ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾弐話:ささやかなる前進

 

 

「ちょっと転んだだけなんだ」

 

 

 騙される奴がいると思ってんのかと真剣に問い質したい気分にさせてくれる嘘をついて、自分でもやっぱり無理があるかなと思っているのか、誤魔化すようにシロウは笑った。だがその場には騙されることは当然なく、怪我をしたという事実を見てしまって、笑顔に誤魔化されることも出来なかった人間ばかりが揃っているわけで。

 

 

「「そんな理由が通じると思ってるの(んですか)!?」」

 

 

 と真っ向からダメ出しを食らっているシロウを久々に霊体化しながら眺めている従者が一人。

 もうちょっと捻ろうぜ、シロウ。バレバレな嘘は神経を逆なでするって事をシロウはそろそろ学習するべきだと思う。犬の尻尾を踏んづけてしまって運悪く首輪がついていなくて追いかけられて噛み付かれた~とか。噛み跡なんて無いけど。そんなことが起こるヤツはコントの神様に愛されてるに違いない状況だけど。ん?誤魔化す気がないだと?当然だろう、人をからかうことはつまらないことばかりの英霊人生の数少ない醍醐味だと思っている。

 

 シロウに更に人の神経を逆なでする言い訳の仕方を伝授しようかと悩んでいる内に、シロウを追求しつつも手当てをする手を休めないリンとマトウサクラによって手当てが終わっていた。

 

 

「桜、遠坂、ありがとう。大分楽になった」

 

「いえ、当然のことをしただけですしそんなお礼なんて……」

 

 

 まっすぐにお礼を言われて照れ照れと挙動不審になるマトウサクラ。このまま甘酸っぱい青春空気に雪崩れ込むかと思いきや、そうは問屋が卸さない。

 

 

「楽になったなら、さっきの苦しいいいわけよりまともな理由が聞けるのよね衛宮君」

 

 

 リンの言葉にはっと我に返るマトウサクラも「もう誤魔化されませんよ」と決意を新たに向き直る。

 

 

「ごめんな心配かけて。でも今は……」

 

 

 言えない、と続けようと思ったのだろうがシロウはそこで止めた。マトウサクラの表情は真剣だ。真剣だけど、とても脆い。言葉を間違えれば直ぐに崩壊しそうな一線で留まっている。

 

 

「悪い、喧嘩したんだ……桜に失望されたくなくて嘘吐いた。ごめん、本当にごめん」

 

「………それは、兄さんですか?」

 

「違う。でも相手は言えない」

 

「…………」

 

 

 お、俺は夢を見ているのか……?シロウが相手の表情から空気を読み、まともなことを言っている!しかも何の揺らぎも無くさらりと嘘吐いてる!そんな器用なことが出来たのか?シロウは実はできる子なのか?!

 

 

「桜、これ以上は無理だって分かってるでしょう?」

 

「はい……でも、もう喧嘩なんて止めてくださいね」

 

「分かってる。気をつける」

 

 

 絶妙なタイミングでリンがフォローを入れ、マトウサクラもこれ以上は無理だと思ったのか引き下がる。少しだけ思いつめた顔をしているが一線は越えなかったようだ。

 今日は赤飯か……いや、この状況で赤飯頼んだら確実にこの家の人間全員敵にまわすな。敵に回したとしてもたかがしれてるが。せめてもの祝いとして豆ご飯を頼もう。

 

 

「で、本当は何があったんだ?」

 

「セイバー、帰って来てたのか」

 

 

 着替える為に自室に戻ったシロウの後に続き部屋に入り、実体化して話しかける。

 

 

「っていうかお前怪我治してから帰ってこいよ。そうすりゃ面倒なことにならなくて済んだのによ」

 

「これは聖杯戦争の為にセイバーに借りてるものだろ。今回のは聖杯戦争に関係ないことだったんだ。使えるわけ無いだろ」

 

「?」

 

 

 相変わらずシロウはわけの分からないものさしを持っている。いや、もしかして聖杯戦争と関係のあるマトウシンジと何かしらあっての怪我じゃないのか?ガチで喧嘩なの?聖杯戦争中に?馬鹿なの?死ぬの?

 

 

「これは俺の我が侭だ。だから使わなかった」

 

「お前が何を言ってるのか分からん。日本語に訳してくれ」

 

「日本語だよ。―――慎二殴ってきた」

 

「ほぉ」

 

 

そうか、やはり喧嘩相手はマトウシンジ……………ん?友だち宣言どこいった?

 

 

 

******

 

 

 

 計画は至って簡単なものだった。失敗しても成功してもそれなりに旨みのあるほんの小手調べ程度の策略。だがそれは―――計画が実行されればの話であって、まさか計画が実行されなかったなどという結果は間桐臓硯には予想出来なかった。しかしその予想外のことが現実であるのは目の前でライダーの名前を呼ぶ孫が証明している。

 

 

「なんで出てこなかった!」と叫ぶ間桐慎二。

「エミヤシロウには手を出さないという条件でしたから」と返すライダー。

「誰がお前のマスターだと思ってる!」と声を荒げて主従の立場を主張する。

「今のマスターはあなたです。ですがそれはサクラの命令があってのものです」と冷淡に告げられる。

 

 

 計画は至って簡単なもの。休戦協定を結んでいる衛宮士郎と遠坂凛の二人に一人ひとりに協力を持ちかける。始めに声をかける相手が衛宮士郎というのが最低条件だ。あのお人好しな性格であれば友人という立場にいる間桐慎二がマスターであることは喋らない。一応警戒をして学校にいる人間が人質であることを臭わせておけば確実なものとなる。休戦協定を結び、協力をしているのに敵を庇うその行為はどういうことか。

 

 ―――衛宮士郎は遠坂凛の信用を裏切ったことになる。

 

 それを面白おかしく遠坂凛の前で言えばいい。助言する理由など遠坂凛に恋情を抱いている間桐慎二にはことかかない。勿論ここで自分のサーヴァントとその所業をバラす必要はない。ただ衛宮士郎が裏切ったと言えば良い。学校に潜伏しているサーヴァントは複数いるのだからそいつが結界を張ったと言えば良い。潜伏しているのはキャスターなのだからこれ以上の適役はいないだろう。そうすれば簡単に遠坂凛の不信感を煽るか芽生えさせることが出来るだろう。結界がどういうものか分かっているのだから尚更に。

 あとは二人の関係が内から壊れていくのを眺めれば良い。潰しあってくれるのならば文句など無い。こちらは今までどおり大人しくしておいて、機を見て結界を発動し、魔力不足を解消する。

 計画通り衛宮士郎は遠坂凛に間桐慎二のことを告げず、敵を庇った。そして今日、遠坂凛と接触し衛宮士郎の裏切りを発覚させる―――つもりだった。

 うまくいっていたのだ。間桐慎二が衛宮士郎の誘いに乗らなければ。調子に乗りやすく、口を滑らせやすい孫を思って計画の全てを話さなかったことがここで仇となった。

 

 「言うとおりにしていればあの二人の協力関係を崩せる」とだけ言ったことが。

 

 ここで間桐臓硯が間桐慎二を罵倒することは実に容易いことだ。が、それはとても無意味であり、その不満を怒りに変えてこれ以上の失態を演じることになる可能性が高い。衛宮邸に潜ませている孫娘からは何の成果も得られない。当初から成果など期待してはいなかったが、ここまでくると孫達の無能さに溜息しか出てこなかった。良い事と言えば戯言を抜かしたセイバーが大聖杯の破壊を止め、別の目的で暗躍しているくらいだ。

 

 

「時期は早いが仕方ない……」

 

「?」

 

 

標的を変える事にしよう。まずは使えないものを使えるようにしなくては。そして使えるものを調達しよう。

 

 

 

******

 

 

 

「……友だちという人種じゃなかったのか?」

 

「慎二は友人だぞ?でも、許せないこともあるだろ」

 

 

 うん、そうだな。すごく真っ当な意見だけどすごく遅い。

 

 

「ふむ、完全に敵対してきたということか……ん?じゃぁなんでお前生きてんだ?」

 

「セイバー、お前に嫌われるようなことばっかりしてるとは思うけどさ、もうちょっとオブラートに包んでくれるか?」

 

「自覚があるなら黙ってろ。嫌われてるヤツが気遣いをしろと頼める立場か阿呆」

 

「………すいません」

 

 

 かといって黙られても困るので先の疑問に答えるように促す。

 

 

「えーっと、敵対するとはいったけど慎二に対して殺意はないと証明したから……」

 

「近い内にお前消しますよーといわれて見逃してくれると思うか、サーヴァントが」

 

 

 もしかして何の願いも持ってないサーヴァントばかりだと思ってるの?馬鹿なの?俺みたいなのは例外で、聖杯という優勝商品を目当てにサーヴァントは召喚に応じるってリンに説明受けただろ。

 

 

「う…む、ぐう……」

 

「っつかなんで殴ったんだ?殺意が無いって言っておきながら」

 

「学校の結界を解くように説得しにいったんだ。例え遠坂に敵視されてるとしても聖杯戦争に無関係な人を巻き込むのは間違ってる。遠坂と敵対したくないなら直ぐにやめるべきだし、それこそ遠坂は魔術師のルールを守るヤツなんだから教会にいくべきだって。学校の人たちを人質にする意味なんてないって…そしたらアイツ………」

 

 

 ぎゅ、と拳が握られる。

 

 

「……サーヴァントの餌なんだっていいやがった」

 

「ふむ」

 

「…俺を襲ったのも慎二の命令を聞かずに勝手に行動したからだって言ってただろ?だから説明を十分に受けてなくて、魔力を集めるだけのものだと思ってるのかと思ってた。でもちゃんとアイツ分かってたんだよな。どうやって魔力が集められるかも、全部」

 

 

 それ聞いたら許せなくて殴ったんだ、とシロウは言った。しばらくライダーの名前を呼んでたが来ないと分かった途端に殴り返してきて殴り合いになったらしい。んで、普段鍛えている上最近俺との鍛錬で頑丈さを増してるシロウに勝てるわけが無く、足腰立たなくなったマトウシンジに「協定関係である遠坂に教えさせてもらう」と宣言したらしい。

 

 

「お前さ、リンがそれ聞いて協定関係続けてくれると思ってるか?」

 

 

 はっきりいってこのままマトウシンジ主従を亡き者にして、リンには知らん振りを決め込んだ方が良い。それが賢い生き方ってもんだ。

 

 

「分からない。でも遠坂に協力するって言ったんだ。罪滅ぼしにも何もならないって分かってるけど、ちゃんと言おうと思ってる」

 

 

 うむ、そんな器用な生き方できる訳ねぇよなコイツ。なんせ、

 

 

「ごめんなセイバー、お前がライダーのこと苦手だって気付いてる。それでも俺一人じゃ無理なんだ。遠坂と決別したとしても慎二をこのままにしておけない。だから改めて頼む、協力して欲しい」

 

 

 とサーヴァント相手に真剣に頭を下げてくるような馬鹿なのだから。

 

 

「なぁシロウ…、お前は俺の出した条件を守らなかったことがあるか?」

 

「ない」

 

「じゃぁ俺もお前に協力をしない理由なんてねぇよな」

 

「っ、じゃあ!」

 

「ぶっちゃけマトウシンジを亡き者にした方が早いんだけどそんな気ねぇんだろ」

 

「ああ、慎二は許せないことをしようとしてるけど……俺はやっぱり慎二を友人だって思ってる。それにさ、桜も悲しむと思うんだ。桜には出来るだけ笑っていて欲しい、だから殺せない」

 

「狙いが敵サーヴァントのみならサーヴァントである俺がでなくてどうするよ。お前はふんぞり返って後ろで見守ってりゃいいんだよ」

 

「セイバー、ありが」

 

「礼は何もかも終わってから聞く」

 

「……そっか」

 

 

 うむ、本当に礼を言われる筋合いは無い。何故なら、

 

 

「で、トオサカリンはどうするつもりだ?」

 

「……本当にアンタって性格悪いわよね」

 

 

 敵になるかもしれないマスターに盗み聞きさせるような駄目サーヴァントなのだから。あ、でも説明する手間を省いてあげる良きサーヴァントでもあるな。

 





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