ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第弐拾玖話:剣士との逢引

 

 正午を告げる放送が響いてから数分後、士郎や凛たちが通う穂群原学園の屋上。冬の冷たい風が吹き荒ぶこの場所はいくら日の光の恩恵が得られてはいても非常に寒く、好き好んでこの場に来ようなどとは思わないだろう。

 しかし今日はそんな屋上にひとつの影が現れる。赤毛の短髪が冬の風に揺れ、唐突に強まった風に制服に包まれた肩を竦める。赤毛の生徒―――衛宮士郎はキョロキョロと辺りを見回して声を潜めて問い掛ける。

 

 

「セイバーいるか」

 

 

 声に反応してか、建物の影からカタンと音がした。その直後影から姿を現したのは銀色のポットを持った長身の男性―――セイバーだ。

 

 

「ん」

 

「待たせて悪かったな、寒かっただろ」

 

「だからサーヴァントは寒さなんて感じないっての。いい加減学習しろよシロウ。ま、お前が朝作ってくれたスープのおかげで暖かく過ごせましたがね」

 

「そっか、それならよかった」

 

「んじゃ、この色気も面白みも何も無い逢引をとっとと終わらせるとするか」

 

「……だからつき合わせて悪かったって言ってるじゃないか」

 

 

 この冬の寒風の冷たさにも匹敵するほど寒い状況に置かれているのにはワケがある。そうでもなければこの問題は本来リンやシロウ、魔術師やその心得がある者の領分だ。未熟者のシロウは期待を抱く以前の問題として、リンがここに居ないのは理由があるのだ。好き勝手に動いていい限られた時間を俺がここで潰しているのは、勿論シロウのせいだ。既に日課となっている夜の鍛錬を終えた後、掃除を終えた俺を捕まえてシロウは言った。

 

 

『相談したいことがある』と。

 

 

 発言の内容、発言した時の表情、二人きりという状況―――嫌な予感しかしなかった。嫌な予感?そりゃ的中するさ、俺の幸運値E-だもん。自分を幸運の持ち主だと思ったことは一度も無かったが、この冬木の聖杯戦争に召喚されてから不運続きではなかろーか。うむ、冬木市は俺にとって鬼門なのやもしれん。良いところっつったら食事のみってどうよ。

 

 とまあ愚痴はその辺にしておくとして。シロウが言うにはシロウを襲った黒いサーヴァントは、驚いたことにシロウの友人である「マトウシンジ」というヤツのサーヴァントだったらしい。そして学校に張られたたちも悪けりゃ頭も悪い結界を張った張本人だったとか。

 マトウシンジ曰くシロウ襲撃はサーヴァントの勝手な行動。学校の結界は自分の身を守る為らしいが、……明らかに胡散臭い。これはあれか、俺がともだちも何も居なかったから友人関係とかそれにおける信頼関係云々に対する常識がないとでもいうのか?いいやシロウがお人好しなだけだな。お前マトウシンジの言い分聞いて信じるとか、ないわ。

 

 

「お前さぁ……自分でも思ったんだろ、戦いたくなきゃ保護してもらえって」

 

「ああ」

 

「それでもやらなかった、ってことは戦う意思があるということだ。リンに敵視されてるってなら尚更教会に行くべきだ。マトウシンジ自身が魔術師としてのルールをどう思っていようと、リンはルールを守るヤツなんだからリンから襲われることはねぇだろ」

 

「……う」

 

「シロウ、何か言うこと……いや、言い訳はあるか」

 

 

 俺の話が正論だと言うことは理解しているらしい。しかし、心に引っかかることがあるらしく素直に頷けないようだ。どうせあれだろー、友人が言ってるから信じたいーとか自分から手を出さないって言ってるんだからわざわざ突っつきたくないとか言う甘い考え。

 まあ俺に相談したってことはシロウ自身も違和感を感じたって事だな。もうその時点でこうして相談乗るのも馬鹿馬鹿しいが、聖杯戦争に関係することなら一応シロウのサーヴァントとして付き合わなきゃな。あぁ面倒臭いかったるい。蛇嫌いなのになんで真っ先に関わってくる!………ほんと俺って運悪いな。

 

 

「………ない。でもセイバー、俺は慎二が自分からは何もしないっていうならそれを信じたい。だけどセイバーが言うとおり腑に落ちないものも感じているんだ」

 

「ふむ、まぁ頼られたのになにもしないってのもなんだ。一つヒントをやろう。敵は何故真っ先にあの結界を張ったと思う」

 

「えーっと、確か自分のサーヴァントを強化する為」

 

「うむ、で?」

 

「で?……ああそうか!強化しなければ動けない、そうだなセイバー!」

 

「うむ、サーヴァントも連れずに無防備にうろちょろするマスターを襲う位しか出来んということだ」

 

「だから悪かったって言ってるだろ……」

 

「んで、他の奴らとドンパチするにゃ強化をする必要があり、故に何の考えもなく目先の欲に囚われて自分の手の内を晒す挙句、リンの管轄内でリンに喧嘩ふっかけるような行動に走った」

 

 

 魔術師であるリンを敵に回したくないと思うなら出来ない行動だ。すげぇ考えなし。

知識だけはあると言っているようだが、本気で魔術師としての知識があるのかを問い質したい。いや、出会う機会があれば問い質そう。顔は覚えてる。

 

 

「シロウが現状維持をしたいのなら今の状態を続けさせろ。それか悩みの原因である結界その物をどうにかするかだな」

 

 

 俺の予想じゃぁそんなシロウのやりとりも無駄に終わるに一票ってところだな。結界のことといい、会話の内容といい、公園で会った時の印象といい、他人を自分より下に見てるようだし、そういうヤツに限って短気だから思い通りに行かなきゃすぐに行動に出るだろ。

 万が一シロウに言ったとおり「手出しされなきゃ自分も手を出さない」ってんなら、動けもせずにリンの目に触れぬよう隠遁学園生活ってところか?わぉ楽しそう。人の不幸は蜜の味ーってな。

 俺が楽しい隠遁学園生活について考えていると目の前で胡坐を掻いていたシロウが唸る。

 

 

「そうなんだよな、結界が厄介なんだよ」

 

「あーやめとけやめとけ。リンでも解決できなかったんだからお前にも出来るわきゃねぇだろ」

 

「そりゃそうだけどさ……んん?待ってくれ」

 

「ん?」

 

「結界は魔術だよな」

 

「いや俺にはよくわからんが一応魔術の一種だろ」

 

「魔術ならセイバーの耐魔力で消せないか?」

 

 

クラス別能力

 

耐魔力A++

A++以下の魔術は全てキャンセル。

現代の魔術師ではセイバーに傷を付けることも干渉することも不可能。

 

 

「んー、いいところ付いてるがどうだろうな。発動後の魔術なら消したことあるが発動前の魔術を消したことはないからな」

 

「セイバー」

 

 

 うわぁいやな予感。正直に返した俺の馬鹿野郎。

 

 

「俺のせいで魔力を温存しなきゃならないのは分かってる。けど放っておけないんだ。頼む、明日俺に付き合ってくれないか」

 

 

 ですよねー……という訳で今に至るワケだ。

 

 

 

 んで、結果だけ話すとするワケだが、

 

 

 

 

「こりゃ無理だな」

 

「すっぱり!?」

 

「躊躇する時間に意味があるか?」

 

「いやないけどさ」

 

 

 そりゃ良かった。意味があるなら躊躇してやってもいいが気を使う必要もねぇからな。

 

 

「手が無いってワケじゃないが」

 

「まだあるのか?!」

 

「学校がなくなってもいいなら」

 

「いいわけあるか!」

 

「お前なぁ、人命と建物、どっちが重要だと思うよ?」

 

 

 まるで「非常識!」とシロウ程度に責められているようなので仕返しをしてみる。俺?時には建物のほうが重要な時もあるだろうよ。そこら辺は臨機応変にな。俺のささやかな仕返しは成功したらしくシロウは唸っている。ここで人命を尊重して学校喪失事件なんて起こしたら宝具も使うし、俺もバカの仲間入りだが。

 

 

「ちょっとあんた達なに物騒な会話してんのよ」

 

「と、遠坂?!」

 

 

 何故驚く。一緒に登校したのは他でもないお前なのに。

 

 

「学校一校まるまる失くす、なんてこと止めて頂戴。確かに人命も大事でしょうけどそれは本当に最終手段よ」

 

「そうだぞセイバー」

 

「悩んでた衛宮君が言える台詞じゃないわよー?兎に角、良かったわ。アーチャーが学校の屋上でセイバーの姿を見たっていうから来てみて」

 

「ははは、流石に真昼間から目立つ行動取るわけねぇだろリン」

 

「ええ、夜でも止めて頂戴ねセイバー」

 

 

 だからやらねぇっつの。

 

 





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