ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾話:協定の意味

 

 

凛SIDE

 

 

 間もなく授業の終了を告げる時刻に針を進める時計を見て、黒板に書かれた授業の内容を書き写しながら頭の中で聖杯戦争のことを考える。

 聖杯戦争と言っても、学校にいる間は学校に悪趣味な結界を張ってくれたマスターが最優先ね。勿論冬木の管理者としてキャスターのことも放っておけない。それに桜や士郎、セイバーのこともあるし……はあ、問題は山積みね。

 溜息は吐かず、一度だけ目を閉じてやり過ごすと傍に控えているアーチャーが声をかけてきた。

 

 

『凛、どうやらセイバーが学校に来ているようだ』

 

(セイバーが?!セイバーは昼間は魔力の温存の為に士郎の家に居るはずじゃ…!?)

 

『……凛、いくら協力しているとは言えそれは学校に結界を張っているサーヴァントに関係することだけだろう。まさか君は学校に潜むサーヴァント一本に絞ってくれるとでも思っていたのか?』

 

(っっ!)

 

『小僧だけならそうだったのかもしれんが、あのセイバーだぞ?』

 

(………そうね、油断してたわ)

 

 

 協定、と一口に言っても『休戦』協定なのだ。敵マスターを倒すまではこちらから仕掛けないし、あちらからも仕掛けない。もし敵マスターとの交戦を察知したら協力する。そして……これが重要なこと。

 

 セイバーは敵マスターの捜索・探索には関与しない。

 

 セイバーは確かに「敵マスター捜索の足が増える」と言ったけど、その後に「学校にいる間だけでいいからシロウのことを気に掛けてやってくれ」と言った。つまり学校には近付かないということだ―――結界は学校に張られているのに、だ。

 セイバーは嘘は言っていない。事実士郎は空いた時間を使ってマスターの捜索をしているんだから……あああああっもう!そりゃそうよね、セイバーにとっちゃ学校がどうなろうが関係ないわよね!関与しないことで敵サーヴァントの強化が起こる確率は上がるけど、いざ事が起こりそうになったら真っ先に私達が動くし、自然にセイバーにも伝わるもの!

 

 

(なんか私悪魔と取引きしている気分になってきたわ……)

 

『ご利用は計画的に、と言ったところか』

 

(クーリングオフとか適用されるのかしら)

 

『するのかね?』

 

(出来てもしないわよ!今更何て言えって言うのよ!)

 

 

 うう、セイバーの高笑いが聞こえてきそうだわ……。

 

 

(あら?でもおかしいわね、じゃあ何でセイバーは学校に来ているのかしら)

 

 

 まさか全サーヴァントのマスターが学校に潜んでいるわけじゃないでしょうに。今まで通りにセイバーは他サーヴァントの偵察をしていればいい。協定を結ぶ時の条件にあるんだから士郎のことだってある程度は心配しなくてもいい。絶好の機会だというのに何故……、

 

 

『どうやらエミヤシロウが呼んだらしいな。ヤツの作ったスープが入った水筒を持っているのだから無関係ではあるまい』

 

(士郎が協力を求めたってこと?)

 

『さてね。残念ながら私にもセイバーが何を考えているのか分からない。君の結んだ休戦協定のおかげで更に学校に縛り付けられているので目が離せなくてね』

 

(~~~~っ!)

 

 

 だから何でこう、いちいち嫌味ったらしいのこのサーヴァントは!非は私にあるって分かってる。分かってるから謝るべきだとは思う。思 う ん だ け ど !………はあ、でもちゃんと非は認めるべきよね。

 

 

(悪かったわよ……確かに油断してた)

 

『……別に君が謝ることではない。君は君の思うように行動すればいい。言った筈だ、私は君のサーヴァントだ。ならば君を全力でサポートする、それだけだろう?』

 

(っ!ええそうね、ありがとうアーチャー)

 

 

 昼休みを告げるチャイムが鳴る。途端騒がしくなる教室を抜け、向かうのは屋上。一足飛びで駆け上がった階段の先。屋上の扉から物騒な会話が聞こえる。声をかけてもセイバーはやはり驚かない。

 どうやら結界のことは私たちに押し付ける気だったようだけどそうはいかない。自分から飛び込んできたんだもの、覚悟は出来ているわよね。軽い会話を交わして、ニッコリと笑う。

 

 

「―――で、勿論説明してくれるわよね衛宮君」

 

 

 彼らが話していたのは結界関係―――なら協定を結んだ相手としては聞く権利があるものね?

 

 

 

凛SIDE END

 

 

 

「結界は魔術だろ?だからセイバーの耐魔力ならなんとかなるかもしれないと思ってセイバーに無茶を言って来てもらったんだ。えっと……何か問題があったのか?遠坂」

 

「ま、結果はこの通りお手上げってとこだがな」

 

 

 どこか好戦的な目を向けてくるリンに両手を挙げて肩を竦めてみせる。実際、俺のクラス別能力では太刀打ち出来るものではない。ここに来て掴んだ物があるのは確かだが、敵の真名を知るまでには至らない。

 

 

「リン、妨害し始めてからどれくらい経つ?」

 

「ここを発見したのが31日だったから4日かしら。それがどうかしたの?」

 

「お前は結界を張ったサーヴァントのマスターをどう見る」

 

「そうね、こんな目立つ所にこれだけのものを張るってことは相当切羽詰ってるはずだわ。仕掛けてくるのならもうすぐってとこかしら」

 

 

 4日。それだけの日数が経っているのならば痺れを切らす頃だろう。シロウが何か言いたそうな顔をしているが無視だ無視。『シロウの友人』という肩書きはなんの保障にも免罪符にもなりはしない。というかマトウシンジはリンとシロウが協力関係なのを知っていて正体をばらしたんだよな。………それは凄く不味いことなのではないか?味方だといっているリンの敵であるマトウシンジを庇う。そんな器用なことが出来ると思っているのだろうかシロウは。―――そしてその状況に持ち込んだマトウシンジは。

 

 

(いやそうか、シロウは庇っていないと思っているのか……本当にシロウの判断基準がわかんねぇ)

 

 

 リンに協力することを選んだのならマトウシンジのことは話すべきだろ。まさかシロウも『休戦』の協定のみに頷いたというワケじゃあるまいに。もしそうだったら自分の陣地に敵を泊めるとかないもんな。流石にそこまで考えなしじゃない、と言い切れない所が俺の不運さを裏付けてるよな。……はぁ、俺はなんて運が悪いんだろう。

 

 

(兎に角、この妙な三角関係のことはシロウに任せるとするか)

 

 

 シロウ自身が考え、選んだことだ。どうにか出来る自信があるんだろう。シロウのサーヴァントとして何かやるべきなのかもしれないが、人間関係は理解不能なことが起き過ぎるからな。正直めんどくせぇ。それに時間は迫っている―――近い内誰かが脱落するような戦闘が起こる。協定を結んでいることもいれ、俺としてはリンに残って貰いたいが状況によるな。なんにしろ事が起こる前に確かめておくべきことがある。

 

 

「この結界が発動すれば時間との勝負になるだろう。何をどう選択するかは現場にいるお前らに任せるが、これだけは言っておこう。いざとなれば―――いや、誰も死なせたくなかったら最初から全力で望むべきだ。」

 

「セイバー?あんたもしかして敵の正体が……」

 

「いや全く分からん。完成した結界なら時間の勝負にもならんかもしれんから頑張れよリン」

 

「紛らわしい言い方しないでくれるかしらセイバー」

 

 

 ジト目で睨みつけてくるリンに笑って返して、「んじゃ役立たずは帰るわ」と軽く言ってからひらりと手を振る。と、

 

 

「セイバー、ちょっと待ってくれ!」

 

「む?」

 

 

 唐突にシロウに呼び止められる。

 

 

「今日の礼だ。ありがとな、付き合ってくれて」

 

「……礼なんていらねぇって言ってんだろ」

 

 

 紫の包みに入った弁当箱を渡されて戸惑う。手袋を通してじんわりと伝わってくるその温もりは……頭を掻き毟りたくなってくる。もやもやとする胸のうちを吐き出すかのように溜息を吐いて、シロウに耳打ちする。

 

 

「無条件に信じ、疑うことも怒ることもない。……お前の言う友だちとは随分都合がいいものだな、シロウ」

 

「っ!」

 

「選択するのは何もリンだけじゃない。覚えておけ」

 

 

 息を呑むシロウの声だけを聞いて、顔を見ずに弁当を小脇に抱えて屋上から飛び降りる。俺の言葉を聞いてシロウが何を選び、どう行動するかは知らない。だから、

 

 

「だけど、俺は………」

 

 

 そんな呟きと共に握り締められた拳も、俯いて隠された表情も知らなかった。

 

 





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