だ。
「藤ねえ、セイバー、ちょっといいか?」
「どうしたの?なんか足りないものでもあった?」
「いやそうじゃない。遠坂のことで話があるんだ」
両サイドに座る二人が見える位置に正座して二人の視線を受け止める。
「遠坂を泊めるの今日だけってなったけど、やっぱりしばらく泊めさせてくれないか」
「理由は?」
「二人に相談しなかったことは浅慮過ぎたと思う。何も言わずに決めて悪かった。でも遠坂を誘ったのは俺なんだ。それを急に反故にするなんて遠坂に悪いと思う。
二人に心配を掛けるかもしれないけど間違いは起さないって誓う。だから遠坂をしばらくここに泊めること許可してくれないか」
目を逸らさずに二人の言葉を待っていると藤ねえが「うーん」と唸った。セイバーだけが反対してたのかと思ったけどまさか藤ねえもなのか?!
「士郎、私はそういう心配はしてないの。なんて言ったって士郎を育てたのは私なんだから!」
「え?あ、うん、ありがとう?」
「士郎がそこまで言うんなら私も居るし、桜ちゃんも居るし寝泊りは離れだから私は構わないわ。勿論、だからって何かしたら分かってるわね、士郎」
「ああ勿論、何もしない」
「ならよろしい、私からは言うことはないわ」
うむ、と腕を組んで頷く藤ねえ。
ほっと安堵してセイバーの方へと目を向けるとセイバーは暢気にミカンを剥いていた。
「……おいセイバー、俺真面目に話してるんだけど」
「ん?あぁ、別に良いんじゃねぇの。家主が決めて、同居人もOKしてんだから」
「いっておくけどお前も同居人だぞセイバー」
まるで自分は無関係と言わんばかりの態度にむっとする。放って置けばトントン拍子で話が進むのに馬鹿だなぁと言わんばかりの視線を受けるが、気付かない振りをして「で、どうなんだよ」と答えを促す。
「他に行くとこないってんならしょうがないだろ。マトウサクラにもお前から再度説明しておけよ」
「………いいのか?」
「反対されたいのか?」
「いやそうじゃないけど!」
お人好しめと溜息と共に呟きを吐いた後に返ってきた答えに拍子抜けする。頷いてくれと意思を込めて睨んでみてみたが、まさかこうも簡単に許可されるとは思ってなかった。まじまじと不機嫌そうな顔を見れば更に眉間に皺が寄る。
「んじゃそろそろ私は桜ちゃんと遠坂さんの様子見てこようかなー」
「あ、頼んだ藤ねえ」
腰を上げて居間から出て行く藤ねえに一声掛け、ひらりと振られた手を見送り足音と気配が遠ざかっていくのを確かめてセイバーに目を向ける。
「なあ、なんか言いたいことないのか?」
「お前が必要と感じて決めたことなんだろ。魔術のことに関しちゃ俺は素人同然だからな。魔術師であるお前らが決めたんなら反対する気もねぇよ」
「………なんか怒ってないかお前」
「怒ってねぇよ。怒られるようなことしてんのかよお前」
「そんなつもりはないけど……最近よくわからないタイミングで怒られるからさ」
「そりゃお前が鈍いからだよ」
「そんなことはない」と言いたいがジト目で見られると言葉に詰まってしまう。
俺そんなに鈍いかなあ?む?鈍い?
「ってことはやっぱりセイバー怒ってるんじゃないか?」
「シロウ、怒られたいのか?お前は」
「いいや、怒られたくはないぞ」
「んじゃ、さっさとマトウサクラに言い訳でもしてこい」
話は終わったと言わんばかりにしっしと手を振られる。
これ以上追求しても更にセイバーの怒りを煽るだけのような気がするので退却しよう。
士郎SIDE END
首を傾げながらもマトウサクラに説明をしに行ったシロウが戸を閉めるのを見届けて溜息を吐く。シロウ達が居ない間のフジムラタイガとのやり取りを思い出しフゥと一息吐く。
「信じてる、ね」
は、と声だけで笑う。
シロウもリンもマトウサクラも居なくなり、テレビの音さえもなくなった室内。そこでフジムラタイガは姿勢を正して真剣な表情で俺に話しかけてきた。
問い返した俺にフジムラタイガは少しだけ悩むように瞳を伏せたが、直ぐに悩みを振り切って言葉を続ける。
「士郎が何をやってるのかわからないけど……きっと、セイバーさんが関わってるのよね」
「…………」
「あ、別にセイバーさんを責めてるわけじゃないのよ?なんにしろ、士郎が決めたことだと思うから」
安心して!と手を振りながらも、困ったように笑うフジムラタイガ。
俺が来てから僅か4日。一週間も経たない内からシロウ自身も、シロウの周りも変わりはじめている。シロウが子どもと言える歳からずっと傍で見てきたフジムラタイガがその変化を感じ取れぬワケがない。
それでなくとも人間は変化に敏感な生き物だ。異分子がいればすぐに分かる。
それでも彼女は受け入れたのだ。懐が広いとも言えるかもしれないが、俺にはあまりにも無用心に見えた。何故こんな簡単に異分子を受け入れられるのか謎でしかなかった。
「んで、フジムラタイガは何が言いたいんだよ」
俺に身を引け、とでも言いたいのか。あまりにも検討違いな言い分だが、まぁシロウ側の人間からみれば元凶は俺だから仕方ないだろう。
しかし俺が予想していたものとは違う言葉が出てくるのはその目を見れば分かる。敵意なんてない。こちらを窺うような瞳が俺を見てくる。
むぅ、本当になにが言いたいんだ?シロウ関係の人間はよく分からん。
「うん……遠坂さんのことだけどね、私はいいと思ってるの。士郎が必要だと思ったから誘ったんだと思うし、信じてあげたいから。……セイバーさんも士郎のこと心配してくれたから言ってくれたんだと思うけど、ちょっと目をつぶって欲しいの」
「(そっちか!)………シロウから言ってきたら、な」
「ありがとう」
「居候の機嫌なんて伺ってんじゃねぇよ。ったく、なんでお前らは揃いも揃ってそうなんだよ」
溜息をつきつつ、ミカンを剥いていく。フジムラタイガは具体的にではないが何か起こっているのを気付いている。ならば、
「聞かないのか?何が起こってんのか」
今ここで俺に聞くのもいいだろうし(俺が素直に話すかどうかは別として)、シロウに直接聞いてもいい。少し難しいだろうが泊まる理由としてリンに聞くっていうのも手だと思う。
「士郎なら間違ったことはしないって信じてるから」
「ふーん」
家族のようだといっても所詮他人。何が間違いか、間違いでないかの価値観も違うだろうにそこまで言い切れるのは凄いな。これが『保護者』っていうものなのだろうか…………俺には分からん。
行動原理は全く分からんが、フジムラタイガがシロウを大切にしているっているのは、一応、なんとなくではあるが分かるので、
「大切なら何の事件に巻き込まれてるのか位は把握しておきたいと思うのが人間ってヤツだと思うんだがなぁ………ほら、心配ってやつ。そういうのはしないのか?フジムラタイガは。」
「そりゃあ心配よ~。でもね、セイバーさん」
「ん?」
「私だからこそ出来ることがあるかもしれないじゃない。
知らないでいるからこそ出来ることがあるかもしれないじゃない。
士郎が何も言わないってことは私にこのままで居て欲しいって思ってるからだと思うの。―――だからね、私はいいの」
「…………そうか」
「うん」
「そりゃ結構辛いと思うぞ?」
巻き込まれるかもしれない事の事を全く知らないってのも辛いし、気になることを気にしない振りってのも辛い。それでもフジムラタイガは「うん」と決意を固めて軽く頷いた。
「だって私は士郎の『保護者』だもん」
「そうか」
フフンとおちゃらけた風に笑っていたフジムラタイガを思い出す。
あの時は適当に頷いて置いたが、
「やっぱ気になってんじゃねぇか」
俺がシロウに理由を聞いて、はぐらかされた時すこしだけ気落ちしたように見えた。すぐにいつもの調子に戻っていたが……それでいいのかねぇ、と思う。
フジムラタイガも、エミヤシロウも。
「ま、俺には関係ねぇか」
二人の真意なんざわかんねぇので、その一言に尽きる。
誤字脱字などありましたらご報告下さい。