ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾壱話:揺らぐ決意決める意志

 

 

 

凛SIDE

 

 

 

「っく、逃げられたわ……話は終わってないってのに」

 

 

 自分の用件だけ済ませてさっさと退散したセイバーに舌打ちをする。逃がしたのは惜しかったけど、いつまでもここでボケッとしてる暇はないわ。

 

 

「士郎?」

 

 

 セイバーが去った後を見つめたまま動かない士郎に声をかける。立ち去る前にセイバーに何か言われたようだったけどそれが原因でしょうね。アイツにどんな思惑があるかはわからないけど自分のマスターを追い詰めてどうするのよ……。

 

 

(ひとりで悩まないで頼ればいいのに)

 

 

 夢で見た馬鹿な男みたいだ。ひとりじゃ受け止めきれないのに辛いことは自分だけに推し留めようとする馬鹿な男。誰もが笑顔でいられる未来なんてものを理想に走り続けた馬鹿な男。

 

 

(士郎は違う)

 

 

 ちらちらと覗く夢で見た男の影を否定する。桜のこともセイバーのことも周りに相談できる。頼ることが出来る。

 

 ―――でもその相談は果たして彼の為のものだったのか―――

 

 

「士郎」

 

 

 一瞬過ぎった考えを振り切ってもう一度声を掛ける。反応は無い……ってなんかイライラしてきたわね。こっちが心配して声掛けてるのに無視ってどうなの。こうなったら殴ってでもこっちに意識を戻してやろうじゃない。

 

 

「悪い遠坂!あとで埋め合わせさせてくれ!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 突然顔を上げて駆け出した士郎はこっちを一度も見ることなく、言いたいことだけ言うと屋上からさっさと立ち去ってしまった。

 

 

『……凛』

 

「何も言わないで頂戴アーチャー、埋め合わせしてくれるって言ってくれるんだもの」

 

 

 空ぶってしまった手を握り締め、拳を手の平に打ちつける。

 あぁでも、士郎に会う前に呼び出されてるのよね。朝クラスメートから聞いた言付けを思い出して更に機嫌が降下する。

 

 

「放課後屋上で……って何を考えてるのかしらね、間桐君は」

 

 

 

凛SIDE END

 

 

 

 シロウ達と別れ、商店街を通って公園に立ち寄る。無人の遊具が冬の風に吹かれてキィキィと寂しげな音を立てて揺れている。誰もいないことにほっと安堵してから備え付けられたベンチに腰掛ける。傍に暇潰しに持ってきていたシロウの歴史の教科書と銀色のポット、そして弁当を置く。

 

 

「クソ、シロウめ……」

 

 

 イライラもやもやと今まで感じたことの無い不快さが胸の辺りに渦巻いている。原因は分かっている―――我がマスター様であるシロウだ。だって信じられるか?!解除も出来ない、発動すれば死人が出る、発動のタイミングも不明!そんなもんが仕掛けられている―――聖杯戦争に無関係な人間が多い学校に、だ。別にそれだけならいい。死体の状態、環境の変化などの情報から敵の戦闘スタイル、武器、宝具、真名を導き出すだけだ。んで、自分の身に火の粉が降りかかってきたら情報を利用して討つ。俺の役割はそれだけだ。マスターがシロウじゃなければ何人無関係な人間が死のうが構わない。

 

 でもアイツは言った。聖杯戦争に無関係な人を巻き込みたくないと。

 

 俺に協力を願ったのはそれを為すためじゃないのか。俺とリンとアーチャーの力があっても人質の命の保障にはならないのか。それほど無能で無力だと思われてんのか。それともその願いは、友人のことを守る為なら捨てられる程度のものだったのか。

 

 

「お前の願いがその程度のもんだってんなら……俺は、」

 

 

 待つ必要など―――、

 

 

「セイバー?」

 

「お、やっと話しかけてきたか」

 

 

 少し前から気配は感じていたので居たことは知っていたが、話しかけないのなら何かしらの理由があるのだろうと思って放っておいたイリヤスフィールに声を掛けられる。振り返った先には少し不安げな顔があった。

 

 

「またお兄ちゃんと喧嘩してきたの?」

 

 

 喧嘩、ねぇ……。

 

 

「喧嘩になると思うか?」

 

「シロウじゃ無理よ」

 

「だろー?いちいち反応するのも大人気ねぇし……」

 

「あら、セイバーは自分で思ってるよりも子供よ?」

 

 

 クスクスと笑われる。その笑い方がまるで一生懸命大人ぶる子供を見ているかのようで居た堪れない。あー、いやまぁ、確かに大人気ないことをしている自覚はあるが……まぁいいか。

 

 

「どっちが悪いか私には分からないけど、仲直りしないの?」

 

「何故俺が」

 

「そっかあ、じゃあシロウは私が殺してあげる。それならシロウは私のものになるし、セイバーも私のものだもん」

 

 

 ね、いい考えでしょう?と微笑むイリヤスフィールは子供そのものだ。無邪気だからこそ、自分がどんな残酷なことを考えているかも分からない。……いや、イリヤスフィールは賢い。分かっていてやっているのだろう。

 

 

「シロウがどうであれ、俺は自分の意思を曲げる気はない」

 

 

 俺は確かに決めたのだ。令呪三つ―――残り二つのそれが消えるまではシロウを守ってやろうと。シロウの死体を見るのは、令呪の輝きが失せた時のみと。危ねぇ危ねぇ、もう少しで座に戻ってから後悔するところだった。まぁ、意図的に無駄遣いさせても構わねぇよな☆とか思ってるけどな!むしろ最初からそう決めてるしな。さぁてどうしてやろうかシロウめ……フフフ。

 

 

「それにな、イリヤスフィール」

 

「なにかしら」

 

「俺はおまけでついていってやれるほど安くはねぇんだ」

 

 

 イリヤスフィールの目的はシロウだ。ならばそれ以外はおまけだ。付録だ。添え物だ!シロウの添え物……?フ、そんなん耐えられるか!生憎とそんなポジションに納まってやれるほど安くはないのである。

 

 

「ふふっ、それもそうね。でもセイバー?勘違いしちゃダメよ?」

 

「あん?」

 

「私はセイバーのことが好きだから誘ってあげたのよ?」

 

「あー、そりゃ光栄なことで」

 

「ええ、咽び泣いて喜ぶべきよ」

 

「はははそりゃ無理な話だ」

 

 

 だって俺幼女趣味じゃねぇもん。

 

 

「セイバー?今何を考えたか言ってみなさい?」

 

「そうだ、今日は弁当持ってきたんだ!食おうイリヤスフィール!」

 

「……仕方ないわね」

 

 

 手のかかる子供を見るような目で見られる。でもこの柔らかい微笑みもすぐに子供特有の期待のこもった物に変わるだろう。殺すだなんだといっているが、イリヤスフィールがシロウのことを完全に悪く思えない所で留まっているのは分かっているのだから。でなきゃ『お兄ちゃん』なんていいながらはしゃげるわけが無い。

 あ、でも出汁巻き卵を含め卵ものは俺のだからな。

 

 

 

******

 

 

 

 イリヤスフィールと別れ、早急に調べる必要があることを調べ終わりシロウの家に戻ると、

 

 

「おかえりなさい」

 

 

 明らかに不機嫌です。と言わんばかりの表情と声をしたリンが頬杖をついて居間に座っていた。だが、俺の背後を見てきょとんと表情を改める。

 

 

「あら?士郎とは一緒じゃなかったの」

 

「シロウ?シロウは学校なんだからどっちかと言えばリンと一緒じゃないのか」

 

 

 流石に御手手繋いで仲良く下校~♪とは言わないが、クラスは違えど同じ学年同じ学校なのだから時間はリンの方が合わせやすいだろう。帰る場所も同じだしてっきり一緒に帰ってくるかと思ったがそうではなかったらしい。

 

 

「……私は先約があったから一緒には帰ってないわよ」

 

 

 眉をピクリと動かしてカツカツと机にその形の良い指を打ち付ける。どうやらその『先約』と何かがあったらしい。ここまでリンをイラつかせるとは……趣味が合いそうだ。わざとイラつかせているのだとしたら、の話ではあるが。

 

 

「どうした?振られたか?」

 

「はあ?!冗談じゃないわよ、あっちから呼んでおいて時間になっても来なかったのよ!だからさっさと帰ってきてやったわ!」

 

 

 フン、とそっぽを向くリン。どうやらドタキャンされたらしい。あながち振られたという表現も間違ってないってとこか?

 

 

「リンを一方的に呼び出せるってすげぇヤツもいるもんだな」

 

「別にアイツだから行った訳じゃないわよ……妙に突っかかってくるわねセイバー」

 

「そうか?まぁリンの弱みでも握れればとは思ってるがな」

 

「弱みでも何でもないわよ。ただムカつくだけ」

 

 

 クツクツと笑いながら告げれば口元を引き攣らせながら据わった目で睨まれる。勿論リンに睨まれた位では怖くもなんともないので笑い続けていると、大きく一つ溜息を吐いた。

 

 

「そもそも慎二の呼び出しに応じた私が馬鹿だったのよね……あああ!無視しとけば良かった!」

 

 

 ムキーと怒りを顕わにするリンをからかうよりもリンの発言の中の『シンジ』に直感が働く。シンジ……そんなに珍しい名前じゃない。学校にも何人か同じ名前の奴くらいいるだろう。だが、俺の中ではリンの言う『シンジ』と黒いサーヴァントのマスターである『マトウシンジ』は同一人物だと直感が告げており、嫌な予感ほど当たることは分かっていた。

 

 

「リン、シロウを最後に見たのはいつだ?」

 

「え?アンタと屋上で別れた後すぐに別れたけど。あ、そういえばセイバー、士郎をからかうのもほどほどにしなさいよ。なんかアイツ随分考え込んでたわよ」

 

「そうか。アーチャー、お前は見ていたな」

 

「クッ、そうだな、小僧はマトウシンジのところに行ったぞ」

 

「はっ?!ちょっとアーチャーどういうことよそれ!」

 

 

「何、簡単なことだ」

 

「あぁ、簡単なことだ―――説教が足りなかっただけだ」

 

 

 本当に手の掛かりすぎるマスター様だ。何の用で行ったかは分からないが単身敵主従の元へ向かうなんてアホ過ぎる。

 

 

「喜べリン、もうすぐで悩みの元が一つ減るぞ」

 

 

 さて、問題に単身で頭を突っ込んでいくバカマスターを迎えに行くとする―――

 

 

ガラララ

 

 

「先輩!大丈夫ですかっ、もう家に着きましたから直ぐに手当てを…っ!」

 

「だからそこまで酷くないって、っっ」

 

「わかりました!わかりましたから黙っててください!」

 

 

 明らかに尋常じゃないマトウサクラの声と、くぐもったシロウの声。会話の内容からシロウは怪我をしているらしく……あ、リンが救急箱に飛びついた。

 

 

「あとで説明してもらうから」

 

 

 そう捨て台詞を告げてから玄関へと続く襖を開けて玄関へと駆け出していった。次いでマトウサクラのほっとした声。シロウの謝罪する声。罵倒するリンの声。

 

 

「あ、俺やる気失せたから寝るわ」

 

「私も消えていよう」

 

 

 やる気メーターが底辺を突破するという現象が俺の中で起きたので寝るとしよう。シロウの怪我?フ。

 





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